ある晴れた昼下がり。少女は叔父の家に向けて歩いていた。往来は行き慣れた道ではあるものの届け物を持っているため足元がおぼつかない。ようやく到着すると玄関を開ける。  
「まさゆきおじちゃーん」  
しかし出てきたのは女性だった。  
「あら、ミツキちゃん。悪いけど正雪は城のお仕事でいないのよ」  
そうか、と小さく呟くと持っていた器を渡す。  
「お母さんが煮物作ったから持っていきなさいって」  
「あら、悪いわね。上がってお茶でも飲んでいきなさい」  
くすりと笑って家に招き入れてくれる。さほど広くもない家に入ると居間に通される。お茶を入れてくるから待っていてと言われ一人になると開いていた襖の奥から井桁に掛けられ、この家に釣り合わない綺麗な着物が見えた。  
「わぁーきれいー」  
「気に入ったの?」  
いつの間にかお茶を入れて戻って来ていたのか後ろから声が聞こえた。  
「これすごいきれいだよ」  
「これはね、私が太夫の頃に着ていたものよ。たまには箪笥からだしてこうやって干さないと虫に喰われちゃうわ」  
「た…?なぁにそれ?」  
くすくす笑いながら内緒と言うがミツキにはまだその意味がわからずに首を傾げる。  
「わからなかったらお父様に聞くといいわ」  
その言葉通り帰ると真っ先に道場にいる父親に駆け寄った。  
「おとーさん。たゆうってなぁに?ミツキもなりたい」  
その言葉に父親は酷く慌てたそうな。  
 
 
おわり  
 

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