月が、皓々と青い光を放っている。  
 灯りを点していないが、今夜は満月で部屋の中がよく見えた。寝台の上の孟徳さんが、目を眇めて私を見つめているのに気づいて、私は思わず視線を落とした。  
 孟徳さんと私の間に、お互いが手を伸ばしても届かない位の距離があっても、まだ余裕があるくらい、寝台は大きい。  
「花ちゃん、どうかした?」  
「いえ、何でもありません」  
 こういう関係になる前に、何度か一緒の寝台で寝た事もあるが、思い出すだけで、顔が赤くなる。ぐっすりと眠れたのは、何も知らなかったからだ。  
「まだ、慣れない?」  
 くすりと笑われて、私は小さく頷いた。痛みはなくなってきたけれど、代わりに与えられるのは、恐ろしいほどの快楽だった。  
 寝台が音を立てる。孟徳さんが近付いて、私を優しく抱き締めた。  
「あ……っ」  
 夜着の紐を引かれ、はらりと前がはだけた。下着を着けていないため、慌てて私は自分の体を隠す。  
「ダメ。ちゃんと見せて。隠したりしないで」  
 孟徳さんの言葉に、私の手が止まる。  
「君は、可愛いな」  
 孟徳さんの大きな手が、肌に直接触れる。身体が震える。思わず身体を引こうとして、夜着を踏んでいたため、後ろに倒れこんでしまう。その拍子に、夜着は乱れて全てを曝け出してしまう。  
「ははっ。まるで誘っているみたいだね」  
「ち、違っ……」  
「うん。分かっているよ」  
 安心させるような声とは裏腹に、孟徳さんの視線は、まるで質量を持っているように、私の肌の上を滑っていく。どこを見られているか、感じ取れてしまうほどだ。  
 
 顔を横向け、視線をそらした。月光を遮らないように、寝台を覆う布は薄く、部屋の様子が朧に見える。  
 これだけの月明かりだ。孟徳さんには、私の身体が全て見えてしまっていることだろう。  
「孟徳さん、そんなに見ないで下さい……」  
「嫌。君を、もっと知りたいから」  
 孟徳さんの視線は、ささやかな胸の膨らみや、下肢に注がれているわけじゃない。  
「ごめん。一生、消えないね」  
 悲しそうに、けれどどこか、一片の狂気の喜びを滲ませて、孟徳さんが身体の中央に走る傷痕に触れた。他よりも皮膚が薄いそこは、触れるか触れないかの柔らかな刺激を与えられると、身体が跳ねるほど感じてしまう。  
「痛い?」  
 違うと分かっていて、孟徳さんは尋ねる。私は、首を横に振って否定した。そうしないと、声が出てしまう。  
 胸元に、孟徳さんの柔らかな髪が落ちる。  
 まるで儀式のように、孟徳さんは、いつも必ず傷痕に唇を落とす。  
 癒すように舌を這わせ、刻むように歯を掠める。  
 思わず仰け反った拍子に、孟徳さんの腕が、寝台と背中の間に入り込む。引き寄せられて腰が浮き、僅かに足が開く。慌てて足を閉じようとすると、孟徳さんの大きな手が、私の胸を包み込んだ。  
「あ、ぁあっ!」  
 悲鳴のような声に、慌てて口元を押さえた。  
 
 孟徳さんが、視線をこちらに向ける。孟徳さんは傷痕に、ちろりと舌を這わせながら、私の胸を柔らかく揉みこんだ。固く尖った先端を、優しく掌で転がしたり、摘んだりして弄ぶ。  
「ふ……っ、あ、んん……っ」  
 触れられていない胸が切なく震えると、孟徳さんが身体を起して、やっと膨らみに触れてくれる。舌先で、先端を突付かれて、声が甘く掠れる。自分の声だとは、思えない。  
 身体から、力が抜けていく。  
「可愛い」  
 笑って、孟徳さんが目尻や頬、額に唇を落としてくる。熱い吐息に、孟徳さんも興奮してくれていることが分かった。それだけで、嬉しい。けれど、こんなことを考えてしまう自分は、淫らなのだろうか。  
「何を考えているの?」  
「え……?」  
 ぼんやりと見返すと、孟徳さんの指先が、傷痕を強く押さえる。  
「あ……っ」  
「俺の事以外、何も考えないで」  
 今、この時だけは。  
 甘い声が、耳元で囁かれる。舌先が耳朶を擽り、そのままぱくりと口に含まれる。  
「私、何も……っ、んんっ」  
 卑猥な水音が、直接脳に注ぎ込まれるよう。頭がぼうっとして、何も考えられない。  
 いつの間にか、足を広げられていた。身体の中心を、孟徳さんの手が柔らかく撫でる。くちゅりと水音が聞こえて、孟徳さんが嬉しそうに笑った。  
「もう濡れてる」  
 顔が熱くなる。きっと、真っ赤に染まっている。  
 固く尖った花芽を、孟徳さんの指が、優しく擽る。  
「は、ぁう……っ」  
 溢れる蜜を掬っては、塗りつけるようにして撫でられ、声を抑えられない。  
「可愛い」  
 大きく足を広げられ、濡れた感触が太腿に落ちる。内腿を、舐められたと分かった。  
 身体の中心を広げられた。ねっとりとした蜜が、糸を引いているのを感じる。  
「あっ!」  
 孟徳さんの指先が、身体の中へ入っていく。その上で震えている花芽を軽く吸われて、私は悲鳴を上げた。  
 腰骨や脇腹、臍の辺りも撫でながら、孟徳さんはくすくすと笑う。  
「君が感じているのは、すぐに分かっていいね」  
「んっ、しゃべっちゃ、だめ……!」  
 殆ど唇を離さず、孟徳さんが囁く。  
 吐息が敏感な場所を擽り、溢れる蜜を掻きだすように動かされ、私は埋め込まれた指を、ぎゅっと締め付けてしまう。  
 熱い。耐えられない。  
 手を伸ばすと、私の恥ずかしいところに顔を埋めている孟徳さんの髪に触れた。柔らかな髪に指を絡めて、軽く引っ張る。もう、終わらせて欲しかった。  
 そこを強く吸われて、身体が跳ねる。自分の体なのに、自由にできない。  
 身体が、細かく震えている。孟徳さんは、身体を起して私の頬に唇を落とす。  
 私は孟徳さんの首に腕を絡め、引き寄せる。私は自分から舌を差し出して、孟徳さんの唇を舐める。ほんの少し、驚いたように孟徳さんは目を見開いたが、すぐに私を受け入れてくれた。  
 口付けは深く濃厚で、どちらのものともつかない唾液を、何度も飲み込んだ。  
 最後に一度、軽く唇を吸われて、孟徳さんが囁く。  
「いい?」  
 十分に解されたそこに、熱い楔があてがわれる。  
 頷くと同時に、孟徳さんが私の中へと入ってきた。  
 無意識に、縋り付く腕に力を込める。  
 少し入り込んでは引き抜き、孟徳さんは馴染ませながら私の奥へと入っていく。  
 
「あ、……っ、はぁ……」  
 最奥まで辿り着いて、孟徳さんの動きが止まる。  
 もう、痛みは殆どない。それでも、私の呼吸が整うまで、孟徳さんはいつも必ず待ってくれる。孟徳さんの手が、頬に張り付いた髪を払い、後ろへ撫で付けてくれる。  
「大丈夫、です」  
「分かった」  
 粘着質な音がして、孟徳さんが引き抜かれる。縋り付くように、そこが収縮するのが分かる。  
「あ、あっ、ぁあんっ!」  
 張り出した部分が、私の感じる場所を刺激する。奥から溢れ出す蜜が、卑猥な水音を立てる。  
 私の身体は、孟徳さんにすっかりと馴染んでしまった。こんなにも簡単に、孟徳さんを受け入れて、その形に身体が開いていく。  
 圧倒的な質量が、私を翻弄する。  
「……っ、あ、だめ、です。そこ……っ、あぁあ!」  
「だめじゃないよね? 凄く、気持ちよさそうだよ」  
 孟徳さんが、嬉しそうに笑う。繋がっている場所をなぞられて、身体が反り返る。  
「だめ、壊れちゃ……ぁああっ!」  
「本当に、君は可愛い、な……っ」  
 身体は、完全に自由にならないのに、孟徳さんを受け入れているそこだけ、別の生き物のように引くつき蠢いている。奥深くへと誘い込む動きを感じたのか、孟徳さんの動きが変わる。  
「あ、やっ! ダメぇっ!」  
「凄い……な。搾り取られそうだ」  
 何もかもが分からなくなるほどの悦楽に、私は身体を捩る。すると、かえって孟徳さんを締め付けて、もっと感じてしまう。  
 狂ってしまいそうな快楽の波に、翻弄される。  
 
 孟徳さんが、足を肩へ担ぎ上げる。これ以上ないほど孟徳さんを受け入れているのに、更に奥を目指してくる。  
「無理、や、……っ、は、ぁああ!」  
 目の奥が、赤く染まる。  
「ああ、イっちゃった?」  
 孟徳さんを受け入れているそこは、私の意志からもう完全に切り離されてしまった。絞り込むような動きで孟徳さんを締め付けている。卑猥な動きだと分かっているのに、どうすれば止められるのか私は知らない。  
 唇が乾いて、掠れた吐息しか漏れない。  
「ここが、赤い……。君の身体は、本当に嘘がつけないね」  
 鳩尾から、腹部へと孟徳さんの指が落ちる。  
 孟徳さんが、見ている。  
 私を。  
 赤く染まった、傷痕を。  
「いい、よ。……たまらない」  
 私の中で、一際大きくなって、孟徳さんが激しく奥へと叩きつけて来る。耐えられない。壊れそう。  
「孟徳さん、好き……っ、あ……すき、です……っ!」  
 だから、壊して欲しい。  
「ああ、俺も、君が好きだよ……」  
 とろとろに蕩けたそこが、孟徳さんの言葉に喜び複雑に絡みつく。  
「可愛い、よ。君の中、凄くいい……。っ、奥、締まって……っく」  
「ダメ、また、あ……っぁあああ!」  
 激しく突き入れられ、身体が解放に向かう。熱い飛沫が胎内に吐き出され、私は白い闇に飲み込まれた。  
 
 
 全てが終わった後、私達は静かに寄り添っていた。  
「孟徳さん、好きです……」  
 目を見て言うのは、少し恥ずかしい。それでも、孟徳さんの嬉しそうな、蕩けるような笑顔を見せてくれるから、私は何度も繰り返す。  
「大好きです」  
「俺も、君が好きだよ」  
 嬉しくて、泣きそうになって、私は孟徳さんの胸に顔を埋める。すると、孟徳さんが私の背中に腕を回してきた。優しく包み込むような抱擁も好きだけれど、息が出来ないほど激しく抱き締められるのも、好き。  
「好きです。大好き……」  
 身体が疲れ果て、呂律も回らなくなっていく。それでも私は、うわ言の様に繰り返す。  
「君だけが、好きだよ」  
 どこか切なげな孟徳さんの声すら、遠い。  
 このまま、眠ってしまう。  
 縋り付く手に力を込めたつもりだったのに、寝台の上に力なく落ちてしまう。  
「だから――――」  
 声が、聞こえない。  
 
 
 
『どうか、信じさせて』  
 
 
 

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