「カケルさん、今日が何の日か、知ってますか?」
「え? ・・・俺の誕生日・・・・・・じゃないよな」
それからしばらく奇妙に頭をひねった後、思考を放棄した。
「わかんないよ、何の日か、教えてよ、チャル?」
カケルが聞くと、チャル自身も少々複雑な表情を見せて、こう答えた。
「私もわからないんです」
「なんだよ〜、それ」
彼女の言葉に、盛大にズッこける。
「・・・でも、なにか大切な日だったように、プログラム入力されていたはずなんですが」
「わからないの?」
「はい・・・博士が、何かの理由でプロテクをと掛けたのでしょうか?」
カケルは、少々複雑に頭を抱え、わかんね、とまたまた思考を放棄した。
今はその博士も連れ去られてしまっているから、気軽に聞いてみることも出来ない。
「もう、わかんないよ。覚えてないのならそれで良いじゃん。じいちゃんがプロテクト掛けたってんなら、思い出す必要もないって事だろ?」
「・・・・・・そうですね。変なことを聞いてしまって、スイマセンでした」
ある日の朝、カケル少年とメイドロボ・チャルによって、こんな会話がなされた。
その日の夜、キャンプの火が落ちて、少年少女は部屋に戻り眠りについた。
ウッキーピンクの襲撃にあったものの博士の手がかりを得られるわけでもなく、ムダに疲弊してしまった。
肉体的な疲労よりも、精神的な疲労の方が大きい。ピンク相手は、カケルも特に苦手なのだ。
そして彼は、部屋に戻って手早くシャツを脱ぐと、ベッドに倒れ込んだ。
もう、寝る前の歯磨きすらめんどうくさい。
「・・・もう、今日は寝ちまおう」
呟いてから、そのまま目を閉じた。
そのまま、眠りに落ちるのもほんの数秒もかからないであろう、と思われた瞬間、カケルの意識は扉のノックに引き戻された。
「カケルさん、まだ起きてらっしゃいますか?」
その声は、メイドロボットのチャルのものだ。
就寝前にわざわざ声を掛けてくるなんて珍しい。まさか歯磨きをサボったことをめざとく気付いたから注意しに来たのかとも思ったが、どうも様子がおかしい。
とりあえずカケルは、返事をして彼女を部屋の中に通した。
「こんな夜遅くに申し訳ありません。実は、あのことを思い出したんです」
「あのこと?」
「朝のことです」
ああ、とカケルは思い出した。眠たかったということもあるが、昼間の襲撃ですっかり忘れていたのだ。
「今日が大切な日のはずなのに、何の日だったか忘れてしまっていたのですが」
「思い出したんだ?」
「はい。先ほど23時00分を以て、掛けられていたプロテクトが外れました」
プロテクト、というからには、博士が意図して掛けて置いたものだろう。
ということは、何か理由があるはず。
そもそも、何の日だったのか、それを早く聞きたい。
「で、何の日だったの?」
カケルは盛大にあくびをして、眠りの縁にいた思考を徐々に回復させていった。
正直、早く眠りたくもあったのだが、部屋に訪れたチャルの雰囲気に、何か真剣なものを感じてしまったので、無下に相手をするわけにはいかない。
「はい。今日から私は、カケルさんのものになります」
「は?」
眠りのモヤモヤのせいで意味を理解できなかったのか、とカケルは、もう一度その言葉を聞き直した。
しかし、チャルはそうやって問い直されて、曖昧な言葉ではいけないんだ、と思い直した。
「私は、カケルさん専用の、セックスロボットなんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあっ!?」
一気に目が覚めた。
正直、彼女の口から、「セックス」なんていうイヤらしい言葉が出てくるとは、思わなかった。
そして言葉を理解する。
彼女が、自分のために、セックスをさせてくれるロボット?
愕然とするカケルを前に、チャルが言葉を続ける。
「博士は、カケルさんが18才になっても彼女がいない場合のことを考えていたみたいです。
その為のプログラムがこんなに早く起動したのは、・・・たぶん、博士が日付の入力を間違えたのでしょう。
でも、日付は入力ミスでも、博士がカケルさんに、わたしをプレゼントしようとしていたことは事実です。
ですから、カケルさんがお好きなときにセックスしてください。喜んでお相手をさせていただきます」
そんな説明を、淡々と続けられても、今のカケルには正確に把握出来はしない。
動揺して、口をぱくぱくさせている。
そんな少年に、チャルは。
するり、とメイド服のスカートをまくり上げて見せた。
「!!!!」
下着を穿いていない。
ロボットとは思えない、自然な肌。
カケルはまだ、本物の女の子の大事な部分を見たことはない。
だが、今目の前のチャルが、顔を真っ赤にして自分に見せてくれる恥ずかしい場所が、本物ではないなどと考えることが出来なかった。
「チ、チャル! まえ! み、見えてるってば!!」
「見せてるんですよ、カケルさん」
カケルの狼狽に、チャルは静かに応じた。顔は赤く染まり、羞恥に震えてはいるものの、まくり上げたスカートの縁を下ろそうとしない。
カケルの視線は、吸い寄せられるように彼女の股間を見つめる。
思春期の入り口にさしかかったばかりの少年は、普段はそれほど強くはない性欲の高まりを感じた。
「カケルさんも、初めてですよね。だったら、私に任せてください」
そういってチャルは、思い切ってカケルをベッドの上に押し倒した。
たしかに、こうやって行為を命じたのは博士のプログラムでも、それは絶対ではない。
優しい博士は、彼女に自由意志を与えた。
彼女に淫らな行為を命令するプログラムではあるが、彼女が望まないならば拒むことも出来る。
(でも、相手がカケルさんだったら・・・、いいえ、相手がカケルさんだから、私は・・・)
チャルは、普段は気付かないように秘めていた想いを、はっきりと自覚した。そうすると、もう自分をとどめる枷など無くなってしまった。
そのプログラムは命令ではなく、自分の背中を押すきっかけでしかなくなった。
「私、こんなことするのは初めてでも、・・・何をどうすればいいのかは、ちゃんとわかっています」
そしてチャルは、自分の中に蓄えられたセックスの情報を元に。
それでもまずは、とびっきりの愛情を込めて。
まずは最初に、熱いキスをした。
その直後、部屋の明かりは消えた。
だが、二人の秘められた声と、漏れる切ない吐息は、夜遅くまで途絶えることはなかった。