──少々うんざりしている。
「でね。ヒタカ様ったら今日はご自分で料理をなされてね、
その料理がもうとってもおいしそうにできたムニエルで、
ほんのちょっと塩加減が多かったかもしれないけどとってもおいしくて、
もう人の言う頬が落ちるっていうのはああいうことをいうのね。それに──」
オウランは私に向かってまた自分の主について語っている(先日も通信で1時間近く)。
その様はとても幸せそうなのだが、聞かされるほうはとてもではないが疲れてしまう。
ハイアライが通信を拒否するのもうなずけた。
「──でね。ヒタカ様ったら頬に魚のかけらついててね。
それを私が手で取って食べたら、ちょっと赤面してて、
もうこっちもきゃーって感じの顔に」
「──オウラン・・・もうかれこれ一時間も話し込んで、
いい加減にしてくれないと私も通信を切るぞ」
「む」
オウランはそういって言葉を切る。
「なんか機嫌悪い?ゼフィリス」
「そんな事は無いが、一時間も話を聞いて気が滅入っているだけだ」
「それだけじゃないでしょ」
オウランがにやりと笑う。
「自分の御主人様に良くしてもらってないとか?たしかにあのシャノンって
竜騎士はにぶそうっていうかお堅いっていうか──
私はちがってちゃんとヒタカ様にいつも気をかけてもらって」
「まてまて」
また話し込むつもりだろうか、進歩や反省がまったく無いオウラン。
「大体私はちゃんとよくしてもらっている」
「ふーん例えば?」
「例えば先日、一緒に──」
そこではっ、と気づいて言葉を切る。
「なになに?先日一緒になに?」
「そ──そんなことはどうでもいい!
とにかく、ちゃんと主には良くしてもらっている」
「あー隠すところが怪しい〜。白状しなさい」
にやにやとした笑いをさらに深くしながらさらに問い詰めてくる。
「一緒に──ん〜お風呂はありえないか。んじゃあ一緒に買い物。
デートとか!?」
「ちがう!」
「ちぇ、はずれ」
オウランは、唇をとんがらせてすねたような顔をする。同系機だというのに、
対人インターフェイスの性格に違いが大きすぎる。
ゼフィリスにはオウランのこの行動がある意味理解不能の域にあった。
「まったく──」
「ねぇ、ゼフィリス」
「?」
先ほどと同じようないやな笑みを浮かべてオウランが声をかけてきた。
「あなたさ。自分のご主人様のことどう思ってるの?」
「──戦友であり、信頼できる主だ」
「それだけ?」
「────」
それだけといわれると、なぜかその次の言葉が出てこない。
私は──シャノンのことをどう思っているのだろうか。
私が黙っているとオウランは──
「じゃあさ」
言葉を区切り、一息おいた後こう言った。
「自慰ってしたことある?」
一瞬思考が停止した。
ゼフィリスの思考回路の一部は反射的に『おなにー』なる言葉の意味を
自分のデータベース内から引き出していた。
おなにー。
自慰。
満たされぬ欲求を自らの手で慰めること。
一般的に性欲を自分の手により満たすことをさしている。
「──な」
「あ、その様子だとなさそう」
「な──何を言っている!そんなことなどしたことはない!」
なぜか声が荒くなっている。われわれアーフィには確かに男性と生殖行為を
する能力があり、人間女性の性感帯や、性癖を模倣することが可能だ。
そのためのプログラムも存在する。
だがゼフィリスは、そのデバイスを使用したことなどまったく無く、
むしろ削除すらしていたわけだが。
「それ以前に我々に性欲など無い!実際にこのような行動を模倣する
意味は──」
「性欲はあるかもよ?だって、私たちは恋できるでしょ。
私だってしてるんだし」
「だからといって私がシャノンに恋慕など──」
「ないの?」
「う──あ」
そうと割れたら言葉を瞑るしかない。恋慕を抱いているのだろうか。私はシャノンに──
「そばにいてほしいとか、自分の事をもっと見てくれないかとか、
抱きしめてほしいとか、キスしてほしいとか──」
オウランの言葉を聴きながら、自分の顔が赤くなるのが気づいていた。
オウランはそれに気づいてかニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべている。
「あるでしょ。だったら恋をしてるのよ。
恋慕と性欲、愛情と欲情は根幹的なところでつながっているものよ。だから──」
オウランが通信で何かを送ってくる。
それは私は消して久しい『あのプログラム』だった。
「試してみれば?意外と自分の気づいてないところに気づくかもよ〜」
「な──ななな」
「じゃーねーゼフィリス。感想聞かしてね〜」
などといってオウランは通信を切った。
「な・・・・」
私は送られてきたプログラムを見ながら顔を赤くしていた──
そのプログラムはつまり、擬似性感帯の作成と対人インターフェイス上の女性器、乳房、
乳首などの身体部分の詳細設定変更、そして子宮の作成など、細かい部分を調整するものだ。
そのほか任意で変更できるものには、性感の度数(どれくらい感じるか)、センサー系統の情報を
思考にある程度伝えないプログラム(自慰行為に集中させるためだと思われる)などなど、
ほぼ完全に女性の自慰行為をするときの状態、状況を模倣することができるプログラムだった。
オウランからこのプログラムを送られた翌日。朝6時。ゼフィリスはシャノンの部屋の前で
悶々としていた。
私は──私のシャノンに対するこの感情はどういうもなのだろう。
シャノント供にある。そのこと自体は私にとって誇れることであるし、何より私は
シャノンのそばにいることを望んでいる。
それは恋慕なのだろうか。その言葉すら自分のこの感情とは、相違があるように思えてならない。
わからない。
このことはシャノンに聞いても、意味を成さない。その当事者に聞いたとしても、ちゃんとした回答など出そうにない。
オウランの言ったとおり、私の主はそのような感情に鈍感のように思える。
わからない。
シャノンの顔を──寝顔でも見てみれば何かわかるかもしれない。
ふとそんなことを思い、ちゃんと扉を開いて(以前に突然目の前にふと現れたとき『普段の時は扉
を通ってきてくれ』といわれたので)入ろうとし扉を引くと──
「ぉうわ!」
と言って向こう側から同タイミングに扉を押したシャノンはバランスを崩して前に
倒れる形となった。当然扉の目の前にいたゼフィリスも一緒に倒される。
床に両手をついて完全に倒れきるのは防いだシャノンだったが、その両手の間には
ゼフィリスの頭があった。押し倒した形になってしまったのだ。
ゼフィリスは倒れてきたシャノンの胸に両手を添えていた。無駄な筋肉の無い絞られた、それでいて力強い胸筋の向こうから心臓の音が伝わってきている。
目の前にはシャノンの端正な顔立ち。
シャノンもこの状況がまずいと気づいているのだが、凍結したかのように動かない。
数秒、数十秒の間二人は重苦しいような妙な沈黙の中見詰め合った。
「──な」
ペチャ──
その沈黙を打ち砕いたのは何かの潰れる音と聞き覚えのあるよく通る澄んだ声だった。
シャノンは一瞬痙攣するかの用にビクリと震えると、ギギギといった音がよく似合いそうな
動きで横を向いた。ゼフィリスも追って横を見る。
そこにいたのは──いわずも知れたシャノンの義妹、パシフィカであった。
足元には潰れた卵。どうやらデザートイーグルの卵のようだ。デザートイーグルとの決戦に
何とか勝ち卵を手に入れてきた後、まだ起床していないと思われたシャノンを起こしにきた様子だ。
そしてこの光景を目にしたようだ。せっかくの卵二、三個落ちてしまっている。
「な、な、な──」
「い──いや、誤解だパシフィカ!これはわざとじゃなくて事故──」
しどろもどろになりつつも弁解する兄。そんなシャノンを見て、羞恥心が少し出たのか
俯いて顔を赤くするゼフィリス。
そんなゼフィリスとシャノンを見て憤怒と見てはいけないようなものを見たたための羞恥心
がピークに達したのか、パシフィカは──
「な──なに朝からやってんのよ、この変態幼女趣味兄貴いいいぃぃぃ!!!!」
ドゴゥ!!
「むごぁ!!」
残像すら残しそうな勢いで、ダッシュ。その後ジャンプしてドロップキックを
シャノンの顎にクリーンヒットさせる。
シャノンはなすすべもなく二、三回廊下を転がってとまり、ぴくりとも動かなくなった。
「成敗!!」
と言って着地し、動かなくなったシャノンの元に追撃を仕掛けに行った。
そんなシャノンとパシフィカを見ながらゼフィリスはさらに顔を赤くしているのだった。
無言──
朝食の間まったくと言っていいほどパシフィカは無言だった。
シャノンは目の前の席に座っているパシフィカに、「誤解だって」や「偶然なんだよ」
などなど弁解をしているが、取り付く島なし。まったくパシフィカは聞こうとしなかった。
一緒に朝食をとっているラクウェルは状況をわかっているのかいないのか、
いつもののほほんとした笑顔を浮かべて朝食を食べている。
ゼフィリスはシャノンの隣の席で用意された朝食に手をつけず、また考え込んでいた。
どうしてだろう。シャノンの身体的な情報は完全に把握している。心臓の音など、
ドラグーンと融合したときにも感じていたはずだ。だがなぜだろう。直接手でその鼓動を感じると、
なぜか赤くなってしまった。その逞しい胸や両腕を近くに感じたときも、思考が遅くなってしまった。
そして、その顔が目の前にあったとき──思考など完全にフリーズしてしまったかのようだった。
なぜだろう。これが恋というものだろうか。
隣に目を向けると、パシフィカに弁解しているシャノンがいる。
それを見るとなぜか──苦しいと言うか悲しいと言うかそのような感覚が出てきてしまう。
なぜだろう、とても不可解で理解不能でとても悲しいのか嬉しいのか苦しいのか判らなくなっていく。
「なぁ、ゼフィも頼むからパシフィカに言ってやってくれよ」
「────」
「なぁ──ゼフィ」
「はっ──な、なんだ我が主」
考え込んでいたせいかまた反応が遅れてしまった。
その様子を見てパシフィカはさらに不機嫌そうに顔を膨らませた。
「だから、誤解だと説明してくれ。お願いだから」
そんなに五回であってほしいのだろうか。
私とあのような状況にはならないでほしいのだろうか。
「ゼフィ?」
「────」
無言でいたのを不審に思ったのか、シャノンが不思議そうな声で問うてくる。
「──すまないシャノン。私にはよくわからない」
そう言ってゼフィリスは異相空間の間に隠れてしまった。
どうなのだろう。
わからない。
自問自答を繰り返す。
自分のデータバンクの中の情報をほぼ全てを調べても、わからない。
似たような感情についての情報も、恋についての情報もあったのだが、それでも
なぜか自分では納得できなかった。
わからない。自分の心なのに理解ができない。
ふと
『そばにいてほしいとか、自分の事をもっと見てくれないかとか、抱きしめてほしい
とか、キスしてほしいとか──』
オウランの言葉がよみがえる。
『あるでしょ。だったら恋をしてるのよ。恋慕と性欲、愛情と欲情は根幹的なところで
つながっているものよ』
欲なのだろうか。私はシャノンに恋をし、自分を見てほしいと思っているのだろうか。
『だから──』
わからない。だから──
『試してみれば?意外と自分の気づいてないところに気づくかもよ〜』
私はプログラムを起動した。
起動した瞬間、体が少し火照るような感覚がした。
ゆっくりと服の上から自分の乳房を揉む。
「ふ・・・ぅ」
ゆっくりと周りからだんだんと中心に向けて力を込めるように。
もやもやとするような、くすぐったいような不思議な感覚がする。
恥じているのか、声を小さめに殺している。
自慰の仕方の情報は持っている。好きな人や自分がしてほしいことを考えながら、自分の性感帯を刺激する。
好きな人──それはわからない。だけど──いつも思い考えてしまう人、シャノンを思い浮かべながら。
「ふ──ぁあ」
ゆっくりと中心に、そして乳首に触れる。その瞬間
「ふああぁ」
周りを触っていたのとは違う、甘くしびれるような感覚が襲う。
「ひ──ふぁ。ああぁ」
ゆっくり回したりひねったりする度に、違う感覚──そう快感が襲う。
シャノン顔を、シャノンの体を、シャノンの声を思い浮かべながら。
「ひ──ひゃぁ」
だんだんと体がさらに熱くなり、顔がどんどん火照ってくる。
そのうちにもどかしくなり、服を分解する。
「ぁ──ぃあ」
直接触るとさらに強い感覚が襲ってくる。そして、乳首をつねる。
「あ──ひああぁ」
声が大きく出てしまった。全身に小さく電気が走ったような感覚に、ピクリと体を振るわせる。
思い浮かべるものがだんだんと変わってくる。
シャノンに抱きしめられている自分。きつく抱きしめられ、そして少し離れ熱い熱いキスをしている。
「あぁ──」
いつのまにか想像の内のシャノンは自分を愛撫していた。
想像のシャノンの指の動きと自分の指の動きがシンクロする。
「ふぁ──あぁあ」
だんだんとシャノンに本当に愛撫されているように思えてきた。
そして片方の手は下のほうにと伸びる。
触れるとそこは
──クチュ
湿っていた。
「あぁ・・・」
ゆっくりとまだ毛の生えてすらいない(そういう設定なのだが)大陰唇の周りからまた回るように指を這わす。
ゆっくりゆっくりと回りながら小陰唇へと
くちゅ・・・
「ふぁ──」
乳房とは違った快感にまた体をよじらせる。
そしてゆっくりとその小陰唇と小陰唇の間をこするように指を動かす。
くちゅ、くちゅり
「ああ──シャノン」
だんだんと指が早くなり、胸を刺激するほうの手も乳首を重点的に責めていくようになる。
それを責めているのは自分の手だが、ゼフィリスにとってはシャノンの手になっていた。
「あぁ──ひぁ!?」
急にビクリと体をよじらせる。
指がクリトリスを責めているのだ。
びくびくと、乳首以上の刺激がゼフィリスの思考を白黒させるほどに連続して襲う。
「ああ──ひぃ・・・だめ──感じ──すぎて」
自分の手──シャノンの手は重点的にクリトリスを責める。
「ひぃ!ああ──ひゃぅ」
びくびくと痙攣するように動く。
想像の中のシャノンは一心にゼフィリスを責めていた。
そして不意に、動きが遅くなる。
「ふ──ぁ」
(ゼフィ)
シャノンは優しい声でゼフィリスに言う。
「あぁ──」
とても優しい顔。ゼフィリスはその顔を見てとても幸せになっていた。
「我が──主」
(ゼフィ)
シャノンはゆっくりと口を開き、小さくだがはっきりとこう言った。
(愛してる)
「シャノ──ふぁあああ!?」
遅くなっていた動きが急に早くなる。
「ひあ!ああぁ──ひいぃ!」
急激なその刺激に一気に上り詰めるゼフィリス。体の内から何か浮くような感覚が襲う。
「ああぁ──くる!なにか──」
そして──
「ひあああぁぁぁ──!!」
絶頂を迎えた。
その後、ゼフィリスはほうけた顔で裸のまま異相空間の中で倒れていた。
落ち着いたころに冷静に考える。
自分は──何を望んでいるのか。
ああ──そうか
想像の中のシャノンを思い出す。
──私はシャノンが私に優しく微笑みかけて、愛していると言ってほしかったのか──
それはつまり、
私は──シャノンを、我が主を
愛しているのだ──
「んぁ・・・ふぅぁ」
また私は自慰行為に耽っている。しかし、場所は異相空間などではなく
──シャノンの目の前なのだ。
といってもシャノンからは見えるわけではない。対人インターフェイスを人間に触れられないよう、感知されないように設定してあるので、
他人に気づかれずに自慰行為を出来る。
シャノンは自分の部屋のベッドに寝転がっている。ゼフィリスのことなどまったく気づいていない。
だが、ゼフィリスにとってはシャノンの目の前でしていることには変わりは無い。
「シャノン・・・あぁ・・・ひゃ」
クチュ──クチュ
目の前で、自分の主の目の前で自慰行為をするという背徳感、気づかれるのではないかと思う恐怖心。その二つが設定している以上の快感を生み出す。前にした時以上に女性器が愛液を分泌する。
最近はこの行為をする頻度がとても高い。
暇があればプログラムを起動してしまっている自分がいるのだ。
先日などひどいもので、五度も自慰行為をしてしまった。
シャノンの目の前に行くと、シャノンの顔を見ると最早条件反射的に顔が赤くなってしまう。
そのせいで恥ずかしくなってしまい、昨日はまともな会話をしていない。
そして欲求が余計にたまりオナニーをしてしまう──
悪循環だ。断ち切らねばならない──とゼフィリスは何度も考えたが、それが出来なかった。
一度しってしまった快楽を手放したくなくなっている。ある意味で狂ってきている。
「ひゃう──ああぁ」
シャノンの顔に跨るようにして自慰行為をする。
自分の愛液がまるでシャノンの顔に滴りそうになるのが、とても大きな背徳感を産む。
「ひぃ──はぅ・・・あぁ!」
クチュ、クチュリ──ヌチ
アクメが近くなり、指の動きが早くなる。
何処を見ているのかわからないようなシャノンの目が、不意にゼフィリスの目が合う。
「ひっ!」
一瞬気づかれたかと勘違いをし、ゼフィリスの体に驚愕が走る。それと同時に高められた快楽も全身に走り
「ひゃ!ぁああ、あああああ!!」
まるで海老反りのように背中を反らせて、ゼフィリスは絶頂を迎えた。
──バタン
シャノンは何も気づかずに部屋の外に出て行った。
「はぁ──はぁ──」
ゼフィリスはまだシャノンのいたぬくもりの残るベッドに倒れこみながら、
荒い息をついていた。快感の余韻に浸りながらだらしなく口を半開きにしている。
こんな姿、シャノンには見せたくない──
と、どこか冷静に考えていた。
「最近──」
シャノンはラクウェルに向かって渋い顔をしながら話を切り出した。
「なぜか不幸な気がする」
「どうして?」
「偶然ゼフィリスを押し倒してしまったのを発端に、パシフィカにダイビングキックを
食らった上踏み付けやフライングエルボーを食らうし、
その日から奴は俺の弁明を聴きもせず、完全無視状態に」
「まぁ」
「さらにはゼフィリスも俺とまともに顔すらあわせてくれない。一体俺が何をした?」
シャノンは頭を抱えて俯く。そんな弟を見ながらも、まったくいつもと変わらぬのほほんとした笑みを浮かべる姉。
「でもまぁ、そういう場合は時間が解決の方法の一つよ。ゆっくり待つのも一つの手」
それはシャノンもわかっている。普通の喧嘩なら十何年間共に暮らしてきた中で日常茶飯事のように起こった。
だが原因が原因だけに、長い間誤解されたままというのも釈然としないものがあった。
「後はちゃんと向き合って話してみなさい。パシフィカなら町に買い物に行ったわよ」
「そうだな。だがゼフィリスのほうは──」
「彼女のほうはもう少し時間が必要じゃない?」
そういうと、またシャノンは「そうだな」と言い、立ち上がって家の勝手口に向かっていった。
パシフィカのところへ行くのだろう。
「だけど──彼女の場合何もしなかったのが問題かもね」
シャノンがいなくなり一人になったラクウェルはそうつぶやいた。
「はぁ──」
ゼフィリスは、シャノンのベッドの上で枕を抱えながらため息をついていた。
どうすればいいのだろう。どんどん欲求が強く大きくなっていく気がする。
確かにシャノンのことは好きだ。愛している。
だが、それをどう伝えればいいのだろう。
そして──伝えても大丈夫なのだろうか。拒絶されないだろうか。
最近はこんなことばかり考えている。昼も夜も関係なく
シャノンのことを考えている。それが余計に欲求を大きくしているのだが。
「あぁ──」
またプログラムを立ち上げる。
今度はちゃんと物を触れるように実体化しておいて、することにする。
服を消し、全裸になってぬくもりの残る枕を抱きしめる。
あぁ──シャノンのぬくもりだ
それを感じるとまた胸が高鳴る。
「ふっ──あぅ・・・」
また胸から刺激しはじめる。片手で枕を抱えながら、片手で乳房を刺激する。
ゆっくりゆっくりと
シャノンのぬくもり、そしてにおいを感じながら。
刺激しながら不意に舌でシャノンの枕をなめる。味などそういうものなどは関係しないが、
シャノンをなめような──そんな感覚に浸りたかった。
「ひぅ・・・あぁ」
間を置かずに再び自慰行為を始めたせいか、快感が強くすぐに胸の先──乳首がとがってきた。
「ふぁ──ふぁあ・・・ひゃぅ」
股間が湿りだしまたぬるぬるとしてくる。
股間に手を伸ばそうとしたそのとき──
はっ──と何かを感じて部屋の扉を見ると、そこには
「まぁ」
笑顔を浮かべたラクウェルがいた。普段より多少頬を赤らめてはいるが、
いつもの笑顔を浮かべている。
「ひっ──あ、あの、これは」
とっさに毛布で体を覆う。そして異相空間に逃げようとするが。
「あぁ、ちょっと待って」
がしっ、と腕をつかまれてしまった。
こうなると逃げようが無く、仕方なくゼフィリスはラクウェルの顔を見た。
その顔はいつもの笑みだが、なにか──そう面白いものを見つけたと言うような
面白がっているような雰囲気が出ている。
「あのね、アーフィちゃん」
「はっ、はい」
なぜか声が裏返ってしまうゼフィリス。しどろもどろで顔も真っ赤だ。
ちゃんはいらないと以前言ったのだが、
それを問いただす冷静な思考はゼフィリスに残っていなかった。
「私はその行動をアーフィがしてることがまず驚きだけど、やっぱりアーフィも女の子だったのね〜」
ほぅ、といった感じで息を吐くラクウェル。
ゼフィリスはこれから何を聞かれるのか──と慌てふためいていた。
まずい──非常にまずい。危険危険レッドゾーン。
「もちろんそれって──男の人、そうシャノンのことを思ってしてるわけでしょう?」
いきなり確信をつくお言葉。
「いや、あの──その、そ、それは」
「シャノンのことを、思ってるんでしょう?」
カタコトになってしまうゼフィリス、それを見てラクウェルは確信していうるだろうが
さらに聞いてきた。
ラクウェルの雰囲気とその笑顔に圧されて、ゼフィリスは小さく「う・・・うむ」と答えた。
「シャノンのどんなところが好きなの?」
好奇心満々で問うラクウェル。
「いや──その、あの」
「ん〜?」
「えっと・・・その逞しい胸筋や、その遠くを見るような双眸やその──それに」
「それに?」
「────」
のほほんとした雰囲気の中に少々の恥じらいを含んだ笑みを浮かべながら、
ラクウェルがゼフィリスの答えを待つ。
「──優しさが」
小さい声で答えた。
「私のことをとても優しくみてくれる。とても優しく頭をなでてくれたこともある
──そして世界を敵に回しても妹を守ろうと、最後まで戦ったその強い心が──」
とてもとても好きなのだ。と言う言葉は口から出せなかった。
恥ずかしくて顔をまるで林檎のように真っ赤にして俯くゼフィリス。
それをみてラクウェルは──
「アーフィちゃん・・・」
「──!!むぅ!?」
強引にラクウェルはゼフィリスの唇を奪った。
半分あいていたゼフィリスの口の間にラクウェルは舌を割り込ませ、舌と舌を絡ませる。
「むぅ!?むぅー!」
ゼフィリスは拒絶しようとするが、人間に対して危害を加えられないため、抵抗することが出来ない。
ヌチュ──と二人の口のなかで唾液がいやらしい音を立てる。
「ぷふぅ」
ラクウェルは口を離して息を吸う。
ゼフィリスは顔を真っ赤にし唇を押さえながら一歩下がる。
「なっ、何を」
「ごめんなさい。あんまりアーフィちゃんがかわいいから」
「な──!」
「でもそんなにカチコチでキスをしてもまともに動けないと、シャノンに喜んでもらえないわよ」
「な、な──」
「だから、私が練習してあげる」
そういって近づいてくるラクウェル。
まずいまずいまずい。ラクウェルがこんな趣味の人間だったとは知らなかったが、
それ以前にこの状況は危険だ。
「アーフィちゃん」
ラクウェルの笑みがいつもの笑みではなくいつの間にか艶を含んだ大人の笑みになっていた。
「そんなカチコチじゃあ、だめ。もっと力を抜いて──」
「むぅ!?」
またもや唇を奪われるゼフィリス。
ラクウェルはまたも舌を割り込ませ、ゼフィリスの口の中を味わうように舌を動かす。
その動きに刺激され口の中が快感でしびれてくる。
そしてゆっくりとゼフィリスも舌を動かし始める
舌と舌とが絡み合いねっとりとした音を立てる。
ヌチュ・・・くちゅ──クチュリ
そしてゆっくりと二人は唇を離すと、舌と舌との間に白い唾液の糸が伸びた。
ラクウェルはゼフィリスの後ろに回る。
「あ──」
「大丈夫、他人にされることも少し離れておいたほうがいいわ」
謎の理屈をつけてラクウェルはゼフィリスの優しく胸を揉む。
自分でするときとはまた違う、暖かくそれでいて刺激的な快楽が体を襲う。
「ふぁ──な」
だが体の設定は十代の前半。ラクウェルのような豊満な肉体ではない。感度は良いが大きさは小さめだ。
ゼフィリスは背中にラクウェルのやわらかいその胸を感じながら複雑な思いだった。
「ふぁ──シ・・・シャノンは・・・胸が大きいほうが、ひぃん──い、いいのだろうか」
「ん〜?」
「ラクウェルのような・・・はぅ──大きくてやわらかいほうがいいなら、あぁ!
設定を変えれば──」
「ん〜・・・シャノンはそういうのは気にしないと思うわ。中身を見るタイプだって自分で言ってたし」
「しか──ひぃ・・・しかし」
「それにアーフィちゃんは十分魅力的思うわ」
「だが──ふぁああ!?」
いきなり乳首を強くつねられ痛みと快感でのけぞる。
「ひゃあぁああ!もっとやさし──いぁあ、あああああぁぅぅ!」
「こんなにかわいい声をあげれるだもの」
くすくすと笑いながらゼフィリスの乳首を弄ぶラクウェル。
「ひゃああ!くるぅ!だめぇぇぇ!」
びくびくと痙攣するような動きをしだす。
「えい」
「ひぁあああああああああああああああ!!」
さらにぎゅっと乳首をつねられて、ゼフィリスは絶頂を迎えた。
びくびくと震える。完全に痙攣しているようだ。股間からは愛液が大量に噴出している。
「イっちゃったんだ」
「ふぁ──ふぁぁ」
ラクウェルは横に崩れたゼフィリスをみていやらしく笑う。
「でも」
ラクウェルはゼフィリスの足をつかみ、少しからだの向きを変えさせる。
「これからでしょ?」
そして、ゼフィリスの秘部を優しく舐めた。
「ひゃああ!?」
アクメを迎えたばかりで敏感なところをいきなり、そして初めて舌で刺激され、大きく喘ぐゼフィリス。
ぺちゃ・・・チュル──ぺちゃ
「ひゃあ!ひぁ!ふぇぁあ!!」
どんどんと舌の動きを激しくしていくラクウェル
「ゼフィリスの愛液──おいしい・・・はむっ」
びくびくと震えて大きく喘ぐゼフィリス。普段の落ち着いた彼女の様相は今では微塵も見受けられない。
「くすっ・・・かわいい」
ラクウェルはゼフィリスの反応を見ながら、明らかに楽しんでいる。
「だめぇ・・・らくうぇる・・・こわれてしまぅ・・・」
ゼフィリスは途絶え途絶えにそういうが、
「だ・め」
ラクウェルは聞きもせずまたクンニを再開する。
「ひぁあ!やめ──ひゃあああ!?」
今度は重点的にクリトリスを責められ、全身に火花が飛ぶような感覚に襲われる。
「だめぇ!また──またぁああ!!」
また絶頂に達しかけるゼフィリス。そこにとどめとばかりに
くりっ
と、ラクウェルがクリトリスを甘噛みする。
「ひ、ひゃぁああああああああああああ!!!?」
体中に電流が走ったような感覚に、大きく痙攣しながらゼフィリスは絶頂を迎えた。
「きゃ」
絶頂を迎えた彼女の秘部は潮を吹いた。ラクウェルは顔にゼフィリスの愛液を受けた。
「くすっ」
小さく笑いながらその愛液を舌で舐める。その様相は妖艶な雰囲気に包まれていた──
「伝えないと伝わらないわ。特にシャノン相手だと」
ラクウェルは横でぐったりしているゼフィリスに声をかける。
「とてつもなくってわけでもないけど、鈍いことは確かだから」
「ふぁ──ひぁあ──」
ゼフィリスはぐったりとしてシャノンのベッドに横たわっている。股間から出た大量の愛液が、
口から出た唾液がシャノンのベッドのシーツを汚していた。
「勇気を持つ。ほんの一歩の勇気を──そうすればたぶんシャノンはあなたのことを拒絶しないわ」
「ふぁ──」
「もし別の理由で自信が無いなら夜中にでも私の部屋にくれば教えてあげるわ。アーフィちゃん」
そういってラクウェルは部屋を出て行く。
「ぁ──ちゃんは──いらん」
そういってゼフィリスはまた痙攣した。