生物は決して単独では生きられない。  
例え、群れをなさぬ種であっても、糧としての、或いは共生の、利用の対象としての  
『他者』を必要とせずにはおれない。  
そしてまた、生物の最も根源的な命題が種の保存だとするならば  
畢竟、それは他人との複雑な社会的関係の中で生きることを意味するに他ならない  
…のだが。  
 
「シャノン兄、最近ゼフィに冷たくない?」  
「…なんだ。やぶからぼうに。」  
贅を尽くした王宮の一室。  
お互いの立場が、また行われる場所が変わったとて、一向に変わらぬカスール兄妹の会話である。  
「俺がいつあいつに冷たくあたったよ?」  
「知らないわよ!ただゼフィが寂しそうにしてるのを見たから…  
これは問題はシャノン兄にあるに違いない、と賢いパシフィカちゃんはピーンときちゃったわけよ。」  
うんうん、と一人納得しつつ語る妹にシャノンは疲れたように言った。  
「なんでだよ…?ラクウェル、なんとか言ってやってくれ。」  
のほほんと紅茶のカップを傾けるもう一人の人物に水を向ける。  
が、期待に反してその発言は彼を援護するものではなかった。  
「そういえば〜アーフィちゃん、屋上で一人で居ることが多いわね〜。」  
「ホラみなさい!」  
「勝ち誇るなっ!…わかった、俺が様子を見にいけばいいんだろう…まったく…」  
ブツブツと文句をいいながらも早速行動に移すあたりが、やはりシャノンなのであった。  
パシフィカ、ラクウェルの2人もそれなりに仕事があるらしく、  
カスール家秘密会議──もとい、お茶会はそこでお開きとなった。  
 
寒風が吹きすさぶ季節、しかも曇りの日に好き好んで屋上にでる人間はいない。  
ましてや、おそらくはこの世界随一の巨大建造物であろうラインヴァン城ともなれば  
その吹きっさらしぶりたるや並々ではない。  
今、そこに佇むのはヒトならざるモノ──<竜機神>アーフィ・ゼフィリス。  
正確に言えばその対人インターフェイスであった。  
「よう。」  
「我が主…なぜこんな所へ?」  
振り返る顔は、そういわれて見ればどこか普段とは違う。  
それをあの妹に指摘された虚しさはこの際置いておくことにした。  
「パシフィカの奴に、お前が何か悩んでいるみたいだから様子を見て来い、とけしかけられた。」  
「私が…?」  
そう言って意外そうに目を見開く、その仕草は完全に人間のそれと変わりが無い。  
かつては、その『演技』の微笑ましさに彼の姉妹が大騒ぎしたものだったが。  
「私は悩んでなどいない。ただ、最近どうもシステム全体に妙な負荷を感じるのだ。  
そこで記憶情報の整理と吟味を…」  
「すまん、わかりやすく言ってくれ。」  
「…考え事をしていた。」  
「それを世間じゃ“悩んでる”って言うんだ。何を悩んでるか、よければ…」  
教えてくれないか、と続けようとして、シャノンは押し黙った。  
こちらの事を見据えたゼフィと目が合ってしまったからである。  
(やっぱり、なんか違うような…?)  
流れる沈黙。  
それを破ったのは──  
「──…へっくしょん!」  
…いかに<竜騎士>といえど逃れられぬ人間の生理現象であった。  
 
「大丈夫か、我が主?」  
凍えた身体をソファに落ち着けた主人を『終りの魔獣』は心配そうに覗き込む。  
「ああ…ちょっと冷えただけだ。」  
そういってずずず、と茶をすする様子がいつか見た老犬にだぶり、ゼフィリスはふと笑みをもらす。  
「…どうした。」  
「なんでもない。主は主なのだな、と思っただけだ。」  
「そりゃあそうだろう、俺は俺だ。」  
「そうだな。…私とは違う。」  
「なにを…」  
「何故、原因不明の負荷が起こるのか私なりに推論してみた。  
…私は兵器だ。如何に知性を、そして過剰なまでの汎用性を持つに至ったとしても、  
それを忘れることは出来ない。いや、してはならない。  
だが兵器とは詰まるところ敵を殺す為、それだけのモノ。…今はそれが無い。」  
「何が言いたい…?」  
「つまり…人間になぞらえて言うのならば、私は退屈している。敵が──戦いが無いから。」  
「…それは本当か?」  
「まだ仮説の段階だ。だが、我々も完全ではないのだ。可能性は否定できない。  
だからそれを確かめようと先ほども…」  
「退屈している…って言ったよな?  
それは人間のもんと同じように、何か他の事で紛らわせることはできないのか?」  
「おそらくは可能だろう。だが、事は私の存在の根幹にかかわる。  
道具として…兵器として造られた存在が、それを否定しながら尚在ることが出来るのか…」  
その先をさえぎるように、シャノンは手を前に突き出した。  
 
「手を出せ。」  
「なに…?」  
「いいから手を出してみろ。」  
わけもわからず、それでも両手を前に差し出すと、いきなりそれを掴まれた。  
対人インターフェイスの感温計が、彼の手が平常より冷たいことを知らせる。  
「…暖かいな。」  
「それはよりヒトらしく見せかけるための、形相干渉による…」  
「理由なんてどうでもいい。…こうして傍に居てくれるだけで暖かくなれる。  
俺にとっちゃそれで十分だ。その…負荷がどうのというのは正直よくわからんが…  
なんとかする。俺はお前の主なんだろ?…もっと信頼しろ。」  
そう言った途端、シャノンは何か柔らかい物に視界を塞がれた。  
慌てて引き剥がそうとするが。  
「おい…!?」  
「…暖かいか、主?」  
これを聞いては、彼に抵抗する手段があろうはずがない。  
黙ってされるがままになることにした。  
 
もうどのくらいこうして居るのだろう。  
息が苦しい。いや、それより。  
そう思っているとゼフィリスが腕を緩め、身体を下にずらし始めた。  
ようやく開放されるか、とホッとしたのもつかの間、今度は顔が近い。  
潤んだ瞳と、上気した頬と…既にシャノンは冷静な判断を下せる状態ではない。  
(これはつまり…そういう事だよな)  
ぼんやりとそんな事を思いながら、彼はゼフィリスの方に顔を近づけ…  
特に抵抗も無く、2人の唇が合わさった。  
しっとりとした感触がシャノンの口内に広がる。  
「ん………我が主…頼みがある…」  
「なんだ…?」  
「いま、思いついた事なのだが…強い刺激の入力を続ければ、フラストレーションからくる  
負荷を軽減できるかも知れない。」  
そう言って、ゼフィリスはひし、とシャノンに抱きついた。  
否、しがみついた、という方が適用かも知れない。まるでその手を離せば死ぬ、  
とでもいわんばかりに、きつく、きつく…  
「…私を抱いて欲しい。」  
「な…ッ」  
衝撃のおかげでシャノンの頭に冷静さがわずかながら戻る。  
「やはり、嫌か?」  
「…いいや。ただ、理由が気に入らん。  
要はそれ、ストレス解消のためにしたいってことだろうが。」  
「ありていに言ってしまえばそうなる。」  
「俺は好きな相手じゃなきゃしたくない。  
お前だって…そう、こういうのは軽々しくするもんじゃない。」  
「唇は奪ったくせにか?」  
彼女にしては珍しく、悪戯っぽく言う。  
「うっ…」  
 
「難しく考えなくていい。これを機に貴方と継続的な性交渉を望む、等という事はしないし、  
恋愛関係を強制したりもしない。ただ…これだけは解っておいてもらいたい。  
我が主、私は…貴方だから、抱かれたいと思ったのだ。」  
「だからお前、そういうの…ええいくそっ!──…下手糞かも知れんぞ。」  
「構わない……ぅんっ」  
さっそく乳房に触れてきたシャノンの指に、ゼフィリスは悶える。  
「随分と、敏感なんだな…」  
「そ、それは主が、…っふぁ」  
服の上からのもどかしい感触でこんなになってしまうとは、自分は一体どうしてしまったのだろう?  
だが、それをいぶかしむ暇も無く、良く動くシャノンの指に硬く屹立した部分をとらえられる。  
「あ、…主…服を…」  
呼吸すら必要の無いはずなのに、今は胸が苦しくてたまらない。  
両腕は思うようにならず、ただ虚しくシャノンの肩を掴むのみ。  
それでも、この生殺しの快楽地獄をなんとかしようと、ゼフィリスは喘ぎ喘ぎ、声を発する。  
「お願いだ…ふ、服を…ん、…脱がせて…」  
「…ああ…」  
答えるシャノンの声は明らかに生返事で、  
現に彼の指にその意思を履行する気配が感じられない。  
下へ下へとゆっくりと伸びてはいるが、それはどうも違う目的のような…  
なおも懇願しようとするゼフィリスの唇を、シャノンの唇がふさぐ。  
 
「ん…ん……はふ…」  
思う様口内を蹂躙した彼の舌は、今度は首筋を獲物に定めた。  
まるで吸血鬼の如く、露出させた白い肌に舌を這わせ、時に甘噛みする。  
その度に、ゼフィリスの身体はぴくん、と小さく震えた。  
その感覚に夢中になっていると、身体を下っていた指がついに大腿へとたどりつく。  
ずうずうしくも足と足の間に入り込んで、ゆっくりと上下に撫ぜた。  
それは同じところをいったりきたりしているようで、少しずつ上へ…肝心な部分へと近づいていく。  
首と、胸と、足と、三つの部位を甘く無慈悲な愛撫に晒されて、  
ゼフィリスの口からは吐息が漏れるばかり、最早言葉を紡ぐことが出来ない。  
(あの指が…一番上まで来てしまったら、私はどうなるのだ…?)  
靄がかかったような頭でそんなことを考えているうちにも、  
指はゆっくりと、だが確実に彼女の足を昇ってくる。そして。  
(来る…!)  
触れるか触れないかの、かすかな接触。  
だが、期待に全身をこわばらせていたゼフィリスにはそれで十分過ぎた。  
シャノンの身体を骨も折れよとばかりに抱きしめた後、ぐったりと弛緩した。  
 
「…服を脱がせてくれと言ったのに。」  
普段感情を表に出さない彼女にしては、いくぶんか恨みがましい調子で言う。  
「いや、すまん。なんか…止まらんくてな。  
それにその服どうやって脱がせたらいいのか…」  
言われてみれば、対人インターフェイスの衣服は本来着脱の必要がないために  
そういった配慮がなされていない。  
「そうだな…構わないから、破いてしまってくれ。」  
「そういう趣味はないんだけどな…冗談だ。」  
軽くにらまれてシャノンは慌てて発言を取り消す。負い目があるだけに逆らえない。  
「それじゃあ、いくぞ…っ!」  
盛大な音を立てて、ゼフィリスの衣服が破ける。  
裂け目から、ゆったりとした曲線を描く乳房がまろびでる…が、そこでシャノンは硬直してしまった。  
「…どうした?」  
「いかん。このままだと俺、何かに目覚めちまいそうだ…。」  
「サディズムというやつか?」  
「皆まで言わんでいい。…ともかく、それだけ破けてりゃ脱げるだろ。  
後は自分でやってくれ。俺も服を脱ぐ。」  
そういって、シャノンは部屋の灯りを吹き消した。  
 
「…済んだか?」  
ややあって、背中から問う声がする。  
「もうちょっと待ってくれ。剣帯とかがこう…ああ、これだから値段の高い服は…」  
いいつつ振り返って…またしても彼は停止した。  
薄暗い部屋の中でそこだけうっすらと白く浮かび上がったそれは一転の曇りなく、  
例えるならば名工の焼き上げた陶磁器か、研磨に研磨を重ねた大理石か…  
そんなものでは足りない、とシャノンは思った。  
月光ですら、彼女の前では見劣りする。感じたそれを何とか言葉にしようとして、  
だが呆然とする口からでたのはただ一言だった。  
「…綺麗だ…。」  
「作り物だからな。それはいくらでも綺麗にできるだろう。」  
「言ったろ。そういうの、どうでもいいって…。」  
その後に続く言葉は無かった。  
もう何度目かの口付けを交わし…もつれあうように、ベッドの上へと倒れこんだ。  
 
「ぁ…ん…胸は、さっきもう…十分に触っただろう?」  
「いや…まだまだ、触り足りないな…それとも、こっちを触って欲しいのか?」  
シャノンの手が、こんこんと愛液を溢れさせる、その中心へと伸びる。  
「…っ!…も、もう…指では…!」  
「…俺ももう限界だ…いくぞ、ゼフィ。」  
ゼフィリスに言葉は無く、ただこくりと小さくうなずく。  
(大丈夫…実際の経験こそないが、情報は持って…!?)  
彼女は自分の思考に驚く。何故、そんな情報が自分の中にある?  
どう考えても自分が取得したものではない。と、すると…しかし、思考はそこで中断させられる。  
「…っぁ…主、違…そこでは…」  
「…すまん。」  
「もっと下……ぅん……っ!」  
シャノンの先端はふらふらと彷徨うばかりで、少しもゼフィリスの望む場所にやってこない。  
やっと近づいてきたかと思えば撫ぜるだけで遠ざかり、  
代わりとばかりにまだ包皮に包まれた突起をこねまわす。  
…このままではまた自分だけ達してしまう。  
そう危惧したゼフィリスは、自らの足の間で暴れ狂うシャノンを右手で捕まえた。  
熱く、硬く膨張したそこは、なめらかな感触にとらえられて一際大きく脈打つ。  
「…まったく、仕方が無いな。貴方は…」  
「だから下手かも知れんと最初に──……すまん。」  
憮然と言うシャノンに不思議と暖かい感覚を覚えながら、ゼフィリスはゆっくりと彼を導いてゆく。  
その方法も、やはり何故だか記憶の中にあった。  
「…ここだ。…そう、そのまままっすぐ…そう…ぁ、……はぁああっ!」  
やっと望んでいたものを与えられて、ゼフィリスの身体は歓喜に震えた。  
 
熱い。  
この季節に、暖炉に火すら入れず裸で居るというのに。全身が炎で焼かれるようにすら感じる。  
「ゼフィ…動いていいか…」  
下敷きになっているゼフィリスから返答はない。  
それを肯定と取ったシャノンはゆっくりと腰に力を加える。  
「んぁ…ふ…」  
「…痛いか?」  
ゼフィリスはぶんぶんと頭を振る。それは質問への返答というよりもむしろ  
話しかけて気を散らさないで欲しい、といった仕草だった。  
その事を解ってか解らずにか、シャノンは彼女を気遣うように動き始める。  
「……!…ぅ…ぁうっ……ん!…」  
必死に押し殺そうとする彼女自身の意思に反し、その口から喘ぎが漏れ始めた。  
シャノンの背に回された手が、獲物を掴む鷹の爪のように彼の皮膚を捕らえる。  
痙攣したようにひくり、ひくりと動いていた足は、突き上げられる度に徐々に徐々に上へ上がっていき…  
今では彼の腰にしっかりと回されていた。  
同時に、彼女の内部でも変化が起こっていた。  
来訪者を歓迎するようにうねうねと絡みつき、さらに奥へ奥へと誘う。  
ただでさえ慣れていないシャノンは、たまらずに腰の動きをより速く激しくさせた。  
最も奥まった部分を執拗に責められて、あっという間にゼフィリスは追い詰められる。  
「…あ、主……私は、私はもう…ッ!!」  
だが、追い詰められていたのは相手も同様だったらしい。  
「…俺ももう……出、すぞ…っ!!」  
言うが早いか、深々とゼフィリスを貫くと、そのまま全てを吐き出した。  
 
 
「…ちょっとは、気が晴れたか?」  
事の後、並んで横になりながらシャノンが問う。  
「そのことなのだが……さっき、解ったことがある。」  
彼女にしては随分と歯切れの悪い口調を不審に思って黙ると、  
ゼフィリスはそのまま先を続けた。  
「…<竜機神>に、性交渉が可能なのは以前、話したな?」  
「以前も何も、いま実際に確かめたばかりだが…それがどうした?」  
「可能な以上、それに関するプログラムや、情報がある。」  
「…ああ。」  
「そして、私はブラウニン機関で再調整を行った際、他の機体と情報同期を行っている。  
と同時に、対人インターフェイスに変更を加えた。」  
だんだんと話についていけなくなったシャノンは訊いた。  
「…結局、どういうことなんだ。」  
「…その…つまり…何かの拍子に、『そのためのプログラム』が私の中に紛れ込んだようなのだ。  
負荷はおそらくそれが原因で…つまり…」  
恥らうかのように目を伏せて、<終りの魔獣>は言った。  
「私が欲求不満だったのは確かだ。ただ…求めていたのは敵や、戦乱ではなく…  
──…最初から、貴方だったのだ。」  
「──へ?」  
「こ、今度、再調整する際にちゃんと消去しておく!だから……?」  
なおも何か言おうとするゼフィリスをシャノンは黙ってかき抱いた。  
「…構わないんじゃないか?このままで。」  
「し、しかし…」  
「もう一度抱かれるのは嫌か?…俺はもう一度抱きたいな、お前を。」  
シャノンの腕の中で、ゼフィリスは今度こそ彼の目をまともに見れなくなって、  
自らの顔を男の胸にうずめた。だが、そうする事で、また身体に熱が宿り──  
「ではその…早速…」  
「え…!?ちょっと待…」  
だが、既に急所をとらえられたシャノンに抵抗の術は無い。  
──翌日。  
ラインヴァン王宮では、心なしか明るくなった<竜機神>と  
普段にまして気だるげな雰囲気を漂わせるその主が目撃された。  
 
完。  

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