街並みがある。ラインヴァン王国の王都・ザウエルの街並みだ。  
 それを物見塔の上から見下ろす人影が二つ。一つは黒髪を長くのばした青年のもの。  
 もう一つは――  
「――シャノン」  
 青年の傍らで、重力を無視して浮いている――蒼い髪に紫のリボンを結びつけた、人にあらざる少女のもの。  
 少女は青年――憔悴した顔つきで街並みを食い入るように見ている、シャノン・カスールに言う。  
「再度言う。せめて睡眠だけでも取らないと、倒れるぞ」  
「……寝てられるかよ」  
 吐き棄てるように、シャノンは少女――アーフィ・ゼフィリスに答える。  
「あいつが、パシフィカがどこでどうなってるのかもわからないのに――気楽に夢でも見てろってのか?」  
「このままでは貴方が倒れる、と言っているのだ」  
 何度目のやり取りだろうか。  
 休息を促すゼフィリスを、シャノンが斬って棄てる。繰り返しだ。  
 無論――シャノンとて、自分の体の調子は把握している。このまま続けていれば、ゼフィリスの言うとおり確実に倒れる。  
 だが……寝ていられない、というのも本当だ。  
 睡眠を取ろうとしても、パシフィカのことが気になって眠れないのである。  
 ゼフィリスに言えば強制的に眠らせる程度の事は簡単に出来るだろうが、そうしてくれと言い出す積もりはシャノンには無い。  
 だから、シャノンは投げやりに言う。  
 
「そしたらラクウェルでも誰でも、代わりに使え。どうせ部品なんだろう」  
 この後はゼフィリスが沈黙して、よく分からない反論を呟いて――終わりだ。  
 結局のところ、ゼフィリスはシャノンに従うしかないのだから――  
「――違う」  
 ゼフィリスが、呟く。  
「私は――貴方の為を――」  
 そこで口を噤む。自らの言葉に戸惑うように、続きを言う事が禁忌であるかのように。  
「…………」  
 沈黙する少女に沈黙で返し――  
「……一旦、降りるぞ」  
 と、シャノンは言った。  
 
          ○  
 
 瓦礫の散乱している床。砕かれた壁。商品と思しき麦の袋が鼠や鳥などに食われた残骸を晒している。  
 <奈落>の余波で損壊した倉庫の一つである。  
 適度に街から離れたその場所を、シャノンは寝場所に選んだ。  
 いつもならラクウェルと交替で警戒して眠るところだが――ゼフィリスが居れば、問題はあるまい。  
 シャノンは壁を背にして座り込み、外套で体を包んだ。毛布でもあれば掛けていたが、無いのだから仕方がない。  
 目の前――手が届くような近くで浮いているゼフィリスと目を合わせずに、シャノンは目を閉じた。  
 
「寝る。半グロッグ経ったら起こせ」  
「……それで休息になるのか?」  
「充分過ぎる」  
 というのは虚勢が混じっていたが……  
 ともかくシャノンはそう言って、眠りに付こうと意識を沈めた。  
 だが。  
「…………」  
 寝付けない。  
 眠ろうと思ってすぐに眠るのは確かに難しいが、今はそれ以上に――パシフィカの事が脳裏にちらつく。  
 どこで何をしているのか。  
 生きている。死んではいない――はずだ。いや、死んでいない。<秩序守護者>達も探している。だから死んではいない、生きている。  
「…………」  
 つまるところは……パシフィカが心配で、寝付けないのだ。  
 しかも……  
「おい……」  
「……何か?」  
 ゼフィリスが、こちらをじっと見ているのだ。  
「視線が気になって寝られん」  
「私は……」  
 そこで――彼女は口篭る。こちらをうかがうように視線を送って、目を伏せる。  
 
 意図してのことではないだろうが、その仕草は非常に――外見相応に、愛らしかった。  
「……っ……」  
 シャノンの苛立ちは、堪えきれないところにまで来ていた。  
 パシフィカの安否。ラクウェル達の状況。<秩序守護者達>の行動。煮え切らないゼフィリスの態度。  
 それらに心身の疲労が拍車をかけ、シャノンの精神状態は混沌としていた。  
 そこへゼフィリスが――思わず撫でたくなるような仕草でこちらを見て来た。  
 押さえていた理性の箍が――外れる。  
 シャノンは無言で両手を伸ばし、ゼフィリスの肩を掴み、  
「…………」  
「シャノン――?」  
 一瞬の怯えと疑問の表情を見せる彼女を、そのまま押し倒した。  
 押し倒されたゼフィリスは――その理由が分からないのだろう。戸惑いの表情で、シャノンを見ている。  
 そんな彼女の唇に、シャノンは自分の唇を合わせた。  
「シャノ――んっ、ぁっ」  
 逃げようとする彼女を押さえ込みながら、シャノンは舌を入れる。ゼフィリスのそれと絡めるようにして彼女の口内をたっぷりと貪り――それなりに堪能したところで、解放した。  
「……しゃのん――なにを……んっ」  
 顔を火照らせたゼフィリスの言葉を遮り、再度口付ける。  
「んっ……ふぁっ…………あぁ……」  
 何度も何度も、執拗にゼフィリスの口を犯すシャノン。  
 最初は抗っていたゼフィリスも、繰り返していくうちに快楽に目覚めたのか――自分から舌を絡めはじめた。  
 暗い倉庫の中に、淫らな水音が響く。  
 頃合を見て、シャノンはゼフィリスの服に手を掛けた。  
 脱がされながら――もはや何も抵抗はせず――アーフィ・ゼフィリスは主に問うた。  
 
「なぜ……このようなことを」  
「――寝れないんでな」  
「そ――それならば、貴方の許可さえ頂ければ……私の方で操作して睡眠状態にすることも――ひゃんっ!?」  
 熱い息を漏らしながら言う彼女の首筋を軽く吸い、シャノン。  
「どうにも気が昂ぶって、寝付けない。だから――」  
「やめ……はぁ、ん……」  
 全裸に剥かれ、そこかしこを愛撫されて悶えるゼフィリス。  
「――御前で、晴らさせてもらう」  
 
            ○  
 
 秘所を指先で撫ぜられ、ゼフィリスがろれつの回らない舌で悶える。  
「しゃのん、いやだ……だめっ」  
 シャノンは構わない。小さな乳房の先端、硬く尖ったそれを口に含む。  
「ひぁっ――」  
 ゼフィリスは敏感に反応する。  
 歯を立てた。  
「っ……!」  
「ゼフィ――」  
 名を呟きながら、執拗な愛撫はやめない。  
 動かす手を胸から腹へと徐々に下げ、臍を軽く突いた。  
「んやっ!?」  
 触覚系から伝達された異様な感覚に、ゼフィリスが小さく悲鳴をあげる。  
 素直に反応する彼女が愛らしく、シャノンは臍のあたりを優しく撫でた。  
 
「ふ……ぁん……」  
 ゼフィリスの艶のあるうめきを愉しみながら、シャノンは更に手を下に動かした。  
 股ではなく脚の付け根から太股へと、ゆっくりと撫で降ろして行く。  
「……しゃの……ん……、は――ぁ……んっ」  
 もじもじと、ゼフィリスが脚を震わせる。  
 シャノンは彼女の秘所が濡れそぼっているのを確認して、言った。  
「――して欲しいか? アーフィ・ゼフィリス」  
「…………」  
 アーフィ・ゼフィリスは答えない。  
 シャノンは手を尻に回した。胸と比べてどちらが柔らかいのか、確かめるように揉む。  
 ゼフィリスは半開きにした口から小さな喘ぎ声を漏らすが、何も言わない。抵抗もしない。  
 シャノンは再度呼びかけた。  
「――して欲しいか? ゼフィリス」  
 
「…………」  
 ゼフィリスは答えない。  
 シャノンは太股に舌を這わせた。ひ、とゼフィリスが喘ぐ声に合わせて舐める。  
 そのまま上へ。脚の間の秘裂へと――  
「シャノンっ、そこは……!」  
 動きを止める。  
 あ、とゼフィリスが吐息を漏らした。  
 シャノンは三度目の問いかけをした。  
「――して欲しいか? ゼフィ」  
「…………」  
 しばしの――沈黙の後に。  
 アーフィ・ゼフィリスは、己の主に頷きを返した。  
 
                  ○  
 
 

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