もう僕には何もない。
地位も金も名声も家庭も、必死になって立ち上げた会社さえも…。
でもそんな物はどうでもいい。
本当に欲しい物は一つだけだったから 。
るい。
ある日突然目の前に現れた女性。
何も知らず生意気に生きてきた僕に、人を愛する事、愛する喜びと苦悩を教えてくれた人。
そう、欲しいのはあなただけだったんだ。
ただあなたのそばにいたかった。
あなたが微笑むのを見ていたかった。
ずっとずっと。
シンガポールの街中で、男達に連れられて歩きながら、あなたのことを想ってるよ。るいさん。
多分僕は死ぬんだろうな。でもどうでもいい。
あなたが手に入らないのなら、僕の人生に何の価値が有るんだろう。
死ぬなんて、全然怖くない。
「行さん!」
背後から聞き覚えのある声。まさか…
振り返るとそこにはあなたが立っていた。
るいさん…どうして…ここに…?
シンガポールで偶然会うのは二度目だね。またラッフルズホテルに泊まってるの?
あの時と同じ、るいさんは美しくて映画みたいだ。
やっぱり運命だったのかな…僕達。
諦めてたのに、僕の人生に、もうあなたはいないと思ってたのに…喜びが込み上げてくる。
生きていいのかな。
この先、あなたと一緒にいられるのなら、こいつらから逃れて。生きていいのかな。
どこか、誰も知らない所で、また二人で…
「BURRN!」銃声。
簡単にはいかないか…。
「行さん!」
あなたはかけ寄って僕を抱き起こす。
「しっかりして!」
泣き虫だな、相変わらず。初めて逢った時は、あんなに強そうだったのに。
「るいさ…ん」
泣き虫にしたのは僕のせいか…。
あなたの頬のやわらかな感触。
「ごめ…ん…」
血で汚しちゃったね。
あなたと生きたいと思ったのに、占いは当たってたんだ。
「あいし…てる」うまく言葉に出来てるだろうか。
「愛してるわ!行さん!だから死なないで、しっかりして!」
泣かないで、あなたに逢えて僕は「しあ…わせだっ…たから」
「行さん!お願い!お願い、死なないで!」
僕ちゃんと笑えてるかな、あなたの声は心地好くてまるで子守歌みたいだ。
「あ…いし…」もう声出ないや…。
るいさん、愛してるよずっと。今までも、これからも…
るいさん、僕の美しいひと…