「あぁ……やっとこさ抜けた…。えらい霧でどないしよか思たわ……」  
山道を進む阿国を待ち構えていたのは、濃い霧だった。  
それでも阿国は不屈の闘志を燃やして霧中を進み、とうとう妻女山を越えた。  
 
「あれでっしゃろか…謙信てゆうお人がいはるのて。」  
くのいちから聞いた敵の名は、上杉謙信。  
その謙信は持てる全ての兵を妻女山の前面に展開させており、  
阿国はがらんとしたその本陣に容易に侵入することができた。  
 
一番立派な天幕をヒョコッと覗けば、大男が座禅を組んでいる。  
「戦場に女は不要。早々に立ち去るがよい…。」  
先程武田信玄に斬りかかったこの僧は、阿国に目を移す事すらなく言い放った。  
「つれない人。でも、そこがええわぁ……。」  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」  
「お…おんべぇ…?」  
それっきり謙信は目を瞑って座禅を組んだまま、この御真言を唱えるばかりだった。  
「今のん、何どすの?」  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ…。オン・ベイシラ……」  
「なぁ。…なぁ。なぁて。」  
ユサユサと謙信の肩を揺らし、顔を覗き込む。  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ…。オン・ベイシラ……」  
プニプニと頬を突っついたり、グニ〜と左右に抓って広げる。  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ…。オン・ベイシラ……」  
「ケン・シンサマキイテオ・クレヤス…。ケン・シンサマ……」  
真似するように阿国は唱える。これはかなり鬱陶しい。  
「五月蝿い!!」  
「きゃッ!………び…びっくりしたぁ……」  
突然目を見開いたかと思えば大声で怒鳴られ、阿国は尻餅を付いた。  
豊かな胸を押さえ、飛び出そうな心臓を抑える。  
 
「我は今、新たな力を得るべく式神との契約を結んでいる最中だ。  
 契約には精神集中と確固たる闘争への意志が要る……疾く去れ!!」  
「そないに言わんでも…。どんな式神はんを呼びはんの?」  
 
ギロ…と阿国をきつく睨むが、無視すればもっと鬱陶しい事になる。  
謙信はしぶしぶ質問に答えた。  
「……契約してみねば分からぬ。」  
「ふ〜ん…。せやなぁ…うちやったら何がええかなぁ?…そ〜やなぁ……」  
「…………」  
「おうどんかなぁ?」  
「う、うどん…だと?」  
「そうどす。おうどんがええどす。お揚げがじゅわ〜ってなった……」  
というか、単に今うどんが食べたいだけの阿国だった。  
「そ…そうか…。精進するがよい…。」  
ニコニコと微笑む阿国と見つめ合った後、謙信がようやく我に返る。  
「…!!」  
「どうしやったんどす?」  
二、三度首を横に振り、謙信は再び契約の儀式に取り組んだ。  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」  
「あ! またや!!」  
 
今度はどれだけ阿国がちょっかいをかけようが、謙信は聞く耳をもたなかった。  
ひたすらに御真言を唱え、どれだけ揺らされようが座禅も崩れない。  
「もう戦、しもてくれはりまへん?」  
しかし阿国が次のように切り出すと、その眉がピクッと動いた。  
片方の目がうっすらと開き、阿国を睨みつける。  
「何だと…!?」  
 
「うち、ちょっと用事があるんどす。」  
「ふざけるな! 貴様の私用で、戦が終わらせれるものか!!」  
「そない言わんとぉ。な?」  
ペタンと前屈みに覗けば、強烈な谷間が謙信の視界に広がる。  
両腕を地に付けているために二の腕によって乳房が更にきつく  
寄せられており、谷間の線が普段よりさらに長く伸びていた。  
 
「ふっ……ふっふっふ……」  
「なに笑ろてんの? あ、うちのおっぱ……」  
「残念だが、我に色仕掛けなど通じぬ。」  
「い…。……そうなん?」  
「もはや俗物への興味は皆無。…分かったら大人しく去れ。」  
「…………」  
不満そうに唇を尖らせると、阿国は立ち上がってトコトコと歩いていった。  
「…………。……オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」  
 
 
「どないしよ…。」  
 
大人しく立ち去るはずも無い阿国は、そのすぐ裏手の天幕にチョコンと座っていた。  
「うちのおっぱい見て顔色ひとつ変えへんお人なんか初めてや……。  
 もしかしたら、衆道のお人ちゃうやろか? せや。絶対そうや。お尻や。」  
当然謙信には丸聞こえで、とても契約どころではなかった。  
大きく咳払いをすると、阿国の声がヒソヒソと小さくなる。  
「うわ、やっぱりそうなんや。衆道はんや。お尻や。」  
「いッ、否ぁっ!!」  
「うふふ…そないムキにならんでもぉ。ええやんか、それはそれで。お尻ぃ。」  
「去れ! 帰れ!!」  
幕越しの珍妙な会話だった。  
 
(でもこれは困ってしもた…。何や変わった方法で落とさな……。)  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」  
(変わった方法……変わった…変った…………)  
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」  
「せや!!」  
「オンっ!?……くそっ、オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……」  
突如阿国が大声を挙げたので、謙信もつられて声が裏返った。  
「これやこれ。」  
 
謙信は目を瞑っているためによく分からないのだが、天幕の  
向こう側からはシュルシュルという衣擦れの音が聞こえた。  
「なんやこの白いの。……こう…履くんかいな………ぁいたっ!」  
それと共に、ドテッという転ぶ音も度々聞こえた。  
「もう……こないにかかとの高いお靴、動きにくいねん。」  
「…?」  
 
 
「謙信様。」  
 
しばしの静寂の後、謙信は再び声をかけられた。  
とうとう堪忍袋の緒が切れた謙信は、大声で怒鳴ろうと目を見開く。  
「貴様ッ、いい加減…っ……!?」  
そこには、今までに見たことも無い衣装をまとった阿国が立っていた。  
 
短すぎる裾から覗く、先程までは赤い袴に隠れていた迫力ある太腿。  
そこから急速に細くしなやかに締まっていく、ふくらはぎやくるぶし。  
割れた胸元からこぼれる豊かな谷間。  
 
「どないどす…?」  
束ねていた髪は解かれ、一変して大人の女としての魅力を引き出している。  
歩み寄るだけで短かな裾からは秘部が見えそうで、謙信は急ぎ目を背けた。  
 
「貴様、何を企んでいる!?」  
「企むやなんて…。うちはただ、もう戦をしもてほしいだけどす。」  
「本気…か…!?」  
「本気どす。……あら、しもた。」  
唐突に何やらを後ろに落とした阿国は、振りかえると尻を突き出して拾おうとした。  
 
一瞬、謙信は完全に秘部が丸見えになるものだと思っていた。  
しかしそこは阿国が苦戦しながら履いた白い下着によってそのほとんどが  
隠されており、艶やかな美尻もその半分は隠され、素肌は見えなかった。  
「いややわぁ、拾えへん。」  
下着に包まれたムチムチとした尻がそのまま謙信に近づく。  
「どこやろ? どこに落ちたんやろぉ。……てゆうか、何落としたんやろ?」  
何も落としていないのにも関わらず、阿国は拾う仕草を続けるために、  
大迫力の尻部が契約中で身動きの取れない謙信の目の前で踊った。  
 
女性の尻が目の前にあるという事実もさることながら、その薄い布切れの  
向こうにある秘部が『見えない』のではなく『隠れている』という事が、  
かえって斬新かつ新鮮な刺激を謙信に生んだ。  
 
今まで封印されていた謙信の男の本能を徐々に、だが確実に蘇らせていく。  
謙信の下半身に血が一気に駆け巡り、力が漲っていった。  
 
「いやぁ……こない起っきしてからに……」  
座禅を組む謙信の下腹部に、阿国は潜り込むようにして入り込んだ。  
「や、やめろ…!!」  
聞く耳もたず、袴から怒張した白い勃起と陰嚢を導き出す。  
太さこそ人並みだが、その長さは阿国の想像以上だった。  
阿国の体奥が微かに疼き、痺れた。  
「…ええんよ。うちの事は気にせんと、お続けやす。」  
「くッ!!」  
パクリと咥えられ、謙信の口から低い呻き声が漏れる。  
「んふふふふぅ〜〜♪」  
深く咥え込みながら謙信を見上げ、阿国は得意げに笑った。  
先程の屈辱を晴らし、相当嬉しかったのだろう。  
 
強烈な吸引と共に、温かでヌルヌルした輪が勃起をしごく。  
阿国が次々と唾液を送れば、みるみる内に陰嚢までもがベトベトになった。  
「んふふ……したたっておますぇ?」  
さらに潜り込むと、自身の唾液にまみれた陰嚢を音を立てて啜った。  
その間にも鈴口周辺を指の腹でクリュクリュとくすぐり、軽く突っつく。  
 
「う…あぁ……くッ…オ…オン・ベイ……ベイッ……ベ……ベイ……ベイッ…!!」  
凄まじい快感に襲われながらも、それでも謙信は契約を進めようとした。  
しかしながら快感に痺れる頭はまともに口を働かせず、下腹部にのみ集中していく。  
「まだそないな抵抗してからに……」  
舌をチロチロと踊らせながら裏筋を昇り、ネットリと窪みを一周した。  
「…これでどない?」  
謙信を見上げ、しばし見つめ合う。  
 
ガチガチに固まった亀頭を口元に導き、阿国はすっと目を瞑った。  
 
チュッ……  
 
「くうぉッ!!」  
まるで愛しき者にするかの様な接吻を亀頭にされ、謙信の興奮が一気に高まった。  
「うッ…く!!……くぅッ!……ぐ……ぐ……!!」  
 
ビキビキとさらに固く激しく膨張する勃起を、阿国は咥え込んだ。  
無意識の内に謙信が乱暴に腰を動かせば、阿国の唇が荒々しく蹂躙される。  
「…んぶっ!…ぶぷぅっ!!…ぐぅっ!!…んぷっ!!」  
「うおおおッ!!」  
「んぐッ!?…ん゛ーーーーッ!!!」  
阿国の口から勢いよく精液が溢れ出て、その壮絶な射精を物語る。  
「んぶぁッ!!……ゲホッ!ゲホッ!!…コホッ……ゴホッ!……」  
「あ…あぁ……」  
何年ぶりかに感じる射精の素晴らしい快感に、謙信は打ち震えていた。  
全身は小刻みに震え、時折腰は大きく跳ねた。  
 
「…もぉ……こないな濃いの…飲ます気どしたん?」  
口元に残る塊を指で掬い、悩ましく舐め取る。  
「な…何を……貴様が…!!」  
「うふふ……出したんは謙信様どすぇ?」  
シュルシュルと白い下着を脱ぐと、謙信の上に跨った。  
馴れ馴れしく首に手を回すと、至近距離で悩ましく見つめる。  
「うちも……ええ?」  
「ば、馬鹿者!! 我は僧だぞ!! これ以上は……」  
「ええんよ、我慢せんでも。」  
「聞けーーーっ!!!」  
そっと根元を摘まみ、秘唇に当てがう。  
 
相当湿っていたのか、それだけで亀頭が濡れた。  
「や…やめろ!!」  
「せやから、何とも無いんやったら小さくしたらええんどす。」  
言葉とは裏腹に、勃起の裏筋に指を這わせて血行を促進させる。  
「…うっく!!…や…めろ……おぁっ!!」  
阿国はゆっくりと腰を沈め、謙信と一つになった。  
「おっ…大っきいぃ……」  
結合の快感に阿国は震え、キュッと謙信の体にさらに纏わり付いた。  
「どない……?」  
「…は…なれろ……」  
閉じた目を震わせ、謙信は耐えに耐えている。  
「いやどす♪」  
そう言って阿国は謙信の肩に手を乗せると、自らの腰を振り始めた。  
 
「んっ……あっ…あん!…んふっ……い……ひんっ!……」  
 
ググッと腰を沈め、奥深くまで亀頭を取り込むとそこでコンコンと子宮口に挨拶させた。  
「やんッ!!……これ……これ…好きぃ……」  
「ううっ……良……い、否っ!!」  
堪らず謙信は『良い』と言いそうになり、必死に我を取り戻そうと歯を食いしばる。  
続いて阿国は円を描く様にして腰を回した。  
 
クチュクチュクチュクチュ………  
「あはぁん!!……これも…これもちゅきぃ……」  
 
基本的に性交においては主導権を男にまかせる阿国だったが、  
このように自分の好きに男性を味わうのもまた一興だった。  
 
トクトクと溢れ出る愛液が陰嚢を伝い、謙信の袴に染み込んでいく。  
「やんっ!!」  
突如勃起が阿国の膣内でさらに固く膨張した。  
「あっ、ああーーっ!!……こ…こない長いのん……うち………初めてぇ……」  
 
…プジュッ!…グプッ!!……ブリュッ!……コプッ!!…ブチュッ!!…  
掴んだ尻を豪快に打ちつけ、飛沫を上げて謙信の勃起を味わう。  
端から見れば、完全に阿国が強姦しているかの様な光景だった。  
 
「た…頼む……やめろ……」  
自らの嗜好に合わせて好きなだけ楽しむ阿国に対し、ようやく謙信が口を開いた。  
夢中で振っていた腰を止め、謙信と見つめ合う。  
「何で?」  
「も……もうッ…これ以上は…!!」  
いかな理由であれ、出すわけにはいかない。  
血が滲むほどに歯を食いしばり、謙信は耐えていた。  
 
「謙信様…見ておくれやす。」  
「…………」  
「謙信様て。」  
うっすらと目を開けば、阿国が自らの柔らかな乳房を揉み上げ、  
その頂上で固く尖る桃色をチロチロと舐めながら妖しく見つめていた。  
「うおおッ!!」  
視覚的な興奮が一気に昇り詰め、勃起が最大に怒張した。  
精液が凄まじい勢いで放出され、子宮を直撃する。  
「あっ!? あっ、ああっ! やああぁーーーっ!!!」  
 
すぐに阿国を一杯に満たし、ゴボッ…ゴボ…と音を立てて結合部から溢れ出てきた。  
「熱…ッ!……熱い…のが………た…くさん………」  
塊のような熱い精が直撃するたびに阿国は体を震わせ、柔らかな笑みを浮かべていた。  
 
たっぷりと時間をかけて精を搾り取ると、阿国は謙信から離れた。  
「んふぅ……良かったぁ…♪」  
「き、貴様ぁッ!!」  
「そない怒ら……」  
「…………」  
「…………」  
「ど…どうした?」  
謙信の頭の上を見上げたまま、阿国はポカンと口を開けたままである。  
「もう契約て……終わりましたん?」  
視点を謙信の頭上に止めたまま、呆けた様に尋ねる。  
「何!?…オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……馬鹿なッ! 終わっている!!」  
「そうでっしゃろなぁ…。」  
「貴様、何故それが分かった!?」  
「あれ……」  
ピッと謙信の頭上を指差す。  
ゆっくりと謙信が頭上を見上げれば、そこには契約を終えて召還された式神が浮いていた。  
 
大きさは指の長さほど。  
その小人の容姿は初々しい女性のようで、やたらと露出度の高い衣服を纏い、  
片目を閉じフリフリとお尻を振って愛想を辺りに振り撒いている。  
 
どう見ても、戦に使う式神ではないようだった。  
「なッ、なんだこれはぁッ!!!」  
「いやぁん、かいらしいやんかぁ♪」  
「ふざけるな! 我がこのような破廉恥な式神を連れて戦場に立てるか!!」  
 
「あ、思い出した。これ、『ぱうち』とかゆー妖精ちゃいますのん?」  
「ぱ…ぱうち…だと!?」  
「そうどす。北の国にいる妖精どす。」  
「どのような能力があるのだ…?」  
「確か……」  
ポポ…と染めた頬を押さえ、恥じらいながら阿国が続ける。  
「捕まえた人間をひん剥いて、えっちな事するんどす……♪」  
気が遠くなる謙信。  
「うちとあんな事しとったから………ぽっ。」  
「…………」  
謙信は真っ白に固まり、石化した。  
「これで戦えるんどすか?」  
「…………」  
完全に魂の抜け殻となった謙信は、力無く馬に跨り一人去っていった。  
その後を追って、妖精が愛想を振り撒きながらフワフワと飛んでいく。  
その背中から滲み出る哀愁が切ない。  
「行ってしもた…。ま、ええけど。」  
 
かかとの高い靴に慣れず、何度も転んで悪戦苦闘しながらも元の巫女衣装に戻った。  
「やっぱりこっちの方が落ちつきますなぁ。………ん?」  
謙信の撤退を知り、続々と上杉本陣へと押し寄せる武田軍が近づいてくる。  
その中には茶臼山で一度ボコボコにした武田義信の姿も見えた。  
貧相な顔の割に財布の中身は上々だった事を思い出し、  
しかもそんなカモ…否、武将が何人も山道を登ってくる。  
阿国は微笑まずにはいられなかった。  
「いただきますぅ♪」  
ペロリと舌なめずりすると、阿国は武田軍に襲いかかった。  
 

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