「誰どす!?」
人の気配に気付いた阿国が後ろを振りかえれば、そこには武田信玄がいた。
「あぁん、信玄様…。いるんやったらいるて……」
「何をやっとるのかね…?」
「え!…えっと……これは……」
阿国が襟元を掴む手を離せば、顔面ボコボコの武田義信が地に崩れ落ちた。
「うぅっ…今日二回目………ガク。」
しかもその背後には、ボッコボコにされた武田軍の武将達が山積みになっている。
あわてて阿国は手をプルプルと振るが、隠しきれるものではない。
しかも残念なことに、手を振ったことで懐や袖口からは奪った財布が零れ落ちた。
「ちゃ、ちゃうねん!……えっとな、えっとな、これは……」
「おじさんねぇ……」
「ん?」
信玄はいつもの癖で頬を掻いている。
だが怒りや情けなさやらで血管を額に浮かべながら、ボリボリと強めに。
「ちょぉ〜っと怒っちゃったんだなぁ……」
「や…やっぱり…?」
武田軍全滅だけではない。
みすみす謙信を逃がした事。
幸村やくのいちと連絡が取れなくなってしまった事。
今回の戦が全て水の泡になってしまった事。
その全てが信玄の怒りを頂点に達しさせていた。
「ほ、ほんなら……これ、半分コしよ?」
奪った山盛りの財布をモッサリと両手で拾い、信玄に渡そうとした。
彼女の最後の賭けなのか、阿国も流石に笑顔を半分引きつらせている。
「ほぉう…。貰っていいのかね?」
「うん! うん!」
カックンカックンと首を縦に振り、阿国は頷く。
「でもねぇ、これ…。元々はおじさんのお金なんだよねぇ…!!」
「そ、そない細かい事気にせんとぉ。」
「とりあえず…来てもらおうかね……」
「痛っ!…は、離しておくれやす…!!」
信玄は痛い程に手首を掴み、阿国を本陣へと連れていった。
阿国を強引に連れ行く中で、確かに大打撃を受けたとはいえ、
よくよく考えれば信玄はこの阿国を手に入れた事に気付いた。
自分に可愛がってもらうため、危険な戦場を駆け巡った阿国が徐々に
愛しく感じ、信玄は本陣が近づくにつれ機嫌が良くなっていった。
「し、信玄様……痛い……」
「ん?…おぉ、すまんすまん。」
強引に引っ張っていた手首を離し、今度は腰を抱き寄せた。
「あん……♥」
「ちょっと苛立っていたようじゃ。すまなかったなぁ。」
軽々と膝から掬い、阿国を力強く抱き上げた。
「あぁん♥……ん?」
「どうしたね?」
( けったいやなぁ…。えらい急に機嫌ようなりはって…。)
略奪の場面を見られた以上、ただでは済まないと覚悟していた。
それが今になってのこの上機嫌に、阿国はまだ安心できなかった。
それが杞憂だとは露知らずに。
(まだ気ぃ抜いたらあきまへんな、これ…。)
「信玄様……」
「何かね?」
「うち、いっぱいご奉仕しますきに…。」
「ほおぅ? 確か儂が可愛がってやる約束ではなかったかね?」
「ううん…そないに大それたコト、恐れ多いもん。」
「そう…かねぇ?」
「それに、信玄様ほどのお人に抱いてもらえるんやから……当然どす。」
阿国は目をウルウルと潤ませ、愛らしい視線を上目遣いで信玄に送った。
「ふぉっほっほ。おじさん、照れちゃうのぅ。」
「よっしゃ。」
「何が『よっしゃ』なのかね?」
「う、ううん!!…何でもあらしまへん♪」
「そうかね?……ふふ、おことは面白いのぉ。」
「うふふ〜♪」
下手に出る作戦が上手くいき、思わず漏れた喜びの声を必死に誤魔化した。
無人の本陣に辿り着くと、阿国は信玄の手の内から降り立った。
信玄が前帯を引くと、袴が円を描く様にしてパサリと音を立てて落ちる。
続いて薄い衣を肩から落とすと、瞬く間に阿国は全裸となった。
大きく張り出した乳房と尻。
それに反比例するかのように細く締まった腰やくるぶし。
黒々と茂る陰毛。
「ほぉ…。清楚な顔の割には、迫力ある体だのぉ…?」
「よう言われます♥」
片方の乳房を掌で掬い、まろやかに揉んでみる。
「…んっ……」
限界まで揉み上げてパッと手を離せば、プルンッと音を立てそうな
程に世話しなく揺れ動き、幾度も左右に揺れて乳房は元通りになった。
もう一度乳房を掬うと、次はきつめに揉む。
ギュム、ギュムッと指をえぐり込ませる様にして感触を味わう。
「んっ!…んんッ…!!」
絶品の柔らかさを誇りながらも、その大きな乳肉には
決して垂れる事のないみっしりとした張りがあった。
固く尖った桜色を指先で摘まみ、痛い程に正面に引っ張る。
「…やあっ…そ…ん……お…おっぱい…伸びてまうぅ…!」
「どれ、このまま千切ってやろうか?」
「い…いぢわるぅ……」
ピッと指を離すと再び乳肉がタプッ、タプンッと踊りながら元に戻った。
「やんッ!……も…もう…。信玄様…?」
「どうしたね?」
「うちだけ裸なん…恥ずかしい……」
「おっと、そうだったの。」
甲冑を脱ぎ始める信玄の前に、阿国は膝を付いて身を低めた。
「下はうちが脱がしたります♪」
「ほっほっほ、愛いのぉ。」
口で帯を解き、上半身の甲冑とは比べ物にならない程に速く裸身を露わにしていく。
ボロンッと音を立てそうにして充血した淫茎が零れ出た。
「これ…って……」
長さは人並みなものの、その太さに阿国は目を驚かせた。
「どうかね?」
上半身も裸身になった信玄は、阿国の頬に叩きつけてその巨大ぶりを見せつける。
「こんな太いの…見た事無い……」
目の前の巨根に自分が穿たれる事を想像すると、阿国の深奥が甘く痺れた。
うっとりとした目で勃起を見つめ、液体を溢れさせる先端を舌で一舐めする。
「むうっ…!」
先端に口づけの嵐を送り、雀がさえずる様な音が立たせる。
唾液と欲望液が交じり合い、鈴口から糸を引いて唇とを繋げば、
「んふ♥」
その度に阿国は亀頭にチュッと唇を重ねた。
フー…と息吹をかければ、勃起全体がビクンビクンと小さく跳ねた。
それを見て阿国が見上げれば信玄が微笑みかけ、
それにつられて阿国もニッコリと笑みを浮かべた。
耳元の髪を捲くりながら大きく口を開ければ、ゆっくりと亀頭を飲み込んでいく。
「ん…ぉぐ……ん…ぷ……ぶぅ……」
眉をしかめて奥まで咥え込もうとするが、とてもその根元まで届かなかった。
それでも唇を竿に絡みつけ、懸命に首を振る。
精一杯に口を開けて勃起をしごき、またその度に亀頭が喉奥に当たるために
唾液が大量に湧き出て、口端、あるいは裏筋からポタポタと垂れ落ちていく。
信玄は手をそっと下に伸ばし、阿国が首を振るたびに揺れる乳房を揉んだ。
「んぶっ…!」
やや乱暴気味に柔肉を味わい、屹立する乳首をギリギリと指の腹でこね回す。
「ん゛ーーッ!!」
「ふふ、すまんすまん。」
「んぷぅ……もぉ…いぢわるぅ…。」
脈打つ亀頭を上に向かせれば、流れゆく唾液と共に裏筋に舌を絡ませ陰嚢へと向かった。
すでにパンパンに膨らんだ左右の陰嚢に接吻をし、音を立てて啜り付く。
「おおぅ……」
今度は舌をネットリと這わせながら裏筋を登って頂点へと向かうと、
頂点の薄皮を唇で軽く噛み、甲高い音を立てて強めに吸った。
「お…おおっ!!」
「し…信玄様……」
「何かね?」
「うち……うちもしながら…しても…ええ?」
勃起を咥え始めた時より湿り気を帯びていた阿国の太腿や下腹部が、
信玄に抓られた乳首が疼くのも手伝って、ますますその潤いが増していた。
「ほぉう…。なんとも淫靡な頼みじゃなぁ?」
頬をますます真っ赤に染め、阿国は俯く。
「ふむ、構わんよ。」
「…………」
小さくコクンと頷けば、阿国は再び信玄を口内に迎えた。
首を振る中で阿国の手が片方は自分の胸、もう片方は秘部へと向かう。
「んぶッ……ふ……ぶぅっ……んぐッ……ぷ……んぷッ……」
疼く自分を慰めながら、必死に信玄に吸いついて舌を絡ませる。
調子が上がってきたのかそれとも逆に気が楽になったのか、先程よりもさらに
淫らに奥深くまで咥え込む阿国を見下ろし、信玄の背筋が大きく震えた。
「美味いかね?」
「ぷは……信玄様の…おいひい………」
鈴口に舌を潜り込ませながら阿国が答える。
信玄はこのまま射精してしまいたい衝動に襲われたが、
何とか我慢すると阿国の股間に足先を潜り込ませた。
阿国の手をビッショリと濡らし、糸を垂らして地に
滴らせる源泉に足の甲を添え、前後に擦りつける。
「んぷぁッ!! ひあっ、あッひっ、あーーーーッ!!!」
辱めるためにグチュグチュと卑猥な音を敢えて立てれば、
信玄の下腹部に阿国はしがみつく様にして倒れ込んだ。
「どうしたね……これが欲しいかね?」
震える唇に笛のようにして竿の部分を擦りつけ、
力無く出てきた舌にはペチペチと亀頭を叩きつける。
「ぺあ……あ…ぷぅ………」
コク…と阿国が頷くのを確認してから、信玄は阿国を仰向けに寝かせた。
「…どれ、じっくり見せてもらおうかね。」
細い両のくるぶしを掴み、強引に開脚させる。
「あ……い…いややぁ……」
小さく首を横に振るが、その声調には拒絶的な意志は全く含まれていない。
「ほぉう…。」
小刻みに震える秘唇を左右に開けば、濡れそぼった薄い
鮭肉色の奥から粘っこい液体がトクトクと湧き出てきた。
「こんなに尖らせおって……」
ビンビンに勃起した陰核を指の腹でしごけば、失禁したかの様に
愛液が溢れ出し、霞れる程の高い悲鳴が阿国の口から漏れた。
「あうっ! あんっ! やッ、やあーーーーッ!!!
そ…それ……コシコシされんの……好きぃ〜………」
「こう…かね?」
要求とは異なり、陰核を痛い程に摘まんでゴリゴリと擦り上げる。
「ひぃあうッ!!」
強烈すぎる刺激に阿国の表情がますます淫靡に乱れていく。
腰を高く浮かべ、踏ん張る腰や太腿がガクガクと快楽に震える。
「そ…れ……あ…かん………し…死んで…死んでまうぅうぅぅっ!!」
「そぉれと。」
「んぎぃッ!!!」
陰核を千切れんばかりに強く右に捻れば、阿国は大きく目を見開き昇り詰めた。
浮かせた腰が跳ねながら勢い良く潮を飛沫かせ、信玄の体中に浴びせかける。
「は…あぁ……あぁああぁぁ……」
「休ませんぞ?」
快楽に打ち震える阿国の脚を開脚させ、股間に潜り込んで亀頭を当てがう。
「…ふぇ?」
絶頂に意識が朦朧としている中、
「んううぅーーーっ!!!」
多少萎えたとはいえ、弩級の太さを誇る信玄の巨根が阿国を貫いた。
折れんばかりに背筋を反らし、狂った様に踊る舌からは唾液が飛び散る。
「お……お…おっきいぃ…!」
「じゃ…ろぅ!?」
「ひゃあっ!!」
ズンッと軽く一突きすれば、たちまち悲鳴が挙がった。
様子を見ながらもゆっくりと律動を始めると、勃起がますます太く固くなっていく。
「…あ…当たっ…てる……奥……奥ぅ……」
「ここか?」
勃起をさらに奥深くねじ込ませ、コンコンと子宮口をえぐって直接刺激する。
「そ…そこ……そこぉっ!」
「ほっほっほ、美味そうに咥えおって………ほれ。」
阿国の脚をこれでもかと開脚させ、折りたたむ様にして結合部を見せつけた。
「…い…いやゃ……こんなん…恥ずかしい……」
ちんまりとした秘部が巨根によって貫かれ、無惨なまでに拡張されている。
その結合部からは自身の愛液が涎のように滴り落ち、勃起をヌラヌラと光らせていた。
「んひんッ!!…あッ、ひっ、ひぃっ!!」
魅入られたように結合部を見ていた阿国だったが、再び
律動が始まると意識は霞み、視界も薄くぼやけてしまった。
目の前で揺れる乳房を揉んで体勢を安定させると、信玄は怒涛に膣を穿った。
「あんっ!…あっ、やッ!…はひぃっ!!…はぁ〜……」
指の間で乳首を転がしながら、力強く一回一回に威力を込める。
つい先程までは戦場だった川中島一帯に、阿国の悲鳴が木霊した。
幾度か軽く達しさせると、続いて信玄は足を伸ばして騎乗位に移行した。
とはいっても阿国はもう踏ん張る力すら無く、信玄の肩に抱きつくので精一杯だった。
「どうかね?」
「お…なか…お腹…いっぱいぃ……」
フラフラの阿国の唇に、突っつく様に唇を重ねる。
唇までもが性感帯になった今、阿国はそれだけで軽く達した。
阿国の腰を掴むと、まるで人形のように阿国を持ち上げ好き勝手に穿ち上げる。
「ひいぁっ!…ひっ!…あッ、あひんッ!!…す…すごッ……すご…い!!」
信玄の強靭な肉体ならではの力強い性交だった。
「こんな事もできるんじゃぞ?」
フラフラの阿国を豪快に持ち上げれば、なんと一度の抜き差しで前後を反転させた。
「ひゃあぁああぁッ…!!」
唯一残っていた意識すら薄れ、阿国の最大の絶頂が迫っていく。
「ほ…おぉ…。凄まじいものよな……」
体には力が残されていないくせに、膣肉は千切れんばかりに信玄を締めつけている。
背筋を指でなぞれば、阿国はそれだけで達した。
「あ…はぁああ……ぁん……」
勢いよく潮が噴き出し、栓代わりの亀頭に熱く噴きかかる。
「達したかね?」
背後から阿国の口に指を入れれば、力無く舌が絡む。
「へぷぁ…んぷ………うん…。」
「ふふ…。そぉら…っと。」
もう一度阿国の腰を掴み、再び反転させる。
「ひぶァッ!!」
ブリュッ!!と大きく音を立て、肉棒が飛沫をあげて貫く。
大いに揺れる乳房の下側を鷲掴みにし、片方の突起を千切れんばかりに吸いながら
激しく穿てば、阿国の体に残っていた僅かな力も急激にガクッと失われた。
淫らかつ愛らしい悲鳴も消え、囁くような小さい喘ぎ声のみが発せられている。
そのまま阿国を倒して反転させ、最後の猛攻に信玄は後背位を選んだ。
とはいっても阿国は霞れた声で喘ぐばかりで、体位が変った事に気付いてもいない。
「…あ……ひッ………ひん…ひいッ」
きちんと四つん這いにもなれず、背後からの官能を肩で受け止める阿国。
その柔らかに潰れた乳房は地に擦れ、余った乳肉は腋下から覗き出る。
折れてしまいそうな細い腰を掴み、ゴリゴリと勃起を乱暴に
膣襞に擦りつけ、ただひたすらに信玄は阿国を突いた。
「…ゃあッ…んっ!……ひぐッ!……ひ…ぎ!……シ……あひ…あひぃっ!!」
最後は奥の奥までねじ込ませ、射精を待つ。
「くぉッ!!」
「…あ……ッ!!!」
熱い精液が飛沫をあげて一気に注ぎ込まれる。
すぐに阿国を一杯に満たし、ドプドプと結合部から溢れ出た。
「ほれ、無事かね…?」
「ん……」
ペチペチと優しく頬を叩かれ、阿国は目を覚ました。
最後は悲鳴すら挙げれない程の快楽に落ち、深奥で精を浴びた瞬間に気を失った。
余韻に浸りつつ、所々を思い返すだけでも体の奥が熱くなる。
「信玄様……うち……」
「儂と一緒に、甲斐に行こう…な?」
「うん♪」
信玄が耳たぶをくすぐれば、阿国はその太腿でゴロゴロと甘える。
「でも…その前にもう一回……」
もう阿国はメロメロだった。
信玄の股間に潜り込み、亀頭に唇を重ねる。
チュー…と鈴口に強く吸いつき、まだ尿道に残る精を飲み干した。
「く………ほっほっ、真におことはおしゃぶりが好きなんじゃなぁ?」
「うん…。」
「これからも…ずっと儂のをしゃぶってくれるのかね?」
「うんっ♪」
「愛いのぉ。よしよし……では、もう一度可愛がってやるとするかね…?」
ズッシリとした巨体を起き上がらせ、開脚する阿国の股間に潜り込む。
「あん♥……あ、でも次は素顔を見せて可愛がっておくれやす♪」
「い、いかん!!」
「えい。」
阿国は手を伸ばし、信玄の面をベリッと取った。
ほんの悪戯心だったので、それが悪い事だとは微塵も思わなかった。
「ん?」
激しい違和感。
そして面だけを取ったはずなのに、手や腕に絡まる髪の毛の感触。
よく見れば白髪がくっつく様にして、面がかつらとしての機能を果たしている。
阿国は恐る恐る信玄に視線を移した。
「きゃあああぁーーーーっ!!!」
壮 絶 に ハ ゲ て い た 。
こうしてまた、阿国の小さな恋が一つ幕を閉じた。
「……はぁ…」
深いため息を吐きながら、トボトボと甲斐に帰っていく信玄。
あれからのやりとりを思い出し、さらに心を痛める。
「や、やっぱりハゲてちゃいかんかね!?」
「あ…あかんねん!……うち、ハゲと納豆はあかんねん!!」
来るな来るなと阿国は手を振り足で蹴り、信玄を近寄らせない。
年相応なハゲ方ならまだしも、それは気味悪く、奇々怪々なハゲ方だった。
幾筋もの細く切ない髪の集団が右から左、あるいは左から右へと走り、
それがかつらや汗のせいで湿気を帯びてクリクリとうねっている。
「で、でも、色恋沙汰に髪なんか関係ないじゃろ!?」
両手を広げて、なんとか説得しようと近づく信玄と、
「それは…せやけど!!…って……ち、ちゃうて!……あかんて!!」
必死に後ずさって逃れようとする阿国。
だがとうとう角に追い詰められ、逃げ場を失った。
「わ…儂の話を聞いてくれぇ〜……」
信玄の顔が近づけば、当然ながら皮脂で脂ぎった無惨な頭も近づいてくる。
「わ、分かったから近づ…か……うぇっぷ!」
その後、阿国は本当に嘔吐した。
自分の素の頭を見て吐かれた以上、信玄は立ち去るしかなかった。
「…儂もあやつみたいに出家しようかのぅ……ううっ……」
「はぁ〜、えげつな…。」
ポツンと一人、川中島に残された阿国。
衣服を整えトボトボ歩いていると、先程奪った財布の山を発見した。
「あぁん…これがあるやんかぁ♥」
幸村とくのいち、武田軍の武将から盗った財布の中身をまとめる。
「ひい…ふう…みい………ぼちぼちよろしおすかなぁ…。」
なんだかんだで、修繕費用も貯まりに貯まった。
カラスの声で見上げれば、空が真っ赤に染まっている。
長い旅だった。
狼藉者を退治したり、忍者に追われたり。
民衆に加担し、侵攻を阻止したこともあった。
夕暮れを見つめていると、色々な人物が空に浮かんだ。
出雲大社の同僚達、この旅で出会った様々な男達。
そうしている内に生まれた寂しさと切なさ。
「……ぼちぼち帰りまひょか。」
立ちあがって袴についた砂を掃うと、出雲に向けて歩みを始めた。
だが、その胸中には心残りが一つあった。
「慶次様…。」