第一話 京洛の舞
「そうどすなぁ…。こんな事より、ようでけしまへんけど……どうどすぇ?」
全てはこの一言、この一舞から始まった。
つい先程出会った五右衛門はこれでより一層心を奪われ、
それを遠目に見ていた慶次もこの舞い手に胸の内を昂ぶらせた。
「ほな……どっからてったいましょかいなぁ…?」
短かな舞で自心どころか周囲の人まで落ち着かせると、阿国は小走りを始めた。
出雲大社の本殿修繕費用のために諸国を回っているはずの彼女が、
なぜ京の町を、それも喧嘩の仲裁のために走っているのか。
阿国自身がそれに何の疑念も抱いていないのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが。
「確か…前田慶次はんとかゆぅ御方が暴れてはるって聞いたんやけど…。」
阿国が以前聞いた様子では、前田慶次という男は戦国一の傾奇者。
そんな男が京の片田舎で、しかも小物相手に喧嘩などしているはずがない。
「…たぶん偽者はんやね。」
「はぁ?」
「あらいややわぁ。…独り言どす。」
短絡的で自由奔放な阿国の頭脳が導き出した結論にキョトンとする
ゴロツキだったが、そう言う間にも傘で殴られノビてしまった。
そして、二人は向かい合った。
「あんたはんが前田慶次はんどすか? もうあきまへんで、都で暴れ回ったら。
七条越えて、通り道無しや。」
「……いろいろ誤解されてるねぇ。ま、それもいいか……」
こうして何故か戦うこととなった二人。
その結果は――
「なんで…なんで手加減しやったんどす?」
「喧嘩はその内終わるさ。ま、そんなに大袈裟に考えるなよ。」
手合わせして、阿国は悟っていた。
自分の攻撃を軽くかわし、偶然当たったとしてもビクともしない。
これは本物の前田慶次だ、と。
そして今の自分の力では全く敵わない、と。
また、慶次も感じていた。
自分と慶次の力の差を的確に把握し、負けを覚悟していた阿国の素直さを。
そして舞うようにして闘い、ほのかに甘い香りを振り撒く阿国の可憐さを。
慶次は自ら闘いを放棄し、負けを演じた。
「慶次様……」
「じゃあな。俺の相手は、まだまだ向こうにいやがるみてぇだからよ!」
「あっ……お待ちやす…!」
颯爽と松風に乗って次の喧嘩相手へと向かう慶次を、阿国は自然と追っていた。
「おいおい、あんた! 頼むから追ってこないでくれ!!」
阿国を振りきるために慶次はただひたすらに松風を走らせていたが、そのデタラメな
進行と京独特の地形に、とうとう小さな建物に追い詰められてしまった。
「あ、あんた……足速いねぇ…」
「それはそうどす。巫女ですきに。」
意味が分からない。
「…で、どうしたいんだい?」
「もう喧嘩したらあきまへん。大怪我なんかしはったらどないしはるの?」
「分かっちゃねぇなぁ。売られた喧嘩は買い残しちゃあ漢じゃねぇぜ?
ほら、裏から聞こえるだろ? ゴロツキ共の喧騒が。」
「あきまへん。それよりうちと一緒に…」
「やれやれ…口でいっても分からねぇなら………やっぱこっちか?」
「出雲…んんっ!?」
阿国の口が、慶次の口で閉ざされた。
そのまま腰を掴んで強く抱きしめると、さらに唇を貪る。
「…い…いやや!…こっ…こんなん…いややぁっ!!」
阿国は全力で唇を離すと、頭を大きく振りながら後ろにのけ反らせた。
「おっと…逃がさねぇぜ……」
覆い被さる様にして慶次がそれを追う。
「んうっ!!…んーっ!!……んんーっ!!」
ポカポカと慶次の胸やら頭が阿国のか弱い拳で殴られる。
それさえも気にしない慶次は阿国の腰部を撫で回し、さらに腰を引き寄せた。
(な……なんやのこれ……)
阿国の腹部にゴリゴリと擦れる熱く巨大な塊。
(嘘…でっしゃろ……これが慶次はんの……やの?)
そうこうする間にも慶次が舌で阿国の唇をチョンチョンと突っついていた。
最後の抵抗か阿国は固く目と唇を閉ざし、陥落を防いでいる。
「しゃあねぇな…。じゃあこれで…どうだ?」
袴の隙間から阿国の尻が撫で回されてまもなくだった。
「ひゃあっ!!」
たまらず悲鳴を挙げる阿国。
そして慶次はその好機を見逃す事なく、すぐさま阿国の口内に舌を侵入させた。
まるで生気を奪われるかの様にして阿国の体から力が抜けていく。
とうとう観念したのか、阿国の舌も徐々に蠢き始めた。そっと慶次の胸に
手を添えれば、荒荒しく動く慶次の舌を追いかけ絡ませ合う。
慶次が舌を突き出すと、なんらためらい無しにそれを吸った。
たっぷりと阿国と唇を交わし、頃合を見て慶次が手を前に導けば、
それが衣服を脱がすためだと気付いた阿国の手が、自然と移動した。
「よぉし…いい子だ……」
シュルッと腹部の袴の帯を解くと、そこからは驚くほど速く阿国を裸にできた。
そっと横たわらせ、じっくりとその姿を鑑賞する。
「へぇ…巫女衣装の上からじゃあ分からなかったが、案外迫力のある体なんだなぁ…。」
「そんな……言わんといてぇ……」
その腰の細さからは見計れない程に大きく柔らかそうな乳房。
意外とむっちりとしたふとももと、張り出した尻と腰。
そして清純な外見からは想像つかないほどに生え揃った陰毛。
小刻みに震える桜色の乳首が何とも愛らしく、その迫力的な体との
対比が逆に新鮮で、慶次は興奮して本来の趣旨を忘れそうになった。
あくまで慶次は阿国をここで止めるため。
強姦する気はさらさら無かったのである。
「そぉら、今おとなしくしてやるからな……」
上から被さり、白く透き通りそうな首筋に舌を這わせる。
「ぃやっ…!」
そのまま舌を這わせ、みっしりと膨らんだ乳房の谷間へと降りてゆく。
掴むようにして寄せた乳房の谷間でその乳圧を顔全体で楽しみ、
慶次はその頂点で屹立する桜色をコリコリと指でこねくり回した。
「…ああっ……や……やぁ………あんっ……あん……んんっ!…」
「どれ…味は……」
「やんっ!!」
思いきり吸いついてチュポンッ!!と音を立てて離せば、
ビックゥ!と阿国の体が悲鳴と共に跳ね上がった。
「ん〜む、美味い。どれ、こっちは……」
「…………」
やや怯えた目で慶次の口元を見つめる阿国。
あまりの快感が恐ろしく、もしももう片方の乳首が責められれば――
「どうした?」
「…そ……そっち…あかん…て………」
チューーッ!!
「やああぁッ!!」
ギュウッと慶次をきつく抱きしめ、阿国は幾度か小さく震えた。
「おめえさん……胸だけで…かよ……」
真っ赤になった顔を手で覆い、阿国は恥ずかしくて首を横に振った。
「うち…なんでこない感じてんのやろぉ……」
「愛いねぇ…実に愛い。」
無防備な股を大きく左右にこじ開けてその様子を確かめれば、慶次の
思ったとおり――否、予想以上にグッショリと濡れそぼっていた。
「い…いやや……堪忍……そこ堪忍や………」
フルフルと首を横に振り、指の隙間から阿国は必死の懇願をする。
「そうはいかねぇって。おめえさんの腰を溶かしておかなきゃな……っと!」
まずは人差し指が阿国を貫いた。
「んうーッ!!」
秘肉がキュッ、キュッと嬉しそうに指を締めつけ、表情に苦痛は見られない。
「へぇ……巫女なのに純潔じゃないってか…。それっていいのかい?」
「…そ……んうっ!!…そ…んなん……知ら…ん……ひあっ……ああっ…!」
「じゃあ遠慮無く…ってか?」
クチュッ……ニチッ…クチ……クチュッ…グチュッ……ニュチッ………
「…あん!……やんッ!…やっ…あっ!……ひやぁっ………んあぁっ!……」
「どうだ、俺の指は? そこらの野郎のぐらい太いだろ…?」
「うち……そんなん…知らん!…」
阿国が今までどのような男と寝てきたのか。
慶次の頭に疑問が浮かんだが、そんな事を直接聞くのは不粋すぎる。
「……そうかいそうかい、そんなに良いってかぃ?」
慶次は一度小さく笑うと、いま目の前で悦び喘ぐ阿国にのみ集中した。
突き入れた指を膣内で上下左右にこね回し、掻き乱した。
「ぃやああぁぁあぁ…!!」
徐々に荒くなる慶次の指の抜き差しと、徐々に甘くなる阿国の喘ぎ声。
「…すげぇ……」
ニュクニュクと愛らしく指を締めつける絶品の膣圧と、奥から
絶え間無く溢れる出る甘酸っぱい愛液の芳醇な香りと温かさ。
もしも自身の怒張したモノを挿入れば――。
慶次の頭によからぬ妄想が浮かび、駆け巡る。
「…いけねぇ! それだけはいけねぇっ!!」
慶次はブンブンと首を横に振り、本能のままにこの娘を襲う事は断じて
許されないと意志を固め、一刻も早く阿国を果てさせることにした。
「うおッ!?」
慶次の体に電流が走った。
阿国のしなやかな手が伸び、慶次の股間を擦っている。
「慶次はん…のも……おくれやす……」
その潤んだ瞳と狂おしいまでの可憐な声に、
(……ま、入れなきゃいいんだ。入れなきゃ、な。)
慶次の意志が、一部崩れ落ちた。
「よしよし……じゃあ……」
ドスドスと巨体を移動させ、仰向けに寝る阿国の頭周辺に座った。
クイッと顎を摘んで上を向かせば、慶次の欲棒と阿国が向かい合う。
「そら、ご対面だ。」
衣服からボロンと勃起を取り出せば、うっとりとしていた阿国の目が見開いた。
「嘘…でっしゃろ?………こんなん…お口……入らへんわぁ……」
巨大で太い勃起の先端からは透明な液体が溢れ出し、糸を引いていた。
「そら、どうした? くちづけしてくれよ…?」
乳首を素早くコリコリと転がし、愛撫を促す。
「やんっ!……んふぅ……」
阿国はゆっくりとその口を近づけた。
チュッ……
「ぅおっ……」
「うふふ…こんなに滴らせて……やらしいわぁ……」
「人の事言えんのかよ……」
先程まで可愛がっていた箇所に手を伸ばし、垂れ落ちる蜜を指ですくう。
「んぷぅっ!」
先端から溢れる欲望液を裏筋から舌で舐め上げ、鈴口に吸いついた。
そのまま口を広げ、亀頭のみを丸飲みする。
「くおッ!……へ…へぇ…上手いじゃねぇか……誰に教わったんだぃ?」
「……んふふ…………な〜いしょ。」
阿国がどれだけ口を広げても、亀頭から少しまでしか咥える事ができなかった。
しかしそれゆえに阿国は丹念に吸いつき、口内で激しく舌で転がした。
「…うっ………あ…良い…ぜ………くっ…も…う……そろそろ………」
「い…イキはりますのん…?」
チロチロと裏筋の頂点を舌でくすぐりながら、阿国が緊張する。
「ああ……んっ…く!……目ぇ…瞑ってろよ!!………ぅおりゃああっ!!!」
「やあっ!!……あっ…熱っ!……やぁっ!……あっ!!…い…いやぁ………」
まるで雨が降ったかの様に精がほとばしり、阿国の顔と体を白く汚していった。
最後の一滴まで慶次はしごいて搾り出し、乳首に擦りつけた。
「んんっ!……………ベトベト…やわ……もう……」
「ふぅ…。ありがとよ、良かったぜ。」
「次は……うちも………」
ポッと頬を赤らめる阿国に見つめられ、慶次の鼓動が速まる。
「…………おっと、そうはいかねぇ。」
「え…?」
「俺はもう喧嘩に戻るぜ。」
阿国の体に手ぬぐいをかけ、自分も衣服を戻すと慶次は立ちあがった。
「あんさんも分からんお人やなぁ。うちがあかんって………あ…れ……?」
そう言って阿国も立ちあがろうとしたが、体に力が入らない。
「おめえさんはそこで休んでなって。それに…そんな状態で外に出る気かい?」
「あ……」
豊満な胸からは精液が垂れ落ちている。
「じゃあな。……また……会えたらいいな。」
そう言うと慶次は松風と共に走り去っていってしまった。
「慶次…様……」
それから阿国は五右衛門と合流した。
「あっ、阿国さん! ご無事でしたか!?」
「えぇ、平気どす。……もう…終わりましたん?」
「そりゃもう! 慶次なんざこの五右衛門様がぁ、ア、討ちとっ……」
「はっはっは、よく言うぜ。」
そこに松風に乗った慶次が現れた。
「けっ、慶次!!」
「慶次様……」
「ま…勝ち負けなんざ、どうでもいいけどな。」
「うるせー!!…元はと言えばてめぇが………」
激しく五右衛門が非難するが、見つめ合う二人には届かない。
「すんまへんなぁ。」
「…今日の喧嘩は華があって良かった。またやりたい。」
「華やなんて、てえご言わはって…いややわぁ。」
「それじゃあな。」
進みゆく慶次の後姿を見つめ、阿国はうっとりと呟いた。
「…よろしおすなぁ……」
「え?…えぇ?」
そして、一方の慶次だが――。
「くぁーーっ!!…決まった…決まったぜ……」
あまりにも格好良く決まった自分にシビれていた。
「……また…会いてぇもんだ…。」
しかし、気になる事が一つ。阿国の別れ際のあの台詞。
『すんまへんなぁ。』
ニコニコと笑顔で言われ、慶次はその意味が分からなかった。
本来ならば謝るべきは当然自分である。
「なんか気になるなぁ………っと、あれ…?」
ゴソゴソと懐を探るが、財布が無い。
「どっかに落としたか?……ま、構わねぇさ。金は天下の回りものってな!!
がっはっはっは!!」
「あれ、阿国さん…どうしたんですかぃ、この財布。」
マジマジと見つめる五右衛門。
「あぁ…これ?……拾いましてん。せっかくやさかい、修繕にと思て。」
正確に言えば、慶次の胸におとなしく手を添えた時に『拾った』ものだが。
「へぇ……」
「うふふ…毎度おおきに♪」
「はぁ?」
「さてと、うちも行こ。次は…大坂は堺にでも行こかいな。」
「さ…堺ですかい?」
「あらぁ…あかんの?」
「いやぁ……いま堺は荒れてやすぜぇ?……一揆やら、信長の侵略だとかで。」
「一揆…。……お聞きしますけど、一揆ってお金かかります?」
「は、はぁ…。そりゃ…まぁ……」
「ほないきまひょ。」
トコトコと歩みだす阿国。
「ちょっと待った!…阿国さん、あっしも付いていきやすぜ!!」
「五右衛門様も?」
「あぁ。俺様がぁ、阿国さんを、ア、守るぜ〜!!」
「うふふ…おもろいお人。…ほな一緒に行きまひょか?」
二人の旅は、まだ始まったばかりである。