大坂城より程近く、しかし人々で賑わう城下からは隔絶した静謐なる雰囲気を醸す土地に、簡素ながらも小奇麗な家屋が一軒。
その概観からして新しく建てられたものか、或いは近頃手を入れられたかのどちらかであろうが、近隣には他に人家も無く、この寂しげな空気を忌避し訪れる者も滅多にいない土地であるため、そんな事に気付く輩は皆無であった。
その建物に、このところ来客が目立つ。
しばしば訪れる者の一人は勝手知ったる態度で無遠慮へ奥まで進むのが常。
もう一人は、まるで影の如くいつの間にか気配を消していた。
――この日もその客人を迎えた屋敷。まだ高い陽の光を避けるかのよう、奥の一室は全ての襖や障子を締め切っている。
しかし視界はそれで遮られても、音漏れまでは防ぐことなど叶わない。
影たる人物は息を殺しながら襖の外側に座し、熟れきった果実が潰れるような水音や熱呼気混じりの声が中から小さく響いてくるのが鼓膜を 震わせようとも、じっと双眸を閉ざしたまま微動だにもせず、ただじっと主の帰城時刻を待っていた。
「も……っ、むり……」
「何と、この程度で限界とは。戦無き世になってから体が鈍ってしまったようよの。宜しい、わしが直々にお主の鍛錬に付き合ってしんぜよう」
「違、ッ……あ!」
女――ァ千代の涙声混じりに発せられた懇願も虚しく、寧ろそれを契機として行為は激しいものへと変化していく。
先程までは組み敷いたァ千代の両脚を深く折り曲げる事で丸見えになった局部を舐めるように視線を這わせ羞恥を煽りながら、緩急つけて自身を秘部に出し入れしていた。
所作としては単調なものであるが、一体誰に 躾られたものなのか、ァ千代の身体は他の女性に比べても非常に敏感で、加えてあられもない姿を晒す恥ずかしさも相俟って既に限界が近いらしい。
家康はそうと知っていて態と腰の動きを鈍らせ、達すに達せぬ気が狂いそうな状況まで彼女を追い込みながら、結合したままにゆっくりと立ち上がる。
そしてァ千代からも交わりが確りと見えるようにその下半身を高く持ち上げ、彼女の脚を大きく左右に広げて更に卑猥な光景を繰り広げていく。
空気の混ざる粘着質な水音に聴覚を、受け入れがたい敵の怒張が己の中に出入りするばかりか意に反してそれを美味そうに銜え込んで放さない陰部に視覚を、それぞれ犯され続けるァ千代は悔しさと哀しさに歪めた顔を横へ背け、涙を見せまいとしてか両腕で目元を覆った。
「お主には現実を直視する勇気も無いらしい。義などと理想ばかりを追い求めた三成に与した者なれば、それも道理。……立花の誇りとは所詮その程度か、誠に情けない事よ」
「う、るさ……貴様、いつか――……ァ、はあ、ン…!」
関ヶ原敗戦後、大坂城西の丸に詰めた家康によりこの建物に事実上の監禁を受けて以降、幾度となく繰り返される辱めには必死に堪えてきたァ千代ではあるが、同志を、誇りを、貶められる事にだけは今でも慣れない。
挑発であると知りながら噛み付かずにはいられず、それが家康の欲を満たし煽ってしまう。
――今もまた正にそれ 。不意に最奥を突き上げられ、抵抗の言葉は結局嬌声に掻き消えた。
最早帯で頼りなく留められているだけの、乱されきった着物の襟元を頬で摺り寄せ噛み締める。もう二度と、甘い声など出すまいと。
「いつか……どうする、と?わしに溺れてでもくれるのか?」
「もう声も出せぬ程に好いか。しかし下の口は饒舌よの、厭らしい」
「何とも強く締め付けてくるものよ。それ程にわしの子種が欲しいか、そうかそうか」
執拗に投げられる言葉に、ァ千代は答えない。必死に衣を噛み続ける。
一方で家康の突きは次第に荒々しくなっていく。
ゆっくりぎりぎりまで引き抜いたと思えば次の瞬間には子宮口まで一息に貫き、時には浅く出し入れし、既に何度も身を重ね探り当てた敏感な箇所を執拗に先端で擦り上げと、女体に慣れているが故の老獪さでずっと年下の女の身体を手玉に取ったように翻弄する。
その都度、ァ千代 の背は跳ね、顎が天井を指しては直ぐに引かれ、堪らずに喉奥からくぐもった声が洩れた。
「……ン…っ、ん……」
「それは肯定の意らしいな。良かろう、たっぷり注いでやろう」
満足に言葉を発せないのを良い事に、家康は都合の良い解釈を口にし至極愉しげに唇を歪める。
女の痴態に満足してか、皺が寄り年齢を感じさせる眦は下卑た様子で垂れ下がった。
「ゆくぞ」
「んん、ッ……い、やだ……やめ……!」
拒否する権利など与えぬ一方的な宣言を受け、ァ千代は反射的に抵抗を試みる。
ばたつかせた脚は家康の手により彼の腰に力づくで巻きつけられ皮肉にも一層深く繋がる結果となり、伸ばした両手は空を掻くしかできない。
腕を目元から離した事で視界が開けると、ぬちゃぬちゃと淫靡な水音を響かせ交わる結合部、そして男の先走 りと己の愛液が掻き混ぜられ白く濁り泡立ちを見せる体液が秘部からしとどに溢れ股間どころか下腹部にまで垂れ汚れている景色を目の当たりにし、
自らのはしたなさに唖然とした口からは衣がずり落ちて悲鳴にも似た声が悲愴に洩れた。
その後はぽろぽろと目尻から涙が伝い落ち、嗚咽が喉から低く零れるばかり。
極まった羞恥心 によって膣壁は家康の一物を痛い程に締め付け、発したばかりの拒絶の言葉とは裏腹に中での絶頂を促してしまう。
自身の熱が、脈打ちが、取り分け高まった次の瞬間に家康は例の敏感な箇所を擦り上げざまそのまま最奥を突き上げ――ァ千代の体内は大量の白濁で溢れ返った。
「ッ……ァ、あ……!」
刹那、ァ千代も音にすらなりきらぬ声を短く上げ、腰を跳ねさせる。
次いで脚が小刻みに痙攣し、肩で呼吸を繰り返しつつ達した余韻に浸りぐったりとした様子を見せている。
対して家康は、老齢にして数多の若き側室を抱えるだけあってまだまだ余裕が残る。
自身の質感を彼女に味わわせるようゆっくりと引き抜くと、絶頂直後の身体にはそれすらも強い刺激となったらしく、ァ千代が泣き声混じりの喘ぎを洩らし火照り薄く色付く身を捩るのが、また艶めかしく情を煽る。
女体から姿を現した自身はまだ なお硬さを有し、精と蜜とが絡まり淫靡な光を宿している。
その体液を拭い取るために、良く鍛えられ無駄な肉の無いしなやかなァ千代の内腿へ擦り塗り付けてやれば、まるで彼女が失禁でもしたかのようだった。
そんな姿を目にし、彼の欲は更に収まりを忘れる。
女の下半身を荒々しく畳へ放ると、乱暴に彼女の胴へ跨る。
その瞬間、ァ千代は腹部を守るかの如く両手を伸ばしたが、家康はそれを払いのけて其処へ恰幅の良い臀部を乗せ、そそり立つ自身を形良い唇へ押し付けた。
「舐めるのだ」
ァ千代は赤黒い怒張から視線を逸らし、羞恥で頬をより染める。
既に数え切れぬほど犯しているにも関わらず生娘のような恥じらいを見せる彼女に、初な年若い娘好みの家康の血が一層騒ぐ。
「舐めるのだ。聞こえぬか?」
彼女の両頬にそれぞれ手を添えて頭を擡げさせ、閉ざされた唇に自身を強引に捻じ込み喉奥を突いた。
嘔吐の際のような反動で先端が押し戻されるが、構わず繰り返す。女の眸には再度涙が滲み出した。
苦しげながらも抵抗をする気力はあるらしい。歯を立てようとしたので、浮かせた腰を軽く勢いづけて彼女の胴に落とし打ち付けた。
「――ッ!」
豊満な胸が、骨に守られぬ弱点たる腹が、男の体重により圧迫され鈍い衝撃が広がる。
そうするとァ千代は恐怖に顔を引き攣らせ、渋々ながら舌を自身に押し当て始めるのだった。
「……ふ、相変わらず下手よの。お主を女にした男は、こんな程度で満足する程の腑抜けであったのか?もしくは、この稚拙さに嫌気が差してお主を捨てたか?捨てずとも、他の女で鬱憤を晴らしておったかもしれぬな」
家康が初めてァ千代を手篭めにした際、意外にも既にこの身体は男を知っていた。それが非常に口惜しかったのを今でも覚えている。
しかしその者は彼女を只管愛でる事を目的としていたらしく、お蔭でァ千代の身体は愛撫に直ぐ蕩けるくらい敏感にはなっていたものの、奉仕についてはさっぱりだった。
唯一未熟な、己好みに育て 得る点を見つけて、家康は小さな満足に浸る。
意地の悪い言葉に悔しげな双眸を向けてくる彼女の咥内を好き勝手に蹂躙する一方で、心地良い場所に舌を導き刺激するよう促した。
得手不得手の問題であるのか、単に彼女が家康に尽くす意思など無いからか、ちっとも上達が見えぬものの、他の側室達とは異なるたどたどしい舌遣い が男の欲を猛らせるのも事実。
やがて女が銜えきれぬ程に張り詰めた自身は欲望のままに喉を乱暴に突き始め、泣きながら首を左右に振るァ千代に構わず白濁をぶちまけた。
口から萎えた一物を引き抜くと、噎せ返り精を吐き出そうとする彼女の顎に手を添えて、嫌がるのを無理矢理咀嚼させた上で嚥下させる。
「う、え……っ……」
独特の味と臭いに咽ぶ彼女を愉悦の表情で見下ろしながら、唾液と精で濡れた自身をァ千代の頬や髪、首を伝い己が与えた豪奢な着物に擦りつけて汚れを落とすと、家康は漸く腰を上げて襟元を正し袴の紐を結び始める。
ァ千代は緩慢に身を起こし、彼に背を向けながら上体を丸めるようにして蹲っていた。
先程の鈍痛がいまだに響いているのだろうか、両腕はしっかりと身を守るよう腹部に回されている。
「――では、また明日に。わしに臭い女子を抱く趣味は無い、湯浴みを丹念にしておくよう」
何事も無かったかのようなあっさりとした調子で言い放ち、家康は室を出た。
背後ですすり泣く声が聞こえたが、敢えて振り返らず襖を後ろ手に閉めると、半蔵が静かに礼をして従うべく立ち上がった。
関ヶ原後の処理のために現在身を落ち着けている大坂城西の丸に戻る道すがら、家康の頭の中はァ千代で占められていた。
犯すだけでは足りない。心身共に己のものとし、誠に子の一人でも孕ませてやりたい。彼女は絶望するであろうが、寧ろ彼はそれを望んだ。
乱世を耐えに耐える事で切り抜け手に入れた地位も、所詮耐えてこそ 維持し得るものに過ぎない。死ぬまで耐えるしかないのか、と何度苦しんだ事か。
しかし懊悩の日々に、一筋の光が注ぎ込む。ァ千代である。
世間では討ち死にしたと思われているこの女だけは最早己の掌中にあり、耐えずとも失う事はない。故に素のままに接する事ができる。
況してや誇り高き武士にして美女である。凛とした普 段の姿と、犯す度に見せ付けられる卑猥な姿態との差異にも、心を鷲掴みにされる思いがした。
最初こそ憂さ晴らしにとこっそり匿い欲の捌け口にしていた筈が、気付けばすっかり魅せられていた。
ありのままの己でいられるこの屋敷を、彼女と共にある時間を、引いてはァ千代そのものを、いつしか愛してしまっていた。
その事実 に、彼はまだ気付いていない。否、自覚を恐れ知らぬ振りをしているだけかもしれなかった。
――所詮この男も、それまでの人生から他人を信用しきれぬ哀しい性の持ち主である。
他者へ対する不信を揺るがしかねない愛などというものが、己の中に存在する事実を認めたくはない。
けれども心はァ千代を欲して已まない。
彼女を女 にした男を、ァ千代がいまだに心に宿している事が、無性に腹立たしい。
その者――恐らく三成であると家康は踏んでいるが、兎に角奴を彼女の心から消し去ってしまいたかった。
甘く優しい記憶として三成がァ千代の中に息衝いているならば、己は憎しみや残酷さで以て彼女の意識に確りと根付き、美しい想い出など無残な現実で上塗りをしてやろうではないか。
その葛藤の末に辿り着い たのが、ァ千代に無体な真似を強い傷付ける事で己が欲を満たすという結論であった。
しかし行為を終える度、空虚な思いが身を包む。辱めても犯しても、欲は膨らむばかりで満たされる事を知らない。
ァ千代が己を拒絶するのも、泣くのも、全て三成を想っているが故との事実を突き付けられるばかりで、彼女の前では耐える事を忘れた己の中で苛立ちが募る一方である。
だからまた、犯す。嫌がられ、涙を見せられ る。そして憤りが募る。果ての見えぬ繰り返しに、自身とて持て余す感情に絶望しているのは寧ろ家康の方であったかもしれなかった。
「……」
家康の心中を知ってか知らずか、半蔵はただ黙ったままで彼を守りながら後に従う。
耐え忍ぶ事を忘れ始めた家康にとって、この忍の感情の乏しさが羨ましくて仕方がない。
詰まらぬ嫉妬に益々募る苛立ちを押し隠しながら、常の如く温和な面持ちを浮かべて大坂城へ踏み入った。
【完?】