互いの唇の感触と温度を平らに均(なら)すかように触れあっていたのは最初だけ。
軽く唾液が混じり、氏康の刻みの苦味と甲斐姫の甘やかな味がゆうるりと行き来し始めてから、
空虚でさえあった寝所の空気が激変した。
「……っ、んぅ、ふっ…、うぅっ!」
ぴちゃりと一度はねた水音は瞬く間に増幅し、限られた空間を乱反射して淫らに跳ねまわり
淡い桃色の唇を何度も音を立てて吸うだけだった氏康の愛撫が
本格的に甲斐姫の若い肢体を隅々まで貪り尽くさんとする本能が昏(くら)い熱を孕みだす。
「んンっ…! っく、ぅ…」
手始めに甲斐姫の口腔にぬるりと異蝕を帯びて氏康の舌が割り込んできた。
突然思わぬ質量を詰め込まれて息が詰まる。
歯列の隅々、裏も表も自らの味を覚えろとばかりに異なる味の唾液を丹念に塗りこめられて。
呼吸もままならない所為なのか、
頭の中が徐々に流れを失って止まっていくかのようにぼんやりと端から霞んでくる。
けれど。
深く口を吸われて舌で容赦なく中をかき混ぜられる都度、
氏康の頬髭に頬をこすられる都度、背筋が根幹から揺らぐような感触。
両の耳に飛び込む互いの唾液が混ざり合う音、氏康の呼吸、狂ったような自らの心音。
舌をきつく吸い上げられて背を駆け登っていった甘い電気。
そして、氏康の熱く頑丈な腕(かいな)の檻に囲われて、
為すがままに氏康そのものを深く刻み込まれてゆく得も云えぬ高揚と
腰の奥から次々に沸き立つ歓喜だけは、やたらはっきりと甲斐姫の内側を侵食してくる。
これこそが抗う事のできない快楽の奔流であると、甲斐姫はようやく気づき始めた。
「ふ、ぅ……っ、ぁあ……」
執拗に続いた口内への愛撫がようやく終わるのを告げる淫靡に光る唾液の残滓は、
氏康と甲斐姫との舌先を銀糸として繋ぎ、名残も惜しまずにぷつりとはかなく切れ落ちて。
「……おい、へばったか」
「は……っ、ァ、だって、も、ぅ……なにが、なん…だか…」
「つぅかさっさと脱げ、こいつ。邪魔でしょうがねぇ」
こんこん、と甲斐姫の愛用する鎧のくびれた腰の部位を軽く叩いて催促した。
こんなもん着けて来るたぁ、色気もクソもあったもんじゃねぇ…とぶつくさ文句を言いながら、
氏康も自らにまつわる夜着を邪魔そうに脱ぎ放つ。
甲斐姫は氏康に背を向けて鎧の蝶番を外した。
がぱりと金属的な音が剥がれると、中から晒にきつく戒められた白い身体が姿を見せる。
「…っ、きゃっ! ちょ、お、おやかたさ……」
「違うだろ」
甲斐姫がいきなり声をあげたのは、焦れた氏康が背後から甲斐姫の腰を強引に抱き寄せて、
胡坐で座す自分の股ぐらの上に強引に腰を下ろさせ囲ってしまったから。
今は背中も完全に隠すほどにまで至る長く茶色い髪。
その髪の下に隠された白いうなじにわざと卑猥に吸う音を響かせて口付けながら、
空いた両手は甲斐姫を未だ絡めとるままの晒を器用に解いていた。
「あ、ん……っ、う…じ、やすっさまあ、っ…!」
「………なんだ?さっきから感じまくってんじゃねぇか」
氏康のおおきな掌が自分の身体の上を這い回っているという事実だけで
羞恥のあまりに思考が消し飛んでしまいそうなのに。
更に解く晒の上からでも、何度も何度もまさぐる掌を止めようとはしない。
布の戒めがすべて弛むと、むすめらしい美しい曲線を帯びた瑞々しい身体がようやく氏康の前に現れた。
薄暗い寝所の中にあって白い身体はまるで闇夜における蛍のごとく
かすかな燐光を全身に帯びたかのようで、軽く目がくらみそうだった。
既にからだの芯が蕩けかけている甲斐姫の柔肌は桜花のそれに似た艶めく薄い紅にほんのりと染まり、
軽く弛緩した身体はくたりと氏康にしなだれかかって心地よい重さを氏康に託すことで
この腕の中に在る美姫がまぼろしなどではないとようやく確信できる。
氏康が突然、くんと鼻を鳴らす。
枕元にいつのまにか置かれているまったく見覚えのない香炉。
薄くのぼる香りに覚えはないが、すでに何やらの香がたかれているようだ。
「……………うじやすさま?」
「あぁ悪ぃ、何でもねぇ…」
透明な琥珀色は軽くしずくに潤んで淡い暖色のあかりを瞳に浮かべ
普段からは思いも寄らぬしおらしい声音は早く続きをと自ら懇願する甘さを滲ませる。
半ば開いたちいさな口は塞いで欲しいというねがいだと決め付けて、
氏康はふたたび甲斐姫の口を吸い上げながら両の手に乳房を収めた。
「ん、あっ、……はぅ、っんく、ぅ……」
丁度よい抱き心地の健康的な肉付きを愛でるように脇をそろりと撫でてから前に手をまわし、
両方の乳房を下から持ち上げるようにして感触を確かめる。
掌に乗るやわらかい重みや大きさはどちらかというと少々物足りないが、
それで興が殺がれてしまうようなものではない。
肉の厚い大きな手にゆっくりと乳を搾られるように両方の乳房を揉みしだかれて
唇は氏康の舌に翻弄されたまま、声を出すこともかなわず。
指の腹で乳輪をそろりとこすった程度なのに、
白い乳房を彩る薄い桃色の乳首は徐々に勃ちあがり始めている。
「今度はこっちを吸って欲しいみてぇだな、どれ…」
「あ、ぅ……、ん!」
氏康が背後から抱き囲っていた体勢を甲斐姫の身体を反転させて
正面から抱き合う体勢のまま褥へと二人同時に倒れこむようにして重なりあった。
重力に負けることもなく、ハリと椀を逆さにした理想的な形状を保ったままの若々しい乳房に
氏康は満足しきった邪な笑みを浮かべて、まずは左の乳首を口に含んだ。
舌先で転がして更に育ててから、空いた右手は親指と人差し指で右の乳首を弄ぶ。
「ひゃっ!あ・あぁああ、……っっ!!! だ…めぇっ、やあ……ぁん!!!!」
甲斐姫の否定とは裏腹に、甘く淫らな刺激を与えられた乳房は紅潮して悦びをあらわし、
ぴちゃぴちゃと舐めしゃぶられてもなお、更なる刺激を強請って存在を際立たせる乳首。
口に含んだ方は軽く歯を立てて刺激を強めてから、
熱くぬめる舌で乳輪だけでなく乳房全体にも存分に唾液を塗りたくってから
仕上げと云わんばかりに再び乳輪を口に含んで
じゅずずず、と舌で乳首を扱きながらわざと大きな音を立てながら吸い上げた。
「う、あっ!!!! あ……あぁああぁっ!!!!!」
「……で、何が駄目だって?うん?」
「……………っ」
「聞こえねえ」
「………め………、で」
「ん?」
「………や………め、な…い、で……くだ…さ……」
ちゃんと云えるじゃねぇか、と甲斐姫が最後まで言い切る前に
褒美だとばかりに愛らしい口を唇で覆い塞いでから
甲斐姫に残されたわずかばかりの衣を身体から引き剥がしにかかった。
帯を解く氏康の手を止めようとするのか、氏康の手の上に甲斐姫の手がそっと重なってきたが、
それには止めるだけの力など及んでいる筈もなく。
構わずに普段は引っ掛けているだけの小袖も帯も、
甲斐姫が抗ってこないのをいいことに一番大事な部分を隠す下帯も全部剥ぎ取ってしまい。
とうとう一糸も纏わぬ弾けるような乙女の裸体を眼前にすることができた。
ふと枕元の香炉へと視線を移す。
まだ四半刻も経っていない筈なのに、煙はもう尽きてしまっているようだ。
おそらくあの香炉は風魔とか抜かすド阿呆が仕掛けていったのだろう。
こうなる事をある程度予測して。
まず間違いなく生娘であろう甲斐姫の異様な反応を見れば香の効能など聞くに及ばない。
「………やぁ…っ、うじやすさまぁ…、あた、し……」
まだ触れられていない部分を隠そうと甲斐姫が手を伸ばそうとしたのを引き止めて。
「俺以外に『誰も』見ちゃいねぇし、俺も脱げば文句ねぇだろ」
普段の声色とはまったく違う、今宵初めて耳にする声。
熱っぽく掠れ、耳に入る時にはねっとりと耳に腰に、
からだの一番中心に跡と余韻をしつこく残してゆく低い声。
また身体の奥がじぃんと余韻とともに痺れだして、
誰にも触れられていない場所がじっとりと湿りを帯びてくるのを感じる。
「『甲斐』」
その声で名を呼ばれ、あたまの中が白く爆発するような急激な高揚を感じた。
氏康もまた、自らと同じようにすべての衣を肌から離した姿に。
たまらなくなって「うじやすさま…」と独りごちるようにつぶやき、
再び被さってきた氏康の熱気と感触を求めて両の腕を伸ばした。
その手を取って甲斐姫の身体を抱き寄せると、
今度は甲斐姫の方から氏康の唇をぎこちなく吸ってきた。
どうやら口を吸われる感覚が気に入ったようで、
ならば、と氏康は甲斐姫の求めに応じるがままに甘くやわらかい唇を交替で吸い。
その間に隠すためにかろうじて閉じてはいるが、
こちらに抗する力は最早無いであろう甲斐姫の足を外側に開かせ、
また閉じてしまうのを阻むようにすかさず自らの身体を割って入れる。
「あっ…」
「うん?」
「あつい………、氏康さまの…」
既に完全に猛りきっている氏康の男根が甲斐姫の内股に触れたのだ。
頬を真っ赤に染めて、氏康の強い視線から逃れるように目を逸らすと、
その隙に氏康の指が叢を掻き分けて女陰にへと至った。
「…んぁっ!!」
「まぁだ触ってもねぇのに、ココがえれぇコトになってるな」
「え、あ……」
「……ま、これからもっとぐちょぐちょにしてやるんだがな」
「え?」と甲斐姫が聞き返そうとした時には、既に膝を高く乳房に付こうかというほど上げられて、
女陰を完全に氏康の前に晒けだした状態にされてしまっていた。
「ぇえっ?や、ちょっ……、だめっ! お、おやかたさまっ、やぁっ!!!」
「うるせぇ、べらべら喋んな。てめぇは素直に善がってりゃあいい」
「あっ、う、じやっ……!!!! ひぁあああぁっっ!!!!」
熟れた柘榴のような鮮やかな色の秘裂をねっとりと舐め上げる。
氏康の愛撫によって溢れ出たおんなの蜜をわざと舌の上で転がし、
呆然とする甲斐姫にはっきりと見えるように聞こえるように目の前で、
邪な笑みを浮かべてじゅるりと口の中へと導きそのまま飲み込む。
氏康の喉仏が大きく上下に動き、舐め上げた自分の蜜を嚥下したのを目の当たりにさせられて、
あまりの衝撃に泣きそうな顔をしているのにも本人は気づいていない。
それでも氏康が「素直に善がっていろ」と云ったとおり、
女陰を舐め上げられた時に背筋を這い登っていった電気は今までにない甘美な快感を伴っていた。
その証拠にあられもない格好をさせられているにも関わらず、
氏康は特に甲斐姫を無理やり力で押さえつけて、という事は無いのに、
はしたない姿のまま、氏康の愛撫が再開されるのを待ち焦がれている。
そんな甲斐姫の淫らな心情を悟ったかのように、
氏康の熱い吐息が女陰に吹き付けられただけで腰の奥の疼きが止まらなくなってきた。
今度は連続して舌先で秘裂の花弁をくまなく刺激しながら、
ほんの僅かに舌先を膣口にへと至らせ、男根を受け入れるのはここだと示すようにぐるりと舐め上げる。
続けて今度は舌は女陰の上にぽつりとある陰核をこね回しながら
空いた両手は甲斐姫の秘裂を暴き、自らの中指を軽くしゃぶって
膣内にへと慎重に唾液で十分濡らした中指を沈め始めた。
「んぅううっ……!!!!くふ、ぅ うあぁあっ!!!!」
次々に襲ってくる快感の大波に攫われないようにがくがくと大きく身体を震わせながら、
それでも足を閉じてしまわないように褥をきつく握り締めて甲斐姫はひたすらに耐える。
ずぶずぶと押し入ってくる節くれだった中指は第一関節まで埋められ、
ゆっくりと奥まで入れようとしたが、急に膣内の圧迫が強くなったので
無理に挿入はせず、氏康の中指は指の腹でゆっくりと初々しい媚肉を探り始めた。
「んっ……!!! ふ…ッ、んんっ!!」
「痛いか?」
「ちょっ…と、だけ……」
「息、詰めるなよ。それと我慢もするな。」
「はい…、っ、あっ!」
未通独特の縦横無尽に締めつけてくる強烈な圧迫感を以って氏康の中指を拒むようだったが、
一度指を抜きかけてから再び中へと挿入するのを何度か繰り返すうちに
ぬちゅ、ぬちゅと濡れた水音が寝所内に響き渡り、
膣内がだんだん潤ってきたのが溢れて垂れ落ちる蜜からも見て取れるようになった。
その頃には中指を根元まで挿入しても甘い蜜が溢れてきて、氏康の指をぽとぽとと伝い落ちてくる。
頃合を見て、さらに今度はもう一指、薬指を併せて挿入した。
「う、んぅっ……!!! あ、ぁあ……、うじやすさまの、ゆび……」
「まだ痛いか?」
「うぅ…ん、へい…き……」
「そうか」
「え、あっ……!!! あ、あっ!!!! あは、んぅあぁああっっっ!!!!!」
突然、部屋中にぐちゅぐちゅぐちゅと連続した水音が溢れ出して、
遮蔽物という遮蔽物すべてに淫ら過ぎる水音が叩かれて跳ね返り
それらはすべて氏康と甲斐姫の耳にへと戻ってくる。
氏康が挿入した二指が甘い蜜をたっぷり蓄えた甲斐姫の蜜壷を激しくかき回し始めた。
「あ、あ、あぁああっっっ、やぁ、あ・も、だめ……やあぁああぁあっ!!!!」
「イヤじゃねぇだろ? 本当にやめて欲しいのか?うん?」
ほとんど泣き声に近い声で「やっ、あぁあぁぁぁっ…!!!」と長い髪を振り乱して否定したので、
これは続けろという意思表示だと判断した氏康はならば、と
甲斐姫のなかで暴れ狂っているであろう強烈な疼きにとどめを刺してやるべく
先ほどまでよりも更に激しく膣内に挿入した二指を折り曲げてから媚肉の壷をかき乱しながら
左手の親指と人差し指で陰核をきつく摘み上げて追い討ちをかける。
「あ・あっ・や、ぁあっ!!!く、る……!!! なか、からぁ、あ、あ、はんっ、あ、くぅっっ!!!」
寝所に響き渡っていた甲斐姫の愉悦に浸りきった断末魔があえかに響き渡り、
甘い蜜壷を容赦なくかき混ぜ続けていた卑猥すぎる水音がぱったりと止む。
媚肉がきゅうっと指をきつく絞り上げてきたことで確かに伝わってきた、甲斐姫の絶頂。
白くしなやかな肢体をびくんびくんと何度も大きく震わせ、
彼女のなかを大きな快楽の波が脳天にまで突き抜けていっていることを示す。
滑らかな肌のところどころに珠のような汗の粒がいくつも浮かんで見える。
燭台の薄い明かりは汗の粒を浮かべるだけでなく、薄く目尻を伝って落ちるしずくの跡や
初めて受け取る膨大な快楽に染められた透明な琥珀色にも映りこみ
その輝きが何とも云えず艶かしく、氏康を更に深く熱く滾らせた。
散々蜜壷をかき回した右手の掌は甲斐姫の甘い蜜でびしょびしょになり、
膣内から抜き出した二指には白濁した濃厚な蜜がべっとりと絡み付いていて。
その手を放心しきった甲斐姫の前にずいと差し出す。
氏康と自分の蜜でべとべとの氏康の手の間に何度もうつろな視線を渡しているうちに
「舐めろ」と示されているのが解って、甲斐姫はおずおずと氏康の手を取り
中指と薬指をちいさく赤い舌でちろちろと舐め取り始めた。
舌の上に乗った自分の蜜の味は何とも云いがたく妙な味がして。
肌を粟立たせながら飲み込もうとした時に不意に氏康の方へきつく抱き寄せられて。
「おい待て、勝手に飲むな。それは俺ンだ」
「んん、んっ?!」
甲斐姫の舌の上に残っていた濃厚な蜜を攫い取って飲み下してからは、
互いの熱に流されるまま、何度も何度も舌を絡めあう。
氏康が離れようとすれば甲斐姫が先を強請り、甲斐姫が離れようとすれば氏康が追い縋る。
幾度か、それを繰り返して。
ようやく互いの間に距離がうまれると、
氏康は自らの掌に数度唾を吐きつけて自らの男根へにちゃにちゃと塗りつけ始めた。
とうとうその時が訪れるのだが、
蜜壷に指二本埋められただけであれほどまでに乱れたのだ。
指などとは熱も太さも何もかも比べ物にならないあの厳つい男根で奥まで貫かれたら、
自分はいったいどうなってしまうのだろう。
それでも、際限なく沸きあがるのは貫かれる恐怖よりも組み敷かれる期待。
「しがみついてろ」
氏康の掠れた声にしたがって、ぎゅっとしがみつく。
黄金色の髪、顔の傷。低い声。
俺に懐く餓鬼は珍しいな、と忍城での宴席で薄く笑っていたのをなぜか思い出した。
大体は怖がって近寄りもしねぇぞ『かい』と変わらん奴らは。と。
怖いなどと、これっぽっちも思ったことなどない。
それは無論、今でも。
「んんっ………!!!!」
嵩高い亀頭部分が幾分か、媚肉を掻き分けて入ってきた。
引き裂かれそうな痛みが内側から外側へ急速に広がっていく。
無理に貫こうとはせず、氏康は一旦腰を引いてから再び同じくらいまで挿入する。
つぷ、つぷと膣内の蜜を混ぜる音と、二人分の荒い呼吸だけが響き。
四度目にゆっくり突き入れると狭く痛みを伴った部分を通り過ぎたと同時に
甲斐姫の耳の奥でだけ、いきなりブツン!と何かが途切れたような大きな音が響いた。
気がつけば、氏康の男根は甲斐姫の膣内をみっちりと満たし、
液体の感覚だが液体というには余りに重い液体が
氏康の男根と自らの肉襞の僅かな隙間をぬって染み渡るようにして広がっていく。
氏康にはそれが破瓜の証であることは解っていたが、
甲斐姫がそれを理解するには少しだけ時間を要した。
男根の先端が子宮口にまでたどり着いてゆっくりこつんと突き上げた頃。
氏康が肩で大きく息を吐いて、汗で額に貼りついた甲斐姫の前髪を何度もかきあげてやる。
小さな肩を上下させて呼吸しながら、軽くしずくを浮かべる両の琥珀、紅潮した頬。
「……痛くないか?」
「ちょっと、だけ……」
「嘘吐け。本当にちょっとなのか?」
「痛い……っていう、か……、おなか、のなか…重い…」
十分に慣らしたお陰で幾分か思った以上に痛みが和らいでいるのは確かなようで
氏康にしてみればそれはそれでありがたかった。
出来ることならば痛い思いをさせたくはなかったが、
それでも泣き叫ばれるくらいの覚悟は一応していた。
もしかしたらあの『香』も何か働いたのかも知れない
「だったら、動くぞ」
「あ、……はっ、い……!!!」
溜息のようで、それは深い愉悦を纏った甘い吐息。
最奥まで満たしていた熱く硬い男根をゆっくりと引き抜かれ、
再び奥まで突き込まれる時にはエラの部分で媚肉をごり、と強く擦られる感覚に背が震える。
痛みは多少残ってはいるが、痛みよりも奥まで男根を挿入された圧迫感の方が大きい。
入り口と最奥とが共鳴するかのように同時に疼く。
「………えれぇ善さげなツラ、しやがって」
「…ぇ、あんっ…!!!」
はあっ、と艶めいた吐息が漏れる。
ゆったりと深く腰を突きこんで挿入される緩やかな抽挿を延々続けらるうちに慣れてきたのか、
奥まで至る時に苦しそうに呻く事がほとんどなくなり、
その代わりに男根を抜き出す時にも、甘い嬌声があがり、
子宮口をわざと強く突き上げても鼻にかかった艶めいた吐息を吐き出す事が目に見えて増えてきた。
ずちゅ、ずちゅ、と指でかき混ぜられていた時よりも
ずっと質量の大きいものが蜜壷を出入りしているのを示す重い音。
「もう手加減しなくてもいいな?」
「え、あ、それ、は……っ」
既に氏康の男根は限界ぎりぎりまで引きずり出されている。
破瓜の証と白濁した濃厚な愛液の混ざり合った粘着質を
べったりまとった赤黒い男根はてらてらと淫らに光っていて。
「遅ぇんだよ」
再び膣肉を分けて突き上げてくる男根がもたらす衝撃は今までのものとは質が違っていた。
「ひあ!っぁああっっ!!!!! い、あ、あ、きた、く、る…うっっ……!!!!」
甲斐姫の身体がびくんと大きく震え上がる。
深さは変わりなく、ゆっくりとした抽挿が強さと速さを増すと
途端、息も出来ないほど激しい快感に苛まれる。
嵩高のエラはゆっくりとした抽挿の間に甲斐姫のいいところを見つけ出していて、
そこばかりを狙って強く擦りつけてくるから、
あっという間に奥に渦巻いていた疼きは昇華されて数度抽挿しただけで一度目の絶頂を迎えた。
加減もなくただきつく、ぎゅううっと絞り上げてくる甘肉だが、
残念ながら氏康が達するという所までは引き上げてもらえなかったらしい。
氏康は大きく肩でふうと息を吐いてから
互いの内腿のぶつかる音がばちんと響くくらいの激しい抽挿を再開した。
「あっ!ひゃんっ!や、だっ、今…んぅ!キた…あうっ!とこ、なのにィっ……!」
「コイツはな、俺もてめぇも両方善くならねぇとつまんねぇんだよ」
組み敷いた甲斐姫の身体が一際大きく、びくんと震える。
一番いいところを強く突き上げたからだ。
鈍い拍手のように肌のぶつかりあう音と混じって、
ぐぷ、ぐぷと卑猥な水音も相変わらず大きく響いている。
「んっ………ッ!!!あ、はぁ…っ!!! う、ふぅ、っ…んんっ!!!」
咥え込んだ男根が膣内でむくりと一回りくらい大きくなったのが解る。
太い血管の場所も明確に、さらに脈動さえも近くなった気がした。
今は氏康の腕にがっちりと捕らえられて、身動きがままならないが、
子宮で矢継ぎ早に享けて全身にへと広がる快感は止まるところを知らない。
「甲斐」
新しく訪れた快感の頂点が近い。
もうすぐそこにまで二度目が迫っている。
抽挿の勢いは止めぬまま、ぐっと抱きしめられる。
「……待たせたな」
わけも解らずしずくが溢れてきて
先にしずくを吸われてから唇を重ねたので、ほんの少し塩の味のする口吸い。
氏康は甲斐姫の膣内から一気に男根を引き抜くと、
白い腹の上に破瓜の証と濃厚な蜜とに濡れた鈴口から熱い精をどくどくと吐き出した。
*****
気がつくと、すでに外は明るい。
しかし景に色がない。光が合って、あるいは無くて。
明るい・昏いというだけの外。
きっと外は雨に濡れているだろう。そう予測できる。
実は、それが解る理由がある。
「昨晩は随分と熱心にお愉しみだったようだな。珍しい」
煙草盆がいつも置いている場所にない。
そうだ、そこには香炉が置いてあった。
「あぁ、どっかの誰かが念入りに根回ししててくれたみたいだったしな」
香炉を手にとって、持ち主であり声の主である風魔小太郎に返した。
そして引き換えに煙草盆を受け取る。
「我は根回しなどはしておらぬぞ?」
「見え見えだってんだ。わざわざ媚香まで仕掛けやがって」
だからこいつ、あんなおかしかったんだろ。と、
隣りで小さく丸まってくうくう眠る甲斐姫を指して毒づく。
実は一度自ら達した後、お互い雰囲気に流されるまま更に数回睦み合っていた。
「何か誤解をしているらしいが、この香は『麝香』が主成分でな。
おなごよりはおのこに強く作用するよう調合したのだが?」
「………………諮られたのは俺ってコトか」
「ククク…。たまにはよかろう。『愛子(いと)さま』も本懐を遂げられたのであるからな」
「良いワケねぇだろ、このド阿呆」
「まぁそうがなりたてるな。そぅら、『愛子さま』が目を覚ましてしまうぞ…」
そう云って、小太郎はゆるく風の中に溶けていった。
「……………ん」
布団に包まる茶色い頭がもぞりと動く。
『愛子さま』が目覚められたようだ。
「起きたか」
「………『おあかたさま』?」
多少寝ぼけたまなこと懐かしい響きに氏康は思わず笑む。
「俺が忍城発った時のこと、覚えてねぇだろうなぁ…」
「………あんまり」
「あの後、おめぇを何とかかんとか寝かしつけて氏長に押しつけてから
丁度二刻くらい後からいきなり雨に降られてな。
結局小田原戻ってくるまで、ずーっと雨が止まなくてエライ目に遭ったんだ」
後から聞いた話だと、丁度氏康が忍城を発って二刻ほど後に『かい』は目覚め
氏康の去った後の忍城を氏康を探して大泣きする日が1週間ほど続いたという。
「それを聞いた氏政がな。
『忍城の姫を泣かせると、利根川も泣いて関東は雨になる』つったんだ」
昨日も氏康がさんざん『愛子さま』を泣かせたから。
だから、今日は利根川が泣いている。
(了)