月明かりと蝋燭の明かりが頼りなく揺れている。
婚礼を祝う大人達の宴はまだ続いているらしく、
時折小波のようにどっと笑い声が起こっては引いていく。
そんな中、ァ千代は正面にきちんと正座した少年を見上げた。
お互い、身に纏っているのは真っ白なおろしたての夜着一枚。
いつも会う度剣術だの戦だのと色気のない話ばかりしていた幼馴染みのそんな姿を見るのは初めてで
――同時に、自分のそんな姿を見せるのも初めてで。
何だかその状況がやたらと不思議に思えて、ついまじまじと少年を見つめてしまう。
この距離感は、知り合って間もない頃から身についてしまった癖のようなものだった。
初めて出会った時からこんな風に彼をじっと見ていることが多い気がする。
その大半は何か理由があるわけではなく、
単にその端正な顔立ちを眺めているだけで何となく落ち着くという、ただそれだけの事だったのだけれど。
今宵ばかりは、少し事情が違った。
何せこの夜を境に二人の関係は単なる幼馴染みから夫婦へと変化する。
自分がどうなるのかも分からないし、勿論夫となって彼がどう変わるのかも分からない。
だからせめて、単なる幼馴染みでいられるこの瞬間の少年を目に焼き付けておこうと思ったのだった。
そんな自分の眼差しを真正面から受け止めて、少年はやや困惑気味に口を開いた。
「……なあ、ァ千代」
「何だ、宗茂」
既に元服を迎えて少年の名は変わっている。
口慣れないその名を呼ぶと、緊張を帯びていた宗茂の目元が緩んだ。
「そのようにじっと睨まれると、何故か俺が悪いことをしているように思えてくるのだが。
嫌なら、そう言ってくれ」
今ならまだ引き返せる、と言っているのだろうか。
それが宗茂の優しさだということはァ千代にもよく分かった。
何故か他者に対しては出来すぎるくらいに気配りの出来る宗茂は、
どうしたことかァ千代が相手になると途端に気が利かなくなる。
或いは、そういう風に装っているのかも知れないが。
ともかくも、恐らくは自分がこの婚儀に承伏していないのではと
気を遣ってくれているのだということくらいは察していた。
「別に」
ほんの少しだけ、躊躇う。
それを言えば引き返せなくなるであろうことは明白だ。
だが、今更引き返せない。
勿論引き返す気もない。
だから、ァ千代は出来る限り淡々と聞こえるように続けた。
「嫌ではない」
宗茂の眉が意外そうにぴくりと跳ねた。
それだけでも言った甲斐があると満足したが、そんな内面は押し殺して彼女は言う。
「嫌なら、もっと前に父上に言っている」
「まあ、それはそうだが」
年老いてから成した自分を父が溺愛しているという自覚はあった。
彼の後を継ぐ後継者としてァ千代を厳しく、しかし愛情豊かに育ててくれたのだから。
けれどこの婚儀に際しては、珍しく彼は彼女の頭を撫でてこう言ったのだ。
――今までそなたを立花の主として、男に負けぬように育ててきたが。
父の目が今までになく優しい眼差しを浮かべていたのを思い出す。
――そなたも婚儀を終えれば宗茂の妻じゃ。普通のおなごに戻りたいなら、戻るがよい。
それは、今まで男と同様に育てられた人生を捨てろと言うことなのだろうかという反発が先に浮かび、
次に父はこの縁組みを撤回するつもりはないのだという事を覚る。
父は彼女に二つの道を示した。
ただのおなごとしての生を全うするか、それとも立花の誇りを胸に武人として生きるか。
ただし、それはどちらも宗茂の妻としての道の上にある選択肢だ。
彼女が駄々をこねたところで、遠からず彼女は宗茂を夫として迎えなければならないのだろう。
多少は、引き延ばすことくらいはできるのかもしれないけれど。
せめて妻となってからは普通のおなごに戻ってもよい
――それが父なりの愛情だということは理解しているが、承伏できずに彼女は緩く首を振って答えたものだった。
――いいえ、父上。私は宗茂の妻となろうとも、立花の誇りを忘れません。
今更生き方を変えてなるものか、という子供らしい意地がそこにはあった。
同時に、宗茂と二人で立花家を支えていくのだという決意もあった。
だから、父は笑って彼女の頭を撫でるだけで何も言わなかった。
父との会話を思いだしつつなおも彼女がじっと宗茂の顔を見つめていると、
彼は苦笑して愚問の非礼を詫びるように言った。
「お前の事だから、自分が当主では不満なのかと怒り出すかと思っていた」
「何を言っている?お前が婿に来たからといって、私が当主でなくなるわけではない。
それに、他の有象無象を連れてこられるより気心の知れたお前が夫になった方が私も楽だと思っただけだ」
確かに宗茂を婿に迎えることによって、家督は自然と彼が継ぐことになる。
それでも、立花道雪の実子として真実立花の誇りを継いでいるのは自分だという自負があった。
彼を婿がねにと父が定めた時から、随分父は彼にいわば立花流の教育をそれとなく施してきたようだが、
彼女から見れば所詮付け焼き刃に過ぎない。
立花家の先輩として、これからどんどん彼にその誇りを教え込んでいかなければならない、と妙にァ千代は意気込んでいた。
何も知らない輩を婿として連れてこられるよりは、この麗姿な幼馴染みの方が遥かにやりがいもあるというものだ。
そうしたァ千代の胸中を推し量れたかどうかは分からないが、宗茂は少し笑ったようだった。
「……なるほどな」
つと彼の手が伸びて、ァ千代の髪に触れた。
細くしなやかな髪に指が絡み、その感触にぞくりと肩が震える。
父が褒めてくれる時にされるそれとは明らかに違う感触がァ千代を戸惑わせた。
その困惑は顔にも表れていたのだろう。
今度こそはっきりと、宗茂が笑った。
「どうした、怖いか?」
「べ、別に怖くなどない」
嘘に決まっている。つまらない意地だというのはァ千代本人が一番理解していた。
けれど、そうかと問われればそうでないと答えてしまうのが彼女の性分であって、
この期に及んでも弱みは見せたくないという矜恃だけは保っている己を子供っぽいと恥じつつも
彼女は今一度宗茂をはっきりと見上げた。
目の前にいるのは、いつもと変わらない幼馴染み――その筈なのに、なぜだか気後れしてしまう。
穏やかな眼差しにちらつく光が酷く剣呑で、つい目を逸らしてしまいたい衝動をぐっと堪える。
そうして髪を撫でられながらのにらみ合いはどれほど続いたのか。
宗茂の顔が急に近づいてきて、耳朶すれすれで彼は小さく囁いた。
「では抱くぞ、ァ千代」
――それは散らされる花の本能故か。
声変わりを果たした、少し掠れた大人の声でそう告げられると男勝りのァ千代であっても
つい抗い、逃げ出したくなる。
待ってと叫ぶより早くとさりと褥に横たえられ、今度は真下から見上げる形で宗茂を見るとよほど不安そうな顔をしていたらしい。
記憶の中よりずっと大きな手が頬を優しく包むと、まずはその頬に短く口づけが落ちた。
反射的に目を閉じて、その生暖かい感触に眉を寄せる。
気色が悪いと抗議混じりに開けた視界には、思った以上に近くまで迫った端正な顔があった。
吐息がはっきりと感じられるほどに近いと思ったときには、既に唇と唇が触れている。
「ん……」
最初は、触れるだけの接吻。
まるで小鳥がついばむように何度も繰り返す内に、知らず息が上がっていく。
呼吸だけではなく、胸全体がこみ上げてくる何かに圧されて苦しくて、
喘ぐように唇を開くとぬるりと何かが口腔へ滑り込んできた。
「ん……んんっ、ん……むぅ」
柔らかくやはり生暖かいそれに歯列をなぞられ、己が舌を絡め取られて初めてそれが、宗茂の舌だと知覚する。
例え口とはいえ己の内側に彼がいるのだと知ると、
猛烈に恥ずかしくなってァ千代は宗茂の夜着を力一杯握りしめた。
だがそれ以上は抵抗することもなく、目をぎゅっと閉じて為されるがまま身を委ねている。
「ふぁ……ん……ぅ」
顎の裏側を舌がなぞり上げると、知らず背筋が震えた。
気色悪いけれど、それよりも何故か心地よさが先立つ。
自分だけではなく宗茂の息も上がっているのだと知ると、不思議と気分が高揚した。
そろりと舌を伸ばして、自ら宗茂のそれに絡めていく。
一瞬宗茂は驚いたように動きを止めたが、それも本当にごく一瞬の事で
重ねた唇から濡れた音が零れるまでにそう時間はかからなかった。
夜着を握りしめたァ千代の手はいつしか甘やかに解け、
その手をぐいと引っ張って己の首に回すと宗茂は更に深く口づける。
「は……ふ……」
ようやく長い接吻が終わると、ぼうっとした心地のままゆっくりァ千代は目を開いた。
普段滅多に涼しげな表情を崩さない宗茂が、僅かに息を荒げて熱っぽく自分を見下ろしている。
自分が翻弄されてばかりだが多分宗茂にもそれほど余裕がないのだろうと覚って、
何かァ千代は照れ隠し半分に憎まれ口を叩こうとした。
けれど、その唇も再び深い口づけに塞がれる。
「ん……ふ、あっ」
やがてその唇が顎をなぞり、首筋へと滑った。
そつなく伸びた手が夜着の前をはだけると、まだふくらみかけの乳房がふるりと震えて露わになる。
「や……」
「や、ではないだろう?」
反射的に隠そうとする手はあっさりと押さえ込まれてしまった。
日に日に少しずつ大きくなっていく胸をもののふたるには不要とさえ思っていたァ千代にとって、
それをまじまじと見られるのは消え入りそうなほど恥ずかしいことだった。
白い肌を羞恥に赤く染めて恥じらう彼女にいたずら心を起こして、
宗茂は口づけていた首筋を強く吸い上げる。
「やっ……あぅ……」
ぴり、と痛いようなかゆいような感覚に身を捩るその首筋に、
まるで己が所有権を誇るが如く赤い花が咲いていた。
何を為されたかよく分からずに、困惑と不安の表情を浮かべるァ千代に詫びるように再び口づけを落として、
宗茂の手が柔らかな乳房に伸びる。
「っは……あっ、つ……」
傍目には小綺麗な若様の手に見えても、宗茂の手はやはり武士のそれだ。
ごつごつとした掌に敏感な先端が触れると、痛みと同時に脚の間がじんと疼くような快感が走る。
「んん……ん、く……ぅ……ぅあっ」
持て余し気味の感覚にァ千代が耐えていると、今度は反対側の先端に宗茂がかぶりついた。
ちゅうちゅうとまるで幼子がするように先端を吸い上げ、
舌先で嬲るごとに一層鋭い快感がァ千代の身体を震わせる。
「や……っ、あ、あぅ」
「……つらいか、ァ千代」
胸元に顔を埋めていた宗茂が、顔を上げた。
傍目にはいつもと変わらない――けれど、この上なく熱の籠もった眼差しを受け止めて、
ァ千代は緩く首を横に振る。
大丈夫だから続けろと声に出して言いたいが、
生憎と言葉は乱れた吐息にかき消されて何一つとして音にならない。
気持ちに身体が追いついていかない、そんな感覚にもどかしさを感じながらも、
言葉の代わりにァ千代は宗茂の頭に手を伸ばした。
さらさらとした少し長い髪を撫でて、それからこくんと頷く。
「……そうか」
もしかしたら宗茂も拒絶されることを恐れているのかも知れない。
安堵の表情で微笑んだかと思うと、彼は己の夜着も脱ぎ捨てた。
幼い頃は共に水浴びをしたことすらある少年は、今やすっかり自分とは違う体つきになっている。
それを目の当たりにしてァ千代はまた少しだけ怯んだが、こみ上げる不安や恐怖は目をつぶって堪えた。
そうしている内に宗茂の手は脚を割りその間へと滑り込んでいる。
腿の内側を撫でられるとぶるりとァ千代の身体が震えた。
そのまま手は、彼女ですら触ったことのない場所に触れる。
「ひゃ……っ」
「力を抜け。まだ痛くないから……」
「ん……んんっ……」
そこが微かに濡れているのは最前からァ千代も自覚していた。
気持ちいいとそこが濡れるのだというのも、知っている。
だから初めてだというのにそこを濡らしている自分をはしたないと思った。
微かに聞こえる水音から逃げるように身を捩らせる彼女を半身で押さえつけ、
宗茂の指は潜るべき場所を探すように緩く入り口の辺りを行き来している。
「あ……はッ……」
くちゅくちゅといやらしい音を立てて彷徨っていた指が、僅かに彼女の中に沈んだ。
つい力の入りそうになる下肢をどうにか脱力させようと藻掻く彼女の顎先に口づけて、
宗茂はゆっくりとその指を中へと沈めていく。
「ん……んく……ぅっ、ぅあっ」
やがて硬質な指が一本、すっかり彼女の中へと埋まりきるとすっかりァ千代の息は上がりきっていた。
初めて己の中に迎え入れる異物は痛いというよりは気味が悪い。
それでも浮かぶ涙は我慢して、ァ千代は宗茂の方を見た。
既に頭の中は混乱しきりで、何を言ったらいいのかも分からない。
ただひたむきに宗茂を見つめていると、彼は無言で口づけてきた。
「んぅ……」
「っふ……すごいな、お前の中。ぬるぬるしてて、熱くて」
「そ、な……こと、ききたくな……っあんっ!」
ようやく形になって滑り出した言葉も、一気に引き抜かれた指の感触に途切れてしまう。
彼女が怒るより早く、再び指が中に沈むとまた言うべき言葉が空しく解ける。
代わりに口をついてでるのはぎこちない嬌声だった。
「や……は……っ、あ、あぅ……んっ」
最初は微かに痛みのあった指の動きも次第になめらかになり、
いつしか二本に増えた指もすんなりと胎内へ沈む。
びくびくと震える腰が僅かに浮いて、
知らず指の動きを助けていることにすら気付かず艶めいた声を上げるァ千代に、嫌が応にも宗茂も昂ぶらされる。
「あ、あっ、や……あ、ああっ」
指の動きは止めないまま、すっかり尖って色づいた胸の先端へ再びかぶりつくとァ千代の声が一際高くなった。
軽く先端に歯を立てると、指に纏わり付く内壁がきゅっと締まる。
顔を覗かせた肉芽をこすり上げると、それだけでァ千代の腰が震えて浮つく。
普段凜とした立ち振る舞いを崩さず、
男勝りで決して弱音を吐かない幼馴染みの少女が自分の思うがまま高く啼いているその様は、
宗茂にともすればァ千代を壊してしまいという衝動すら抱かせた。
つい乱暴になりそうな手を止め、引き抜くと指はぐっしょりと濡れている。
「こんなに、濡れるものなんだな」
「い……言うな、ばかっ……!」
己のはしたなさを指摘されたようで、真っ赤になってァ千代は視線を逸らす。
だがそれも束の間、またたっぷりと唇を塞がれてあっという間に思考が浚われる。
「ん……んんっ……!」
とろりととろけるような思考の中、己が脚の間に知覚した感触にァ千代の身体が強張った。
熱くて、堅い何かが触れている。
それが何かなど、今更考えるまでもない。
「あ……」
何をするのかなど、野暮なことは宗茂も口にはしなかった。
ただ、その熱いものが自分の中に沈むとさすがにァ千代の顔に苦痛の色が浮かぶ。
「あ……くっ……ぅ、うぁぁっ」
「く……せま……い、な」
少しずつ押し開くようにして、宗茂のそれがァ千代の中へと沈んでいく。
それは指の比にはならなかったけれど、ァ千代は声を押し殺して耐えた。
やがて一際狭いその場所が鈍い痛みと共にこじ開けられて、ずるりと彼女の奥までそれが沈み込む。
どちらも短く息を繰り返し、繋がったまま己を宥めながら相手を見た。
強烈な快感に、それでも出来るだけ常と変わらぬ表情を浮かべようと柔らかに笑う宗茂と目が合って、
ァ千代の胸に訳も分からず強い感情がこみ上げてくる。
今、確かに目の前にいる少年と自分が一つになっている。
確かに痛くはあるけれど、それ以上に胸を満たすそれは嬉しさであり、慕わしさであり、恋しさであり
――それらの感情が全てない交ぜになったもので。
その感情の例えようが分からなくて、どう表現したらいいのかもわからず気がつくとァ千代は泣いていた。
「痛いのか、ァ千代?」
「ち……ちが……っ、そ……じゃなくて……」
自分を高く啼かせた指が優しく涙を拭うと、ァ千代はふるふると首を振った。
このままでは宗茂が行いを止めてしまうのではないかと俄に不安になって、涙を拭う指に己の指を絡める。
「痛いとか、そんなのではなくて……ただ……よく、わからない。
嬉しくて、怖くて、切なくて……でもやっぱり嬉しくて……だから、嫌じゃない。嫌じゃないから」
とりとめもない言葉は涙と同じく生まれてはこぼれ落ちる。
涙声で嫌じゃないと繰り返しながら、ァ千代は自ら宗茂へと唇を寄せていった。
「だから、続けて……?」
深く絡める口づけまでは差し出す勇気がなくて、接吻は軽く触れるだけ。
それでも、宗茂の躊躇いを払拭するには十分で。
彼は改めて自分から深く口づけると、ぐいと腰を引いた。
「はぅ……っく……」
押し開かれたばかりの胎内は、まだ快楽よりも痛みが先立つ。
内壁をこすられる痛みと、その奥にある未知の快感にァ千代が小さく喘いだ。
「あぅ……っ、ん、んっ、んぅっ」
幾度か探るように彼女の中を行き来していたそれが、不意にざらりとその天井をこすり上げた。
それまで苦痛混じりだった嬌声が、初めて艶めいた色一色に染め上げられる。
きゅぅっと締まる胎内に其処が弱点だと知った宗茂が、
更にその場所を狙って腰を押し出すと、ァ千代は更に声高く啼いた。
「あ、あっ……あ、や……ああぁぁんっ」
まるで自分とは思えない甘い声が、ひどく恥ずかしいものに聞こえる。
咄嗟に口を塞ごうと伸ばした手は、敢えなく宗茂に押さえ込まれてしまった。
しっかりと手を繋ぎ、指を絡めて更に深く繋がろうとどちらからともなく顔を寄せる。
「は……っ、く……ぎん、ちよ……っ!」
「む……ねしげ、や……も……だめっ……!」
自然と零れる嬌声も、繋がった場所から聞こえる水音も最早恥ずかしいと思う余裕すらなくなって、
譫言のように互いの名を繰り返し呼びながら口づけを繰り返す。
そうして熱を帯びた思考が焼き切れるようにしてふつりと途切れたかと思うと。
「く……っ!」
胎内で、宗茂のそれが爆ぜた。
どくん、と己の中でふくれあがったそれが脈打ったと知覚したと同時に、
胎内に熱いものがぶちまけられる。
「ひぁ……ああぁっ……ん……」
一度ならず吐き出されたその熱さ、そして引き抜かれる最後の余韻に、ァ千代も軽く達していた。
恍惚にうっとりと細めた目の端を、涙の最後のひとしずくがこぼれ落ちていく。
その跡に短く口づけて、宗茂は乱れた呼吸を整えるように深く息を吐きだした。
まだぐったりと褥に身体を横たえたまま、ァ千代も同じように息を吐く。
そして、満足そうに口の端を笑み歪めた。
「……ァ千代?」
「ふふ……初夜とは、随分痛むものだと聞いていたが」
身体の芯が今になって少し痛み始めていたが、同時に心地よい倦怠感があった。
その心地よさに身を委ねるようにしてごろりと転がり、宗茂を見上げる。
「これなら、まだ父上の稽古の方が痛いな」
あれほど恥ずかしくて、痛かったというのに不思議と心は満たされていた。
満足げな顔で笑う彼女につられるように、宗茂も柔らかな笑みを浮かべる。
「そうか……なんだか、お前らしいな」
「これしきの事で、私が変わると思ったか?」
「変わるさ、何かはな。でも……変わらないものもある。それでいい」
「……うん。そうだな」
再び夜着を纏って、並んでごろりと横になる。
ごく近くに互いの顔を見て、どちらからともなくまた少し笑って。
やがて揺らめく蝋燭の明かりが消えて、
小さな寝息が二つ、ひっそりと静まりかえった部屋に零れて落ちた。
若き当主の婚儀を祝う宴は終わりを知らず、まだ遠く小波のように笑い声が巻き起こっては引いていく。
その喧噪を余所に今日誕生したばかりの新米夫婦は、
この上なく安らかで幸せそうな寝顔を浮かべて寄り添い合うようにして眠っていた。