空気をつんざく発砲音と硝煙の匂い。それを掻き消す程の様々な叫び声と、鉄
の匂い。
天正十九年、会津の雪は血に染まっていた。
豊臣の天下が成ってからまだ日は浅く、民衆の一揆など、まだ異常という感覚
もない。ただこの一揆が一筋縄でいかなかったのは、伊達政宗が一揆衆を扇動
していたからだ。
「……」
全身に走る痛み、敗北の屈辱、殺される事への恐怖。それらが入り交じり、東
国一の美姫と称される甲斐姫はぶざまに地にへばり付いていた。
甲斐姫の上には、死んだ兵士が覆いかぶさっている。その死体から流れつづけ
る血が五体にかかり、いっそう恐怖を煽った。
−ざくっ…ざくっ−
雪を荒々しく踏み締める音が近づいている。甲斐姫は必死の思いで息を止めた。
「もう帰ったんじゃねぇか?」
「ならば伊達は了いじゃ!あの女は儂の顔を知り、今は豊臣に組しておる!」
「帰って秀吉に報告されたら、こないだの仕置きの比じゃねぇと…」
「御家取り潰しも有り得る!奥州は儂に任せぬ方が豊臣としても楽じゃろうしな」
あの男だ。伊達政宗と雑賀孫市。孫市は見逃してくれるかも知れないが、あの
独眼竜に見つかれば…
その先は未知だ。未知だが、生半可な苦痛では済まないであろうことは分かる。
「孫市はここいらを調べよ!儂はもう少し先を行く」
「…あいよ」
助かった。その瞬間僅かな安堵で力が抜けたのか、死体がべしゃりと大きな音
を立てて甲斐姫から落ちた。
「あっ…!」
思わず声をあげ、目を開いた甲斐姫が見たのは、振り向きながら不敵に笑う竜
の姿だった。
「ぅ…うぅ…?」
柔らかい。意識が戻ったとき、甲斐姫は何か暖かで柔らかいものに包まれてい
た。真っ暗闇だが心地良い環境だ。
此処が何処で、今が何時なのかも分からない。明かりもない暗闇の中で甲斐姫
は思案した。浪切はあるはずもない。果たして徒手空拳で抜け出せるか…
絶望的だった。恐らく伊達の兵はいつでも動ける。何より認めたくないが
伊達政宗は自分よりも強い。
「どうなっちゃうってのよ…」
考えは次第に悪い未来を描きだし、涙が零れそうになる。
しばらくすると、襖を勢いよく開け、眩しいばかりの光が此処を照らした。
暗闇に光を差し込ませたのは、皮肉にも伊達籐十郎政宗であった。
「起きたか?」
逆光と明かりに慣れない眼でろくに見えないが、この声は確かに政宗のものだ。
「…アンタ、どうする気なのよ?」
段々と光に慣れてきた眼が、浴衣姿の政宗の手に何か握られているのを確認し
た。それ自体キラキラと光っている。『びいどろ』の容器のようだ。
「貴様が秀吉に何か告げると不味いのでな…」
近づいてきた政宗は甲斐姫の足元で立ち止まった。
「ふん!アンタが一揆なんて起こさなきゃ良かっただけじゃない!!」
「その物言いも気に食わぬ。故に今宵、儂は貴様を狂わせてくれるわ、馬鹿め!」
政宗はあきらかに高ぶった声で一息に言い切ると、甲斐姫に乗っていた柔らか
な物を剥ぎ取った。どうやら布団だったようだ。
「キャアっ!…てか寒っ!!」
厚手のかけ布団の下の甲斐姫は政宗と同じく薄手の浴衣であったが、北国の気
候に慣れていない差であろうか。
そして今の今まで気がつかなかったが、甲斐姫は手足を縛られていた。緊張と
全身の痛みで気づかなかったのかも知れない。
「馬鹿め!この期に及んでも騒ぐか」
「ふ…ふ〜ん、こんな無理矢理でしか女抱けないんの?か〜わ〜い〜そ…」
「まだ自分の立場を分かっておらぬようじゃな」
−ぺたり…−
甲斐姫のこめかみに冷たい何かが当たる。銃口だ。政宗は極めて冷淡な眼で殺
傷器具を甲斐姫の頭に突き付けた。
「えっ…?」
「貴様もこれに撃ち抜かれ死んだ者を見ていよう」
甲斐姫は目の前で四肢が弾け飛んだ侍女をついさっき見た事を思い出した。他
にもほんの少し前まで話していた兵士もたくさん撃ち殺された。
「奥州の禽獣は獰猛じゃ。脚を撃ち抜き野に捨てたならば、生きたまま食いち
ぎられよう。あるいは…」
もしも政宗が本気で撃つなら、自分は此処で無惨に脳奬を散らして終わるのか…
度重なる恐怖と疲労が、甲斐姫の精神を追い詰めた。
「死にたくなくば啣えよ」
甲斐姫の心を見事に衰弱させた政宗は、帯を払い落とし、屹立したそれを晒す。
「貴様は下らぬ意地を通して狼に食われるのを望むか?」
櫛をかけ、綺麗に下ろされた甲斐姫の髪をぐいと掴み、自身の腰に甲斐姫の頭
を押し付けた。
突き付けられた銃口と一物。
余裕をなくした甲斐姫の精神は、気丈な性を裏切ろうとした。
悔しさから眦を濡らしながら甲斐姫がかわいらしい口を開く。そして熱を持っ
た一物の頭に柔らかな唇を押し当てた。
「それで良い」
一線を越えたらしく、甲斐姫はたどたどしいながらもしっかりと口に含んだ。
助かりたい一心か、自己犠牲的な本性があるのか、愉しんでいるのか、はたま
た政宗が憎いのか。その心中は分からないが、口で奉仕しながら潤んだ瞳で見
つめてくるのは、政宗を喜ばせた。
「ふぐりも使え」
政宗の言葉に甲斐姫は嫌悪を抱いたが、逆らう事も出来なかった。竿から口を
離すと、筋を舐めながら根本にぶら下がる袋を優しく口に入れる。機嫌を損ね
ぬように細心の注意を払いながら、唇の力を変化させる。端正な顔を歪めてま
で必死に奉仕させていることに満足した政宗、は次の段階に入ろうと甲斐姫の頭
を掴んでふぐりから引きはがした。
再び竿をしゃぶらせるが、先ほどと打って変わって甲斐姫の意思を一切無視し
て、政宗が欲望のままに上下させた。
「っうぐぅ…!ふぅッ!」
喉の奥にまでぶつかる激しい動きは、甲斐姫の呼吸の妨げになる。
「っ…。貴重な種じゃ、一滴たりとも無駄にするでないぞ!」
がっちりと頭を固定させると、政宗は遠慮なく甲斐姫の口の中へ精を吐き出し
た。
「飲め」
政宗に逆らう事は敵わない甲斐姫は、吐き出された大量の精液を飲み下した。
まとわりつくそれが、消化器を通過する度に自分は汚されたという意識が甲斐
姫を襲う。
「飲んだか。ならばこれで口を濯げ」
差し出したのは『びいどろ』に入った液。半ば無理矢理口に捩込まれると、甘
い液体が口を洗った。
「南蛮より渡りし媚薬よ。貴様もじきによがり狂う」
「そんな…!やだぁ…」
「っハハ!もう遅いわ馬鹿め!それに案ずる事はない。すぐに何も考えられんよ
うにしてやる!!」
甲斐姫の帯を解くと、政宗は着物の襟を思いきりはだけさせた。
柔らかみのある線で出来た甲斐姫の体は、政宗を待つしかなかった。政宗は左
手で力強く胸を掴む。
熱かった。掴まれた乳房から背を駆け抜け、脳に達する甘い熱。薬のせいだ。
甲斐姫は唇を噛んで自らに言い聞かせた。
「もう女陰も濡れておるか」
「そっ、それはアンタが薬を…!!」
「ほう?ならば薬であれなんであれ、感じておるのじゃな?」
言い返せなかった。この間にも動く政宗の手に胸から快感が押し寄せ、意識は
いつ飛んでもおかしくない。
「構わぬ。達すればよい!」
政宗の右手が秘所に侵入すると、甲斐姫は抗いようもなく絶頂に昇り詰めた。
笑われている。意識が朦朧として、はっきりとは分からない。ただ悔しかった。
甲斐姫の手足を縛っていた縄を政宗が解いた。だが甲斐姫は絶頂の余韻と情け
なさから震えて動けずにいた。
「おい、良いことを教えてやろう」
言うと政宗は先程の媚薬を手に取る。これ以上は危険だ。甲斐姫は恐怖した。
「も…もう…無理ぃ…お願い!」
「ハハハ!!馬鹿め、よく見ておれ!!」
すると政宗は自らぐいと飲み干した。先程甲斐姫が飲まされた量の倍以上はあ
る。
「貴様、感じたのは此の薬の仕業と申したな?ハハハハ!!これはな確かに南蛮
より手に入れたものよ!」
政宗は実に楽しそうだ。こういった奸策は彼の最も得意とする所なのかも知れ
ない。
「じゃが取り寄せたのはただの砂糖じゃ!つまりは、これはただの甘い水!!貴様
が乱れたのは己が性よ!!」
何かにひびが入った。いやと言うほど感じさせられたのは他でもない…
「憎い筈の儂の手で果てようとは…」
−言わないで。言われたなら、きっともう戻れない−
「まこと淫らな女よ!!」
戦場に身を置き、築いてきた半生がたった一つの言葉で崩れ去った。
「やだぁ…やだぁ!!!っひぐ!!」
堰を切ったように弱音と涙が溢れ出す。もう気丈に振る舞う戦姫の面影はなく、
感情を抑えようのなくなった無力な女の顔だけだった。
政宗は愉快だった。総てが画策した通りに進んでいる。もっとも後に徳川将軍
を三代に渡り警戒させた策士にかかれば、向こう見ずな姫君を策に陥れるなど
戯れ程度だろう。
さて、政宗は仕上げに甲斐姫の顎に優しく手を添えた。
「だが構わぬ」
「えっ?」
「男も女も子は残さねばならぬ。ならば貴様のような者はむしろありがたいこ
ととも言えよう」
言い終えた政宗は、さっと甲斐姫の唇を奪った。さっきまでの乱暴な凌辱とは
打って変わって丁寧で優しい接吻に甲斐姫は心地良さすら感じていた。絡めら
れた舌が離れると、自分から追っていることに甲斐姫は気づいた。
「分かるか?甲斐よ?」
名前で呼ばれると、自分という一個の人間が完全に支配されたようにすら思え
る。そして政宗の柔らかな声は壊れた甲斐姫の心には天啓のように響く。
「はい…」
「利発な女子じゃ。して甲斐よ。儂はまだそなたに胤を与えておらぬ。さあ、
なにをするか分かっておるな?」
頬を染めた甲斐姫はそっと自らの性器に手を伸ばして言葉を紡いだ。
「下さい…!アタシに貴方の御胤を注いで下さい!!」
落ちたな、と政宗は確信した。もう当初の目標は達した。後は目の前の美女に
応えて愉しもう。
小さく笑うと、自らの槍を甲斐姫の股に押し当てた。
しんしんと雪が降る夜、とある屋敷の一室は熱気に包まれていた。
「はぁ!あぅん!!…ぁ、あぁん!!」
四つん這いになった甲斐姫の背は朱が差し、汗が小さな玉になっては落ちた。
その姫の腰をがっちりと掴み、獰猛に交尾するのは奥州の雄、伊達政宗である。
「すご…っ!イぃ!!政…む、宗様ぁ!!ああ!!」
もう声を抑える気もない。完全に政宗の愛妾と化した甲斐姫は愛しい男に犯さ
れることにひたすら歓喜していた。
政宗は前屈みになって甲斐姫の豊かな胸をまさぐりながら接吻をした。多少強
引に口腔を乱す。よだれがはしたなくこぼれたが気にかけず、一心不乱に互い
を貪る。快感の虜となった獣は留まることを知らない。
「ぅむ!んっ!!…っぷぁ!!もう!!もうアタシぃ!!ヒィ!」
「っ…よし、受け取るが良いわ!」
政宗は遠慮なく腔内に精を放った。その熱と脈打つ射精に甲斐姫は再び衝天し
きった。
「…ふぁ…あへっ…へぁ…」
「まったく何と節操なき面よ。まぁ良い、愛い奴よ」
だらし無く四肢を放りながら快感に顔を歪ませる甲斐姫にもう一度だけ接吻す
ると布団を戻し、自身も甲斐姫に絡まるように潜り込んだ。
「…はい、乱の首謀者は散り散りにさり、結局わかりませんでした」
「『分からなかった』…それで卿は責務を全うしたと言い切るのか?」
「ええわ官兵衛。まっ、もう収まったしな。あとは儂がどうにかしちゃるわ」
甲斐姫は豊臣秀吉へ報告をしなかった。政宗への情愛が甲斐姫を縛り付けたの
だった。
そして月日は流れ、豊臣家は滅びた。
大阪城が焼ける様は乱世の終息を象徴しているかのようでもあった。
甲斐姫は城から離れた林からそれを眺めた。友も友の慕うもののふも死んだ。
「っあ…!あぁ!!んっ!」
「甲斐よ…生きよ。死んだ者の分もそなたは生き、そして次代につなぐんじゃ」
「はいっ…あぁん!っふぁぁ!!」
空も冴え渡るような夏の日、甲斐姫は情欲を以って妖艶に鳴いた。