「今日は偉く激しいじゃないか」  
爆ぜるような水音が満ちる中、立花宗茂はギン千代の耳元で囁いた。  
「だって…あの女に…っあぁん!」  
北条方の戦姫か。宗茂は昼間の事を即座に思い出した。豊臣の天下一統の仕上  
げとなる重要な戦の中でのつかの間の余興に過ぎなかったが、どうやら自分の  
嫁は想像以上に独占欲が強いようだ。  
「そんな事か…安心しろ。俺はお前を愛している。手放すつもりもない。何が  
あってもだ」  
「あぁ!…宗茂!宗茂!!もっとぉ!!」  
「もっと…どうして欲しい?」  
「もっと突いて!!…っぃひ!!ひゃん!!」  
 
 
−ウソ、なにあれ…?あの女が!?−  
北条から豊臣に引き渡され宗茂の室に辿り着いた甲斐姫を待っていたのは、全  
く予想していなかった状況だった。  
戸板の隙間からは激しい情事が覗けた。昼間の女だ。立花、立花と男とは縁遠  
いと思っていた女が、宗茂に跨がり、自ら腰を振っている。表情は戦場での厳  
格なものとは正反対の、蕩けきった顔で宗茂に一突きされるごとに喜悦に満ち  
た喘ぎ声をあげた。  
−どうしよう…こんなの見るのはさすがに…でも…−  
夜這いをかけようとした立花宗茂の腕の中で鳴く女が自分にすり替えた画が、  
頭に描かれてしまって動けない。  
一瞬、宗茂と目があって完全に身動きが取れなくなった。錯覚ではない。証拠  
に宗茂はより激しくギン千代を責め、ギン千代にこちらが恥ずかしくなるよう  
な甘い言葉を言わせている。  
もう一度目があった時、宗茂は小さく笑って手招きした。  
−そんな…!!−  
行ってはいけない。しかしギン千代の気に当てられたように身体は日照ってい  
る。欲しい。  
甲斐姫は戸板にそっと手をかけた。  
 
 
 気づけば甲斐は、自らの白い手で、己が胸を弄くっていた。  
 膨らみの先の突起を、指先で転がす。  
「んっ…」  
 思わず漏れ出た声を堪えるように、空いているほうの手で紅すら引いていない唇を押さえる。  
(こんなの、駄目でしょ…。他人の情事見ながら、自分の手で、気持ちよくなっちゃうなんて…)  
 頭では、いけないと分かってはいる。  
 されど身体は正直なものらしく、ふたりの交わりを見つめながらも、甲斐の片手は己が突起をまさぐる。  
(これじゃあたし、変態みたいじゃない…ひとりで、こんな…)  
「はぁんっ…」  
 漏れ出る喘ぎは、小さくおさまってこそいるが、止まる事を知らぬようである。  
 
 
 そして次第に、その手は下にまで伸びて行き――――  
 
 
 
 甲斐の秘所はすでに愛液が滴り落ちんばかりに潤っていた。  
 もはや理性は崩れ落ちていたはずだったが、濡れて熱を持ったそこに淫らな己を自覚させられる。羞恥に駆られた甲斐の頬はさらに上記を帯び紅く染まった。  
 が、秘所を撫ぜる手は心とは裏腹に止まらない。割れ目を下から上へと辿り、小さな肉芽を小刻みに撫でる。  
 甲斐の全身をどうしようもない快感が襲い、呑み込んでいく。  
 
「っあ、っ…!」  
 
 声を耐えようと噛んでいた指はいつの間にか口元から外れていたらしい。まずい、とすかさず手で塞ぐ。  
 しかし戸板の向こうでさらに大きく喘ぎ続けているギン千代の耳には甲斐の洩らした声はまったく届いていないようだった。普段は甲冑の下に隠れ露にされないすらりとした肉体を激しく上下させ、ギン千代は夢中で快楽を貪っている。  
 甲斐は安堵した反面、どこか寂しさや切なさを感じた。  
 あれほど強く繋がり、求め合い、二人昇りつめる。そんな様を眺め欲情しひとり手淫に走る己のなんと虚しいことか。まるで蚊帳の外だ。  
 それでも身体は欲にはえらく正直で、次第に陰部を擦る指先はその速度を増していく。  
 火照る身体。熱に浮かされた視界。  
 ふと、また宗茂がこちらを見た。  
 
「気持ち良いか?」  
 
 涼やかな瞳は甲斐に向けられたまま。低いが良く通り色気の漂う宗茂の声がすこぶる愉しそうに呟く。  
 
「あ、あ!気持ちいいっ……!宗茂っ…ゃあ!」  
 
 宗茂に跨がり乱れに乱れたギン千代が、嬌声混じりに応える。  
 ああ俺もだ、とギン千代を下から突き上げながらも、宗茂の眼差しは甲斐へと向けられたままだ。  
 視姦されている羞恥と、己が宗茂に身体を犯されているような錯覚と。  
 さらに強くなった性感に甲斐は、  
 
 
――欲しい  
そう思った、それしか考えられなかった。  
だが夜這いをかけようと思った男は己の妻への攻めの手を休める気配はない。  
先ほどの自分に向けられた視線はなんだったのか。  
あの男のことだ、戦場で出会った時のようにからかっているのではないか?  
ではあの手招きも冗談だったというのか?  
部屋から途切れることなく続くァ千代の喘ぎと淫らな水音、  
そして止まることのない己の秘部を掻き乱す指の動きがそんな思考回路さえ乱していく。  
 
…入ってしまえ、そうすれば私もあの女のように―――  
 
ヌルリ、と弄っていた指を離し、濡れた指を戸へかける。  
少し、また少しと微かな灯りしかない部屋へうっすらと月明かりが入り込んでいく。  
戸を背にしているァ千代はそれに気づく様子もないが、それも時間の問題である。  
今の甲斐姫はァ千代に気づかれてしまうことなど気にする余裕は無かった。  
自分が入れるくらいの隙間を開け、愛液に濡れた足をそっと部屋へ忍ばせた。  
 
その時だった。  
宗茂は突然身体を起こしたかと思うとそのまま己に跨っていたァ千代を畳へと組み敷いた。  
そして行為をする前に脱ぎ捨てたであろう着物の帯を手に取りそのまま帯でァ千代の視界を覆った。  
「っ…!?な、何をするっ…」  
「たまにはこういう趣向も良いのではないかと思ってね。さ、続けようか…?」  
そう言うと宗茂はその笑みを甲斐姫へと向けた。  
 
−カラッ…−  
開けてしまった。衝動が理性を上回っていたとしか言いようがないが、ギン千  
代と目が合った瞬間はさすがに後悔した。  
「なっ!…何をしている貴様!!さっさと出て行け!!」  
「ア、アタシは…!」  
落ち着けなくなった女達は、互いに宗茂に助けを求めるように見つめた。宗茂  
は何を思ってか、小さく笑っている。ただ、焦ってはいないようだ。  
「困ったな。今や豊臣の姫君だ。対して俺は一介の武将だ。情事とは言え貴女  
がここに居ると言うなら俺は断る事は出来ない」  
「むっ、宗茂っ!!」  
ギン千代は随分と上擦っていたが、神経質な彼女も今はそれを気にしていられ  
なかった。  
「だが…立花家は未だ嫡子がない。もしも用があるならそこで待っていてくれ  
るかな?」  
「!?…あの…いや…」  
「宗し…っひゃん!!こ、こら突くな!はぁんっ!」  
「壊れるほど突けと言っていたのはお前では無いか?」  
「今しばらくお待ち頂けるかな甲斐殿?」  
−そんな…!!この状況で…−  
思案する最中も目の前では全裸のギン千代が妖艶に鳴く。ギン千代に合わせて  
甲斐姫の身体が熱くなる。  
「おや?お体が優れないかな?」  
「えっ?」  
知らず知らずの内、甲斐姫の右手は自分の秘裂を、左手は着物の重ね目の中に  
入り乳房を弄んでいた。  
「こ、これは…」  
「坂東の治療は知らないからな。続けてくれ」  
−何をぬけぬけと言ってんのよ〜!!あんたが今嫁にしてる事考え…−  
喉元まで来た言葉を抑えたものは、甲斐姫の理性と自慰での快感だった。  
 
おかしな光景だった。  
峻厳なギン千代が夫の腕の中で甘い声で鳴き、当世随一のじゃじゃ馬である甲  
斐姫がその情事を見ながら、声を殺して自慰に耽っている。  
「っあぁ!…宗茂、宗茂、宗茂、宗茂ぇ!!きゃぁんっ!!」  
背を反らし耐え難い快感にギン千代が乱れる。ギン千代を自分に置き換えてか  
甲斐姫も恍惚とした表情で体を震わせた。  
「あっ!あっ!!イく!!もう駄目ぇ!ひ!ひぁああ!!」  
甲斐姫の目の前でギン千代が果てた。あられもなく声を挙げて蒲団に沈んだ。  
それを認知した甲斐姫もまた、快楽が上りよせ、その場でうずくまった。  
「大丈夫かな?」  
ぼんやりとした視界に宗茂が映る。今までの事が網膜で再生され、甲斐姫はど  
うしようもない位恥ずかしくなる。  
「で、用件を窺っていなかったね。太閤殿下の御言葉かな?」  
夜這いなどと言えない。それに今はとにかくここから逃げたかった。  
「〜!!いゃあああ!!!」  
乱れた着物も直さぬまま、甲斐姫は走り去った。宗茂はまた小さく笑った。  
「宗茂…」  
「怒っているか?」  
「当然だ」  
まだ蒲団に突っ伏し、肩で息をしたままだがギン千代からは肌が痛くなるよう  
な気がありありと発せられている。  
「故に今夜は許さぬ。朝まで離さぬぞ」  
「ふっ、甘えん坊が」  
宗茂が蒲団に潜り混むと、実にかわいらしい声が挙がった。  
 

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