月明かりすらも通っていない暗き部屋で、ひとり分の息遣いが乱れる。  
 若草色の畳の上には西洋風の可愛らしい着物が散乱し、そのすぐそばではあどけない少女がひとり、あられもない姿を晒していた。  
 一糸まとわぬ裸体には凹凸が見られず、大切な所すらも無毛である。  
 しかしそのような幼さにはそぐわず、身体は火照っている。白いはずの肌さえも、赤く染まらせて。  
 ここでふと、横たわる少女が乱れた息遣いのまま呟く。  
「うう……ち、か……」  
 少女のすぐそばには、一人の男が座り込んでいた。蒼い髪の、端正な顔立ちをした男。  
 男はなにもかもが、この少女とは対照的であった。  
 蒼い髪と紅い髪はもとより、幼い盛りの彼女に対して、立派な成人男性といった風情である点が、まずひとつ。  
 ただ、今言うべきは他にあるだろう。  
 そう。  
 あられもない姿を晒し、息遣いを乱れさせる少女とは逆に、いつも通りの着物をしっかりと着込み、息ひとつ乱していないという点だ。  
「どうした?」  
 男はすました顔のまま、冷静な声音でそっと告げた。まさに余裕ある大人といった風情だ。  
 少女は尚も荒い息遣いのまま、更に頬を紅潮させて、やや苦しげに言葉を紡ぎ出す。  
「もう……そ、ろそろ……」  
 少し掠れがちなその声が届いたかどうかは定かではない。  
 しかし男は余裕を崩さず、唯、わらった。  
 
 
 

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