長浜城。
深夜、厠にたったねねはその戻りすがら、不審な物音を聞きつけた。
(こっちの方角は……正則のところからね。あの子ったらこんな時間になってもまだ起きているのかしら、しょうがないコだねえ)
叱ってやらなきゃ、と勇んでねねは正則の元へ向かった。ねねは忍びであるから、耳が常人よりもいい――そして、普段の習性から足音もほとんどたてない。であるから、
「こら、正則、いつまで起きてんの!」
「わっおねね様っ!!?」
いきなりねねの侵入を受け、室の隅の方で縮こまっていた正則はとびあがらんばかりに驚いた。
「早く寝なさい……って、正則、一体どうしたの?」
ねねが驚くのも無理はなかった。
手燭の灯りの中に、目を真っ赤に腫れあがらせて泣いている正則が浮かび上がったのである。
「どうしたの、正則!?お腹でも痛いの?大丈夫?」
ねねは慌てて正則を介抱すべく側に駆け寄りながら言った。
「………いや……そういうわけじゃ……ないっすけど……」
「けど、何?」
「……いや……なんでも……ないっす……」
「泣いているのに、なんでもないわけないじゃない。どうしたの、何かあったのならなんでもあたしに言って」
「…………………………」
正則はねねの問いに返答せずにうつむいてしまった。
(うーん、困ったコだねえ)
根が世話焼きなねねである。ここで引き下がるわけにはいかない。
我が子同然の可愛い可愛い正則が泣いているのだ。
どうにかして元凶を捕まえて、とっちめてやらないと気がすまない。
「清正や三成に何か言われたの?」
二人の名前にピクリと反応した正則は、さらに勢いよくおんおん泣き始めた。
ドンピシャだ。正則のこの異変にあの二人が関与しているのは間違いない。
(もう、あのコ達ったら可愛い正則をいじめて!後でたっぷりお仕置きしてやらなくっちゃね)
ねねが憤慨していると、ようやく正則は重い口を開き始めた。
「清正と三成に……」
「うんうん、清正と三成になにか言われたのね。それで、なんて言われたの?」
「……………………」
一言発した束の間、また、正則は口を閉ざしてしまった。
「正則、黙っていちゃわからないわよ」
「…………いや……でも、格好悪いことっすから……」
「正則が子供の頃にしたおねしょの布団を始末したのはあたしだよ。そのあたしに何をいまさら格好良いや悪いなんてを気にする事なんてあるの!」
「うええええぇぇぇぇぇん、おねね様ぁぁぁぁぁ」
突如堰が切れたように泣き出した正則は子供のように、ねねの躰にぎゅうと抱きついた。
「えぐっ……えぐっ……清正と三成に……」
「うん、うん。清正と三成に、なんて言われたの?」
「童貞だって馬鹿にされたんですうううう〜〜〜〜〜〜〜」
「え???」
話の要約をすれば、こうだ。
今日、正則、清正、三成のいつもの三人で集まってふとそういう話になった折、他の二人は既に女を知っていて、自分だけが未だという衝撃の事実を知ってしまったらしい。
――えー!!清正、だってお前が好きなのは、おね……うぐぉ!!
――もしもそれ以上口にしたら、今度は拳で殴るだけじゃすまないぞ……
――ま、そのうち縁談でもあればおまえもできるだろう。もっとも馬鹿の相手では秀吉様も探すのに難儀なさるだろうがな。
(うーん、そういうことなのね……)
母親がわりであるねねの目からすれば、清正も三成も性格的にいささか心配なところもあれど、女としての目からみれば二人とも美男子の部類に入るだろう。
清正の逞しき肉体と落ち着いた声音は若い娘の憧れの的であるし、三成の女のような線の細さやその割に少々生意気な言動は比較的年上の女から好かれるように見える。
誰とどのようないきさつがあったかは知らぬが、彼らとて精力溢れる若い男だ。
幾人かの娘と情を交わしたとしてもおかしくない。
当人達はもう元服を済ませた大人だし、ねねもそのことをとやかく口出しをするつもりはない。
だが、問題は。
「それだけじゃないっす。ヒック……えぐっ……俺……まだ、接吻すらしたことないんですうぅぅ」
いかにして眼の前で泣き続ける正則を慰めるべきか。
(うーん、困ったねえ)
ねねからすればくだらない問題だ。
そのようなしかるべき事は焦る必要などまったくない、しかるべき時にしかるべき相手とするものなのだから。
だが、年頃の若者にとっては戦の初陣に勝るとも劣らない、重要な問題なのであろう。
特に三人とも年も近いとあってお互いをお互いに激しい競争相手とみている。
この重要な先陣争いに負けたということは、正則にとって大いに自尊心を傷つけられたのだろう。
正則の一見人を寄せ付けたがい、いかつい風貌に荒々しい言動――は、ねねが贔屓目で見ても、どうも女に好かれるのは難しいように思える。
けれどその内面の心根が誰よりも熱く、そして純粋で繊細である事を母親のように側で寄り添ってきたねねが一番よく知っている。
(さて、どうしようかしらね。うーん)
中途半端な言葉だけの慰めでは正則の傷ついた心は癒されないだろう。
(……これはやっぱりあたしが一肌脱ぐっきゃないかしらね。よし!)
一通り思案した後、ねねは腹をくくった。そして、
「ほぉら泣かないの、正則。いい男が台無しよ。任せときなさい!」
正則の流した涙や垂れた鼻水やらを拭きながら、励ますように、ねねは言った。
「女の事くらい、あたしが教えてあげるよ!」
「ふぇ……!?」
正則は素っ頓狂な大声をあげた。
「つまり、それはその……えええええ、ママママジっすか?おねね様?」
「しっ!!静かに!」
ねねは正則の口元に指をあてた。
「マジもマジ。大マジだよ……でも、うちの人や他の皆には絶対に内緒だよ。いいね?」
「は……はい!!……絶対ぜーったい俺、誰にも喋りません!」
「うん、いいコいいコ。じゃあ、そうね……まずは接吻からいこうかしらね」
ねねは二コリと笑うと正則の前にちょこんと座った。
日頃の秀吉一家における存在感の割りに、ねねは案外小柄である。
正則とは頭ひとつ分くらいは違うだろう。
だが日頃の力関係においては正則はねねには到底かなわない。
「接吻の仕方は正則もわかるわよね?」
「は、はい!もちろんです!」
「じゃあ、正則、あたしに接吻してみて」
いきなりねねはそう言って目を閉じると、唇を気持ち尖らせた。
「え……あ……あの、おねね様、本当にいいんすか?」
「そうよ、もちろん。上手にしてね」
唇を尖らせたままねねは言った。正則にとってねねの命令は絶対である。
「は……はい!」
ねねの肩に震える正則の手が置かれた。
ねねの耳に聞こえてくる荒い鼻息の音。鼓動の音すらも聞こえてきそうだ。
(ふふ、正則ったらきっと口を蛸みたいにしてるわね)
目を閉じているにも関わらずねねには正則の表情が見えるようで、少し笑いをこらえていた。
徐々に正則の息づかいと体温がねねの唇に近づいてくる――ねねの全身にはしる、甘い、緊張。
ぽふ。
「ん?」
唇よりも先に、正則の特徴あるこだわりの前髪の方が先にねねの頭にぶつかってしまった。
「あれ……?も、申し訳ないっす!」
思わぬ事態にこれには正則も平謝りだ。
「ハハ、やだ、正則ったら。ハハハハハ」
おかしくなってねねは腹をかかえて笑ってしまった。
「はは……」
正則も頭を掻きながら乾いた声で笑うしかない。
「ハハハ……ごめんごめん。じゃあ今度は気をつけて、もう一回ね」
ねねはそう言って再び目を閉じた。
息子の記念すべき初接吻が、自分の唇にされる瞬間をじっと待つ。
正則の方も余計な緊張が解けたのか、さきほどよりもがっしりと肩に手が置かれ、そして――
ちゅっ。
今度は成功した。
「うん、合格よ……それでね」
目を開けたねねは正則の頭を掴み、今度は自ら接吻を仕掛けた。
そして――正則の唇の隙間から、自らの舌を差し入れた。
「……!……」
ねねの舌が、正則のそれと触れ合い、絡みつく。
「……ん…………っ…………ふぅ」
しばらくの絡み合いの後、唇を離してねねは言った。
「……これが大人の接吻の仕方だよ、覚えておいてね」
「は、はい」
「うんうん、今日の正則は素直でいいコだね!」
ねねは笑った。
というより、この状況においては正則でなくても素直にならざるを得ないだろう。
「今度はそうね、正則は自分のお母さん以外の女の裸、見たことある?」
ねねの問いに正則はぶるぶると首を横に振った。
「じゃあ、見せてあげるわ」
ねねはそう言って立ちあがると、自らの夜着の帯に手をかけた。
「は、はい、お願いします!」
正則は、全身と股間を期待と緊張で固くしながら座した。
しゅるるっと音をたててねねは夜着の帯を解いた。
ねねはわざと見せつけるようにゆっくりゆっくり、一枚ずつ一枚ずつ脱いでいく。
燭の薄暗い灯りに浮かび上がる、正則が初めて観賞する女の肢体。
「おおおお……」
最後の一枚の布がはらりと畳に落ちたとき、正則は思わず感嘆の声をあげた。
包むもの何一つない女のなだらかな曲線は正則が想像していたよりも美しく、また二つの豊満な丘は形も良く、頂の蕾も桜のような色づきをしていた。
その上半身の肉付きの割りには腰は見事にくびれており、そしてまた尻と太ももはまたむっちりと膨らみ――だが鍛えられているので無駄な肉はない――見事な曲線を描いていた。
正座する正則の目線の丁度先には、女の中心部があり、ねね自らが整えている、揃えられた陰毛の隙間から女の秘部が見え隠れしている。
正則はまるでまばたきを忘れてしまったように、血走った目を見開いてねねの裸体を凝視している。
そんな正則がねねは可愛らしくてしょうがない。
(この素直さが正則のいいところね……あの二人にも見習ってほしいわ)
「正則、あたしのおっぱい、触ってみる?」
「はい!!!し、失礼しまっす!!!」
その返事と同じ勢いのよさで、正則はねねの躰に飛びつき、乳肉に五指をくいこませた。
「あん!」
武骨な手のひらの中でねねのその美しい形は大きく変形させられる。
「あ、あん!い、痛いよっ、正則」
ねねが悲鳴をあげた。
「もっ!申し訳ないっす……」
正則は謝りながら、今度はこわれ物の重みを計るかのように乳房をそうっと触る。
タプ、タプ、とねねの乳房が波打つ。
「いや、そうじゃなくて……正則、爪!」
「へ?」
見れば白肌にくっきり赤い痕がついてしまっている。
力の強さどうこうの問題ではなく、どうやら正則はねねの柔肌に伸びた爪を立ててしまったらしい。
「あ、こりゃ、おねね様、も、申し訳ないっす」
「もう、正則ったら、こんなに爪が伸びちゃってるじゃない。駄目よ、ちゃんと短く揃えておかなくちゃ!ちょっと、そこにおなおりなさい」
そう言うと、さきほどまでの淫蕩な雰囲気はどこへやら、ねねは室内を素早く物色して爪手入れ用の小刀を探し出し、
「ほら、正則、両手をだして」
「は、はい」
正則の手の爪を短く揃え始めた。
カリ、カリ、カリ。
小刀で爪を削る音が響く。
「あのぅ、おねね様ぁ……」
「ダメよ、動いちゃ。指が切れちゃうわよ」
正則が声をかけてもねねは爪の手入れに夢中だ。それも素っ裸のままで。
餌を目前におあずけをくらわされた犬のようで、正則は非常にいたたまれない。
面倒くせぇが、爪は短くしとくか――正則は思った。しみじみと。
カリ、カリ、カリ、カリ、カリ。
ようやく両手が終わった。しかし。
「あらら、足の爪もこんなに伸びちゃってる。しょうがないコだねえ。だから足袋にすぐ穴があいちゃうのよ」
ねねは無理矢理に正則の足をとり、今度はその爪をカリ、カリ、カリ、カリ、カリ、カリ。
じっとしている他ない正則にとっては悠久とも思える時間であった。
「ふー……これでよし、と」
やっと一仕事を終えて満足げにねねが顔をあげると、正則が情けない顔をしてしょんぼりとうなだれている。
(あらあら、あたしったらいやだわ)
色事を教えている最中だったのに、つい、いつもの母親のような調子がでてしまった。
(さて、気をとりなおして正則のためにガンバらなくちゃ!)
「正則、女の躰に触るときは爪なんか伸ばしてちゃダメよ。優しく……ね。正則のここだってそうでしょ?」
「おぅ!?」
「爪なんか立てられたら嫌よね……?」
正則は思わず声をあげてしまった――ねねの手が正則の夜着を割り、逸物に優しく触れたのである。
先ほどまではしゅん、とうなだれていたが、ねねに撫でられ、再び活力を取り戻した。
「ふふ、若いから正則のはすぐ元気になるね」
ねねは手のひらでそれをそっと包み込むと、ゆっくりとしごき始めた。
正則は思わず荒い吐息を漏らす。
「……はぁっ……」
ねねの手の速度は徐々に上がり、ねねの手のひらの中で槍は硬度を高めていく。
「おねね様、気持ちいいっすっ…………」
正則とて自慰の経験だけは数えきれないほどある。
それこそ自分にとってどういう方法をするのが一番具合が良いのか、日夜研究しているほどだ。
だが己が男の武骨な手指で慰めるのと、女の白き細指で慰められるのとでは、なんとその快楽の度合いの違うことだろう。
「もっといいことしてあげる……」
ねねがそう言いながら、正則の逸物の前に顔を近づけてきた。そして。
ちゅっ――口づけをした。
逸物はねねに口づけされた悦びにビクッと跳ね上がる。
ねねはその暴れ者を抑えるかのように口中に封じ込めた。
「ああっ!」
ねねの口中の温かさに包まれた正則は感嘆の声をあげた。
「ん……ふぅ…………」
ねねは咥えながら根元の方を片手でしごき、先端の亀頭から裏筋にかけてを舌で丹念にねぶる。
その得も言われぬ気持ちの良さは、単なる手による自慰とは到底比べ物にならない。
「んっ……」
さらにその上、ねねは今度は逸物を手と唇の両方同時使いでしごき始めた。
ねねの、強すぎず弱すぎず絶妙な力加減でしごく手指と、たくさんの唾液を含ませもっとも敏感な部分を責める唇。
それと共に裏筋、包皮のつなぎ目に密着しながら動く舌。
これには正則もたまらない。
「おねね様っ……、スゲー……気持ちよすぎるっす……!」
自分の奉仕によって悦ぶ正則の様子を、ねねは嬉しそうに上目づかいで眺めている。
奉仕し続けるねねの方も女として昂ってきた。
空いている手を己が股の間に滑り込ませると、槍の穿ちを待つように濡れてきている。
ねねはたまらず自身の指で慰め始めた。
秘裂を指でなぞると、蜜壷を穿ち、液を太ももまで垂らさせる。
(ふふ、息子のように思っていたはずの正則に興奮するなんて……案外あたしもスキモノなのかしらね)
だが、ねねはけっして好色というわけでも淫乱でもない。
ただ常人よりも愛情の量が並みはずれて多いだけである。
今回の事も正則のためと思えばこそであった。
自分が正則にとっての初めての女になるというのなら、できうるかぎりの最高の女を味あわせてやりたい――それがねねの想いだ。
にちゃにちゃ、というねねの秘部が鳴らす淫音は正則の耳にも届いている。
(おねね様が俺のをしごいて、そしてしゃぶって……しかも自分で自分のを……な、なんちゅうスゲー光景なんだ……!)
正則の興奮も逸物の勃起も最高潮に達した。
「そろそろいいかしらね……じゃあ今度はいよいよ私の中に入れてみようか」
ねねは一旦顔を離してそう言うと、正則の夜着を脱がせていった。
そして正則を自らの腕の中に誘いながら、布団の上に二人、ごろん、と横になった
二人の躰が抱き合って密着する。
筋肉こそはついているものの、わりかし細身である正則の躰を包み込む、ねねのスベスベとした柔らかい肌。
ふと、今までは夢見心地であった正則が急に我にかえったように、不安そうに表情を曇らせた。
「あのぅ……おねね様、本当にいいんすか……?」
事ここにいたって正則の胸に急にねねを抱くことに対しての罪悪感が湧いてきたらしい。
いや、それとも臆したのか。
「あら、ここまできて女に恥をかかす気?ダメよ、そんなの」
「でも……」
「でも、何?」
「お、叔父貴……」
「もしもこの事がうちの人にバレたらと思うと怖い?」
「いや、そうじゃなくて……これ以上は、その、やっぱりヤバいっす。叔父貴を裏切……」
「正則」
正則の言葉をさえぎるようにねねは正則の名前を呼び掛けると、両の手のひらで、正則のいささか乾燥気味の頬を押さえた。
その手のしっとりとした感触に気をとられ、正則は言いかけた言葉を一瞬、喉につまらせてしまった。
その隙をついて、ねねは接吻した。
正則が今しがたねねに教わったばかりの、深い、深い、大人の接吻。
唇を離すと、頬に手をあてたまま、まっすぐ正則を見つめてねねは言った。
「うちの人の事は今は関係ないわ――もちろん他の誰の事もね。閨では相手の女の事だけを考えて。
あたしはもしもこの事をうちの人や誰かに責められてもちっとも構わないわ。だってあたしは今正則に抱かれてもいいと思ってるんだもの。
ううん、この言い方は違うわね。正則にあたしを抱いて欲しいの。本気よ――あたしが正則にとっての初めての女になれるなんてこんな光栄なことないわ――
それで、正則の正直な気持ちはどうなの?うちの人がどうのこうのとか、もしもこの事が誰かに非難されたらどうしようとか、そんな余計な事は全部横においてね。
私を抱きたい?それとも抱きたくない?どっちなの?」
正則をじっと見つめる、相手の心根の奥の奥までを貫き通すような、透き通ったねねのその瞳。
「…………………………………抱きたいっす………」
しばしの沈黙の後、ねねの乳房の間に顔を埋めながら正則は返答した。
正則にとってのねねは母親のような存在である。だが――そのねねに女を感じてないといえば嘘だ。
いや、そればかりでない。
己が慰みのネタとして、正則は幾度その頭の中において空想できるあらんかぎりの痴態をねねに演じさせ、白き液体まみれにさせるほど汚らわしく犯していたのだろう。
それこそ数えきれぬほどだ。
そんな女を抱きたくないわけがない、否、むしろ抱きたくて抱きたくてしょうがない――それが嘘偽りない、正則の正直な気持ちだ。
「うん……ならいいんだよ」
もしもこの事がうちの人にバレて怒られる時には、あたしも一緒だよ、正則――ねねは乳房に顔を埋める正則の頭を抱えて優しく言った。
「おねね様……」
顔をあげた正則の目に映る、ねねの微笑。
刹那、ねねは細めた大きな目をもっと細めてカラカラと笑った。
「ふふふ、まさか、あたしと正則がこういうことになるなんてね」
これから妻として罪を犯すにも係わらず、そのような言葉がまるで似合わない、いや、むしろ秘密の悪戯を共にすることを楽しむような、ねねの少女のように明るいその笑顔。
「ねえ、来て、正則。その気持ちをあたしにぶつけて」
ねねはそう言うと、脚を大きく広げた。
正則がかねてより求めてやまなかった、女の秘部が正則の目の前であらわになる。
(これが女の……)
正則はゴクン、と音をたてて生唾を飲み込んだ。
「どこに入れたらいいか、ちゃんとわかる?」
ねねの問いに、
「はい!」
と、正則は勢いよく返事したものの、実はよくわからない。
いや、知識としてはもちろんあるものの、正則は女の秘部の実物を見るのはこれが初めてであり、その繁みに隠された、女の奥深さをじっくり観察するだけで手一杯なのだ。
あまりに正則が顔を近づけて凝視しているので、その鼻息がかかってねねはこそばゆい。
「そんなに見つめられちゃ恥ずかしいよ、正則」
「は、はい。申し訳ないっす」
正則はようやく当たりをつけて動き出した。が――
「痛っ……ち、違うよ、正則、そこじゃないよ」
「も、申し訳ないっす」
「もう、しょうがないコだね。あたしが教えてあげるわ」
ねねは優しくそう言うと、正則の逸物を握りしめ、己が女の門に導いた。
桜貝の合わせ目のような門に口づけされ、正則は女の源に誘われる。
「ここよ……」
「はいっ!」
正則は返事をすると、勢いよく腰を突き動かした。
「んっ!」
「あんっ!!」
正則がねねの膣に温かく包み込まれた。
正則の初めて知る女の快感は――予想通りの、否、それ以上のものであった。
さきほど正則が存分に味わった口腔とは違う温かさと、ぬめり。
ねねの内襞のひとつひとつがねばっこく吸いつくように絡みつき、正則を離さない。
正則は動くのも忘れ、しばしそのねねの膣の感触に酔いしれた。
「どう……?正則……初めての女の味は……?」
「最っ高です!おねね様っ……!」
「こんな風にしたら……どう?」
「ああぁっ!そ、そんなに締め付けないでください!すぐイッちゃいます!」
「ふふ、わかったわよ……ねえ、動いてみて」
「は、はいっ!」
答えながら正則は腰を動かし始めた。
「んんっ!」
愚直なほど真っすぐな突き。
摩擦が、正則に、そしてもちろんねねにも大きな愉悦をもたらす。
「おねね様っ!気持ち良すぎるっす……!!」
「あたしもよ、正則……!んあんっ!そう、そうよ!もっと来てっ……!」
「こ、こんな感じっすかっ……!?」
正則がねねの奥にぶちあたる。
「ああんっ!んあんっ!そう、その調子よ」
バシッ、バシッ、バシッ――
繋がりから愛液が飛び散る。
正則もようやく調子が出てきた。自分なりのコツをつかんだらしい。
躰がぶつかりあう音を激しく打ち鳴らし、子袋に達するほどの奥まで逸物で突けば、ねねは白い首を見せてのけぞった。
激しき猛攻を受け、ねねの乳房が躰ごと大いに揺れる。
正則はそれにむさぼりつき、乳首に噛みつく。
「きゃう……!」
乳首を噛みつくように吸いながら、さらに正則の逸物はねねの深部を突きあげる。
「どうっすか……!おねね、さま……」
「ぁん……!んんっ、いいよぅ、正則っ……!!」
「おねね様……!俺、俺、もうイキそうっす……!」
「……っ、んあっ……いいよ、出して!……あたしの中にっ!正則……!!」
ねねが腹の奥に力をいれ、さらに膣でもきゅうと正則の逸物を締め付けた。
「はぁっ!おねね様……俺イクっす……!」
「んっ、んっ、ぁああ!!!」
たまらず、正則はその若き精をねねの胎内に爆発させた。
事後――
ねねは正則の汗や精を拭いてやったりと、かいがいしく後始末をしている。
正則はまだぼうっとして夢見心地だ。
「俺……早くなかったっすか?」
ようやく正則はぽつりと口を開いた。
「あら、もしかしてそんな事考えてたの?いいのよ、そんなことはあまり気にしなくても」
正則の汗を拭きながらねねは答える。
「いや、そういうわけじゃないっすけど……俺はすごく良かったんすけど、俺はおねね様を満足させられたのかなって……」
「うん、あたしはね、もう、じゅうううぶんに満足したよ」
ねねは笑って答えた。
「ねえ、正則……女を愛するのに技は重要じゃないわ。まったく関係ないなんて言ったら嘘になるけど……
でも、そんなのは後からいくらでも覚えればいいんだから。それより一番大事な事は相手を好きだとか愛おしいって想う気持ちだよ。
あたしは正則に抱かれていてその気持ちがすっごくよく伝わってきたの。だからすごく満足している――
あたしは正則の初めての女になれてよかったよ!」
ねねの言葉に正則はぽおっと顔を赤らめた。
「あ、それと、もう一つ大事な事。女の子には優しくしてあげるんだよ。爪なんかも伸ばし放題じゃ躰を傷つけちゃうからダメ。
大切にされてるんだって感じると女はすっごく嬉しいんだからね。わかった?」
ねねは正則に顔をまっすぐ見据えていった。
正則はねねに向かってがばっと頭をさげて平伏した。
「は、はい!!おねね様、ありがとうございました!!!俺、このご恩は一生忘れません!!!」
「うん、いいコいいコ!!正則、絶対いい男になるんだよ!!」
ねねは正則の頭をポンポン、と軽く叩きながら、裸のまま豊満な胸を揺らしつつ、いつものように屈託なく笑った。
後日、秀吉とねねの寝所にて――
「最近正則の奴がよう張り気っとってのぉ。顔つきも前とは全然別人のように違うんじゃ……
さてはねね、お前奴に秘伝ねね忍法を使ったな」
そういって秀吉はねねの両の乳房をむんずと掴んだ。その力の強さにねねは小さな悲鳴をあげた。
「あんっ!…………ごめんね、お前さま……浮気のつもりはなかったんだけど、
あのコ、男として他のコ達より出遅れた事、一人ですごく悩んでたみたいだったからあたしほっとけなくて……
怒っている?でもあたしはともかく、正則は責めないでやってね、お願いよぅ!!」
「いいや、怒っちょらん怒っちょらん。」
ねねの哀願を秀吉はハハハと豪快に笑い飛ばした。
「ねねのおかげで正則の筆おろしも無事に済んだし、あいつもこれで一人前の男じゃあ!!めでたいのう!」
「お前さま……良かったそう言ってもらえて……ごめんね、お前さま。だって大好きな正則のためだったんだもん」
謝りながらねねは秀吉の身体に腕をまわした。
秀吉はそれに答えるように手慣れた手つきで妻の身体を愛撫する。
「でも、あたしが一番大好きなのはやっぱりお前さまだよ……ちゅっ」
そのままもう何度交わしたかわからない愛の営みを始める、やはり仲睦まじい秀吉とねねである。
一方。
「なんだか正則の奴、最近ずいぶん気持ちが悪いな……一人でニヤニヤしていたり、時々俺の方をみて勝ち誇ったような顔をしたりするんだ」
「春だからな、どうせ馬鹿の頭にも何か湧いたんだろ……しかし馬鹿がますます馬鹿になっては目障りでたまらんな」
何も知らないで正則を鬱陶しがる、清正と三成なのであった
終わり