燦然と注ぐ月光、その陰を縫って進む影。
そして、影を追う五つの影。
追われる影−−くのいちは、城の屋根の端に達したところで突然に足を止め、振り向いた。
屋根瓦を蹴り、後ろ向きのまま空中へと身を投げ出す。
追手の女忍者たちが手裏剣を投げつける。が、当たらない。
下方へ消えていくくのいちを逃すまいと、追手も続々と屋根を飛び降りていく。
そのとき、一陣の突風が吹き抜けた。
最悪のタイミング。
身を翻して着地体勢に入ろうとしていたくのいちだが、小柄な身体が風に煽られバランスを失う。
冷や汗を流す間さえなく−−背中から地に落下し、かろうじて受身をとった。
その真上、追手がすかさず放った蜘蛛の巣状の網縄が音もなく広がる。
(ぅっ、ヤバ……!)
膝を立て足の裏でしっかりと地を踏み締め、跳ね起きようと腰に力を入れる。
しかしギリギリで間に合わず、網縄はど真ん中にくのいちを捕えて地面にべたりと食いついた。
蜘蛛の巣にかかった蝶同様、もう身動きはとれない。
そうしている間にも網縄の周囲には追手が続々と着地し、もがき足掻くくのいちを冷たく見下ろす。
彼女達を順繰りに見上げながら、くのいちはそっと唇を噛んだ。
初めての敗北だった。
〜〜〜
蝋燭が焼け溶ける臭いが、喉に貼りつく。
揺らめく灯火の熱が、膜となって肌を覆う。
息苦さと狭苦しさに満ちた、地下の奥の奥に設えられた小部屋。
十畳ばかりの正方形の空間、中央には板を大の字型に組んで作られた磔台が立てられている。
板にはところどころに血痕が染み込み、手首と足首にあたる箇所に打ち付けられた鉄の枷にも血生臭い錆が浮かぶ。
磔台正面の壁には小さな鉄扉がひとつ。
残る三つの壁面には多様な責め具がびっしりと掛けられ、吊るし下げられて、肉体を嬲りものにする時が来るのを待つ。
苦悶と悲鳴の痕跡に満ちた、拷問室の中−−
くのいちは四肢をめいっぱいまで伸ばされ鉄枷をかけられて、その小柄なカラダを半ば無理やりに磔にされていた。
ぴんと張り詰めた手足には立っているだけでも負担がかかり、拘束具は柔肌にキツく冷たく食い込む。
少しは抵抗を試みてみたものの逃れることは叶わず、すぐに無駄な努力だと悟った。
今は普段と変わらぬ薄笑いを浮かべ、余裕の表情で拷問官の到着を待っている。
それから、そう長い時間はかからなかった。
鉄扉に隙間が生まれ空気が流れ込み、炎が揺らめく。
面倒くさそうに、ダルそうな足取りで踏み込んできたのは、若く屈強な男二人。
上半身は裸、浅黒い肌には汗の滴が浮かび、蝋燭を受けて男臭い光を反射する。
くのいちを見るなり、一人は舌打し、もう一人は「なんだガキか」とあからさまにボヤいた。
「ガキだから優しくしてくださいな、ダンナぁ」
芝居がかった仕草で上目遣いに男を見上げる。
男は構わず、壁際から棍棒を拾い上げると、その先端をくのいちの喉元に近づけた。
「あと10年待ってから忍び込んでくれりゃ、こっちも楽しめたんだがな」
棍棒の先端が下へ、胸元へ向かってゆっくりと滑り始める。
「ひどいにゃあ。これでもカラダには自信あるんだけど〜」
「どうせ何も喋る気はないんだろう?」
もう一人の男がくのいちのあごを掴み、磔台に後頭部を押し当てて上を向かせた。
それでもくのいちの調子は何も変わらない。
「そりゃぁ、いちおー忍びですから」
「だったら、さっさと殺してやるよ」
「あたしもヒマじゃないんで、そうしてもらえると助かりま−−」
軽口を叩くその頬に、黒ずんだペンチのような責め具が擦り付けられる。
「ただ、拷問の痕だけはたっぷり残しておかないと俺達がマズいんでな」
頬を這い上がり、右目の下で止まるペンチ。先端がキィと鳴って口を開く。
「おとなしくしてろよ」
「へぇ……一発目から容赦ないじゃんオジさん」
目玉を摘み抉り出すべく、ペンチは狙いをつけつつ下瞼へ迫る。
「怖いか?」
桃色のみずみずしい唇、その端がわずかに震えている。台に括り付けられた手首の先でも、無意識のうちに拳が握り締められている。
「……別にぃ」
それでもなお、男を見上げ拒絶する視線だけは揺るがない。
「でも、ダンナの素敵なお顔を見つめられなくなるのが心残りかにゃぁ」
「おいちょっと待て!」
棍棒の先端が胸を撫でて双丘の輪郭を浮き上がらせると、男が興奮した様子で声を上げた。
一見ではほとんど平らに見えた胸。
しかし服を肌に押し付けた今では、男の大きな手のひらでぴったりと収まるぐらいの乳房が−−若々しい乳肉の柔らかさと硬さを湛えた綺麗なお椀型の乳房が、布越しでもはっきりと確認できる。
男はペンチを瞼から離すとその先端をさらに上へ向かわせ、くのいちの帽子を払い落とした。
淡い栗色を帯びた黒髪が露わになれば、見た目の幼さが激減し、代わりにオンナの匂いが広がる。
くのいち自身も、男たちの目の色が変わり鼻息がかすかに強まるのを感じ取った。
ペンチを放り、顎はしっかりと押さえつけたままで片手を乳房に当てる−−手のひらの中いっぱいに収まった乳房は、指の形に合わせてへこみつつ、強い弾力をもってそれを押し返してくる。
「生娘の乳だな」
「あたしっ、全然……っ、モテなくってさぁ……」
他人の手でカラダをまさぐられる初めての感覚に、声が微かに震えた。
もう一人の男が早くも服の裾に手をかけ、一気にまくり上げて、二つの乳房を丸出しにさせる。
重力に逆らって真正面へ突き出した二つの柔肉の塊。
その中心で縮こまっている乳首は染みひとつないピンク一色で、彼女が生娘であることをさらに証立てている。
「気が変わったぜ、嬢ちゃん」
いやらしく歪む口元。乳房の下へ再度あてがわれる、表面のざらついた棍棒。
肉房をめくり上げるように押し上げ、撫で上げて、男は上向きになった乳首をまじまじと見下ろした。
「生娘の快楽拷問といこうじゃねぇか」
相変わらず縮こまったままの乳首。その一方で、微かに紅が差し始めている白い肌。
くのいちは棍棒を持つ男のほうへと視線を移し、いつもの笑顔を、少しだけ強張ったいつもの笑顔を浮かべてみせた。
「ってことは〜、あたしのカラダをじっくりたっぷり嬲ってやろうってわけですかぃ?」
「そういうこった」
炎が揺らめき、一筋の蝋が流れて冷えて固まる。
磔台の四方に置かれた燭台。執拗なまでにくのいちのカラダを舐め照らし続ける、四本の蝋燭。
乳房が棍棒の圧迫から解放されると、今度は鼻先に薬瓶が突きつけられた。
うなじを伝い、胸元へまで流れてゆく汗の滴。
蝋燭の熱のせいか、屈辱のせいか、胸を晒された恥辱のせいか、くのいち自身にもわからない。
瓶の口から漂う甘ったるい匂い。
男を見上げるフリをしてそれとなく鼻を遠ざけ、にやりと笑う。
「こういう安っぽい甘さって、あたしの好みじゃないんだよねぇ〜」
「こいつは特別だ、すぐに虜になるさ。生娘ならなおさら、な」
瓶の口に細い筆を突っ込み、引き抜く−−と、毛先からは透明な水飴状の薬が滴った。
「こいつを今からお前さんの大事なトコロに塗りこんでやる」
続けてもう一人の男も筆先を瓶に浸し、薬をすくい出した。
「こないだの忍びは、塗った薬が乾かねぇうちにも腰を振り出して涎を垂らしてたなァ」
「へ〜……そんなショッぼい忍びがいるなら、ぜひとも見てみたいですな−−−−」
後頭部を打つ鈍い音。強制的に中断される軽口。
くのいちは再度あごを掴まれ、今度は前よりも強い勢いで頭を磔台に押し付けられていた。
「小便臭いガキがいつまでもイキがってんじゃねぇぞ」
これまでの調子とは違う、冷たくどす黒い声色。
くのいちを見下ろす目つきも、下卑た性欲を失って代わりに鋭さを帯びている。
「ヤだなぁ……優しくしなきゃ、おなごはココロを開いてくれませんぜ、ダンにゃっ……!」
指を滑らせ頬に食い込ませ、なおも軽口を叩き続ける唇を寄せ潰した。
「はっ、にゃっふ、ひ……」
「どんだけ自信があるのか知らねぇが、早いとこ泣いて喚いたほうがラクに済むぞ」
ふいに、左の乳首にどろりとした生温い感覚が走る。
無数の毛が、何度も、何度も、小さな乳輪の上をなぞり這う。
もう一人の男が先ほどの細い筆を使い、ガタイに似合わず丁寧な手つきで媚薬を塗り込み始めたのだ。
「ふっにゅゥ、もむンゥ……」
肩が震える。くびれた細い腹と腰がヒクつき、乳房がぷるんと揺れる。
「生意気なやつにはとことんまで思い知らせてやりたくなる性分でな」
そして、寄せ潰された唇に押し付けられたのは−−図太く黒光りした張り型。
男性器の形が忠実に再現され、かつ、竿の部分にはいくつものイボが浮き出している。
男は容赦なしにその亀頭を小さな口へとねじ込み、ナカを掻き混ぜ、唾液を根こそぎ掬い取るような勢いで円を描いた。
「ほっォ、んッぐ……」
さらにはピストンの動きを加えて、クポクポと口の端に泡を溜まらせる。
乳首を責めていた男も顔を上げ、淫らな唾音に耳を澄ませ−−ピストンがちょうど十往復を済ませたところで、張り型は一気に引き抜かれた。
頬から指を離せば首が力なく垂れ、荒い鼻息と喘ぎ、糸引く唾液が床へ落ちていく。
汗に濡れた黒髪は首筋に貼りつき、熱に煽られた唾液の匂いが立ちこめる。
「後で下の口にもたっぷりと味わわせてやるからな」
鼻息は既に整いつつあるものの、湧き出る唾液は止まる気配がない。
口の中、乳首に塗りたくられているのと同じ薬の匂いが溢れている。
「あんま食べ過ぎるとッ、お腹出ちゃうし……オジさんにあげるよ、それ……」
「出されたもんは黙って食うのが礼儀だろう、嬢ちゃんよ」
再び口へと、張り型が押し込まれる。
その勢いのまま、垂れていた首を押し上げられ、後頭部がまた磔台に叩きつけられる。
潤んで赤みを差した大きな目は、男を拒絶するようにキツく睨み付けた。
男は何も言わず、悦に入った目でくのいちを見下ろし、激しいピストンを再開した。
(以上