「市、話がある」  
 お兄様が久しぶりに私のところへ訪ねてきてくれた。私は部屋で  
お花を生けていたのだけれど、話があるのならと手を止めてお兄様  
に向き合う。  
「お話って?」  
「お前の縁談を決めてきた」  
 表情を少しも変えることなく、そう告げられた。縁談。結婚相手  
を見つけてこられること自体は生まれたときから覚悟していたけれ  
ど、こうして改めて言われると辛かった。自分の想いを押し殺して  
、お兄様の決めた相手と結婚するなんて・・・。  
「・・・そう、ですか」  
「相手は近江の浅井家、浅井長政だ。知っているか?」  
 浅井様のお名前は知っていた。最近お父上を押しのけるように家  
督を継ぎ、勢いをつけている方だ。  
「存じております」  
「そうか。ならば話は早い。婚儀の時期は・・・」  
 お兄様の話は続いているけれど、もう頭には入らなかった。つい  
に、こうして嫁ぐ日が来てしまった。この、私にとって一番愛おし  
いお兄様の傍から離れて、他の方の妻となる日がやってきてしまっ  
た。  
 
 お兄様を恋しい、と思っていることに気がついたのはいつだった  
か。もう忘れてしまったけれど、物心付いたときから私はお兄様が  
いつだって一番だった。色々な方の噂も聞いたし、柴田様や木下様  
からそういった想いを抱かれていることも知っていたけれど、私の  
心はずっとお兄様だけで占められていた。  
 実の兄にこんな気持ちを抱くなんていけないとは知っていたけれ  
ど、それでも捨てることが出来なかった。いつかは嫁がなければい  
けないって知ってたけれど、それを忘れて、ずっとお兄様の傍にい  
られる夢ばかり見ていたのだった。  
 今、私の夢は最愛のお兄様によって崩れされてしまったのだ・・・  
 
「・・・市?」  
「はい、なんでしょう」  
「いや・・・顔色が悪いが、大丈夫か?」  
 あまりの衝撃に、血の気が引いているのだろうか。お兄様が心配  
げに私の顔を覗いている。純粋にお兄様が私を心配してくれている  
のが嬉しくて、思わず笑顔になった。  
「大丈夫です」  
「そうか」  
 お兄様はまだ心配そうな表情だ。今、お兄様の心の中で私はどれ  
くらいを占めているのだろうか。普段私がお兄様のことを考えるの  
と同じくらい、想ってくれているだろうか。  
 私はお兄様の顔を見ているのが辛くなって、目を伏せた。涙が零  
れてしまいそうだったのを、手を強く握ることで我慢する。切なく  
て切なくて、身が千切れてしまいそうな気がした。  
 嫁ぐのは仕方の無いことだ。織田家の女として生まれた以上、い  
つかはどこかへ嫁がなければならない。それだったらお兄様にとっ  
て一番都合の良い家へ嫁ぎ、その役割を全うするしかない。私が最  
愛のお兄様にできることは、それくらいしかないのだ。頭ではそう  
思っていても、やはり現実になるとなかなか受け入れられなかった。  
 
 色々な思いでぐちゃぐちゃになっている心を静めようと、目を伏  
せ少し俯いたままゆっくり息をしていると、お兄様が小さく呟いた。  
「市・・・すまない」  
 本当に申し訳なさそうな声色。今まで聴いたことの無いその声色  
に驚いて、顔を上げた。お兄様は眉根を寄せたままで続けた。  
「多少知っている相手とは言え、一人で近江に嫁ぐのは不安なこと  
だろう。お前を利用する形になっていることも、すまないと思って  
いる。だが浅井はこれからまだまだ伸びるであろうし、俺として  
は是非懇意になりたいと思っている。それには他の妹では駄目だ。  
お前でなければ、と思ったのだ」  
 他の誰でもなく、私でなければいけない。その言葉が、たとえ私  
の求める意味とは少し違っていても、それでも嬉しかった。きっと  
浅井家との縁談を考えていたとき、お兄様の心は私で一杯だっただ  
ろう。たとえ一瞬だったとしても、そのときだけは他のどの女も心  
の中にいなかった。私は、お兄様を独り占めすることができたのだ。  
 
 ぽた、と涙が零れた。今日着ている、大好きな桃色の着物に涙が  
染み込んでゆく。お兄様は私が涙を零すほどに心配げな表情をして、  
いつしか肩を抱いてくれていた。泣いている子供をあやすようなし  
ぐさだったが、それでも私はお兄様の大きな腕に包まれてどきどき  
してしまい、その胸に頭を預けるようにしたまま動けなかった。  
 きっと耳まで赤くなっているだろう。恥ずかしくて、早く泣き止  
まなければと思うけれど、涙は溢れ続け止まることがない。  
「市、泣かないでくれ・・・」  
「お兄様・・・」  
 すまない、けど許してくれ、とお兄様が呟いた。そんな風に謝る  
お兄様の姿を見ているのが辛く、だけど同時に愛おしかった。この  
気持ちは、もうここで告げなければ一生告げる機会は無いだろう。  
お兄様へのこの想いを秘めたまま嫁ぐよりは、想いを告げて嫁ぎた  
い。私がどう思っていたのか、知っていて欲しかった。  
「私、お兄様を・・・お慕いしています・・・」  
 溢れ出る切なさと涙と一緒に、心の奥に秘め続けていた想いが口  
から零れ落ちた。そっとお兄様の背中に手を伸ばすと、その背中は  
私の思っていた以上に広く、温かかった。  
「市・・・」  
「ずうっと、お慕いしていました・・・兄妹ということは重々承知で  
す。それでも、この想いを捨てることなんて、できませんでした」  
 お兄様は驚いたのだろう、私を抱きしめる力がふっと抜けた。そ  
れでも離れないでこの告白を聞いてくれていた。私は背中に回した  
手でぎゅっと抱きしめると、全てを吐き出す決心をした。  
 
「お兄様を、今もお慕いしています。大きな掌も、細いのに力強い  
腕も足も、広くて大きなお背中も、普段は厳しくても奥のほうがお  
優しい眼も、よく通るお声も、本当はとってもお優しい心も・・・。  
 兄妹でなければ、と思うこともありました。妹でなければ、お兄  
様の奥方になれたのに、と。ふしだらとお思いになるでしょう。そ  
れでも市は、お兄様・・・信長様を、お慕いしています・・・」  
 もし妹でなければ、一人の女としてお兄様を愛せたのだろう。だ  
けど現実は、私はお兄様とたねを同じくする兄妹だ。愛してはいけ  
ない人と頭では分かっていても、心は止められなかったし、いつか  
体さえひとつになれたら、と思うことだってあった。それほど、こ  
の人のことを慕っていたのだ。  
 このふしだらな告白が終わっても、お兄様は何も言わず、少しの  
間私たちは抱き合っていた。日は沈み始め、生ける途中で横たえら  
れ水を与えられていない花は少しずつしおれていく。それを横目で  
ぼんやりと見つめながら、ずっとこのままで居られたらいいのにと  
思っていると、今まで何も言わなかったお兄様が口を開いた。  
「市は、そんな風に思っていたのか・・・俺も、お前のことが大切だ  
とは思うが、それは」  
「信長様」  
 わざと言葉をさえぎった。その先に続く言葉を聞きたくなかった。  
きっと、家族として、妹として大切だと言うのだろう。それが分か  
っていたからこそ、聞きたくなかった。私を大切だというその言葉  
だけあればよかった。  
「お願いです、近江に行く前に、一度だけでいいのです・・・」  
 お兄様の胸に預けていた頭をあげて、じっと目を見る。どんなに  
ふしだらな女と思うだろうか。それでも、何と思われても、もう止  
められない。  
「市を、愛してください」  
 そう告げて、頬に口づけをした。  
 
 お兄様は私の言葉に何も言わず、しばらくじっとしていた。そし  
てゆっくりと私の体を床に倒して圧し掛かってきた。  
「背中、痛くないか?」  
 幾重にも着ている着物のおかげで痛くは無かった。大丈夫です、  
と答えると、お兄様はそうか、と言って袷に手をかけた。何枚かの  
着物の衿を開いていき、床に広げてゆくとそれは豪華な敷布のよう  
になった。  
 ついに襦袢一枚になると、今までゆっくりと進んでいた手は止ま  
った。  
「・・・市、本当にいいのか」  
 兄として、最後の問いかけだった。これに頷けば、一時ではある  
が、お兄様は私を一人の女として愛してくださる。それは兄と妹で  
交わるという禁忌に踏み込むことだが、それでも私の心は決まって  
いた。これから先、浅井家に嫁げば私は子を産むため何度も体を捧  
げることになる。その前に、物心付いたときからずっと慕い続けて  
いた男性に、全てを捧げたい。想いも、からだも、すべて。  
「いいのです。信長様に、抱かれたいのです」  
 そう言うとお兄様は決心したように、唇に口づけをしてくれた。  
 
「ん・・・」  
 最初はただ唇を合わせるだけのものだったのに、段々深く口を吸  
われる。唇を割って舌が口内に入ってきたとき、初めての感覚に背  
筋がじんとした。耳年増な侍女やすでに経験のある侍女がこういっ  
たことを教えてくれたこともあったが、その時にはこんな風に感じ  
るなんて言わなかったのだ。  
「んっ・・・ふ、はぁ、んぅ・・・っ」  
 お兄様の舌が私の舌を絡めとる。どうやって息をしたらいいのか  
わからなくて、激しい口吸いの合間に少しずつ息をするのが精一杯  
だった。  
「は、ん・・・っ、苦し・・・」  
 絡めとられた舌をきゅっと吸われたりする度に、だんだん頭がぼ  
うっとしてくる。靄のかかったような頭で苦しいと訴えると、お兄  
様は口を吸うのをやめて顔を離した。そのとき私とお兄様の唇の間  
に唾液の糸が一筋引かれて、それがたまらなく淫らに思え頬を染め  
た。  
 
 深い口づけから解放されて息を整えていると、お兄様の唇は私の  
首筋へと移される。舐められると不思議な感覚がして、気持ちいい  
ような逃げ出したくなるような気がして声をあげた。  
「あ、あぁっ、いやっ・・・」  
 反射的に身を捩ると、お兄様は大丈夫、と言ってまた舐め始める。  
私はもう体に力が入らなくて、舐められるたびに体をびくびくと反  
応させ声をあげるしか出来なかった。  
 腰紐を解かれ、袷に手がかかり襦袢がゆるゆると脱がされていく。  
ふと素肌に風を感じる。見れば縁側に続く襖が開け放たれたままだ  
った。侍女はさっきお兄様が来たときに下がっていったが、いつ何  
か用事で呼びに来るか分からない。こんな、兄妹での房事を見られ  
たら一体どうなってしまうだろうか。  
「信長様」  
「なんだ」  
「その・・・襖を、閉めていただけませんか」  
 わかった、とお兄様は私から離れて襖を閉める。途端に部屋の中  
は薄暗くなり、再び被さってきたお兄様の表情がよくわからなくな  
る。なんだか不安になって、お兄様の体温を感じていたくて、その  
広い背中に手を回した。  
 
 着ていたものは全て脱がされ、乳房から足の付け根の茂みまでが  
視線にさらされる。何もかも見透かされているようで恥ずかしくな  
り、私は顔を背け呟いた。  
「恥ずかしいから・・・見ないでください」  
「いや、よく見せてくれ」  
 そう言ってお兄様は私の胸に手を伸ばす。そっと掌を被せられる  
と、あまり大きくはない私の乳房はその掌にすっかり覆われてしま  
った。最初はただ被せたまま動かさなかった掌が、少しずつやわや  
わと揉むような動きをみせると、私はくすぐったい感触に身を捩っ  
た。それが長く続き、最初はただくすぐったかっただけなのに、段  
々と変な気持ちになってくる。洩れてしまう声も、上擦ったような  
妙な声色になっていた。  
「・・・っ、は、ああっ・・・!ん、あ、ああぁっ・・・」  
「気持ちいいか」  
 まっすぐに問うお兄様に、私は答えられなかった。この感覚が不  
快ではないというのは直感で理解できていたが、口を開き言葉にす  
ることができなかったのだ。ただ口から零れる声色でお兄様は判断  
してくれて、時折強弱をつけたり唇で頂を摘んだりと、私の乳房を  
長い間愛してくれた。  
 
 そのうち背中に感じていたじんじんとした感覚が、いつの間にか  
自分の足の付け根で起きているのに気付いた。私がもじもじと腿を  
擦り合わせていると、お兄様は乳房への愛撫を一時やめて、掌をそ  
の茂みへと下ろしてきた。  
「・・・!あ、何・・・!」  
「少しずつ、慣れてきたようだな」  
 お兄様の掌が私の茂みの丘を覆い、ゆっくりと揉み始める。初め  
てそこを男性に触られたことに、覚悟していたこととは言え驚いて  
しまい、私は顔が耳まで赤くなるのを感じた。それを見てお兄様は  
笑い、  
「可愛いぞ」  
と赤くなった耳元に口付けた。そしてそのまま耳をねっとりと舐ら  
れ、耳に大きく聞こえる水音や吐息にまた足の付け根がぞくりとす  
る気がした。するとお兄様の指が花芯を捉え、その感触に驚いて大  
きな声をあげてしまった。  
「きゃあっ・・・!そ、それ・・・ああぁっ」  
「これがお前のおさねだな・・・痛くはないか?」  
 くりくりと指先で転がされ、えもいわれぬ感覚に私は踊らされて  
しまい何も答えることが出来ない。出来るのは身を捩り悶えること  
だけだった。涙がじんわりと浮かび上がってきて、やっと薄暗さに  
慣れてきた視界がぼんやりと霞がかる。  
 
 お兄様の指は芯をひたすら弄り続け、時折私の乳房や首筋を舐っ  
たり、足の付け根の筋をゆっくりとなぞるように触れていた。そし  
てちょん、と指を中に差し入れる。  
「あ、あぁんっ・・・や、そんなところ・・・」  
 恥ずかしさに口を閉ざすと、お兄様は中に差し入れた指をゆっく  
りと動かした。くちり、と微かではあるが水音がそこから響いてい  
るのが聞こえた。  
「濡れておるわ」  
「・・・っ、いやっ・・・言わないで・・・」  
「聞こえるだろう?」  
 そこが濡れる、ということは知識としては知っていた。だけど体  
験するのはもちろん初めてだし、それが淫らな証しだと思っている  
ので、濡れている、と意地悪そうに笑いながら何度も告げられる度  
に、羞恥でどうしようもない気持ちになった。  
 と、唐突にきゅっと芯を摘まれた。急な刺激に体を妙な感覚が貫  
く。  
「いやぁっ!あ、はぁっ、あん・・・!」  
 驚いて声を上げると、お兄様はまた意地悪そうに笑った。まるで  
私を翻弄することを楽しんでいるようだ。それに対して不快に思う  
ことはない。むしろ、お兄様によって全てを奪われているというこ  
とが快感だった。  
 
 何度か芯を摘まれていると、よくわからない感覚が体を襲った。  
背筋だけでなく全身がぞくぞくとして、それは段々高まってくる。  
意識が何処かへ飛んでいってしまいそうだ。  
「あ、あっ、信長様・・・」  
「市?」  
「や、何か、おかしくて、ああぁっ・・・!」  
 何かが来るのか、それとも何処かへ行くのか、よくわからない。  
ただ何かが起こる予感がするだけ。私はその得体の知れない感覚を  
ひたすらに訴えた。未知のこの感覚が怖くて、だけど今こうされて  
いることが不快ではなくて。混乱しきった頭で出来ることは、思う  
ままに声をあげることと、お兄様の背中をぎゅっと抱き寄せること  
だけだった。  
「大丈夫、怖くないからな・・・」  
「ん、ああっ、は、信長様、あっ、やああぁっ・・・・・!  
 宥めるように呟いた後、お兄様がひときわ強く芯を刺激した。  
それが合図になって、何か波に押し流されるように、私の意識は真  
っ白になった。  
 
 指を差し入れられたそこがびくびくと震えているのをぼんやりと  
感じながら、息を整える。体の力がすうっと抜け、お兄様の背中に  
回していた腕が解けていった。するとお兄様が私からそっと離れ、  
下帯さえ取り去って私と同じ一糸纏わぬ姿になった。  
 何も考えることが出来ず、またお兄様が圧し掛かってくるのだけ  
感じた。今度は素肌と素肌がじかに触れて、先程よりも近くにいて  
くれているように思えた。お互いの体は熱く、溶けて交わりあって  
しまうような気がしてくる。ふと一際熱いものが、私のお腹のあた  
りに触れた。それが何かは幾度も話に聞いていたから、なんとなく  
分かる。  
「信長様・・・」  
 私がそっとそれに手を伸ばすと、お兄様は驚いたように体を固く  
する。はしたない女だと思ったのだろうか。私は自分からそれに触  
れたことを後悔した。  
「怖くないか」  
 お兄様は心配そうに聞いてくる。だけど私はお兄様のそれも、こ  
うしてこれから交わることにも、何も怖いと思わない。怖いのは、  
お兄様から離れてしまうことだけだ。  
「いいえ。信長様が傍にいてくだされば、何も怖くなど」  
 そう告げると、お兄様は嬉しそうに、同時にどこか切なそうに笑  
った。その笑顔が愛おしくて、私も笑った。だけどやっぱり切ない  
思いも湧いてきて、泣き笑いのような妙な表情になってしまう。そ  
の表情を見られたくなくて、私は上にかぶさるお兄様の胸元に顔を  
埋めた。  
 
 お兄様が自分のそれに手をやり、私のそこへ宛がう。痛くて我慢  
できなかったら言え、と告げられると同時に、お兄様が中へとぐい  
ぐい入ってきた。  
「・・・・・・っ、い、ああっ・・・」  
「市、あ、く・・・」  
 痛かった。自分が裂かれてしまうような、そんな気がした。だけ  
ど目を開けるとお兄様も苦しそうな表情で、確かにすごく痛いけれ  
ど、やめて欲しいとは思えなかった。痛くて痛くて死んでしまうか  
もしれないと思ったけれど、お兄様に裂かれ死ぬのなら本望だとさ  
え思った。  
 裂かれる衝撃に息を細かく吐きながら、ただ全てが収まるまで耐  
えていた。しばらく経ってお兄様が進んでくるのが終わり、私は中  
がそれで一杯に満たされているのを感じた。  
「・・・っ、これで、全部だ・・・痛いか・・・?」  
「痛いけど、でも、嬉しいです・・・」  
「市・・・っ」  
 嬉しさで涙が零れそうだった。結ばれることは決してないのだと  
心の奥にしまい込んでいた想いが、成就したのだ。  
 お兄様はそれからゆっくりと動き始めた。抜き差しが繰り返され、  
中が擦れて痛いとは思ったが、お兄様の苦しいような何かを堪える  
ような表情を見つめたまま受け入れていた。そのうち、また何か押  
し寄せる感覚が体を襲った。  
「ああっ、あっ、信長様・・・は、あんっ」  
「市、あ、はぁっ」  
「あ、また、また何か、ん、あ、あああっ・・・・・!」  
「くうっ・・・」  
 お兄様のそれは大きく膨れ、私が波に押し流されるのと同時にそ  
こから引き抜かれた。  
 
「・・・っ、く、ふぅ・・・っ」  
「は、あ・・・・・・」  
 引き抜かれたそれからは白濁のしずくが飛び、私の腹の上に散っ  
た。ぬるりとしたそれにゆっくり触れ、よく見ようと顔に近づける  
と、なんとも言えない生臭い臭いがする。少し顔をしかめると、お  
兄様が私の頭をくしゃりと撫でて、笑った。  
「それが子種だ」  
「たね、ですか?」  
「そうだ。中で出せば子を成すことができる」  
 だからお兄様は外で子種を出したのか。これから嫁ぐ女に子が  
宿っていてはいけないから。さっきまで繋がっていたときは兄妹と  
いう壁も何もない、ただの互いを求め合う男女だと感じられたのに。  
その言葉でまた二人の間に壁ができたような気がした。  
 私はこの人との子を成してはならない。それでも、この人の子だ  
ねでさえも愛おしくて、私は子だねのついた指を口へ入れた。  
「お、おい」  
 お兄様は私の行動に驚いている。私は丁寧に指から子だねを舐め  
とった後、お兄様のそれにもゆっくりと口を近づけた。自分の中に  
入っていたそれが、とても愛おしかったのだ。お兄様の大事なそれ  
が。  
「市!」  
 吐息がそれに触れるほどまで近くに寄ると、お兄様は強く私を止  
めた。怒ったような途惑うような顔をしている。私はそれにそっと  
手を這わせ、言った。  
「信長様のこれが、愛おしいのです・・・」  
 
 熱っぽい目で訴えると、お兄様はもう止めなかった。私はそれに  
口を寄せ、まずそっと舌を出して竿を舐めた。とても生臭くて快く  
はなかったが、それさえも堪えられるほどに愛おしかった。  
 舌を這わせていると、咥えてくれ、と言われた。私はそっと竿を  
口の中に入れる。それは大きく根元まで咥えることができなかった。  
さて言うとおりに咥えたものの、私はそれからどうしたらいいのか  
分からず、とりあえず飴を舐めるようにその先端を舌で弄った。私  
が闇雲に、だけど必死に弄るたびにお兄様が堪えるような声をあげ  
る。それが嬉しくて一心不乱に続けていると、今度は前後に顔を動  
かして擦るように言われた。  
「ん、んぅ、ふぅ・・・っ」  
「そう、そうだ・・・市、上手いぞ・・・う、くぅっ」  
 褒められて嬉しくなり、ますます一生懸命になる。そのうちまた  
それは大きく膨らんできて、口に中々収めづらくなってきた。先の  
方からも何かぬるぬると苦いものが出てきている。手も使うんだと  
指導され、両の手で口に収まらない部分を擦りあげる。  
「ふ、うん、ん・・・はぁ、ん、んう・・・」  
「市、あ、出るぞ・・・っ!」  
 じゅ、と強く先を吸い上げると、お兄様は今までそれを咥えてい  
た私の顔を無理に引き剥がした。すると目の前でそれから子だねが  
勢いよく溢れ、今度は腹ではなく私の顔に降りかかった。  
「あ、はぁ、ん・・・ふ、信長様・・・」  
 顔にかかった子だねをまた指で掬い舐めていると、お兄様は私を  
抱きしめてくれた。それからべとべととした顔や腹を懐紙で拭い、  
しばらくは二人して敷布のように広げられた着物の上で抱き合って  
いた。  
 
 
 輿入れの日がついにきた。  
 花嫁衣裳を着た私は、これから輿に乗り近江へと送られる。すっ  
かり支度を整え、あとは時を待つばかりとなった私の部屋へお兄様  
がやってくる。  
「市・・・」  
「お兄様」  
 私は重い花嫁衣裳を引きずり、お兄様の傍へ近づく。見上げると  
お兄様は笑っていた。  
「長政は俺が見込んだ男だ」  
「分かっていますわ」  
 幸せになれる、幸せになれ、と言外に伝えられる。私は内心、お  
兄様の傍にいられる以上の幸せなどないのに、と思いながら笑い返  
した。  
「さあ、そろそろだ」  
「はい・・・」  
 私はそっと座り、指をきちんとそろえ、万感の思いをこめてゆっ  
くりと頭を下げる。  
「ありがとう、ございました」  
 もうこの人の傍には居られない。私は浅井様の元へ嫁ぎ、その子  
を成さなければならない。それは辛いかもしれないし、もしかした  
ら、浅井様を好きになれれば、幸せになれるかもしれない。一体ど  
ちらになるかは分からないけれど、どちらにせよ私はお兄様と過ご  
した時を決して忘れずに過ごしていこうと思う。  
 大切な部屋、お屋敷、そしてお兄様。全てから離れてしまっても、  
そこで過ごした時と思い出は、たとえ命尽きても手放さない。  
「・・・市、お前と過ごした時は、忘れないよ」  
 お兄様は私の手を取って立たせ、屋敷の廊下へと促した。そうし  
て輿に乗るまで手を繋いでいてくれた。そのお兄様の掌の大きさ、  
温かさを思い返しながら、私は輿の中でひとり涙を零した。  
 

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