―『慶次と幸村とくのいちと・・・』(幸村×くのいち、慶次×???)  
 
 
 
「はぁ〜、つまらんなぁ〜。楽な戦はつまらんなぁ!」  
 
遊女と共に舞を踊り、慶次は退屈を紛らわせる。  
顔は笑っているが、その胸中はまったくすっきりしていない。  
その様子を、幸村は寂しく見つめていた。  
 
「楽な戦で、結構ではないですか。」  
 
「わかっとらんなぁ〜!幸村ぁ!」  
 
どっこいしょ、という声が出そうな物腰で座敷に座ると、慶次はキセルで幸村の鼻先を指した。  
 
「勝ち戦の何が面白い!負け戦を勝ち戦にしてこそいくさ人の花だ!」  
 
だが、幸村にはわからなかった。  
理由が無ければ、自分は戦えない。  
―『義』・・・・・・それが唯一自分が戦える理由だ。  
直江山城守兼続と治部少輔石田三成、この二人と結んだ『義』の為に、今は戦える。  
だが、慶次は違う。  
戦を傾奇者の嗜みのようにとらえている。  
そして死んだときは死んだとき、好きなように野垂れ死ぬのを覚悟している。  
 
(慶次殿には、悩みなどないんだろうな・・・)  
 
慶次は暇だった。  
莫逆の友である直江山城は、主君上杉景勝の傍で軍略を計っている。  
とてもじゃないが、共に座敷で酒を・・・とはいかない。  
じきに終わる戦ではあるが、まだまだ兼続の働きはある。  
では戦は?というと・・・それも出番がない。  
というより、もう目立った戦場がないのだ。  
慶次と幸村が参陣した戦以降、すべて他の豊臣恩顧の武将が戦を仕切っている。  
幸村は父昌幸が陣を取る戦に参加していたが、それももう終わってしまった。  
幸村の助太刀という形で参陣した慶次も同時に仕事を無くした。  
・・・かと言って、前田家を出奔した慶次には、利家の仕切る戦場に駆ける事も出来ない。  
・・・つまり、あとはこの小田原城外の遊郭で遊ぶしかないのだ。  
 
「ねぇ〜、慶様ぁ〜ん♪今日はアタシと遊んでよぉ〜。」  
 
「あ〜!今日はアタシと遊ぶって言ったよねぇ〜?慶さ〜ん」  
 
「ん〜、いっそ二人いっぺんにするか!?」  
 
「「きゃ〜!」」  
 
「・・・・・・・・・・・・。」  
 
幸村は辟易していた。  
やる事がないとはいえ、日毎の遊郭通い。  
最初は自分のこの鬱積した思いを少なからず紛らわせることが出来るか、と思っていたが・・・。  
 
「ゆ・き・む・ら・さ・まぁ〜ん♪ねねね、あっちでにゃんにゃんしようよぉ〜♪」  
 
「っ!?そ、そなた!?」  
 
「いひひ〜♪びっくりした?」  
 
突如甘い香りが耳元を漂う感触に、幸村の背筋は震えた。  
白い忍び装束を来た、少女。  
幸村お抱えの忍びである。  
といっても、その素性は幸村自身も知らない。  
武田の忍びか真田の忍びか?  
だが、その素性を幸村は気にすることはなかった。  
忍びは決して素性を明かさない。  
気にするだけ無駄なのだ。  
 
「どうしたのだ・・・。このような場所に・・・。」  
 
「えへへ♪あたし、お城の中入ってきたよぉ〜♪そのご報告っ♪」  
 
「そうか。・・・それで、どうだった?」  
 
「も〜、めちゃくちゃ!内部崩壊5秒前ーっ!ってカンジ。氏政のおっちゃん、人を信じられなくなってるよ、ありゃ。」  
 
「・・・そうか。降伏も間近だな。」  
 
「えっへへへ〜♪」  
 
「・・・・・・・・・?」  
 
幸村は怪訝な顔をした。  
くのいちが報告を終えても、下がろうとしないからだ。  
 
「まだ何かあるのか?・・・あるならさっさと申せ。」  
 
「ん〜ん、そうじゃないって〜。」  
 
くのいちは語ろうとしない、下がろうとしない。  
嬉々として幸村を見つめ微笑んでいる。  
まるで犬が主人に褒美を貰うのを楽しみにしているかのように・・・。  
 
(そうか・・・。)  
 
幸村はその答えに行き着くと、顔を染め、くのいちに見られないようにその顔を背けた。  
 
「あ!あ!?感じちゃった!?あたしの想い、感じちゃったかにゃ〜?」  
 
「そなたは・・・。・・・まったく。」  
 
幸村は呆れた。  
そして同時に、忍びのくせに可愛らしいとも思った。  
お抱えの忍びとして、護衛として・・・そして夜伽の相手として、これほど自分に尽くしてくれるくのいちもいない。  
幸村は、十勇士の皆と同じく、自分には勿体無いと思っていた。  
・・・・・・ただ、そのちょっと変わった性格を除いては。  
 
「幸村様ぁ〜ん♪ごろごろごろ・・・・・・」  
 
胡座をかいた幸村に、猫のようにくのいちは潜り込んだ。  
頬を寄せ、幸村の胸板にぬくもりを感じ取る。  
・・・と、くのいちは気配を感じた。  
しかし、それはこの場にはそぐわない、場違いな気配だった。  
 
「・・・・・・敵方か?」  
 
幸村はくのいちに問いた。  
 
「ん〜ん・・・。」  
 
もののふでもない・・・遊女でもない・・・世話役の町人でもない・・・。  
もっと高貴な・・・。  
 
スッ!という襖の開ける音を聞き、慶次は振り返った。  
・・・そして、途端に息を呑んだ。  
その人物が座敷に入ると、途端に舞を踊り騒いでいた遊女達もたちどころに静かにその人物に見とれていた。  
そして遊女達は、幸村とくのいちを慶次とその人物のいる座敷のとなりに連れて行った。  
幸村もそれに従った。  
理由はわからないが、そうするべきだと、慶次の表情から読み取っていた。  
遊女達は隣の座敷に移動したが、それでも慶次とその人物のやり取りを知りたくて、襖をわずかに開け、覗いていた。  
 
(慶次殿も・・・悩む事があるんだな・・・。)  
 
座敷を移る際の、慶次のはにかんだ・・・困ったような顔を幸村は見逃さなかった。  
 
慶次とその人物が向かい合っていた。  
慶次は照れくさそうに、頭を掻いた。  
言葉が見つからない。  
だが、そんな慶次を気遣った先方の方から、声がかかった。  
 
「息災で何よりです、慶次殿」  
 
「・・・・・・おまつ殿。」  
 
―続く  
 

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