「クク……どうした? もう、抗わないのか」  
 捕らえた極上の獲物に、風魔小太郎がさも愉しげに問いかけた。十本の赤黒い縄が、  
得物を取り上げられた相手の身体を、がんじがらめに縛りつけている。そして、そのうちの  
一本は非情にも、口内にもぐり込んでいた。  
 
「……んっ、んぐっ……んー、むふぅ……」  
 稲の口から、返事は出てこない。野太く長大な異物を、接吻も知らない可憐な唇に突き  
込まれては、言葉を発することさえできない。ただ目に涙を浮かべ、苦悶にうめくだけだ。  
「ほぅ……そんなに舌を絡めるとは……よほどこの指がお気に召したらしい」  
 指先に稲の舌のぬめりを感じ、小太郎が目を細めた。縄に見えたのは、小太郎の指だった。  
それが指とは思えないほど長く長く伸び、稲を緊縛している。  
「んんっ、んむー、んむぅ!!」  
(ち、違う! 私はそんな、ふしだらな女ではありません)  
 そう抗議したかった。けれど、身体は嘘をつかない。袴の下の秘貝がしっとりと湿ってくる。  
純真無垢な女与一が、被虐の悦びに目覚めようとしていた――  
 
『外伝 稲姫淫虐の宴』  
 
 小田原参陣から約十日後。  
 
 参陣の重圧と膠着する戦況は、とうとう稲を無謀な行動へと駆り立てた。  
『本多忠勝の娘に、徳川家臣に恥じない働きを……』  
 稲は、はやる気持ちを抑え切れなかった。家康に強く請い、数人の供回りの娘たちと共に、  
裏手への強行偵察を企てる。  
『敵の弱点を見抜ければ小さくない手柄、きっとあの方も感心してくださる』  
 風魔がそれに気付かぬと思ったのだろうか。甘い読みの代償は、あまりにも大きかった。  
 
 裏庭に踏み入ったところで門を閉められ、稲の部隊は孤立してしまう。  
 小太郎の狩りが始まった。  
 目には見えぬ風の刃で得物だけを破壊し、全員を無力化する。命を救うためではなく、  
更なる混沌のために。  
 潜んでいた風魔忍軍が、丸腰の娘たちに襲いかかった。衣を剥ぎ、犯し、殺す。劣情に  
かられたからではない。ただ、小太郎の指示の通りに、稲には指一本触れず。  
 
 その中には、稲に一人遊びを教えた侍女もいた。もともと淫乱だったのだろう。彼女は  
生還を諦めると、早々に理性を手放した。どこが忍びなのかと思うような力士のごとき巨  
漢に、自ら貫かれる。  
「あはあ、すっごおおぉい、ぶっとい千ソポコが才マソコにずんずん来てるよぉ!!」  
「な……何を、言っているの……? それ、どういう意味……」  
「ひああっ、姫様も見ればハメてるの分かるくせにひぃぃ!」  
 正気を失い、稲が理解できないような卑語をわめき散らして、巨根を貪る。やがて肉体  
が先に限界を迎え、裂ける。それさえ快とし、蕩けた笑みを浮かべながら、絶命した。  
 そして、純潔を散らされた娘たちの屍の中、穢れなき稲だけが残された。  
混沌への贄として。  
 
「い、嫌……これが男なの……? 男なんて、男なんて……」  
 静かに歩み寄る小太郎を前に、逃げることも立ち向かうこともできない。  
「すぐに気に入る」  
 小太郎が、血の気のない両手の掌を稲に向ける。そこから指が六尺あまり(約2メートル)も  
伸びるに及んで、稲は完全に恐慌に陥った。毒蛇のごとき十指が、立ちすくんだ稲の  
手首・足首・胴に次々と絡む。  
「いやああっ! ち、父上、助け……ふぐっ」  
 そしてとどめに、口がふさがれる。  
「んんんん――!!」  
 地獄の始まりだった。  
 
(悔しい……せめて一矢、この男に報いたい!)  
 稲にも武士(もののふ)として、何より女として意地がある。不埒な侵入者を噛みちぎろうと、  
懸命に歯を立てた。それが小太郎の思う壺だとも知らず。  
 どぷっ。  
 刺激を受けた指先から、ひどく粘り気のある汁がにじみ出る。それを飲み下してしまった途端、  
稲は身体がひどく熱くなるのを感じた。  
(ど、どうして……戦の最中だというのに……)  
 夜毎の自慰で味わう火照りが、こともあろうにこの状況下で襲ってくる。  
(くっ、早く噛み切らないと……)  
 だが、指を噛めば噛むほど毒液は甘さを増し、喉を心地よく通る。それでいてしつこくない。  
いくら飲んでも飽きの来ない、まさに甘露であった。  
 
 その淫汁は最近発育著しい、稲の肉体をも目覚めさせていく。  
 
(くあっ! こすれるのが、いい……? そんな……)  
 硬い胴鎧の下で、桜色の可憐な乳暈(にゅううん)がしこりだす。その先端がこすれると、  
思わず身体を震わせてしまう。心なしか、乳房全体がふくらみを増した気までする。  
普段はなんとも思わぬ鎧が、今は、はち切れそうなほどにきつい。  
 
 下半身の反応はさらに露骨だった。『お雛様』の合わせ目が緩み、中から稲自身のひめ  
やかな匂いが立ちのぼる。そこに直接触って慰めることはできない。なんとかごまかそうと、  
腿をもじもじとすり合わせる。袴の上からでも、その代償行為がはっきり見てとれた。  
 
 まっすぐであるがゆえ、穢れを知らぬがゆえ、稲は脆かった。たちまち、理性は決壊寸前まで  
押し込まれていく。  
(ま、負けてはいけない。本多のため、徳川のため)  
 父、家康。大切な人の顔を思い浮かべ、煩悩に立ち向かうが、  
(ダメ、やっぱり美味しい……気持ちいい……もっと、もっとください……)  
 燃え盛る若き肉欲に、その残像はかき消されていく。  
「あむっ……ンロッ……レロンッ……」  
 攻撃的な歯の動きは止まり、優しく、まるで慈しむように舌を動かしはじめた。  
(こうすれば、いっぱい出してくれるのですか……? 素敵な般若湯を……)  
 もう、逃げ出そうという気持ちも失せていた。父以外の陽根を見たこともない、まして  
口唇愛撫など存在も知らなかった稲が、口の純潔を自ら捧げてしまったのだ。  
 
「……さらなる混沌を……」  
 舌の動きが変わったのを読み取った小太郎は、薄く嘲笑うとさらなる陵虐に着手した。  
 
 足首に巻きついていた指の一本が、螺旋を描いて稲の美脚を登りはじめた。  
 下帯は着けていない。  
 その付け根まで、侵略をさえぎる物は何もない。  
 
 そのまま『お雛様』へ伸びるかと思われた鎌首は、引き締まった尻肉の間へと落ちていった。  
(え……そ、そこは……おし、り……?)  
 恍惚としていた稲が、不吉な予感に口淫を止める。  
 そこには、少しくすんだ可憐な菊花が息づいていた。  
 自慰のときでさえ、ここを使ったことはない。まさに『お雛様』以上に秘められた孔であった。  
混沌を好む凶つ風は、生娘のまま、その秘花を先に手折ろうとしていたのだ。  
 
「やんごとなき姫君も、不浄の孔はお持ちか。人のは身体は誰しも、そう変わらぬものだな」  
「んはああっ! き、汚……あ、あ、あ〜っ」  
指先を軽く押し込み、つついてやる。それだけで稲は口から指を吐き出し、きりっと束ねた髪を  
大きく振り乱しながら、悶えた。  
「今から、ここを浸食してやろう。存分に悦べ、壊れなければな」  
「しん……しょく……稲は、挿れられてしまう、のですね……嗚呼……」  
 そのため息には、絶望と期待が入り混じっていた。  
 
 長い爪を持つ小太郎の指を、腸(はらわた)の奥まで挿入されようものなら、脆弱な内部  
粘膜は取り返しがつかないほど傷ついてしまう。だが今の稲に、それを拒む力も意志もない。  
花弁がめくれ返り、魔人の触手を従順に受け入れようとした……  
 
「何……」  
 狂宴は、天より降り来たる稲妻によって突如終わりを迎えた。  
 頑強に打ち付けられた裏門が、粉々にはじけ飛ぶ。その破片と共に、一人の鎧武者が  
魔界と化した庭園に踏み込んだ。そのまま、その身を迅雷と化して小太郎に斬りかかる。  
 さすがに小太郎も行為を中断せざるを得ない。瞬く間に指を縮め、稲の肢体から引き抜くと、  
すかさず斬撃を篭手で受け止めた。  
 
「小田原は落ちたも同然だ! しかるに主を守らず、女を辱めるとは、ゲスが……!」  
 その鎧武者、立花ァ千代は、まさに鬼の形相であった。いかに険しい顔をしているか、  
本人にも分かっていないだろう。  
 そんな彼女を前にしてさえ、小太郎はいささかも動じない。  
「無能な主に興味はない。そんなことよりこの娘が堕ちる様は、実に愉しき座興であった」  
「稲、殿……」  
 小太郎の足元で倒れている稲の無惨な姿に、ァ千代は愕然とした。  
「望むならくれてやる。混沌の種は、すでに植えつけたからな」  
「ぬうっ」  
 髪を乱暴につかむと、小太郎は稲をァ千代に投げてよこした。慌てて受け止める。  
 
「ひとつ、予言をしてやろう。うぬもまた、この娘によって混沌に堕ちる。道ならぬ道が  
待っているであろう……せいぜい愉しめ」  
「黙れ!」  
 怒りを刃に乗せて、名刀・鴻爪迅雷を振り下ろす。だがそれは、風を斬っただけだった。  
風魔小太郎は、こうして歴史の闇に消えた……  
 
 後北条の命運と共に、陽も西に傾き、世界を茜色に染め上げる。ァ千代は稲を  
抱きかかえながら、沈む夕陽を眺めていた。  
 
「稲殿が風魔を引きつけてくれたおかげで、勝てた。感謝する」  
 抜け駆けは褒められたものではないが、責める気にはなれなかった。  
「立花、様……うぅ……」  
 稲が、苦しそうにうめく。  
「何だ」  
「死にたい……死なせて……」  
「甘えるな」  
 返答は一瞬だった。  
「っ! う…………」  
 鴻爪迅雷の柄頭から微弱な電流を流し、優しく気を失わせる。  
「死んだら負けだ。立花が証明してやる。稲殿が――汚れてなどいないことを」  
 
これが『道ならぬ道』の始まりなのか。それはまた、別の物語である。  
 
終わり  
 

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