「誾稲白百合の宴」 前編 稲が御奉仕いたします  
 
 兵(つわもの)たちの血を吸って、小田原の空が紅く染まる。  
その夕焼けの下で二人のもののふが、城すぐ近くの道端に座り込み、傷の手当にいそしんでいた。  
 
 流れるような黒髪を高く結い上げた袴姿の娘は、本多忠勝が息女にして徳川家康が養女の稲。  
 紫色の重甲冑に身を固めた短髪の女剣士は、立花家当主誾千代である。  
「つっ!」  
 柔肌に塗りこまれた膏薬がしみる。稲は凛とした顔をしかめた。引き締まった二の腕に、  
血がにじんでいる。  
「こんなところだろう。どこか、他に痛いところはあるか」  
「だ、大丈夫です……」  
 手当もできなければ、戦場で生き残ることはできない。その点でも、誾千代は優れた  
もののふであった。  
 打ち身やかすり傷はあったが、骨に異常はないようだった。軽傷といえよう。身体の傷に限れば。  
 
「ここからは立花の陣が近い。しばし休んではどうだ」  
「お心遣い、ありがたく存じます」  
 稲は命の恩人に深々と頭を下げた。  
「されど、一刻も早く父上や殿に、私の無事を知らせなくてはなりません。それに……部隊の被害も……」  
 落城したばかりの小田原城を見上げる。ほんの一刻前、彼女に地獄を見せた城を。  
 従軍していた侍女たちは、風魔忍軍による凄惨な陵辱の果てに殺された。彼女たちが風魔の  
暴威を引き受けてくれたからこそ、稲は生還できたと言える。  
 救出直後は『死にたい』と口走り錯乱していた稲も、部下の死を乗り越えて生きると決心したようだ。  
 
「そうか。貴様の好きにするがいい」  
 誾千代はつまらなそうに横を向いた。  
「立花も……その方が楽だ」  
 唇を尖らせたその表情が、いつになく子供っぽい。言葉とは裏腹な思いを感じ取り、稲は  
クスクスと忍び笑いを漏らしていた。  
「もうっ、立花様……これしきのことで、稲は負けませぬ。さあ、参りましょう……」  
 袴の土ぼこりを払い、稲はすっくと立ち上がろうとした。  
 
 その膝が、がくりと落ちる。  
 立てない。  
「あ、あれ?」  
「…………!!」  
 よく見れば、脚が小刻みに震えていた。何度やっても、無様に膝をついてしまう。  
「ねえどうして、あはは、あはははは……!!」  
 何がおかしいのか。稲はけたたましく笑いはじめた。笑いながら、その目から涙が溢れ、  
とめどなく流れ落ちる。  
 もう、見ていられなかった。  
「もう、やめろ!」  
 一喝するや否や、誾千代は稲に駆け寄り……  
 
 きつく抱きしめていた。二人を隔てる鎧が、やけにもどかしい。  
(細い……かくも華奢な身体で男どもと渡り合っていたとは……)  
「あは……は……」  
 稲はなおも笑おうとする。そうすることで、現実から目を背けようとしていた。  
 誾千代はそれを許さない。このままでは、本当に稲が壊れてしまう。  
「辛いのだろう、苦しいのだろう!? 傷ついた自分を、否定するな!」  
 叱咤の声が、過酷な現実と稲を向き合わせた。笑い飛ばすことなどできない。狂おしい  
哄笑はやがて、嗚咽にとって代わる。  
「みんな、みんな汚されて死んだのです! わ、私も……男なんて、男なんてえぇぇ!」  
 稲の気が済むまで、誾千代は自分の腕の中で泣かせてやった。  
 
「少しは落ち着いたか」  
「ひっく……どうして……」  
 しゃくりあげながら、稲が尋ねる。充血した目が痛々しい。  
「ん?」  
「どうして立花様は、私などにここまでしてくださるのですか?」  
「なぜ、って……」  
 いつもの誾千代なら、こんなに親身にはならないだろう。いつになく優しいふるまいに、  
稲は驚いていた。  
 そして、誾千代自身も。  
 稲の涙を見た途端、身体が勝手に動いていた。『気丈に振舞う稲が哀れだから』という  
理屈だけでは説明のつかない衝動が、誾千代の背中を押していた。  
 思案の外にある感情の名を、彼女は知らない。  
「あー、立花はだな……一人のもののふの心が折れてしまうのを、放っておけぬだけだ。  
べ、別に魂胆があるわけではないっ」  
 頬に紅葉を散らしながら、苦しい言い訳をするのが精一杯だった。  
 
 さて、どうすれば稲を絶望の底から救い出せるのだろう。  
 稲は女として、深い傷を負ってしまった。いくら慰めの言葉をかけても、今の彼女は癒せまい。  
鍛錬もまた、自分を追い込むだけだ。  
 誾千代は思う。今は何よりも、心静かに過ごせる時が必要だと。それも、独りではなく  
誰かと共に。  
(誰か、だと?)  
『稲に立ち直ってほしいと強く願う、男ではない者』――答えの出ている問いではないか。  
(仕方ない、他に適任者はいないのだ。難題を人に押し付けるなど、立花の誇りが許さぬ)  
 
 一度決めれば、もう誾千代は迷わないことにした。  
 白魚のごとき稲の指先を、両手でそっと包み込む。頑丈な籠手を着けた手では、少しでも  
力を入れると砕けてしまいそうだった。  
 
「それより稲殿。このまま筑後に帰るのは惜しい。今宵くらいは、小田原の湯にゆるりと  
浸りたいものだな」  
「え、そ、それは……もしや私もご一緒に……?」  
 やはりと言うべきか、稲は戸惑いを見せた。誾千代はそれを、人質に取られることを警戒  
しているのだろうと解釈する。  
 揺れる瞳を、いつになく優しいまなざしで見つめた。  
「立花を信じよ。誓って、卑怯な真似はしない。ただただ、稲殿のためなのだ」  
「……はい……立花様……」  
 
(嗚呼。今宵は、帰していただけないのですね)  
 誾千代の澄んだ瞳に、艶やかな唇に、稲はすっかり魅せられていた。しかもその唇から、  
自分を求める言葉が紡ぎだされているのだ。首を横に振るはずもなかった。  
(父上。稲は一晩だけ、悪い娘になります)  
 誾千代にもたれかかる。鎧に覆われているはずなのに、その時確かな温もりを感じた。  
 
 深いため息がひとつ、湯殿に響く。  
 
 檜の香りが立ち込める中、稲は広々とした湯船にその身を浸していた。窮屈な鎧を脱ぎ捨て、  
きりりと束ねた髪もほどくと、ようやくもののふの自分から解放された気分になれる。  
 磨き上げられた肌は、戦で返り血を浴びたばかりとは思えない。それもそのはず、洗い場で  
丹念に清めていた。汚されたことを一刻も早く忘れるため、そして綺麗な身体を誾千代に  
差し出すため。  
 透けるように白い肌の上で、下腹の濃密な茂みが揺らめく。そこの手入れも怠りない。  
万が一にも不快な匂いなどさせてはならないと、幾度も手櫛を通していた。  
 
 稲のため、誾千代は城下のとびきり上等な宿をとってくれた。怪しい輩は泊まらず、  
主人も余計な詮索などしてこない。骨休めにはまたとない環境といえた。  
(立花様も、先ほどこの湯船に……)  
 部屋に着くや否や、誾千代は稲を誘おうともせず、さっさと一風呂浴びに行ってしまった。  
そしてあっという間に小袖姿で戻ってきた。  
 なじるつもりはない。正直、安堵していた。誾千代の露わな肢体など目にしてしまったら、  
自分を抑えられなかったに違いない。  
 今でさえ、両手は胸と秘め所に伸びようとしていた。だがここで本格的に慰めると、  
間違いなくのぼせてしまう。  
(駄目。立花様に愛でていただく前に、一人で勝手に良くなっては。でも、でも少しだけ)  
 周囲に誰もいないことを確かめる。乳首を軽く転がし、陰核を小刻みにさする。  
「は、あぁ……足りない、足りないの……んあっ!」  
 絶頂とは程遠い快感で、稲はどうにか気を紛らすのだった。  
 
「ふふ、顔が真っ赤ではないか。いかな名湯も、度を越した長湯は毒だぞ」  
 蛸のごとく茹だった稲を見て、誾千代は苦笑を浮かべた。自分が原因とも知らず。  
 趣向を凝らした膳が運ばれてきたが、ろくに稲の喉を通らない。  
「さすが小田原、海の幸が美味い。なあ、稲殿」  
 誾千代が珍しいほど気さくに話しかけてくれるが、すっかり上の空だった。  
 
 やがて膳が下げられると、宿の者が手際よく布団を敷き始めた。それを見ていた誾千代の  
端正な顔が、なぜかひくひくと引きつりだす。  
「ほう、これはこれは……」  
 布団は一つ、枕は二つ。勘違いなのか、たちの悪い冗談なのか。  
「あ、あの立花様……」  
「分かっている。すぐに敷き直させよう」  
「いえ、私はこのままでも構いませぬ」  
 むしろ、こちらのほうが好都合なのだから。  
「そうか、稲殿は宿の者に恥をかかせまいと……立花の狭量が恥ずかしい」  
 帯をほどくと、小袖がシュルシュルと畳の上に落ちる。二人とも、白絹の長襦袢(じゅばん)を  
纏うのみとなった。それはまるで、二輪の白い花のようだった。  
 その花たちが、ものも言わず見つめあう。  
 
 稲は驚いていた。誾千代の、想像以上の女らしい身体つきに。特に釣鐘型の乳房は、  
自分より一回りほども豊かだった。自らの重みに負けることなく、前方に張り出している。  
今にも襦袢がはちきれそうだ。  
(何を召し上がったら、こんなになれるのかしら。羨ましい)  
 失礼とは思いながら、ついじろじろ見てしまう。  
 腰はキュッとくびれているため、よけいに胸や臀(しり)の膨らみが際立つ。花にたとえれば  
大輪の牡丹と言えよう。その華を、稲は一刻も早く愛でたかった。  
 
 誾千代も戸惑っていた。  
 今、目の前にいるのは勇ましい女与一ではない。乱暴にすれば儚く散ってしまいそうな、  
やんごとなき姫君だ。  
 自分ほど凹凸は目立たないが、それがかえって肢体をすらりと見せている。  
野に楚々と咲く白百合が人の形を取ったかのようだった。  
 何より、その腰まで届く黒髪の美しいこと。少々くせっ毛の誾千代には、望んでも手に  
入らないものだった。  
(流れ落ちる漆のようだ。指を通してみたい、撫でてみたい……おい、何を考えているのだ!?)  
 
 誾千代は慌てて布団に潜り、目を閉じる。  
「ほら、いつまでそうしているつもりだ。もう寝るぞ」  
「も、申し訳ございませぬ!」  
(い、いよいよだわ……)  
 夜伽の合図に相違ない。心臓を激しく脈打たせながら、稲は誾千代の隣に滑り込んだ。  
「あ、あ、あの、できれば優しく……」  
 ところが。  
「すぅ……すぅ……」  
 戦の疲れが出たのだろうか、誾千代は稲に背を向け、瞬く間に眠りに落ちていた。  
(そんな!)  
 稲は落胆を隠せない。  
 風魔に汚された自分には、抱く価値もないというのだろうか。  
「誾千代様、誾千代様っ」  
 顔を寄せてみると、安らかな寝息が聞こえてくる。狸寝入りではない。本当に寝てしまったようだ。  
 
「ならば――せめて良い夢をご覧下さい」  
 稲は止まらなかった。  
 まずは頬を舌先でチロチロと舐める。反応はない。日頃の張り詰めた雰囲気から信じられないほど、  
無防備で安らかな寝顔をしている。  
(可愛い。あなた様は、やはり女ですよ)  
 いっそう恋情をそそられた稲は、誾千代の背中にぴたりと寄り添う。  
 
 薄布越しに乳房を手のひらで包む。そっと撫でてから、その豊かさを確かめようと指に  
力を込める。  
(すごい。押し返してきて、つかみきれない)  
 予想以上の大きさに、稲はつい我を忘れて鷲づかみにしていた。その刺激は誾千代の  
眠りを覚ますに十分すぎた。  
 
「んはあぁっ……な、何を!?」  
 目を見開き、誾千代は跳ね起きた。  
 状況を確認して、絶句した。稲が後ろから抱きつき、乳を揉んでいる。さすがにここまで  
馴れ馴れしくされては、穏やかではいられない。痴れ者の手を捻り上げる。  
「い、痛っ! どうして」  
「立花にかような趣味はないっ。劣情を紛らわしたくば、他の者に頼め」  
「違うのですっ!」  
 常になく言い訳する稲を、誾千代は嫌いになりそうだった。  
「何が違うというのだ」  
「こんなことで、命救われた恩を返せるとは思いませぬ。それでも稲は、己のできうる限りの  
ことをしてさしあげたいのです……もののふとして」  
「むぅ……」  
 真剣なまなざしに、誾千代は勢いをそがれてしまう。。  
 
(そういえば、聞いたことがある。もののふがもののふを認める究極の手段、それは肌を  
重ねることだと)  
 何を馬鹿なことを、と思っていた。むくつけき男と男が交わる様は、想像だにしたくなかった。  
まして自分が、ゲスな持ち物で貫かれるなど。  
 稲殿は違う。自分に似た肉体と魂を持っている。彼女との交わりなら、受け入れられる。  
その時、孤高な自分の何かが変わるかもしれない。  
(道ならぬ道が待っているであろう)  
 小太郎の予言が、脳裏によみがえる。それも今なら、一笑に付すことができよう。  
(乱世だからこそ、立花は立花の信じられる道を歩むのみ)  
 しばらくの沈黙の後、稲に告げる。  
「――分かった。稲殿の信じるとおりにするがいい」  
 
「は、はい! ふつつか者ですが、よろしくお願いいたしますっ」  
 布団の上に正座し、初夜を迎えた新妻のような面持ちで、稲は深々と頭を下げる。  
顔を上げると、稲はいきなり願い出た。  
「あの……目を閉じていただけますか?」  
 
(一体何をする気なのだ?)  
 いぶかりつつも、言うとおりに目を閉じる。次の瞬間。  
(んん――!?)  
 唇がふさがれた。  
 柔らかく、温かい。稲の唇にふさがれていることに気付いた。擦り合わされる瑞々しい  
唇は、どんな馳走とも異なる未知の味わいだった。  
 すぐに息が続かなくなり、唇を離してしまう。  
 
「これは……」  
「口吸い、というものをしてみたのですが。上手くできたでしょうか」  
 稲はうつむきながら答えた。その口元には、幸せそうな微笑が浮かんでいる。  
(肌を重ねる前には、唇を合わせるのが作法なのか。やけに、胸が高鳴るものだな)  
「う、うむ。上手い……と、思う。もう一度、いいか」  
「立花様がご所望とあらば、いくらでもいたします」  
 
 再び、顔を近づける。肉付き豊かな誾千代の紅色の唇と、小さく可憐な稲の桜色の唇。  
最初はその先と先を付けるだけだった。それが物足りなくなると、少しずつ大胆になってくる。  
ついには口を開き、唇全体を擦り合わせるに至った。  
「ん……んふぅ……ぅんっ、んんっ」  
 誾千代の紅色と稲の桜色が絡み合う。  
 
 さらに、誾千代の歯列を割って、何かが入り込んでくる。柔らかくぬめり、微かに  
ざらつくものが。  
(そ、そんな、舌を入れるなんて。立花が食べられてしまいそうだ)  
 まさか噛み切るわけにもいかない。されるがまま、稲の舌に口内を蹂躙される。  
(立花様……稲も先ほど、こんなことをされたのです。うふふ……これで立花様も、  
私と同じですね)  
 指と舌の違いこそあれ、自分がされたことを誾千代にもしているのだと思うと、暗い興奮が  
湧き起こる。  
 
(くっ、やられっぱなしではいかん。立花の誇りにかけて)  
 誾千代にも意地がある。稲の真似をして、自分からも舌を使い始めた。  
 拙い舌技の応酬が続いた。互いの歯の一本一本、舌の根元までたっぷり賞味してから、  
ようやく勝負は引き分けに終わる。  
「ぷはあっ……」  
 二人の舌先に、ねっとりとした唾液が水晶の橋を架けた。  
「おかしな味や匂いなど、いたしませんでしたか」  
 先ほど小太郎に触手を突っ込まれたことを、稲はまだ気にしている。もちろん、その後で  
何度も口をすすいだのだが。  
「う、うむ。美味だった」  
「よかった……!」  
 自分は必要とされている。稲は目頭が熱くなった。  
 
「立花様のお肌、とても芳しい……」  
 うっとりとした口ぶりで呟きながら、胸元に顔をうずめる。胸いっぱいに芳香を吸い込もうと  
して、鼻息を幾度も吹きかける。その様がさながら子犬のようで、誾千代には微笑ましい。  
「ひあっ、やめぬか。くすぐったいぞ」  
「直に、見せていただけますか……立花様の胸に、ご奉仕したい……」  
 興奮にかすれた声で、稲が懇願する。  
 
「承知した」  
 男として育てられた誾千代は、躊躇することなく襦袢の前をはだける。そこがどれほど  
魅力的か、まったく自覚がない。  
 絹にも負けぬほど白い乳房が、衣の下からこぼれ出た。  
 
「あ、ああ……これが立花様の……」  
 稲はめまいを覚える。毎晩の妄想の、さらに上を行く光景が眼前に展開したのだから。  
 甲冑の下で陽が当たらないため、武人のものとは思えないほど色が薄い。表面にうっすらと  
静脈が確認できるほどだ。もちろん肌理(きめ)も、絹に負けず劣らず細かい。  
 甲冑は同時に、強力な形状保持の役割も果たしていた。手毬(てまり)のごとき大きさを  
誇りながら、少しも垂れてはいない。さすがに南蛮の技術を取り入れているだけのことはある。  
 
「先ほどは失礼いたしました。ですがやはり、お見事な持ち物です。では……」  
 毎晩自分でしていた愛撫を誾千代にも施そうと、震える手を伸ばす。  
(柔らかい……)  
 それだけではない。揉まれれば沈み込んだ指を即座に押し返すほど、その美巨乳には  
張りがあった。  
(ずるいです、同じもののふなのに立花様だけ)  
 女として少しの嫉妬を抱きながら、少々手のひらに力を込める。二つの肉手毬が  
寄っては離れ、ひしゃげては元に戻る。  
 
 そんなことを、どれくらい繰り返していただろうか。誾千代の吐息が、乱れてきた。  
「あ、はぁ……んふ、何だ、これは……」  
「どうされたのですか?」  
「いや、なんでもない……立花にも、よく分からん」  
 さっぱり要領を得ない答えが返ってくる。  
 
 肉手毬の感触を堪能した稲は、その頂にある尖りも放っておかなかった。  
 唇の色よりさらに淡い乳輪は、乳房の大きさからすれば実に小ぶりで、弱々しい。  
見ていると、存分に虐めたく、もとい可愛がりたくなってくる。  
 親指と人差し指で挟んで、転がして……一瞬だけきつく捻りあげる。  
 
「ひっ! あう!」  
 強すぎる刺激を受け、誾千代が喉をさらしてのけぞった。  
「そ、それは控えてくれないか」  
「では、お詫びに癒して差し上げますね」  
 ここぞとばかりに、稲はめいっぱい舌を伸ばし、桜色の尖りに口をつけ……ない。  
乳輪の麓に舌先をつけ、円を描くように這わせる。明らかに、誾千代を焦らしていた。  
そして、すぐに舐めたい自分自身をも。  
 
「は……はやく」  
 誾千代に懇願されるまでもなく、もう我慢できなかった。赤子のように吸い付き、  
あからさまに音がするほど吸い上げる。  
「チュウウウッ……ンロ……ちゅく、ぴちゃ、レロンッ……」  
「はう――! ダ、駄目だ稲殿、やっぱりそんなことっ」  
 頭を大きく左右に振って、誾千代が悶える。  
 中止を求める言葉とは裏腹に、乳頭は口の中でにゅっと大きくなってくる。  
(起ってきた……立花様、私に吸われて感じてくださっているのですね)  
 自分の行いで誾千代を悩乱させていると分かり、稲はより熱心に舌を使った。  
「あ……あ……」  
 
 だがまだまだ稲も未熟、一箇所への愛撫に手一杯になっている。もう片方の乳房は  
ほったらかしになっていた。それが誾千代には、物足りない。  
 
 今までは戦の邪魔だとばかり思っていた。それが、こんなことに使えるのだと知ると、  
自分でも試したくなってくる。  
 おずおずと、自分の膨らみをつかむ。先ほどまで稲がそうしていたように、円を描いて  
動かしてみる。  
(ふむ……別の生き物のようだな)  
 その動きには興味をそそられるが、格別気持ちよくはならない。それを快感と認識するには、  
まだ場数を踏む必要があった。  
 
 そんな誾千代の行動に、稲もようやく気付く。そして、自分のいたらなさに恥じ入った。  
(いけない。立花様が、ご自分で慰めていらっしゃる)  
 その手に、稲は自分の手を重ねた。自慰に慣れた稲の指が、誾千代に穏やかな快感を  
もたらす。もちろんもう片方は、口での奉仕が続く。  
 憧れの誾千代の乳房を独り占めできて、稲は幸せこの上なかった。触れてもいないのに、  
稲の女芯は潤み始めている。もし誾千代が冷静だったら、妖しく揺れる稲の腰を容易に  
見て取れたことだろう。  
 
「あふっ、伝わってくるぞ、稲殿の想いが。これが、んはあ、もののふ同士の交わりなのだなっ」  
(立花様……)  
 悟ったような誾千代の呟きが、稲の心を針のようにさいなむ。大事な女性(ひと)に嘘を  
つきとおせるほど、稲は器用な娘ではなかった。  
 乳房から口を離すと、真実を告げた。嫌われるかもしれないと、覚悟を決めて。  
「これは最初から――女の交わりなのです」  
 
「……はぁ?」  
 誾千代には、その意味が分からなかった。どんなに稲と身体が同じでも、自分が女とは  
思えないから。  
「これは異なことを。立花は女でも、無論男でもない。ただ、立花ではないか」  
「た、立花様。それは、本気でおっしゃっているのですか」  
「そうだ。立花は、戯言を好まぬ」  
 
 その言葉は一見、信念に基づいたものに聞こえる。だが事ここに及んで女の自分と  
向き合わず、もののふだ立花だと大義名分を並べる。誾千代も、やはりどこかが歪んで  
いるのだ。  
 それは同時に、誾千代が何も知らないことも物語っていた。  
 今まで考えていた立場が逆だと分かると、新たな欲望が頭をもたげてくる。  
『床の上で誾千代を自分のものにしたい』と。  
 
「……立花様は女です。それを受け入れてください。ご自身のためにも」  
 言うなり、稲は誾千代の襦袢の裾をめくろうとする。だがさすがにそれに気付かぬほど、  
誾千代の理性は麻痺していない。懸命に押さえつけ、阻む。  
「何をする」  
「立花様、お手を外してくださいませ。続きが、できませぬ」  
「……」  
 誾千代は沈黙を続ける。そんな彼女の股を強引に割り開く気など、稲にはさらさらなかった。  
それでは男どもの所業と同じだから。  
 
「たとえご自分を女と認めても、立花様は立花様です。ううん、もっと素敵になれる」  
 襦袢の上から、むっちりと発達した腿をさする。稲妻のごとき進軍を生み出す腿もまた、  
女らしい滑らかさが同居していた。  
「心の準備が必要とおっしゃるのでしたら、こうしてお待ちしますから」  
 搦め手から攻める稲の姿は、突出ばかりしていた戦場での彼女とは別人のようだ。  
 
 どれくらいの時が流れただろうか。  
 ふと、誾千代の抵抗がやんだ。  
「こ、怖かったのではない。これ以上焦らしては、貴様が不憫だからだ」  
(素直じゃないんだから)  
 それでも、稲はすべてを自分に委ねてくれたことを喜んだ。  
 はやる気持ちを抑えつつ、しずしずと裾をまくる。長い脚が露わになるのにあわせ、  
自分の身体を下へ下へとずらしていく。誾千代の『女』をこの目で確かめるために。  
 
 ぴっちり閉じた太腿の内側に手をかけ、開く。  
 その一番奥に、誾千代のすべてが息づいていた。  
「嗚呼、立花様素敵……とても綺麗なお雛様……」  
 感嘆の言葉が、ひとりでに紡ぎ出される。  
 
 自分以上に成熟しているはずのその部分には、『大人の証』が一本たりとも生えて  
いなかった。目を近づけても、剃り跡はない。  
 童女と異ならぬ無毛のたたずまいは、女であることを否定していた誾千代に  
ふさわしいのかもしれない。  
 
 とはいえ、秘裂自体は順調な発育を見せていた。唇よりはやや濃い色の花びらが、しっかりと  
顔をのぞかせている。その上端には、狂おしい快感をもたらす肉珠が、包皮に守られ  
鎮座していた。少し、大きい。  
 そして表面には、歓喜の露が染み出していた。しっとりと花弁を濡らす恥蜜は、誾千代の  
『女』をより艶やかに見せる。  
 
「あ、あまりまじまじと見るな。所詮、しょ、小水の孔ではないか」  
「そうではないこと、知っていただきますね……」  
 上ずった声で囁きながら、そっと指を伸ばし、愛液を掬う。絡みつく誾千代の体液は、  
自分のそれより粘ついているように思えた。  
 五指すべてに愛液をまぶし、誾千代の眼前で開く。指の間で、糸がかかった。  
「ほら、もうこんなに潤ってる」  
「――――!」  
 言葉もなく、誾千代は顔を背ける。  
 
 陰核にたっぷりと恥蜜をまぶす。濡れそぼつ肉珠は、さながら女体に息づく紅玉の  
ようであった。  
 そこを稲が、二本の指でキュッとつまみ……  
「さあ立花様……お悦びください」  
 こね回す。  
 
「うあ、あはあぁぁっ、あっあっあっあっ!?」  
 指が素早く往復するたび、誾千代は激しく反応した。むき出しになった乳房が揺れ、  
腰が跳ねる。足指は小指までピンと張る。そしてお雛様からは、さらなる恥蜜があふれて  
止まらない。  
 同じ女である。どこをどう責めれば悦ぶか、稲は毎晩の自慰で知り尽くしていた。  
「あ! い、嫌ッ! これ以上は本当に、何これ、光が」  
 未知の感覚に、誾千代はどうにかなりそうだった。稲とは逆に、悩みはすべて健全な手段で  
解決していた。女陰をまさぐるなど、考えもしなかった。  
 布団にたくさんの皺と恥蜜の染みを作り、誾千代は悦楽に暴れ狂う。  
 
「ア、ハアァッ! 稲殿、何かが、何かが来るっ」  
 絶頂を表現する言葉も知らない。そんな誾千代に桃源郷を見せるべく、稲は今一度、  
乳房に片手と舌を伸ばす。  
(果ててくださいませ、立花様。稲が、稲が見届けて差し上げますから……!)  
両乳首と陰核がしゃぶられ、捻りあげられた。それが、とどめとなった。  
「ア、ア――」  
 涙を浮かべながら、目を大きく見開く。半裸の肢体が弓なりにのけぞり、天井に咆哮を  
放った。  
 立花誾千代は、女として初めての絶頂を極めた。  
 
「くうっ! はあ、はあ……」  
 すっかり力が抜け、誾千代は稲にしなだれかかる。  
「立花様、可愛い……可愛いです……」  
 その顔といわず胸といわず、稲は口吸いの雨を浴びせるのだった。  
 
 女の余韻は長い。布団の上で打ち震える誾千代の肢体を、稲は優しく撫でて鎮めてやっていた。  
「嫌」とか「駄目」とか時折抗議が聞こえてくるが、聞く耳を持たない。  
 
「嗚呼……く、屈辱だ……女であること、認めざるを得ない……」  
「ならば、なんといたします?」  
 クスクス笑う稲を、誾千代は睨みつけた。だがその目には殺気が宿っていない。  
「知れたこと、稲殿も同じ屈辱を味わってもらう! 立花の手にかかって、果てるがいい」  
 それはもちろん、誾千代が稲を愛撫してやるということを意味していた。  
「嗚呼、稲を折檻されるのですね……お許しを……」  
 殊勝な言葉とは裏腹に、稲は身も心も期待に昂っていた。自分の妄想が実現する時が  
来たのだから。  
 慈愛と淫欲に満ちた、誾千代の逆襲が始まる。  
 
 
つづく  
 

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