「ん…うっ?ここは?」  
「孫!」  
「お嬢ちゃん?」  
どこだここは?確か俺は…信長を仕留め損ねて…  
だが目の前に居るのはどう見ても…お嬢ちゃんだよな?  
…はっ!  
「さ、雑賀!」  
「既にわらわが皆助けたぞ?」  
「お嬢ちゃんが?」  
「孫市!目が覚めたのか?」  
「孫六?佐太夫の爺ちゃんまで?」  
 
「…なる程。話は解った」  
爺ちゃん達の話しによるとこうだ。俺が信長を撃てなかったあの後、俺は朦朧としながら雑賀ノ庄の付近まで自力で歩いていたらしい。  
ちょうどその頃、お嬢ちゃんは周りの敵を片付けて「ダチの約束」通り雑賀衆の生き残りを救援、脱出させる途中で、親父(光秀)に会ったそうだ。光秀は信長に内緒で首を捕られかけてた俺を隠蔽、保護、隙を突いて娘(お嬢ちゃん)に渡した…と。  
まあ光秀が何を考えてたのかは知らねえが、お嬢ちゃんの父親なら変な所があっても可笑しくねえな。  
んで、雑賀残党が集まったこの集落で皆に看病されて。今に至るってわけだ。  
 
「とにかくありがとな。お嬢ちゃん」  
「ダチの約束じゃ!わらわは孫の為なら何でも出来るぞ!」  
…時々ドキッとすんだよなあ。この年頃の娘はよく成長して。だんだん俺の方が惹かれてる気がするぜ…。  
「まだ体は休めるのだぞ?わらわが就いているからな?」  
「へいへい…ん?」  
お嬢ちゃんの後ろに居るのは…佐太夫の爺ちゃん?なんか手招きしてるな?お嬢ちゃんに内緒で出てこいって事か?  
しゃあねえ…体はいてえが立つこと位は出来るだろ。  
「よっと」  
「孫?」  
「かわやだ。…そういや俺が寝てた間、始末は?」  
「孫が嫌がるかと思い、わらわ意外の連中がやっていたぞ?」  
「気が利くな」  
さあて…何だ?  
 
人気のないトコまで連れ出して…  
 
「嫁!?お嬢ちゃんを!?」  
な、何言ってるんだジジイ!  
「雑賀の次代が必要とは思わぬか?」  
「そんなの知ったこっちゃねえよ!」  
「孫市!いつまでもフラつくのではない!どうせそこら中の女に手を出しておるのだろう!」  
「お、俺みたいな色男はまだ誰か一人のモノになっちゃいけねえんだ」  
「あの女子は誰か一人のモノになりたがっておる。それに雑賀を救ってもらった恩義もあろう」  
 
助けてもらったのはお前らも同じだろ!…だがお嬢ちゃんを他人のモノにするのは惜しいよな…  
「考えておれよ」  
「…」  
 
 
俺が…お嬢ちゃんと…  
 
 
とりあえずもう少し寝てるか。流石に全快するまではこれ以上言わねえだろ。  
「孫ー?どこじゃー?」  
…呼びに来ちまったか。そんなに長話だったか?  
「すぐそっちに行く」  
 
あれから数日。俺は体の調整を兼ねて出歩く事にした。今の雑賀庄は信長…織田の勢力圏にはあるが、最前線じゃあ無い。兵力の集中しない場所を選んだ、ほんの小さな集落だ。  
堺や京に近い事は近いが、交通的には…道無き道を通らないといけない。そんな感じだな。元々雑賀衆自体それ程の人数が居なかった分、とりあえずこの場所で一休みできる。  
まあ傭兵稼業がある分にはその内どうにかしねえと…  
 
今日の目標は堺。色々と物要りなんでな。  
 
んでまあ隣には…  
「やっぱりこうなるんだよな…」  
「うん?何か言ったか?」  
「いいや。何でもねぇよ」  
やっぱりお嬢ちゃんがいるわけだ。村の何人からか代わりに頼まれた物があるらしい。俺は一応国友背中に、軽装で。堺に近くなってきたのか、割と人通りのある道を歩く。そろそろ喧騒も聞こえだした。  
「迷子にならない様、しっかり付いてくるんだぜ?」  
「わかっておる!わらわも孫を一人には出来ぬ」  
「…言ってくれるな」  
堺は相変わらず賑わっていた。  
 
まずは鍛冶屋の辺りで弾薬だ。ついでに国友の整備も頼む。  
「そう言えば孫の武器は珍しいのう?」  
「ん?お嬢ちゃんにはかなわねぇよ」  
整備で預けている間に、色々まわる事にした。お嬢ちゃんはじっとしているより、歩き続けてた方が楽そうだ。  
「どこか行きたい所があるか?」  
「あるぞ!皆に頼まれている物が…」  
「…結構量があるな…片っ端からまわるか」  
 
村を出たのが朝方、堺に着いたのが昼前。今は…秋が近いと言っても暮れるにはまだ時間があるだろ。  
買い物の半分は済んでる。今度は…  
 
「…孫」  
「うん?」  
「その…わらわ…」  
珍しいな。いつもなら何でも言ってくれるお嬢ちゃんが言いよどむなんて。  
 
…逆に新鮮だ。いつもこういう感じだったら何人かの男がダメになる。  
 
「なんだ?」  
「その…」  
何か忘れてるか?お嬢ちゃんの事で…心なしか元気がねえな?今までも何回か同じ状態を見たような…あ!  
「飯にするか!」  
「うむ!」  
「何か希望は?」  
「何でも良いぞ!好きなモノにせよ」  
「俺の好きなモノ…ねぇ…何が良いか」  
「あ…でも早くして欲しいのう…」  
「…だな」  
空いてるのが最低条件か。  
「まあ堺だ。食べ歩きでも構わねえだろ」  
 
少々行儀が悪いが、片っ端からつまんで歩く。お嬢ちゃんも見た目は育ちが良いのに、俺についてこれる分なかなか…  
「うまいか?」  
「うむ!…孫」  
「…うん?」  
「…楽しいのう」  
「…ああ」  
「…でも」  
「…」  
「何故か嫌な予感がするのじゃ。何故じゃろう?」  
「…まだ天下は治まってねぇ。緊張が抜けきってないからそう思うんだろ」  
「…そうかのう?」  
 
いつの間にか日が暮れそうになってた。俺の楽観は大きく外れて、国友取りに行った時には夜が迫り、それでも俺は強行して集落へ帰る事にした。  
 
…お嬢ちゃんに無理させたかな?だが宿を取る気にも…  
 
山賊の警戒をして京の付近を通った時、灯りに気が付いた。京の中心の辺りに見えた軍勢の炎だ。  
「…何かあったのか?」  
「そうじゃのう…」  
こういう時に…遠眼鏡はあるんだよな。  
「中心までは見えなくても軍の端っこ位は見えるだろ…ん?」  
あれは…あの旗印はドコんだ?ウチ(反信長)側にあんな家紋は見た事が無い。しかもここは信長の勢力圏だろ?他の国の奴らが来た訳じゃないとしたら…誰が?  
 
「孫?早く行かないのか?面倒事は嫌いでは無かったのか?」  
「まあ待てよ…お嬢ちゃんに聴いてもわからねえと思うが…」  
「?」  
「桔梗の旗に見覚えは無いか?」  
「…!」  
 
…ん?何で返事が無いんだ?  
 
「お嬢ちゃん?」  
 
 

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