その日の夜は大雨だった。
季節は梅雨。故に大雨などはそうそう珍しくもない時期だ。
しかしその夜はいつものようにじめじめと大人しく降りしきる雨とは違って、
まるで台風でも到来したかのような大降りだった。
雷鳴轟く、それは激しい雨の夜。
「貴様が三成に味方するとは意外だったな」
騒々しい雨夜の音をなんとなく聞きながら、男は言った。
名は長宗我部元親。四国全土を手中に収めた男だ。
あまり血色の良いとは言えない白い頬が、部屋に据えられた灯火に照らされている。
その部屋にはもう一人いた。
少しクセのある亜麻色の髪の毛に、その者の意思を強く宿した大きな瞳。
現在九州で大きな勢力を広げている彼女は、立花ァ千代だ。
ァ千代は彼の正面に座り、杯片手に笑っていた。
「私自身もこうするとは思ってもいなかったからな。
貴様がそう思うのも当然なのかもしれない」
言って彼女は傍に置かれた徳利から自分の杯に再び酒を注ぐ。
ほろ酔い気分のァ千代は、いつもより上機嫌なのかやけに笑みを絶やさなかった。
そんな彼女の様子を存外嬉しく思っている自分を、元親は不思議に思っていた。
それが悔しくて、つい言わなくて良い事まで口にしてしまう。
「分かっているのか。今、時代の風は徳川に吹いていることを。
いくらいくつもの戦場を、・・・死線を潜り抜けた貴様にとっても、今回は分が悪すぎるだろうに」
言った後にこれでは軍を抜けろとでも含んでいるように受け取られてしまいそうだと感じ、
元親は自分の口下手に内心舌打ちをした。そんなつもりではないのに。むしろ──・・・
しかし彼女は不愉快な様子になるわけでもなく、むしろ彼をからかうかのように笑った。
「何を今更。その様な事は百も承知だ。その上で、無論立花は勝利を掴むつもりだが」
相も変わらず強気なァ千代の物言いに、つい元親も笑みを漏らしてしまう。
そんな彼をじっと見つめながら、ァ千代はいつもの力強い笑みとは違う、
優しくて、──儚いような。そんな笑顔で彼にぽつりと、告げた。
「それに、──貴様に付き合ってやるのも悪くないと、思ったんだ」
瞬間二人の間に沈黙が流れる。外の激しい風と雨音が、やけに大きく響いた。
と、ふいにかたん、と音がする。ァ千代の杯が床をころころと転がり、酒を零した。
──押さえつけられるように、彼女は元親に組み伏されていた。
「・・・貴様の声は、恐ろしいくらい俺に響く。叱咤でも戯言でも、凄絶に・・・」
それまで見たこともない切ない表情をする元親に驚いて、ァ千代は何も言えなかった。
「そうだな・・・、正に、雷。貴様は俺にとって、天から降った雷の乙女だ」
言ってまるで悪戯がばれた子供のように、元親はくしゃりと笑う。
それにつられて、ァ千代も困ったように微笑んだ。
「よくもまあその様な事を恥ずかしげもなく言えるものだな」
そう言われて少し躊躇い、それでも元親は誓う様に告げた。
「・・・本気だ」
打って変わって彼の瞳に宿った真剣な眼差しに、思わずァ千代は見入ってしまう。
彼女が声を上げる間もなく、その唇は強引に塞がれてしまったくぁwせdrftgひゅじこlp;@