※九州征伐中、信親が亡くなったあたり※  
 
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 髪に移った濃厚な香の匂いが、元親の鼻孔を擽る。  
 微かな汗に混じった彼女自身の匂いと相まって、ひどく甘く感じた。菓子を  
口にするような心地でそっと舌で舐め上げ、唇で優しく食んでみれば、ァ千代  
の鼻から声が漏れる。戦場で轟かせる覇気溢れるものではなく、少女のように  
可憐なものであったからますます元親を煽った。あれほど凛々しく具足を身に  
纏い、並み居る兵士たちをも容易く薙ぎ払う将が、今は戸惑いと羞恥に身体を  
強張らせ困惑したように声を押し殺している。彼女の発した言葉への苛立ちも  
手伝って、元親の胸中に加虐心が生まれた。  
 啼けば、いい。  
 散々元親に啼かされ、矜持を打ち砕かされ、そして自分の言葉が過ちであっ  
たと認めればいい。元親を憎み、そして仇敵への憤りも思い出せばいい。  
 大事なものを奪われたからといって相手を討つ。それでは乱世は終わらぬ―  
―さきほどのァ千代の言葉が冷ややかに脳裏に蘇った。立花は私怨のために武  
を奮うのではない、と真摯に呟かれた言葉も。  
(なぜ、肉親を奪われてなお仇を殺すなと言える)  
 彼女の言葉はきれい過ぎる。  
 信親が死んだ夜でなければあるいは賛同できたのかもしれぬ。  
 けれど今日は。  
 ――元親さまならば。  
 そう笑って出陣した信親の背が浮かぶ。  
 悲しみは未だ褪せることなく元親の心の中に在り、今もまだ憤りの炎は揺ら  
めいている。国主としての矜持が平静さを保持させているが、本当は今にも慟  
哭してしまいそうなのだ。なぜいつものように傍らに居らぬのか。なぜ、いつ  
ものように名を呼んでくれぬのか。  
(あんただって、知ってるだろう)  
 父や舅の命を島津に奪われたのだから。  
 ならば、信親を喪った元親の気持ちを最も理解できるのは彼女ではないのか。  
このやり場のない憤りに共感するのは彼女自身ではないのか。  
 首筋を舐め上げ、そのまま舌先で耳朶を嬲る。  
 わざと大仰な音を立てるようにしてくちゅくちゅと舌を出し入れすれば、逃  
れるようにァ千代が身体をひねってもがく。けれど動けぬように股の間に元親  
は膝を割りいれ、片方の肩を掌で押さえつけてなおも愛撫を続ける。  
「も、もとちか……っ」  
 抵抗のために口にした名は、けれど熱い吐息交じりのせいか懇願に聞こえた。  
もっと愛してくれと言われた気がして――実際にはそうでないことはわかって  
いたけれど――肩を押さえていた手を、襟元に滑り込ませる。寒さのためかそ  
れとも元親の行為のせいか、すでに硬くなっている頂を指でそっと触れれば、  
ァ千代の身体が大きく跳ねた。好い反応に満足して、念入りに指で摘んでやれ  
ば、大人しかったはずの下肢が耐え切れぬ、とばかりにもぞもぞ動く。  
 どうやら、そこが弱いらしい。  
「や、や……っ」  
 身体をわずかに起こし、襟元を大きく広げる。  
 月明かりであらわになった肢体の美しさに小さく感嘆し、それまで指で弄ん  
でいた部分を口に含む。歯で少し噛んだり、舌先で潰すようにしてやると、も  
はや言葉にすらならぬ声を上げ、必死で元親の顔をどかそうとァ千代が抵抗す  
る。けれど丹念に指と舌をつかって愛撫を続ければ、やがて抵抗していたはず  
の手は、次は元親が止めてしまわぬよう必死で押さえつけてきた。  
「それほどに好いか」  
 問えば、上擦った声で「ふざけるな」と返してくる。笑って、彼女の手の所  
在を教えてやれば、すぐさまばつが悪そうに手を離した。  
 
「生娘ではないようだが、あまり男には慣れておらぬ様子。宗茂殿にはあまり  
可愛がってもらえていないのか」  
 わざと腹を立たせるためにいえば、途端にァ千代の顔が強張る。  
「……貴様には関係のないこと……っ」  
 潤んだ眼差しにようやく、わずかながら怒りが滲む。  
「図星か。ならばおれがこの身体に刻み付けてやろう」  
 ――男というものを、凄絶に。  
 寝巻きの帯を解き、その両の手を結ぶ。  
 身体を起してやる代わりに今度は元親が畳に背をつけ、自分の身体をまたが  
せた。わけが分からず困惑する身体を腕で抱き、さらされた下肢の付け根が元  
親の眼前に来るように寄せる。  
「な……っ! こ、これは……っ」  
 嫌がるも手を拘束されては、抵抗もできぬ。  
 細い腰をしっかりと掴み、真上にこさせた秘部に音を立てて口付ける。自身  
のものではない涎に満足し、そのまま先ほど耳朶に施したように愛撫を続けた。  
わざと水音を立てるようにして割れ目をなぞり、熱を帯びたそこにすぼめた舌  
先をねじ込む。  
「あ、ん……っ」  
 逃れるように背中を倒そうとする女の腕を掴んで、さらにちゅ、とあふれ出  
す蜜を吸い上げる。次から次へとあふれ出すそれは、彼女の匂いのように甘い。  
全て舐め尽してやろうと必死で啜れば啜るほど、嗚咽なのか嬌声なのか分から  
ぬものをァ千代が漏らす。  
「も、とちか……もう……っ」  
 顔を見られまいと逸らそうと試みるも、下から見上げているために努力は叶  
わぬ。わざとまじまじ見上げれば、ァ千代が泣きそうな顔で目を瞑った。  
 舌を離し、今度は指先で大きくなった陰核を擦ってやる。ときに優しく、と  
きに強くと緩急をつけてやれば、ァ千代の太ももがなにかを耐えるように強く  
元親の身体を圧迫した。余計な肉などない白い脚をそっと指先で撫で上げれば、  
小さく啼いて身体を震わせる。大きく揺れた胸が、下から見上げるとさらに淫  
靡で堪らない。首筋と同じく、普段は他人になど触らせぬ柔らかな肌は、こう  
したときことに敏感になって快さを生む。  
「もう? もう果てるのか? 宗茂殿は、奥方の躾けもできぬと見える」  
 それとも宗茂殿はこれほど早いのか。  
 言外に皮肉含ませれば、ァ千代が泣きそうな顔で下唇を噛んだ。必死で矜持  
をかき集め、元親に屈しまいと耐えているのだろう。それが男を余計に煽るこ  
とを、そしてさらに自分自身を追い込むことをしらぬのだろうか。我慢すれば  
するほど感じやすくなるのが女の身体だ。  
 指を一本、陰唇に飲ませる。  
 待ちかねていたのだといわんばかりに元親の指を易々と奥まで導き、そして  
逃さぬといわんばかりに強く締め付けてきた。ざらりとした中は火傷しそうな  
ほどに熱く、元親の余裕を奪っていく。  
「……ぅうっ」  
 苦しそうに呻くも、隠し切れぬ悦びが潜んでいる。  
 指を呑ませたまま溢れ出す蜜を舌先で再び舐めとっていく。  
 
「も、もとちか、もう……だめだ……っ」  
 声を殺すことさえ忘れて、短い間隔で息を吐きながらァ千代。  
 そして。  
「――やぁ……あっ」  
 一際高く啼くと、身体をびくびくと揺らして果てる。とっぷりと噴出した蜜  
は啜りきれず元親の口の辺りを汚した。下から見上げるァ千代の顔は羞恥で染  
まっており、上下する乳房と相まってひどく艶やかに見える。憤りのために眉  
根をひそめているが、それすらも凛とした彼女の美貌を引き立てるものであっ  
て何一つ元親の興を殺ぐものではない。  
 啼いた。  
 あの、立花ァ千代が。  
 事実が元親に優越感を与える。秀吉が戦場の華と称した勇ましいもののふが、  
自分の愛撫に容易く陥落しただの女になった。それが、嬉しい。  
 舌先で口のまわりについた蜜を器用に舐めとりながら、身を起す。元親が上  
半身を起したことで自然ァ千代の身体は後退し、そのまま床に仰向けになるよ  
うに押し倒して多いかぶさった。  
 己の裾を割り、すでに屹立している自身を取り出す。軽く先端に触れれば、  
待ちかねていたのだといわんばかりにねっとりとした汁が零れていた。  
「元親、それは」  
 幼子のように激しく首を振り拒絶する。  
「ややこが――できては」  
 不仲といえど、貞操は守りたいというのか。  
 元親によって蕩けきっている身体でありながら、まだ冷静さを保つ頭で必死  
で懇願する。下の口はすでにどろどろにぬかるんでおり、今か今かと男のもの  
を欲しているくせに、上の口では要らぬと言い張る。その倒錯的ないまのァ千  
代が、元親には好ましく映った。いつか、夫のことなどすべて忘れて自分にし  
がみついてせがむようになればいい。自分を貫いて欲しいと、自分の中を元親  
のものでぐちゃぐちゃにして欲しいと、そう縋るようになればいい。いや、い  
つか必ずそうしてみせる――だが、今宵はまだ。  
「……ならば、わかってるだろう」  
 問えば、少し躊躇う素振りを見せるも、ァ千代が小さく頷いた。  
 身体を起してやり、両手の拘束を解いてやる。  
 
 胡坐をかき、帯を解いて襟を広げる。ァ千代の手がそっとそそりたっていた  
元親のものに触れた。とめどなく溢れる、粘度のある液体を塗りつけるように  
指先で撫でる。最も敏感なところに触れられ思わず元親が声をあげれば、ァ千  
代があどけない表情で小首をかしげ、それからそっと顔を近づけて口付けを落  
とす。ちゅ、ちゅと音を立てて啄ばむような口付けを繰り返し、再び溢れた汁  
をぺろりと舐めとる。ざらりとした舌先の感触に、背筋がぞくぞくした。  
 それから、両手で大事そうに支えながら、付け根から先端まで舐め上げる。  
繁みで隠されている部分から汁の溢れる一番上まで一気に舐め上げては、その  
たびに反応を窺うように元親を見上げるからたまらない。高圧的な物言いに忘  
れそうになるが、彼女はまだ若いのだ。化粧もせず寝巻きをまとっただけの今  
の姿はあどけないといっても差し支えない。けれどそのあどけない顔を一度果  
てたことによって赤く染め、元親によって乱された姿のままで必死に口淫を続  
けている。今のァ千代には、艶やかさと無垢さが同居しており、それは元親の  
征服欲を十分に満たすものであった。  
 本音を言えば、ここで組み敷きたい。  
 組み敷いて未だ熱の残る秘部を刺し貫きたい。そして、自分の精液でぐちゃ  
ぐちゃに汚してやりたいと思った。二度と忘れられぬよう、凄絶に刻み込んで  
やりたい。  
 徐々に舐め上げる間隔が狭くなり、やがてゆっくりと口の中に含んでいく。  
比べたことはないが、それでも元親のものは決して小さいほうではない。今ま  
で口淫させた女たちには「大きくて全て飲み込めませんわ」と言われたことも  
ある。しかしァ千代はゆっくりではあるが、根元まですべて口の中に含んでし  
まった。下の口とは違う、けれど焼けるように熱い感覚に眩暈がしそうになる。  
そして含んだまま、再び舌が愛撫を始めた。舐めたりつついたりと刺激を与え  
つつも、時おり口で扱く。  
「……く……っ」  
 緩急をつけた愛撫が、やがて激しくなる。  
 このままでは出してしまう。こうも容易くのせられたことが癪で寸ででとめ  
ようとするも、引き剥がすために当てた手は元親を裏切って、逃さぬように強  
く彼女を押さえつける。これでは先ほどの彼女と同じではないか――そう自嘲  
しかけた瞬間、彼女の口に精を吐いて果てた。  
 
 衣服を整えたあと、女は何も言わずに立ち上がって外に出た。そのまま何事  
も無かったことにして立ち去るのだろうかと思って背中を見つめていれば、庭  
を臨む縁側に腰を降ろして空を見上げる。  
 怒っているのかいないのか。  
 悲しんでいるのかいないのか。  
 推し量ることもできず黙っていれば、月明かりに照らした青白い横顔を向け  
る。気のせいか、その表情は柔らかなものに見えた。  
「悲しみこそ、糾える縄の如しだ」  
 彼女の傍にいくこともせず、黙って声を聞く。  
「奪われたからと奪い返して悲しみばかりを紡ぐならば、どこかで誰かが歯止  
めをかけねばなるまい」  
 秀吉がしようとしているのは、おそらくそういうことだ。  
 元親の下であられもない姿を晒していたとは思えぬ、怜悧な声。  
「戦う理由が憎しみではないのなら――」  
 あんたはなんのために。  
 言葉が途切れたのは、振り返ったァ千代が微笑んだがゆえ。  
「父や臣、友たちの信に応えるため。立花として誇り高く生きんとするため」  
 真っ直ぐな眼差しに迷いはない。  
 強がりではなく、ましてや無知ゆえの言葉でもない。全てを知った上で、そ  
れでもなお困難な道を貫こうとする彼女の強さが伝わった。  
「……おれにも、できるだろうか」  
 言ったそばから情けなくなる。これではまるで弱音だ。  
「できるに決まっている」  
 しかし元親を嗤うこともせずに、ァ千代は至極当然とばかりに言い切る。  
「貴様は、信親殿が信じた男なのだろう?」  
 わたしは信親殿を知らぬ。  
 それでも、元親がかの人物をひどく信頼していたことは知っている。  
 だから、と事も無げにァ千代は言う。  
「自分は信じられずとも、信親殿ならば信じられるのではないか」  
 彼が犬死であったか否かはこれからの貴様の生き方に依るのだぞ。  
 突き放すような言い方だが、冷たさは感じぬ。  
 容易く言ってくれる、と元親は明快な女の言葉に半ば呆れてしまう。それで  
も不思議と彼女がいうと真実のように響くのが不思議だった。それは、彼女も  
またそうやって生きているからだろうか。  
「……上等。ならば凄絶に生き抜いてやるさ」  
 元親の応えに、ァ千代がどこか嬉しそうに目を細めた。  
 悲しみはまだ在る。  
 憎しみも、そう簡単には消えてはくれぬ。  
 けれどもう――昏き望みは何処へと消えていた。  
 

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