自分の唇から漏れる吐息が熱い。  
ぼんやりする意識の中で彼女は漠然とそんな事を考えた。  
今さっきまで唇を塞がれていたのだから、それは至極当然のことなのだけれど。  
長い睫毛に覆われた潤む瞳で、彼女は目の前の人物を見つめた。  
皆に母と慕われる彼女の、唇を、髪を、躯を、そして心を今まさに独占せしめている人物。  
「三成」  
わざといつもの調子で笑みを浮かべて名を呼ぶと、彼は口の端を吊り上げて薄い唇に微かに笑みを湛えた。  
今すぐ。  
今すぐこの輝く亜麻色の髪をこの手でかき乱したい。ふくよかな弾力ある唇を奪い去ってしまいたい。豊かな胸を、この傷ひとつない白い肌を全て。  
涼しげな横顔に似合わず彼がそんな事を考えているなどと、誰が想像できただろう。しかし彼女は先ほどと変わらぬ表情で  
「獣みたいな目だね」  
と言ってみせた。見透かされている。  
彼は参ったな、と苦笑して  
「貴女のせいです」  
とだけ答えると、彼女はえへへ、と小さく笑った。  
三成の綺麗な赤茶色の髪。そして頬にかかる長い前髪の下に潜む同じ色をした瞳は、静かな、けれど確かに沸き立つ情欲に潤んでいた。  
彼女はその揺れる瞳をまっすぐに見つめる。  
思わず歯が浮くような台詞を吐きそうになるのをこらえて、彼は彼女の髪をそっと撫でた。  
その白い指先は、だんだん下へ伸びていく。鎖骨を通り、柔らかい胸へと。  
ぴくん、と小さく反応する彼女の躯は、すでに上気した肌を薄い桃色に染め上げていた。  
 

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