その日は息まで凍りつくような寒い冬の夜。  
徳川家で行われた新年の宴に呼ばれた真田幸村は、その夜客間の一室を借りて布団に伏せていた。  
枕が違う所為かいまいち寝付けず、酔いで暖まっていた体も少しずつ寒さを帯びてくる。  
(布団に入っていても寒いとは・・・。毛布をもう一枚借りれば良かっただろうか・・・)  
その様な事を考えながら、身を少し縮め、熱を逃がさないようにしてみる。  
 
 
すると何処かで、廊下を渡り歩く音、しばらくして引き戸が開く音がした。  
(・・・誰かが厠に行ったかな?)  
なんとなく知らぬふりをするかのように目を閉じる。  
案の定厠だったようで、すぐまた引き戸の音と、ひたひたと歩く音が耳に届いた。  
しかしすぐ傍の障子が開いた様で、幸村は訝しげに眼を開く。  
幸村のそんな仕草と、女が彼の布団に潜り込んで来たのは、殆ど同時だったと言えるだろう。  
 
「!!!!????」  
そっと開いたはずの眼は驚きで完璧に大きく見開いた状態になっている。  
余りに突然の事で、一体何が起こったのか幸村は瞬時に理解できなかった。  
「な・・・!」  
言葉を失った彼の眼に留まったのは、悲しき男の性なのか。  
女の顔ではなく、少し乱れた襦袢から覗く胸の谷間だった。  
 
 
(──い、いかん!!)  
何かに負けたような気がして情けなく思いながら、慌てて誰なのかと顔を確認する。  
黒く長い髪がはらはらとかかっているその顔を覗き込むと、幸村は仰天した。  
「──あっ・・・!」  
大声になりそうだったのを一旦堪える。  
「──義姉上・・・!」  
小声で叫んだ彼の声は、彼女には届いていなさそうだった。  
 
(何故私の所にいらしたのだろうか、いや、まあ、寝惚けているのだろうが・・・)  
自分の高鳴る心臓を忌々しく思いながら、幸村はなんとか冷静になろうと思いを巡らせる。  
しかし目の前に静かに横たわる彼の義姉上、──稲姫は、  
あられもない姿で無防備に寝息を立てており、いくら幸村と言えども冷静になれるわけがなかった。  
 
いつもの凛とした雰囲気はどこへやら、艶やかな黒髪が幾つもの束になって彼女の体を流れ、  
どうにも扇情的な印象を受けてしまう。  
最初に目に飛び込んできた胸元は、横向きに横たわっている腕の所為で余計に谷間を強調し、  
顔を見ようとしてもそちらに目がいってしまい始末が悪い。  
(こ、これは・・・、いかん・・・!)  
早々に自分の寝床に帰ってもらおうと思い、幸村は稲姫の肩に手をかけ、強めに揺さぶる。  
 
「義姉上、義姉上・・・!」  
「んぅ・・・」  
 
懸命に小声で囁くも、稲姫は全く起きる様子が無い。  
大声をあげて他の誰かに知られることに気が引けた幸村は、  
仕方なく彼女の耳元に口を近づけ、呼んでみる。  
「・・・義姉上!」  
しばらくの間の後、寝起きの所為か舌っ足らずな調子で、稲姫が声を上げる。  
「・・・ん、・・・幸村様?」  
意識を取り戻したことに安堵しながら、幸村は返事をした。  
「・・・はい。あの、義姉上、ここは私の寝床で、その、・・・義姉上が寝惚けて入ってこられて・・・」  
幾分緊張しつつ必死に状況を説明するも、戻ってこない言葉に再び寝てしまったのかと、幸村は不安を覚えた。  
 
「あの・・・、義姉上?」  
「ふぁい?」  
 
 
この気の抜けた返事に、幸村は嫌な確信を覚えながら、逡巡した後言葉を紡いだ。  
「あの、義姉上、・・・ちょっと失礼します」  
一応断って、闇夜に慣れた目で稲姫の顔を恐る恐る見つめ、その頬にそっと手を当てる。  
案の定、その頬は異常といって良いまでの熱さを持っていた。  
「ええと・・・・・・」  
こめかみに手を当てながら幸村が唸る。  
彼のそんな様子を見ているかいないのか、稲姫は小さくくすくすと笑っていた。  
 
(──酔っておられるな・・・)  
 
 
ある意味最高で、最悪の事態である。  
 
普段とは違うふにゃふにゃとした笑みを絶やさない稲姫の横で、幸村はいつになく頭を悩ませていた。  
(・・・ま、まぁさっさと連れて行けば、あらぬ誤解など受けないだろう)  
とりあえずそう結論づけて、早速稲姫を寝床から引き出そうとする。  
 
「義姉上、自室に戻りましょう。私が付き添いますから」  
そう言って起き上がり、稲姫の腕を引き上げようとすると、さっと彼女の顔色が変わった。  
「嫌です!嫌です止めてください!!」  
 
その大声に今度は幸村の顔色が変わる。  
「ちょ、ちょっと義姉上・・・!お静かに・・・」  
「嫌って言ったら嫌なんです!!」  
 
(こっ、これでは人が来たらまるで私が手篭めにしているようではないか!)  
慌てて強めに引っ張っていた腕を放し、布団にしがみ付く稲姫を落ち着かせようと声を上げる。  
「だ、大丈夫です何もしませんから!義姉上、落ち着いてください!」  
乱れた掛け布団を彼女にかけ直し、宥めるように上から手で撫でてやると、稲姫はやっと大人しくなった。  
「うぅ・・・、寒いのは嫌なのです、稲は布団から出たくありません・・・」  
涙交じりの声で囁かれるその言葉を聞き取り、幸村は如何したものかと大きく溜め息をついた。  
 
 
──と、突然体を支えていた片腕が叩かれ、再びべしゃりと布団に倒れてしまう。  
「・・・っ、うわっ!?」  
予想外の出来事に情けない声を上げると、耳元でくすくすと笑う声が聞こえた。  
勿論、稲姫の仕業だ。  
 
「義姉上・・・」  
普段とは全く違う彼女に多少調子を狂わされながら、幸村は嘆息する。  
「然様なお戯れができるのならば、寒さなど我慢して自室に・・・」  
溜め息混じりに説教じみた口調で言う幸村の、その言葉が皆まで終わらぬうちに事態は急転する。  
なんと彼女が幸村の胸元に、その身を強く寄せてきたのだ。  
「あ、あねうえっ!?」  
 
まるで猫のように彼の胸板に頭を押し付ける稲姫に、幸村は驚きすぎて拒絶することが出来ない。  
「ちょ、ちょっと・・・」  
たじろぐ幸村を他所に、稲姫はぴったりとその身を幸村にくっつける。  
暫くされるがままになっていると、それまで胸板に顔を埋めていた稲姫が、やっと顔を上げた。  
 
「はぁ・・・。幸村様は暖かいですね。寒い日は一緒に寝るのが一番です」  
言って普段とは違う、無邪気な微笑を見せる彼女に、幸村は胸を突かれた気がした。  
「あの、あ、義姉上、だから、自室に、その、・・・」  
どぎまぎしながら声を出す幸村を見つめながら、稲姫は再びにこにこと微笑む。  
「幸村様、稲がもっと、暖めてあげますよ」  
「兄上ももしかしたら起きてお探しになっておられるかもしれないし、・・・・・・え?」  
 
 
「稲が、もっと暖めて差し上げますよ」  
 
 
そう言って頬に置かれたその手を、幸村は撥ね退けられなかった。  
 
「義姉上・・・!だ、駄目です、こんな事・・・!義姉上には兄上が・・・」  
必死で説得しようとするも、何故か触れられた手を拒絶することは出来ない。  
自分が形だけの抵抗しかしていないことに、幸村は気づかない。  
 
そんな調子の幸村などお構いなしに、稲姫は嬉しそうに微笑みながら彼に顔を近づける。  
「何故ですか・・・?だって、寒いのだから仕方ないじゃないですか」  
少しばかり呂律の回らぬ口調で幸村の耳元に囁き、そこに口付けを落とす。  
「・・・幸村様は、酔っておられるのですか?」  
余りに熱い幸村の耳たぶに驚いたのか、稲姫が声を上げる。  
「!──そっ、それは義姉上のほうじゃ・・・」  
その言葉は、稲姫の唇によって遮られてしまった。  
 
 
「んっ!・・・ぅ、む・・・!」  
油断していた彼の口は稲姫の舌で一気にこじ開けられ、そのまま中を舐め回される。  
異常に熱い彼女の口内とむせる様な酒の香りに、幸村たちまち眩暈を覚える。  
「義姉上、いけません・・・!」  
自分の理性を必死に保とうとしながら叫ぶ幸村。  
「だって、寒いのです幸村様・・・」  
乱れた髪を掻き退け、困ったように稲姫。  
 
肌蹴た襦袢からは既に乳房の先端が見えるか見えないかまで零れ、月明かりに晒されている。  
帯の直ぐ下には程よく肉付いた太腿が顔を出し、既に言い訳できるような格好ではない。  
 
 
(ならば、いっそ・・・)  
 
 
ようやく隠された本音の下心が顔を出す。  
男である以上、美しい女の乱れたその様に欲情しない訳が無かった。  
 
「義姉上・・・」  
罪悪感と、それによって相乗された欲望が幸村の胸を毒のように満たしていく。  
「幸村様・・・。稲が暖めてあげるから・・・、稲を暖めて下さいませぬか?」  
熱が篭もる布団の中で、始まってはいけない睦み事が始まる。  
 
 
「義姉上の、望みのままに・・・────」  
自分のありったけの情欲に動かされ、幸村は細い彼女の肢体をかき抱いた。  
 
男女の交わりに経験の無い幸村にとってこれは初めての事で、  
そして初めての事にしては、過度に刺激の強い初めてである。  
(兄上・・・!申し訳ございません・・・!)  
思えば思うほど、心は軋みやたら興奮してしまう。  
 
 
見慣れている目の前の女性は、それまでとは全く違う艶やかな様子で幸村に体を預けている。  
違和感と、それ以上の欲に塗れた好奇心が、幸村の体を動かしていた。  
 
胸を高鳴らせながら、既に乱れきっている稲姫の襦袢の胸元に手を潜り込ませる。  
「は、ぁ・・・」  
聞いたことの無い鼻にかかった声を上げる稲姫に、幸村はどきりとした。  
「幸村様の手、暖かい・・・」  
ほんやりと笑う稲姫を可愛らしいと思いながら、忍ばせた手で緊張しつつ乳房に触れる。  
 
 
(・・・あたたかくて柔らかい)  
すべすべしていながらも暖かく、ふにふにとした感触にたちまち幸村は魅了された。  
さっきまでの緊張はどこへやら、がばりと胸元を肌蹴させ、両手で乳房を揉みしだく。  
稲姫の乳房はあまり大きくは無く、控えめにその薄い胸板に実っているが、  
桃色の先端をつんと立てて形よく並び、それが幸村には好ましく思えた。  
(女子の乳房とは、然様に気持ちの良いものであったのか・・・)  
 
その手触りに感動さえ覚えながら一層強く玩ぶと、稲姫が嬉しそうに声を上ずらせる。  
「あ、っ・・・!駄目です、そんなに強くされては・・・!」  
無論そんな説得力の無い言葉が幸村に届くはずも無く、  
稲姫の乳房は一層「おいた」をされることになる。  
 
むにむにと下乳を寄せては離し、硬くなった先端を舌先で突く。  
「ああっ、幸村さまぁ・・・!」  
甘い溜め息のような声が、幸村の聴覚を刺激する。  
「義姉上・・・」  
もっともっと声を聞きたくて、彼は夢中で稲姫の乳房を苛めた。  
 
 
 
冷たい冬の夜の一室で、淫らな熱が次第に高まってゆく──。  
 
「はぁ・・・、はぁ・・・」  
薄暗い部屋に、まるで獣のように息を切らす二人の声が細く響く。  
真白な体を桃色に染めた稲姫の体は、既にこれからを期待して切なく熟れている。  
 
──そしてそれは、幸村も同じ事だ。  
 
初めての女体に冷めやらぬ興奮で、無抵抗の兄の妻の体を隅から隅まで貪る。  
その罪深い気持ちが重くなればなるほど、どす黒い欲望は勢いを増して彼女の体を舐め回した。  
(こんな気持ちが・・・、私にあったなんて・・・)  
自分の心の闇に直面しながらも、それを止める事ができない。  
 
 
「幸村様、稲は、暖かくて気持ち良いです、幸村様・・・!」  
惚けた様に繰り返す彼の義姉上が、欲望をとどめる事を赦してくれない。  
甘い罪は、幸村の情欲はひたすら「欲しい」という気持ちを大きくさせるばかりだった。  
 
「ゆ、幸村様、ここも、触って下さい・・・」  
散々全身を撫で回されてすっかり火照った稲姫は、中々「そこ」に辿り着かない幸村に焦れて、  
自分からせがむ様に彼の手を自分の秘め処に這わせた。  
 
「あ、義姉上・・・」  
その余りの忙しない態度に幾分驚きながら、細かく入り組んだ秘め処の感触に指を震わせる。  
そこに中々辿り着かなかったのは、幸村の最期の自制心だった。  
しかしその自制心も、自分の義姉の色香の前では忽ち決壊してしまう。  
(ああ、こんなことはいけないとわかっているのに・・・)  
 
頭では分かっていても、火がついた本能の勢いは増すばかり。  
しっとりとした熱と膨らみと、とろりとした蜜の感覚に幸村の僅かな理性が勝てるわけが無い。  
 
 
初めて触る女の入り口は、甘い匂いと粘膜でそこを潤していた。  
(ここが、義姉上の・・・。・・・・・・不思議な感触がするな・・・)  
水と言うには余りにも粘っこい。薄めの餡といったところか。  
それを指先でにちゃにちゃと絡ませながら裂目をなぞって行くと、稲姫の体が小さく震える。  
「ん・・・!あぁっ・・・、ぃやぁ・・・」  
乱れた布団の端を手でぷるぷると握り締めながら顔に寄せる様は、堪らない程に幸村の情欲をそそった。  
 
「義姉上は・・・、こんなにいやらしくて可愛らしかったのですね」  
柄にも無く苛めるような言葉を囁きながら、更に花弁を掻き分けて蜜壷に指を差し込む。  
 
「はぁん・・・!ゆきむらさまぁ・・・!」  
欲にとろけた瞳を潤ませ、鈴が鳴るように稲姫が声を上げた。  
今にも大きく声を上げそうな彼女を宥めるように、その汗に湿った額を撫でながら  
もう一方の手で、その無骨な指先で更に奥をずぶずぶと目指していく。  
 
「やぁ・・・、やぁ、はぁ・・・あ!」  
指先が奥に近づけば近づくほど、稲姫の鳴き声は音量を増す。  
「駄目です義姉上、誰かが来てしまう・・・」  
嬌声の大きさに冷や冷やしつつも興奮しながら一応窘め、幸村は蜜壷をぐちぐちとかき混ぜた。  
 
中は入り口以上に暖かく、どろどろに蕩けていた。  
人妻でありながらも何故か少しきつく、侵入してきた指を甘い蜜に絡ませ、ふやかしていく。  
この中に挿れたらと思うだけで、幸村の吐息は熱く焦がれる。  
 
 
「申し訳ございません、義姉上・・・!私の不埒をお許し下さい・・・!」  
もうどうにも堪らなくなって、幸村は襦袢の隙間から自身を取り出すと、  
頼りない仕草で稲姫の秘め処にそれをあてがった。  
「ああ、幸村様・・・!もっともっと、稲を愛でて・・・!」  
酔いと性欲に体を火照らせながら、稲姫は項垂れる幸村を精一杯抱きしめた。  
 
最初に受けた印象は、清らかで美しい、と言うものだった。  
弓を射るときのその凛とした表情は、自分だけでなくとも心を動かされる者は多かったと思う。  
一生懸命で、負けん気が強くて、たまにどこか抜けていて。  
爽やかな笑顔が眩しかったその彼女が、今は艶やかに乱れ、細い裸体を自分の前に晒している。  
その普段との落差が、幸村に予想外の浅ましい本能を掻き立てていた。  
 
「義姉上、・・・申し訳ありません・・・!」  
言葉では謝罪しつつも、下半身は躊躇い無く濡れそぼった割れ目を貫いていた。  
最初は気遣うようにゆっくりと挿れていたのに、次第に中の感触に夢中になって一気に奥を、と慌ててしまう。  
しかしその強引さが返って良かったのか、稲姫は嬉しそうに体を戦慄かせた。  
 
「ひあぁっ!す、ごぃ・・・!熱いですぅ、ゆきむら、さまぁっ・・・!」  
欲しがっていた玩具をやっと手に入れた子供のような無邪気さで微笑み、ふるりと体を震わせると、  
幸村自身がみっちりと詰まった蜜壷が歓喜に溢れ、ぎゅうっと締まる。  
「うぁ・・・!」  
(女子の体とはかくも心地よいものなのか・・・!これでは余り持たないぞ・・・)  
余りの快感にぞくぞくと背を反らして必死に自分を保とうとする。  
程よく熟れた彼女の体は、これが初めての幸村にとっては少々刺激が強すぎるのかもしれない。  
 
「ふ・・・ぁ・・・。ま、参りますよ、義姉上・・・」  
何とか意識を飛ばすのを堪え、のろのろと稲姫にのしかかりながら、やっと腰を小刻みに動かす。  
「あぁっ・・・!あ、・・・っあん!や・・・!気持ちいぃ、です・・・!」  
幾分乱暴に突かれながらも、むしろそれが良いのか必死で声を上げる稲姫。  
しかし余りに大きいその声が、ようやく幸村の危険信号を働かせる。  
「義姉上、然様に声を出されては・・・」  
「んぅっ!はぅ!・・・ぁああんっ!」  
「・・・・・・。」  
これ以上声が大きくなり、誰かに見られてしまったら・・・。という事態にそら寒いものを覚えるものの、  
武骨な上に経験の無い幸村は、どうしたらいいのか全く考えが及ばず。  
思わずその大きな手で稲姫の口をぐっと塞いでしまった。  
 
「!?ふ・・・むぅ・・・!」  
驚き、大きな眼を更に見開かせて稲姫が幸村を見る。  
その仕草にこれはしまったと思い、幸村は慌てて押さえつけたその手をさっと離した。  
「も、申し訳ありません!」  
「だ、駄目・・・」  
か細い声で、稲姫が続ける。  
「手、離しちゃ、・・・駄目です、幸村様・・・」  
「あ、義姉上・・・?」  
 
 
「もっと・・・苛めて、愛でてください・・・。幸村様・・・!」  
 
 
唾液零れるその唇から紡がれたいやらしい懇願で、幸村の情欲に炎が迸った。  
 
「っ、む・・・、ふぅ・・・ん、うぅ・・・!」  
大きな手で強く塞がれた彼女の口から、小さく悲鳴が零れる。  
自分の手の中で蠢く唇の感触を覚えながら、幸村は無我夢中で腰を振った。  
 
(兄上の義姉上を抱いている上に、こんな所業を行うなんて・・・!)  
無抵抗な女子の口を乱暴に塞ぐなど、普段の幸村ならばしようとも思わない。  
だからこそその行為が、幸村の後ろ暗い性への欲望を一層加速させる。  
日の本一の兵と後に言われる武士道精神はどこへやら、  
もはや今の幸村は只の快楽の下僕でしかなかった。  
 
 
そしてそれは稲姫も同じこと。  
愛液に塗れた太腿を揺らしながら義弟の侵入に体を震わせる彼女は、  
父に恥じぬ武士になろうと志を熱くしていた面影など全く見当たらない。  
浅ましく義弟を求め、貫かれる快感に身を震わせるばかりである。  
 
「こ、こんな事が・・・、はぁ・・・!」  
「うん、ふぅ・・・、むぅ・・・!うぅん!ふぅ!んんっ・・・!!」  
 
摩擦熱ですっかり爛れた二人の結合部は、どろどろと互いの腿と布団を湿らせる。  
ぱちゅん!ぱちゅん!と弾ける肉の音が響き、その度に蕩けるような満足感が押し寄せた。  
こりこりに固まった乳房の先端が上下に揺れているのが目に付き、  
幸村は腰を休めることなく夢中でそれを唇で摘んでゆく。  
途端に稲姫の様子が変わり、膣をくねらせ、もっと奥深くへとうねり、誘う。  
「ああっ・・・!すごいです、義姉上・・・!私などにこのような事を・・・!」  
「・・・・・・!・・・・・・ぅ!」  
 
次第に意識が白み、自分が達しそうになるのを幸村は感じ取る。  
「義姉上・・・!義姉上・・・!」  
もうそれだけしか考えられなくなり、目を閉じてがしがしと腰を打ちつける。  
すると彼の背中に暖かくて細い腕がするりと回る。稲姫が彼を抱き寄せたのだ。  
まるで包まれているような感覚に溺れながら、幸村はひたすら彼女の奥を突き進んだ。  
 
「あね、うえ・・・!」  
汗の玉を飛び散らせながら柔らかい胸に顔を埋め、幸村が囁く。  
「ん!んんっ!ふ・・・!ぁ、あ、ん・・・・・・っ!」  
瞬間一気に稲姫の体がびくりと痙攣し、直ぐにがくりと弛緩した。  
その所為なのか蜜壷も一瞬にして収縮したので、程なく幸村も爆ぜる。  
 
「────・・・っ、義姉上・・・。」  
快楽の余韻に浸りながら彼女を呼び、その唇を塞いでいた手をそっと退ける。  
するとふはぁ、と大きく息を吸い込む声が、幸村の耳に届いた。  
唾液でべとべとになった彼女の唇が口付けを催促するように小さくすぼむので、  
幸村は流されるままに唇を重ねる。  
 
 
凍った真夜中に二人の体温だけは、なかなか下がる事が無かった。  
 
「ご迷惑をおかけしてしまって、本当に、本当に申し訳ございませぬ・・・!!」  
空が少しずつ闇夜を光に溶かしている頃にはもう、稲姫の酔いはすっかり醒めていた。  
 
 
「自分がしでかしてしまった事も、・・・最中に変な事を頼んでしまった事も、  
概ねはちゃんと覚えてるんです、本当にごめんなさい・・・!」  
しっかりと襦袢を着込んだ彼女は布団から出でその横に正座をし、  
いつもの生真面目そうな顔を赤くさせて平に伏せている。  
彼女の言葉を聞いてつい先程の情事を思い出し、幸村も思わず顔を赤らめてしまう。  
それでも出来るだけ普段通りな様相に努めて、言葉を紡いだ。  
 
「義姉上の所為ではありません!私の心が弱かったということです。  
止めようと思えば、いつでも止めることができたのですから・・・」  
自嘲気味に眼を伏せると、稲姫は一瞬彼を気遣うような素振りを見せるものの、  
目を背け、肩を小さく震わせて嗚咽を漏らした。  
 
無理も無いことだ、と幸村は思った。  
そして彼自身も兄と義姉への罪悪感に胸を突かれ、頭を垂れてしまう。  
 
 
「稲のこと・・・、軽蔑なさったでしょう・・・」  
声を裏返しながら、稲姫がぽつりと呟く。  
その予想外な言葉に幸村が疑問を投げかけようとする前に、言葉は続けられた。  
 
「不埒な事は汚らわしいと思ってるのに酔えば男を誘って・・・。  
挙句乱暴にされるのを喜ぶなんて、・・・一番汚らわしいのは私なんです・・・!  
信之様もおっしゃっておりました・・・。然様な事を望むのは下賎な色好みだと・・・!」  
そのまま萎れる様に、彼女はぽろぽろと涙を零した。  
 
項垂れる彼女を見ながら自分の兄との間にその様な事があったのかと驚きつつ、  
幸村の口は自然に言葉を発していた。  
 
「だ、だったら私だって、下賎な色好みの不埒者です!」  
「え・・・?」  
 
ぽかんと見返してくる稲姫に訴えるように、幸村は懸命な口調で続きを話す。  
「私も、その・・・、ひどい事をしてしまったとは思っているのですけれど・・・・・・。  
でも、義姉上の口を押さえつけて、・・・そう、している時は一層胸が高鳴ったというか・・・。  
ですから、私も浅ましい色好みです!申し訳ございません!!」  
 
自分でも整理できないまま、とにかく申し訳なくて幸村はがばりと土下座する。  
それから少し間があって、稲姫はわっと声を上げながら幸村の胸に飛び込んだ。  
「義姉上・・・」  
 
そっと抱きしめ、子供をあやすように優しく頭を撫でてみる。  
柔らかい髪の感触が、幸村の手を何度も流れた。  
 
少しだけ明るみがかかった闇に、二人の人影が浮かび上がる。  
一人は男。そしてもう一人は女。  
 
男に馬乗りで被さられている女の襦袢の前は肌蹴られ、白い肢体が見え隠れしている。  
その両腕は頭上で押さえつけられ、手首は襦袢の紐できつく縛られている。  
熱い吐息を漏らしながら頬を染めた女の視線の先には、  
やはり同じように切なく溜め息をつく男がいた。  
 
 
「幸村様ぁ、・・・恥ずかしいです」  
瞳を潤ませて訴える稲姫に苦笑しながら、幸村はそっと秘部に指を置く。  
くちゅりと水気のある音がして、稲姫は小さく悲鳴を上げた。  
彼女の腕を縛っている紐をぎちりと捻らせて一層強く締め付けると、  
幸村の胸に再びあの罪悪感と興奮がこみ上げてくる。  
苦しそうに身を捩らせながら嬉しそうに鳴く義姉を見て、彼は耳元で優しく囁いた。  
 
 
「・・・不埒だとか色好みだとか、私には基準など良く分かりません。  
けれどこうして乱れている義姉上をとても美しいと、──私は思います」  
「・・・幸村様・・・」  
 
泣きそうな顔で微笑む稲姫のその頬に、幸村は不器用に口付けた。  
 
 
熱に浮かされながら、何度も稲姫が呟く。  
「お願い、稲をもっと縛ってください・・・。・・・幸村様で、もっと縛ってください・・・!」  
答えないで、ひたすら彼女を抱きしめる。  
されるがままのその体に赤い跡を落とし、所在なさげな手を握り締める。  
 
「義姉上の、望みのままに・・・──」  
 
 
 
それが自分の望みであることは、もう幸村には分かっていた。  
 

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