1
武士は、安らかに、まるで死んでいるかのように眠っていた。
しかし、武士と言えどその容貌はまだ幼く、穢れを知らぬ少女のそれのようである。
縁側から差し込む穏やかな陽の光が、武士の頬から鼻頭にかけてを覆い、
きめ細やかな白い肌が、いっそう輝いて見える。
柔らかそうな濃い桃色の唇は、意志の固さをあらわすように横一文字を作り上げる。
「んん……」
もぞっ。と布団の膨らみが動き、武士の眉間に皺が一つ増えた。
(ん、私は……)
武士の視界はぼやけた天井に支配され、思考回路も鈍っているのを感じる。
それと同時に、今の状況を鮮明に感受してはまずいという焦燥感も、ふと起こった。
過去に何かとてつもない出来事を体験し、それをどうにか思い出さずに
済ませようとする一種の防衛反応が、武士の中で働いたのだろうか。
しかし、その心配は取り越し苦労で終わることとなった。
今の自分の状況を、“奇妙なほど何も”思い出せないのである。
(どうしてこんなところにいるのか?)
(ここはどこなのか?)
(……そして、自分自身は……誰なんだろうか?)
そう問いを投げかけた瞬間、鋭い痛みが後頭部を発端として、頭全体を駆け巡った。
「ぐぅっ…ぁ!」
武士は思わず押し殺した悲鳴を漏らし、とっさに頭を抱えた。
痛みを堪えつつ身体に目をやると、武士は自分は傷だらけであることに気がつく。
もちろん傷が露になっているわけではなく、身体の到るところに包帯で手当てを
されているのである。
「どうして…私は、こんな……うっ!」
痛みが消え失せた折、明るい陽光の中、武士はゆっくりと身を起こした。
自分でも不思議なくらい、武士は焦ることが無かった。
それどころか、何も思い出せないことに、なにやら妙な安心感が武士の体を包む。
それほどの恐怖を私は体験したのか。と武士は自問するが、答えは見つからない。
そしてそれは不運なことにも、頭の激痛を強め、
さらに得体の知れない恐怖を己の心の中に増幅させる結果となった。
するとその時、奥の襖が横に動いた。
誰かが入ってくる。そう判断した武士は咄嗟にその方向へと身体を向けた。
「どなた、ですか?」
寝起きだからなのか、それとも異形の恐怖ゆえか定かではないが、
武士は喉の奥から搾り出すように、声を発した。
そこにいたのは、少女と女性の中間に位置すると思われる、綺麗な娘であった。
その凛とした目鼻立ちは、一娘でありながらも武士の風格を思わせ、
唇はやや武士よりも薄い桃色で、真ん丸とした黒い瞳が、素朴で純真な心を
反映しているようである。
娘のほうもこちらを認識したようで武士に眼を向ける。
すると突然、娘の大きな目がさらに大きくなり、咄嗟に武士に駆け寄った。
「いけません!まだ横になっていなくては!」
娘は、失礼します。と短く武士に断りを入れると、未だ状況が掴めない武士の肩を
そっと手で添えて横に寝かせ、武士の身体にきちんと布団をかけた。
「ご機嫌はいかがですか?蘭丸殿」
(蘭丸……?)
武士は、その言葉を反芻した。
それは自分の名なのかと武士は問うた。娘の凛々しい柳眉がぴくんと動いた。
娘の中で、それは驚愕の事実だったに違いない。しかし驚いた表情を見せては、
武士は――蘭丸はひどく不安になるだろうと、顔に出すのだけは何とか堪えた。
しかし、娘は知った。“蘭丸の記憶はなくなっている”という事実を。
2
陽の光は依然、布団で横になった蘭丸を照らし続けていた。
蘭丸は、その娘が稲という名を持つことも知った。記憶を失って初めて知った、
他人の名であった。何か一つでも空っぽの記憶の中に得た知識が
蘭丸を安心させたのだろう。彼の表情には笑顔が戻り、やや蒼白であった顔色も
すっかり血色が良くなった。
稲姫(稲は周囲からそう呼ばれている)自身も、記憶を失うという異例の事態に
戸惑いを隠せなかったが、だんだんと落ち着いてきた様子である。
しかし、依然として蘭丸の心の中にひっかかっているものがあった。
それは“過去の記憶”である。
この身体中の傷。頭の激しい痛み。
何もなかったわけではない。蘭丸は確信に近いものを持っていた。
「あの……」
蘭丸は、自分を心配そうに、けれども笑顔で見下ろす稲姫の表情を眺め、
思い切って切り出そうとする。稲姫ならば自分の過去を知っているかも知れない。
そんな期待をもって。
「はい?」
「私の身に一体どのような事が起きたのですか……?」
過去を知るのが怖くないわけなど無い。しかし、知らなければならない。
蘭丸はその覚悟より、拳を強く握り締め、やや厳しい眼差しで稲姫の返答を待つ。
稲姫の表情は困惑極まりないものであった。
眉間に皺を集め眉を八の字にし、先程から真っ直ぐに向いていた黒い瞳は、
きょろきょろと、まるで泳いでいるように定まらない。そしてすぐに俯いた。
(ああ、この人は嘘がつけない人なのか……)
暫しの沈黙が間を支配し、蘭丸はついに降参した。
「――申し訳ございません。答えにくい質問をしてしまいました」
「いえ、稲のほうこそ。その……」
稲姫は俯いたまま、蘭丸のほうを見ようとしない。ただ申し訳なさそうに呟いた。
そんな稲姫を見かねてか、蘭丸は考えるより先に、自分の枕もとの盆に乗った
粉薬の乗った薄紙を手に取る。
そして、早々に薬を飲み干すと、空いた薄紙を器用な手つきで折り始めた。
稲姫のほうも次第に、蘭丸が何をしているのかが気になり始め、
真っ赤に染まった顔をゆっくりと上げていく。
蘭丸の女性のように細い指先によって、平面な薄紙は立体的なものへと、
見る見るうちに変化していった。
「稲様。ほら、ごらんください」
稲姫の眼が、一瞬のうちに輝いた。そこにあった筈の薄紙の姿はまるでなく、
それは確かに見事な鶴であった。蘭丸は、稲姫の少女のような嬉しそうな表情に
ほっと一息をこぼし、稲姫の手を広げると、そこにちょこんと鶴を置いた。
「すごい…。蘭丸殿は手先が器用なのですね!」
「そ、それほどではないのですが」
あまりに輝いた稲姫の瞳に、蘭丸も思わず顔を赤らめて、はにかんだ笑みを見せた。
記憶は失っても、折鶴の折り方くらいは手の感覚が覚えていてくれたことに、
いくらかの感謝をこめながら。
すっかり童心に帰った少女は、折鶴の羽を手で動かしながら、
「私にも、折り方を教えてくださいませんか?」
と言う。
「ええ、もちろん。簡単ですから、すぐに覚えられますよ」
蘭丸は微笑を向ける。まるでどちらも童心に帰ったかのように折り紙に没頭した。
折り紙を折りながら、蘭丸は、今日はいつなのかを稲姫に聞いた。
稲姫は、聊か折鶴に熱心になってしまったのか、折り紙を見つめながら答える。
天正十年、六月十日。――それはある歴史的大事件の直後であった。
3
静寂をかき消すように、鈴虫が鳴き始める夜。
蘭丸は、昼間の薬が効いてきたのと、折り紙作りの適度な疲労感から、
うとうとと瞼が不安定になってきていた。
(私はここにいていいのか……)
(何か、もっと、やるべきことがあるのではないか……)
具体的には言い表せない不安が蘭丸の心をチクチクと刺激し、それが蘭丸を
安易に眠りへと走らせない、足枷のような役割となっていた。
「蘭丸殿」
すっと襖が開いた。稲姫だ。湯気の立ち上った桶を持っている。
蘭丸は襲い来ては去っていく睡魔を一息に跳ね除け、布団から上体を起こした。
「それは……?」
「身体を拭きに参りました。随分と長くお休みでしたから、きっと汗を掻いてると思って」
ことん。と畳に桶を置き、稲姫自らも畳に正座する。
そして、やや小首を傾げ、蘭丸の表情を覗き込むようにして
「あれから、眠りましたか?」
と問いかける。
蘭丸は左右に首を振り、眠れない経緯を稲姫に打ち明ける。すると、彼女は桶に張った
湯に浮かべられた布巾を、ぽちゃぽちゃと水音を鳴らして、浸していく。
「蘭丸殿は何も心配することなどありません。それで、あの……そ、その……」
稲姫の語調が小さくなっていくことに、蘭丸は首を傾げる。
稲姫はごくんと唾を飲み込むと、意を決して蘭丸の顔を強い瞳で見つめた。
まるで蘭丸を睨んでいるようで、彼自身も恐れ慄き、びくんと肩を震わせたほどである。
「裸になっていただけますか!」
蘭丸は目を丸くし、稲姫は顔を真っ赤に染めている。
「じ、自分で出来ますから、稲様にそこまでさせることは……っ」
「そういうわけにはいきません!蘭丸殿は怪我人なのですから、稲が世話をしなくては」
どこまで純粋なのか。その手厚い気持ちは孤独な蘭丸にとって、とても有難く感じる。
しかし、異性に自分の裸を見られることなど、蘭丸の常識からは考えられず、
幾度となく、眉を動かしたり舌で唇を濡らしたりと、躊躇の表情を見せる。
おそらく、稲姫の慌てぶりから、彼女も男の裸を見ることなど殆ど無いことが想像つく。
そのことが、また更に初心な男の戸惑いに加担した。
「では、失礼いたしますっ!」
稲姫はぎゅっと目を瞑り、蘭丸の胸に手をかけると、襟元を震える手で開く。
いとも容易く着物の上半身は剥かれ、腕や、肩には包帯が巻いてあるものの、
そこ以外は、蘭丸の透き通るような肌が露になり、また適度についた胸筋や腹筋が、
そこにいるのは間違いなく男であることを感じさせた。
稲姫は、うっすらと恐る恐る目を開けてみると、齢十九の男の眩しい肉体が映り、
咄嗟に目をそらしながら、湯に浸しておいた布巾を蘭丸の胸にあてがった。
「ん……」
少しひんやりした空気に晒された体に、温かな湯の温度がじんわりと滲みこみ、
何とも言えない身震いをしてしまいそうな感覚と、男として情けない声を漏らしてしまう。
「熱い、でしょうか……?」
「あ、いいえ、そんなことはありませんが……」
「良かった……。では、首を少し上げてくださいますか?」
蘭丸は言われるがままに、やや上を向く。布巾の感触が首のほうへと伝っていった。
強く擦るような手つきではなく、優しく撫でながら、湯の温かさを肌に置いていくように、
蘭丸の上半身を、沈黙の中、拭いていった。
やがて、布巾が乾いてきたことに気づいた稲姫は、再度桶に浸そうと試みる。
しかし、桶に手を伸ばした瞬間に稲姫は身体のバランスを崩し、短い悲鳴と共に、
横に転びそうになろうとしていた。
「危ないっ」
――その瞬間、蘭丸は倒れ行く稲姫をしっかりと抱きとめ、その身体を支える。
武士さながらに活躍する稲姫の身体は、女性にしてはしっかりしており、
特に腕は、腕自慢の男に負けない程鍛えられている事に、蘭丸は気がついた。
「も、申し訳ございませぬ。ありがとうございました……!」
稲姫は、恥ずかしそうに顔を上げる。すると、すぐ近くに蘭丸の顔があることに気がついた。
これほど近くで女性の顔を見たことが無かった蘭丸も、まるで沸点に達するのでは
ないかと不安に思うほど、その体温が高まり、胸の鼓動も高鳴った。
そしてそれは、稲姫も同じことであったに違いない。
「蘭丸殿……」
「稲様……」
お互いの顔が近くにあったことで、互いはまず目を丸くして見合い――そして、
ゆっくりと目を細めて、互いの無垢の唇を押し付けた。
4
ゆらゆらと照らす提灯の明かりのみが、室内を支配していた。
布団に寝かせた稲姫に、蘭丸が覆いかぶさるようにして、互いの唇を貪る。
互いに、衝動に駆られただけかも知れない。見知らぬ男女がこのような行為を行った
としても、それは愛と言うにはあまりにも説得力が乏しかった。
「ん……はぁっ、蘭丸殿……!」
唇を離し、息を吸い込むようにして上に被さる蘭丸の名を呼んだ。
蘭丸は稲姫の眼前で柔らかく微笑み、そしてまた“男”となった。
稲姫の首筋に顔を近づけると、その長い舌でゆっくりと首筋を舐め、
それと同時に、左手をゆっくりと稲姫の襟裏へと忍び込ませ、指先を乳房に這わせた。
「あっ…あああんっ!蘭丸殿ぉ……!もっと……っ!」
一気に二箇所から刺激を与えられ、身体を強張らせながら、更なる期待を抱く。
稲姫の喘ぎに応じるかのように、蘭丸は舌を鎖骨にまで這わせ、舌自体も幾分か
巧妙な動きをし始めた。
稲姫は痙攣するかのように、身体全身を震わせ、責める蘭丸の頭を愛しそうに抱きしめ、
小さく、そして何度も、蘭丸の名を口から発する。
やがて稲姫は、首筋を執拗に攻める蘭丸の頬に手を沿え、自分の方向へと向けさせる。
「蘭丸殿……今晩はゆっくり、お眠りください。何も気にすることなどありませんから……」
そう言うと、稲姫は蘭丸の唇に舌を丁寧に這わせ、蘭丸が口を開いたところを見計らい、
舌を蘭丸の咥内へと侵入させた。
「ん……んむっ……んん!」
突然の異物の進入に、蘭丸は目を見開かせて、近過ぎる程の稲姫の瞳を見つめた。
そして徐々に、蘭丸の舌もそれを受け止め、卑猥な水音を響かせながら、
舌同士の戯れを開始した。
布団の中で、稲姫の身体と蘭丸の身体が互いを摺り寄せ合い、蘭丸の手は稲姫の胸に。
そして、稲姫の手はいつの間にか、蘭丸の男性自身へと絡み付いていた。
「…はぁあ、蘭丸殿のが……こんなに硬くなって、すごい……!」
「うっ…くっ!」
異性に触られたことの無い蘭丸は、今までにない刺激をその身に感じ、身体を震わせた。
自慰すら数えるほどしかやったことのない蘭丸にとって、それは強烈な刺激に違いない。
対する稲姫も、今まで体験したことの無い雄の肌触り、そしてその力強さに、
恐怖と期待の入り混じった波が、少女の鼓動を確かに女の鼓動へ変えていった。
「蘭丸殿。これで…稲を……私を愛してください、ませ……!」
「稲様っ!」
稲姫の桃色がかった頬。燃えるように欲情した瞳。
蘭丸の興奮はこれによって頂点に達し、やや無理矢理に稲姫の着物を脱がせ、
多少の罪悪感を覚えつつも、稲姫を一糸纏わぬ姿にした。
稲姫の秘所はしっかりと閉じられているが、その割れ目からは確かに“快感の証”が、
滴り落ちているのがわかった。
蘭丸は、稲姫の手によって大きく肥大させられた男性器を、割れ目にあてがう。
(これでいいのか……?)
ふと、蘭丸の理性がその行動を抑止しようとした。蘭丸の身体の動きがピクンと止まる。
(このまま、稲様と繋がりを持ってしまったら……)
「蘭丸殿…っ。早く、早く稲を女にしてください……!」
稲姫が、やや普段とは違う、掠れたような声で、男の侵食を望んだ。
蘭丸も稲姫も、相当に高揚し互いを求め合っているはずである。
しかし、蘭丸の頭の中には、依然としてあまりにも冷徹な自分がいることに気づく。
(――ッ!!)
蘭丸は、首を大きく振って不安や心配を振り払い、一気に稲姫の身体を貫いた。
「ひゃあっ!ああ――ッ!蘭丸殿!」
押し寄せる処女の痛みと、初めて自分の肉体を求められたという、芯まで疼くような興奮に
稲姫は首を大きく反らせ、真っ白な喉元を露にした。
しかし、蘭丸は“あえて”無心に、本能のままに腰を動かした。
何かを考えれば、それが不安へと結びつくのならば、ただただ稲姫の色香をその身に受け、
本能のままに行動したほうが良いと考えたからであった。
結合部からは、当然の如く処女の血が雫となり、稲姫のやや粘り気のある透明な液体と
混ざり合った。
蘭丸は、それを見て眉を上げ、自分の行為が稲姫の苦痛になっていることを知る。
「稲様っ!ごめんなさい、私は……その、あなたの痛みも考えず……」
まるで夢から覚めたかのように、蘭丸は一心不乱に突き刺す腰の律動を止めた。
稲姫は、苦痛から激しい呼吸をしていたが、やがてそれを整え、上体を起こして、
蘭丸の首の後ろに手を回す。そしてそんな些細な行為においても、繋がっている二人に
とっては、初めてであろう蘭丸の一物と、初めてである稲姫の膣肉が擦れ合い、
互いに嬌声を漏らしながら、熱い吐息をお互いに向ける。
「蘭丸殿……いいのですよ。私は、今宵、身も心も蘭丸殿の女になります……」
蘭丸の鼻の頭に、軽く唇を乗せた。
「ですから、お好きなままに、稲を愛してくださいませ」
対面座位(蘭丸の膝の上に稲姫が座って乗り、互いを見合わせ結合するという体位)と
化した二人は、今まで以上に唇での求愛が楽なものとなった。
一度口を離せば、互いの唾液が、まるで銀色の架け橋のように繋がっていく。
蘭丸が稲姫の瞳に視線を移した。
稲姫の表情は、すっかり行為に陶酔したような、最初に感じた清楚な雰囲気とはまるで
異なっていた。口元からは涎を垂らし、視線は蘭丸に絡み付いて離れない、といった所だ。
もしかしたら、稲姫も同じようなことを考えているかも知れないが。
5
今度は少し勢いを弱めながら、蘭丸は腰を浮かせて深く差し込んでいった。
「ん……はぁっ」
そして、先程手探りで終えた稲姫の乳房に、軽く唇を押し付ける。
稲姫の吐息が蘭丸の髪を靡かせるのがわかった。おそらく乳房を他人に愛撫されるのも、
初めてのことなのだろう。触れるだけで、稲姫の全身が震えている。
さらに蘭丸は小さく舌を出し、桃色の乳輪にそれを這わせた。
「いや、あっ、ああっ…蘭丸、殿……」
稲姫は、早くその中心を愛して欲しい、ともどかしそうに身体をくねらせるが、
不埒なことを嫌う性格が祟り、どうしても自らの喉の奥からその請願は発せられない。
ついに蘭丸の舌は、稲姫の乳首へと至った。
「あああっ!蘭丸殿ぉっ!そこっ…それぇっ!」
それと同時に、まるで稲姫の身体に雷撃が走ったかの如く、大きく身体を震わせ、
蘭丸の頭を強く自分の乳房に押し付けてしまった。
当の蘭丸は目を丸くするほかなかった。なぜならば、女性の乳房を吸うことなど、
乳母や母に対して赤ん坊がする行為であると思っていたからだ。
だから、それが女性の快楽に結びつくものかどうかは分からなかった。
――だが、稲姫のこの快楽に酔った表情を見ていると、ああそうなのか。と思う。
蘭丸は心なしか嬉しい気分で、稲姫の乳首に舌を絡ませ、その痴態を下より眺めた。
「んはっ…稲様…ここは、気持ちいいですか……?」
「はひっ、はぃいっ、蘭丸様が舌でなぞるところは、みんな…みんないいですぅっ!」
呂律が回らなくなってきた稲姫に、蘭丸は軽く笑みを向けると、
水気が大分増してきている稲姫の秘め処への責めが、再び激しさを増した。
蘭丸が、稲姫の引き締まった女尻に手をかけ、腰を大きく浮き沈みさせることによって。
「はぁんっ!ああっ!蘭丸殿…っ!もう、激しくてぇ……いいっ!いいいっ!」
「あぁっ!嬉しいです、喜んでもらえて……っ。ん、でも、もう…わた……くしもぉっ!」
どうやら、稲姫に最早苦痛は無いようだ。顔を真っ赤にしながらも、表情は喜びに満ち、
蘭丸の律動を心待ちにしている様子が伺える。
下から責め立てる男のほうも、処女のきつい膣肉の締まりに、大分参っている様子で、
下手をしてしまえば、すぐにでも欲の塊を吐き出してしまうだろう。
「はぁっ!中に、稲の中に出してくださいませぇっ!…ああっ!あああ…何かが……っ!」
「ん……くっ、もう…稲様ぁぁっ!」
「何かが襲ってきそうな…怖い…怖いぃ…きゃぁああっ!飛んじゃうぅぅっ!」
結合部の律動が頂点に達し、男と女は未曾有の快感の恐怖に、互いを強く抱きしめあった。
お互いの身体が弾けそうなほど、かつてない身震いをし、蘭丸の一物は稲姫の中で爆ぜ、
欲望は確かに稲姫の中へと注がれた。
興奮冷めやらぬ激しい呼吸は長く長く続き、蘭丸と稲姫は抱き合ったまま布団へと倒れた。
そこで再度軽い口付けを交わされる。それは――そう、今宵だけの秘め事が、
“今宵で終わることの無いように”願いを籠めたものだったのかも知れない。
「蘭丸殿……」
「今宵は、稲様もここで寝てしまいますか……?」
縁側から明い月は見えなくなった。いよいよ夜も更けてきたと言うことであろう。
“女”になった少女は、蘭丸の体温をさらに感じるようにと布団の中で強く抱きしめ、
紅潮した頬を更に赤らめて、小さく頷いた。
――了