1  
 
「明智光秀様、御謀反!!」  
信長の小姓である美少年――その高らかなる声が、古寺に響き渡った。  
第六天魔王・織田信長はゆっくりと視線を彼に移すと、まるで狐のように冷ややかな、  
何事にも動じぬその屈強さが滲み出た眼差しで、うろたえを隠せぬ少年を見つめ、  
「是非もなし」  
魔王は口元を緩めた。  
忠臣・明智の謀反であるにもかかわらず、その表情の穏やかさは何であるのか。  
数千、いや一万いるやも知れぬ明智の軍勢が差し迫っている。  
対して此方は小姓、供回りを中心の小勢。取り乱せ――とは、口が裂けても言えないが、  
それでも何らかの心の乱れが、信長という男の表面に現れてもいいのではないか。  
少年は、何か人外のものを見たようで、身体が震えた。  
「お蘭、うぬはどうする――光秀につくか?」  
信長は、傍にいる濃姫に酒を注がせると、少年の身体にその視線が絡まった。  
少年は一際大きな声で、  
「私は信長様をお守りするまでです!明智光秀は……」  
そう言い終わった後に一度、視線を木床に下ろすと、拳を握り締めて魔王に背を向けた。  
「私が討ってみせます」  
少年が“鬼神”になった瞬間であった。  
そしてこれが、信長にとって、最後にその少年を見る瞬間でもあった。  
 
室内には、再び信長と濃姫だけが存在していた。  
濃姫は夫の酒を呑む姿を、その目に焼き付けるが如く、妖しく鋭い瞳で見つめながら、  
夫にもたれかかっていた。  
「ねえ。外が騒がしくなってきたみたい……」  
確かに古寺の静寂が喧騒に支配されつつあった。明智の進軍が始まったのだろう。  
「どうするの?」  
信長は、濃姫を見つめた。  
良い具合に成熟した、女としての扇情的な表情。惹きこまれそうな漆黒の瞳に、  
蛇のように纏わりつきそうな、鮮やかな紅色の唇間に見え隠れする舌。  
まさに、魔王の妻に相応しい妖の女である。  
 
「全員に逃げよと命じた。抗う“物好き”には好きにせよ――とも、な」  
まるで天下、いや、生への執着が無いかのように、淡々と己の敗北を認める発言をこぼした。  
天が自分を選ばなかった――ただ、それだけの事。  
信長は、自嘲とは言い難い愉快な笑みを浮かべながら、濃姫の肩を抱き寄せた。  
「……そうなの」  
対する濃姫も、夫の笑みに答えるように、整った紅色の唇の端を上に持ち上げた。  
それはまるで斉藤道三の幻を見ているようであった。  
心の中の深い闇が具現化した――奸智の化身とも言うべき蝮の表情が、そこにあったのだ。  
「お濃」  
「はい」  
「うぬは、添い遂げよ。――地獄までな」  
桔梗が古寺の前に咲き乱れた夜であった。  
 
2  
 
信長は強引に妻の唇を奪った。  
「今宵ならば……うぬを抱けよう」  
信長は、重い音をたてて鎧を脱ぎ捨てると、濃姫の濃い紫色の着物に手を触れた。  
そしてその手は襟の内側へと侵入し、濃姫の大きく露になった胸元を荒々しく揉みしだく。  
「ん……ふふっ!あなた……いいわ、もっと」  
濃姫は愉しそうに夫を見つめ、小さく吐息を零した。  
信長はもう片方の手で、さらに互いの身体を密着させようと力強く引き込むと、  
“優しさ”という概念の存在しない獣のように、激しく、けれども淡々と胸の愛撫を続けた。  
「そうよ……私の肉体はあなたのもの。そしてあなたの肉体は私のもの……」  
濃姫は独り言のように呟き、痛みに近い激しい快楽に身を捩じらせる。  
「誰にも、渡さない……」  
強い意志の篭った言葉を表すと、愛しい夫の唇に己の唇を押し付け、  
まるで地を這う蛇のように意思を持った濃姫の舌が、織田信長の咥内を侵していった。  
「ん……んむ……っ」  
「ちゅっ、はぁ……んん……ちゅうっ」  
信長は、そのような濃姫の責めにも驚く様子は全く見せず、その手に収まる乳房を揺さぶる。  
やがて信長の手が、濃姫の硬い突起へと至った。  
人差し指と親指でその突起を摘むと、ぐりっと無理矢理それを力強く捻った。  
「――んあっ!」  
流石の濃姫も、これには悲鳴に似た声をあげる。  
「ふっ、愛いのう……お濃」  
信長はその目を細め、濃姫の苦渋の表情を愛するように、女の艶やかな髪を撫でた。  
濃姫もそれに対抗しようとしたのか、自らの手を信長の男自身に添えて、やんわりと撫でる。  
すると、撫でられた男はピクリと眉毛を上げ、胸を愛撫する手が一旦止まった。  
「あなたのもこんなに立派……私の夫だもの。当然、かしら……」  
女は男の大きな一物に見とれているように溜息を零し、それを手で軽く扱いた。  
 
「咥えよ」  
信長は、一物を愛する濃姫に冷ややかな目でそう命令した。  
濃姫は一旦夫を見上げると、まるで神に服従するかのように、陶酔した瞳で頷いた。  
小さく舌で唇を湿らせ、ちろちろと一物に舌を這わせたかと思うと、  
まずは亀頭を軽く咥え、頂点に在る尿道口を自在の舌によって責め立てる。  
濃姫は魔王の膝元に跪きながら、手を腿に添えて、一心不乱に夫の物を奉仕した。  
「んぶっ……んぷっ……ちゅぱっ、ちゅっ……ぼっ」  
信長の物に、濃姫の舌が纏わりつく際の水音が、古寺の古木柱を振動させ室内を響かせる。  
「濃。さらに深く咥え込め」  
濃姫は夫を見つめると、頷くように視線を下に向けて、喉奥に亀頭が達するまでに  
魔王の物を呑み込んで行った。  
喉を刺激されることによる吐気、呼吸をする際の息苦しさなど、夫の愛を独占できることに  
比べれば、小さな代償に過ぎない――濃姫は心の中で不敵な笑みを浮かべた。  
 
信長の身体が小さく震えた。絶頂に達したいのであろう、濃姫は悟った。  
濃姫は歓喜の瞳で夫を見つめ、舌の往復をさらに素早く激しく――射精を後押しした。  
ちょうど喉奥に、その肥大した物が差し掛かった時、遠慮も無く夫は妻の中に欲を吐いた。  
信長の表情は、まるで仮面でも付けているかのごとく、依然として変わらない。  
しかし、その一物は確かに快楽の頂点に達したのだ。  
その証拠が、濃姫の口の中(それも喉奥)に苦く、粘り気をもってこびり付いた。  
夫の一物から口を離すと、咥内一杯に注がれた“その証拠”を溜め、  
ごくん。  
濃姫は何の躊躇もなしに、喉を通した。  
「ふふっ……濃いのね。こんな状況なのに、困ったお人……」  
「立て」  
信長が立ち上がり、濃姫の手を掴んで同じように立たせる。  
不意に焦げ臭い臭いがした。血の臭いが混ざった、何かの焼ける臭い――  
大方、明智軍がこの古寺に火をつけたのであろうか。もう夜更けだと言うのに、障子を通して  
明るい光が点々と見えるようになってきた。  
「もう、逃げられないわね」  
「是非も――なし」  
信長は、濃姫の小袖を完全に床へと脱ぎ下ろすと、お互いが紛う事なき裸体となり、  
表情に笑みを残したまま――小さく抱き合った。  
 
3  
 
信長は濃姫の背に手を沿えて、その大胆な片腿を上げると、濃姫の花弁が露になった。  
扇情的な表情、大胆な肉体、露出の高い服装――そんな“女”としての魅力が溢れ出す  
濃姫にとって、そこはあまりにも無垢で、淡い箇所であった。  
夫の一物を奉仕したからであろうか、透明な液体が、花弁の周りの短い陰毛に露となって  
現れていた。まるで、涎を垂らしているかのように、逞しい男根を心待ちにしている。  
そう考えると、その花弁は決して純で無垢ではないことに、気づかされた。  
「ねえ、早く――愛して」  
「ふん」  
信長は小さく鼻で笑うと、先程射精したとは思えないほど硬く勃起をさせた一物を、  
その純な花弁にあてがう。  
そして初めはゆっくりと――しかし段々と速度を付けて、濃姫の膣を犯していった。  
「あんっ――はぁ……」  
膣の中に感じる異物感は、片足立ちの濃姫のバランスを崩すほどの衝撃ではあったが、  
背に回された信長の手に支えられ、何とかそれを受け止めた。  
 
どうやらこの部屋にも火がつけられたようだ。柱は一瞬のうちに業火に焼かれた。  
障子の薄紙は呆気なく墨へと変わり、柱はミシミシと音を奏で、その本来の役割を失った。  
しかし、それでも男と女は欲情するままに、腰を振っていった。  
「あんっ……あ、あっ……素敵よ、あなた……――んんっ」  
信長は無理矢理、妻の唇を塞いだ。火は二人のすぐ其処まで来ていた。  
何を思ったのか、信長は上げた妻の脚を地に下ろし、その肉体を床に組み敷いた。  
「ふふ、どうしても自分本位じゃないと気が済まないのね。――いいわ、最後まであなたに  
振り回されてあげる」  
「ふっ、それでこそこの第六天魔王の妻、よ」  
男と女は正常位の体制となって、一気にお互いを求め合った。  
それは、今までに無い激しさであった。信長の突きは濃姫の子宮まで易く達し、  
一方で濃姫の膣肉の締まりも、柔なものであれば千切れてしまうのではないかと疑うほど、  
しっかりと信長に絡みつき、そして決して解放する事は無かった。  
濃姫の腕は、信長の首へと絡みつき、炎の轟音にかき消されそうな小さな呟き声で、  
「はぁ……ん、いい、いいわ。ねえ、一緒にいきましょ……地獄に」  
 
信長が初めて、高まる快楽に耐えられずの唸り声を上げた。  
―――――――。  
お互いの身体が強張り、信長は濃姫の中に欲望の果てを、これでもかと言うほど吐き捨てる。  
子宮全体に染み渡るあたたかな温もりが、濃姫を陶酔させた。  
お互いの結合部からは、あまりの多量の精を注ぎ過ぎた為に、溢れ出した白濁液が  
濃姫の菊門を通り、床へと零れ落ちた。  
第六天魔王と、その妻である蝮の娘は、同時に達したのである。  
 
 
古寺の柱がガラガラと躊躇無く崩れ落ち、それは織田政権の崩壊を意味した。  
まさしく、終焉の時であった。  
恐怖で律し、世に君臨した覇王が炎となって天に帰す――。  
謀反者・明智光秀は、炎に塗れ永遠に愛し合う信長と濃姫に、涙ながらに謝罪の意を表した。  
 
 
――了  
 

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