「縄が…食い込む…ッ」
「ふふっ、結構サマになっているわね、光秀。」
濃姫がこっそりと入れた眠り薬の効果はてきめんだった。目が覚めたとき、光秀は安土城の地下で縄で拘束されていた。
ほの暗い地下の物置のなか、いくつか置かれた燭台だけが、ふたりの影をゆらゆらと映し出している。
僅かな光源に照らされた濃姫の、よく知ったはずの面差しが、光秀は怖ろしい。その凄絶な美しさが、怖ろしい。
「どうかご容赦ください…! 姫君様とこのような…あの方に知られれば…!」
「大丈夫よ、そんなこと気にする人じゃないもの。」
くつくつと濃姫は笑った。相変わらず堅い、妙なところで頭が回らない男だ。
信長の性格ならば愉しむことはあっても決して咎めはしまい。
はらりと床に落ちた、濃姫の着物。光秀は反射的にさっと目を背けた。
それが気に入らなかった濃姫が、つかつかと歩み寄って前触れも無く光秀の腹に蹴りを入れる。
光秀はうっ、と小さく呻いただけだった。
「見なさい。これは命令よ」
「姫君様ッ! 私には妻も子もございます! お戯れはいい加減に…ッ!?」
光秀の言葉による抵抗は途中で遮られた。濃姫の美しい手が、やんわりと…しかし的確に彼の急所を捉えている。
ひとつ彼女が気まぐれで爪を突き立てれば……男としての機能が失われる恐怖に、光秀は震え上がった。
「ふふっ… "ここ"を潰されたくなかったら…言うことを聞くのよ。分かるでしょう?」
眼下に迫る、濃姫のたわわに実った乳房の白さに眩暈を覚える。女を知らぬ光秀ではない。妻を持ち、子を成したひとりの男だ。
だが彼にとって性の営みとは神聖なものだった。戦国に生きる男らしからぬこの男は、一対の夫婦が閨で愛を紡ぐものだと、
肉欲に支配された行為のは獣の行為と、固く信じている。
――――その理性がいつまで続くか見ものね…