「さても、可愛らしい」  
太い顎を擦りながら義弘は暗がりに笑った。  
島津は猫が好きだ、特にきつい目をした野良猫が好きだ。  
島津は猫が好きだ、気高く他者を必要としない猫が好きだ。  
 
島津の分厚く、刀傷の残る手の内に今、猫が一匹いる。  
その毛並み素晴らしく、気高く、何より自分をいたく嫌っている猫がいる。  
それがどうにも可愛らしい。  
 
「お嬢、心地はどうだ、島津のよじり草は」  
島津が声をかけてやると、猫が全身の毛を逆立てんばかりにして威嚇してきた。普段ならば島津の首を掻き切る事も出来そうな爪は今、縄に捕われている。  
縄は単なる縄ではない、捕えた猫を逃がさぬために島津はよじり草で綯った縄を用いた。  
よじり草、九州や四国、沖縄など暑い地方に生える丈の低い青草で、い草によく似た匂いを持つが、ほんのわずかな毒性を持っている。  
その毒は肌に触れるとかゆみを引き起こし、今まさに捕われの猫は身じろぎをするたびにぢりぢりとしたかゆみに襲われていた。  
猫は顔を背けたまま、息を短く乱しながら目をきつく瞑って耐えている。声を殺すために息を短く切っている、そのために酸素が足りず頬がかっと赤らんでいた。猫の全身は今やかゆみと火照りに晒され、普段白い毛並みが薄ら赤く染まっている。  
「どれ、確かめてやろう」  
島津の指が猫の着衣にかかった、と同時に猫が牙を剥く。フゥッ、と獣じみた息を猿轡の隙間から上げ、縄に縛られた脚をばたつかせる。  
「お嬢の脚、さてさて美しいことよ」  
猫がじゃれついたのをあしらうようにたやすく、島津は猫の足首を掴む。足首を掴み、大きく開かせた。掴んだ足首が熱を持っているのに、島津の笑みが深まる。  
 
「んん――ッ!!」  
絶叫すら耳障り良い、島津は笑いながら猫の下半身を剥いた。  
白い襦袢に覆われていた下半身を露出させると島津が顎をしゃくる。腹心がさっと表れて猫を後ろから抱えると脚を大きく開かせた。  
「滝川、猿轡を外してやろうぞ…猫が鳴くのもまた一興」  
滝川と呼ばれた男は膝裏から一旦手を離して、猫の猿轡を掴むとずり下げた。  
はっ、と微かな息遣い。  
「島津ッ!!立花にこのような狼藉、無礼であろう!!」  
猫が牙を剥いた。白い頬が転がされていた土床に汚れているが、それを引いて余りある清廉さ。白い襦袢の身を捩る猫に島津はますます笑った。  
「ほう、お嬢、中中元気ではないか」  
開かれた脚の間へ島津が手を突っ込む。ひっ、と猫が脅えたような声を漏らすのにも構わずそこをまさぐった。  
「よ、よせっ!!よさぬか、島津…!!」  
島津の無骨な、松の木の幹のようなごつごつと硬い指が秘部を探る。既にとろとろととろけきって、ぬかるみは水音を立ててァ千代の耳を辱めた。  
夫でもない男二人の目に晒されたそこはひくひくと蠢き、恥辱にァ千代の目尻へ涙が滲む。震えた睫毛は弱弱しいが、まだ声には理性があった。  
「ああッ!!貴様、卑怯なっ…!このような、くゥ…ッ!」  
「卑怯?これだけ濡らしておいて、卑怯も何もあるまい」  
おい筆――島津は滝川に命じた。  
筆、と言われて滝川は首を傾げたが、言われるまま懐より毛筆を出した。右足を一度手放してそれを手渡す。  
「お嬢、わしは最近書に凝っておってな」  
その筆先をするり、と猫の胸元へ滑らせた。  
「な、何を…!」  
猫の制止を聞き流しながら、白い襦袢の胸元へ筆先が滑り降りていく。よじり草によって猫はどこもかしこも過敏に仕上がっており、筆が滑りぬけていくだけで猫は背中を振るわせた。  
縛り上げられた乳房が大きくその縄目より突き出し、猫の息遣いのたびにふるふると上下する。  
透けるほどに薄い襦袢の上、突き出された乳房の上で筆先がくるりと回転した。  
 
「いあああ…っ!!」  
猫が跳ねた、後ろ手に縛り上げられた両手首がよじり、首を左右に振る。  
「よき声よ」  
島津の筆はしゅるしゅると、薄く透けた柔らかい乳輪をなぞる。たまらなげに猫の腰が揺れたのを見計らって、その先端に筆先があてがわれた。  
「九州一の勇婦が、筆一本でこのようにはしたない姿を晒すかよ」  
「黙れ!!だまっ、れ、…ぁ…!!」  
さり、  
さり、  
さり、  
乳首を揺り起こすように、島津の筆遣いは外見のいかつさとは正反対の細やかさに満ちている。ぷくり、と布地を押し上げて乳首が形を成した。  
「ああ、あ…、い、いや…!!」  
頃合だ、島津は唇を舐めた。  
「滝川、剥け」  
「はっ」  
滝川は縛り上げられた縄のきつさに苦心しながらも横へ合わせを開いた。縄に戒められたままの白い乳房が男二人の目に晒される。  
「美しいぞ、お嬢」  
島津が顎をしゃくる。滝川が合図の声を上げると、どやどやと島津の兵達が踏み込んでくる。  
「なっ…!!」  
「よく聞け皆のもの、立花のお嬢がこのようにお前達を慰めて下さるそうだぞ」  
おお、と集まってきた兵達が沸いた。皆戦に疲れて、血に酔っている。血に酔えば女が欲しくなるのは道理であった。  
「立花の殿様は毎夜この乳を吸うておるのか?」  
手を伸ばし、ぷっくらと勃起した乳首ごと乳を硬い指先が揉み立てる。  
「いやあっ!!」  
上がった悲鳴はまさしく女のものだった。上げた悲鳴に、猫が一番驚いている。  
島津の硬くささくれて、ちくちくとした指が柔らかな乳首をごりごりと摘みあげ、指の腹同士で擦り合わせながら弄ぶ。  
男達へ向けて島津は声をかけた。  
「誰ぞ、立花の乳を吸うてみたいという者はおるか?さぞいい心地だろうて」  
猫の身体が強張った。  
「……ひ、いや、いや、いやだあああッ!!」  
「壊さぬ程度にせいよ、お嬢はこれでも姫君ぞ。島津の突きに腰が砕けてしまっては元も子もない」  
違いない!下品な笑い声が部屋を包み込む。  
 
許しを得て、男達の腕が一斉に哀れな捕われの猫へと伸ばされた。  
 
「今日の遊びはどうだ」  
島津が尋ねると、滝川が応える。  
「剛勇鎮西一の姫君の、綱渡りとの事です」  
「よいな。何度見ても飽きぬな、あれは」  
「まったく」  
綱渡り。例のよじり草で綯った綱を張り渡すと裸に剥いて跨がせ、爪先立ちのまま歩かせるという趣向である。  
時折綱を引き揚げてみたり、揺らしてみたりといたぶって遊ぶ。  
腰が立たなくなったら床に引き倒して、さんざん縄に擦られて熟れた秘部に挿入をして仕上げとなる。  
捕えられた部屋からは既に悲鳴と、下卑た歓声が上がっている。  
「んあああ――ッ!!ぃや、ゆらさなっ…!いや、ア、もう、も、歩けぬ…ッ!!」  
「おいおいどうしたァ、立花の誇りってなァ、そんなモンかァ?」  
「くッ…このような、このようなッ…!!」  
「縄が濡れてんぞォ、オイ!」  
「よッ、淫乱鎮西一――!!」  
「いやあああああッ!!ち、父上ぇ、ちちうえ、いやあああああッ!!」  
 
 
「ああなってしまえば、そこらの娘と変わらぬな」  
島津はハハハと快活に笑い、その部屋の戸に手をかけた。  
猫は眺めているだけではつまらぬ、その手に触れて愛でてこそである。  
 

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