ある夏の夜。
縁側に胡坐をかいている男が独り。
男、傍らに句帖と筆を置き、腕を組みながら天を仰いでいた。
その夜は雲の流れが速く、月が見え隠れする様は、我が戦国武将マサムネの性格や様相を現しているのかのようであった。
俺「こんな日は、創作意欲がわくんだよな」
ヤスヒロは筆を取り出し、句帖に文字を載せ始める。
『マサムネの ムネの大きさ Gカップ ああ揉んでみたい 揉んでみたい』
・・・はふぅ、最高の出来だ。ヤスヒロはただただ自己陶酔し、筆を置いた。
そのとき、風がぴたりと止んだ。
いや、風だけではない。空間が固定し、軒先の風鈴はその仕事を忘れ、庭の鈴虫は息絶えてしまったかのように静まったのだ。
ととと、とはるか彼方から足音が聞こえてきた。
?「ヤスヒロ! ヤスヒロはおるか!!」
慌てて句帖を胸元にしまったヤスヒロはゆっくりと振り返った。
そこには、息を弾ませ、目を潤ませ、浴衣の胸元が少しはだけた格好になっているマサムネの姿があった。
俺「どーした?」
マサムネ「で、出たのだ!!!!」
俺「出た? 何が」
マサムネは明らかにろれつが回っていなかった。だが、普通「出た」と言うならば、はたして何を想像するだろう。
夏の夜の怪談の定番、幽霊。それが妥当であろう。
しかし幽霊? そんなものはこの世に存在するのだろうか。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、と言う言葉がある。
つまり、怖い怖いと思っていれば、枯れ木さえも幽霊に見えるものなのだ。
俺「幽霊が出たのか?」
マサムネ「ち、違う! あれは・・・黒い魔物だ!!」
俺「黒い、魔物?」
ますます理解不能だ。幽霊を色で形容するならば「白」が常套句。しかし、「黒」とは?
もしや「黒光りする拳銃」か。だとしたら、マサムネのこの「容貌」も納得ができるというものだ。
俺「くそう。俺も混ぜてくれればいいのに」
マサムネ「混ぜる? 何を訳の分からんことを言っておる!! さあ、来い」
俺「ぐわっ! そんなに強く腕を引っ張るなぁ〜!!」
マサムネはヤスヒロを掴み、まるで今宵の雲の流れのように、走り出した。