桶狭間での今川ヨシモト大敗から数日後。甲斐の国、躑躅ヶ崎館には、そのヨシモト本人が出向いていた。  
突然のヨシモトの来訪に、甲斐の人々は『再度の織田ノブナガ征伐のための助力を願いに来たのだろう』と噂をしていた。  
そして、助力がなれば、織田ノブナガなど相手にならないとも噂をしていた。  
ヨシモト様とお館様が共に戦えば、あの越後の龍、軍神上杉ケンシンでも太刀打ちできないだろう、と。  
お館様……甲斐を治める戦国乙女、武田シンゲン様がお力を貸せば、織田ノブナガなど相手にならない、と。  
 
「お久しぶりですわね、シンゲンさん。川中島では大変だったそうですけど、お体は大丈夫ですの?」  
 
 躑躅ヶ崎館の一室。豪華な屏風が飾る部屋に通されたヨシモトは、この館の主と向かい合っていた。  
その人物は、顔にはいくつもの傷が付いており、せっかくの美貌を損ねているように見える。  
が、一度でもその人物と話せば、その傷も彼女の魅力を際立たせる化粧の一つに過ぎないと感じてしまう。  
 
「おう!さすがはケンシンだな!こっぴどくやられちまった!わっはははは!」  
「あらあら、やられたなどと、冗談を言って……兵隊さんたちの話では、判定勝ちだと言うことでしたが?」  
 
 ニコリとほほ笑み、そう答えるヨシモト。  
やられたと言った本人が、そうは思っていないことはその態度を見れば一目瞭然である。  
 
「はっははははは!そうだな、あれは判定勝ちだな!まぁケンシンもそう言ってるんじゃねぇかな?わっははははは!」  
 
 大きな口をあけて膝を叩き、豪快に笑う人物。  
彼女こそが越後の龍、軍神上杉ケンシンと互角に渡り合う戦国乙女、武田シンゲンその人である。  
 
「そういうおめぇこそ、織田ノブナガにコテンパンにやられたというじゃねぇか。  
3万連れてったんだろ?それでやられたって本当か?」  
「……えぇ、完膚なきまでに負けちゃいましたわ。さすがはノブナガ様でしたわ。  
わたくしなどが、戦いを挑んだこと自体が間違いでしたの」  
 
 頬を赤く染め、ほぅっとため息を吐き、何かを思い出しながら話すヨシモト。  
今まで見たことのない彼女の表情に、怪訝そうにじろじろと彼女の顔を見るシンゲン。  
その顔は、『コイツ、負けて何で嬉しそうな顔してるんだ?』と言いたげな表情だ。  
 
「ふぅ〜ん、ノブナガに負けを認めちまうってのか。……ま、いいや。  
で、そのぼろ負けした今川ヨシモトさんが、この武田シンゲンになんのようだ?」  
 
 赤い顔をして何かを思い出し、ほぅっとため息をついていたヨシモトは、シンゲンの言葉で我に返る。  
 
「……ところで氏真はお元気?今日も元気に歌っているのかしら?」  
 
 我に返ったヨシモトは、以前にシンゲンへプレゼントした小鳥に話題を移す。  
そんなヨシモトにますます怪訝な眼差しを向けるシンゲン。  
   
「うじざね?そんなヤツ知らねぇな。おい!ウチにうじざねとかいうやつ、いたか?」  
 
 首を捻りながらシンゲンは、廊下に控える部下に問いかける。  
するとそのような者は、我が軍勢には属しておりませんとの返答が。  
 
「お前の気のせいじゃねぇか?ウチにはうじざねなんてやつ、いねぇぞ?」  
「あらあら、イヤですわねぇ。わたくしが差し上げた可愛い小鳥さんのことですよ。  
今日も元気に歌っているのかしら?」  
 
 小鳥?小鳥と言われたシンゲンは、首をかしげて考え出した。  
そんなシンゲンを無視して話すヨシモト。彼女はここへ来た目的を果たそうと、話を進める。  
 
「ねぇシンゲンさん。氏真のような小鳥さんは、人間の手で育てないと厳しい自然界では生き残ることが厳しいのです」  
「小鳥小鳥……あああ!あの鳥かぁ!」  
 
 首を傾げてウンウンと唸りながら思い出そうとしていたシンゲン。  
やっと思い出したのか、拳で手のひらを叩き、ウンウンと頷く。  
 
「小鳥さんたちが生き残るためには、主となる人間に巡り合わなければいけないのです。  
氏真にとってはその主がシンゲンさんなのです。シンゲンさんの元にいるからこそ、安心して歌を歌えるのですよ。  
……それは、わたくし達も同じこと。この戦国の世を生き残るためには、すばらしい主に仕えることが一番なのです」  
 
 頷くシンゲンを無視して話し続けるヨシモト。  
ノブナガにほめて貰う為、シンゲンを口説き落とそうと必死のようだ。  
 
「おお、やっと思い出した!前にもらったあの鳥か!」  
「そう、その小鳥さんですわ。その小鳥さんの氏真のように、わたくしは素晴らしい主となるお方を見つけたのです。  
シンゲンさん、あなたもそのお方の下でお働きになられてはどうでしょう?」  
 
 ヨシモトはニッコリとほほ笑み、シンゲンにノブナガへの服従を促した。  
しかし、シンゲンの口から出た言葉は、予想だにしない言葉だった。  
 
「あの鳥な、美味かったぞ!」  
「上杉ケンシンとの戦に明け暮れているようでは、いつまで経っても甲斐の国も栄えませんわ。  
ですからわたくしと共に、ノブナガ様に仕えて天下を統一し、平和な世を作り上げ……う、美味かった?」  
「おう!美味かった!小さい割には肉汁がたっぷりと出て、メシが進んだぞ」  
「に、肉汁?ご飯が進んだ?」  
「また美味い鳥を送ってくれよな!はっはははは!」  
 
 豪快に笑うシンゲンの目の前で、大きくアングリと口を開け、呆然とするヨシモト。  
まさか卵から孵した可愛い小鳥が、食べられているとは思いもしなかったようだ。  
 
「今度は2,30羽送ってくれよな。一羽だけだと喰い足りないんだよ」  
「き……きぃぃぃぃぃぃぃぃ〜!この野蛮女!バカ女!大食い女!バカバカバカバカ!大バカ〜!」   
 
 豪快に笑うシンゲンの前で我に返ったヨシモトは、怒りを爆発させ、シンゲンに飛び掛る。  
 
「お、おわ!なにしやがる!」  
「うるさい!このバカ女!底なし胃袋!あなたなんてノブナガ様にやられちゃえばいいんですわ!」  
「いってぇ!よくもやりやがったな!この世間知らずなアホお嬢様め!」  
 
 顔を引っかいてくるヨシモトの髪を引っ張り、押し倒すシンゲン。  
馬乗りになり、お返しとばかりにヨシモトの顔を引っかく。  
 
「いきゃ!よ、よくもこのわたくしの顔に……きぃぃぃぃぃぃぃ〜!許しませんわ!」  
 
 馬乗りのシンゲンを振り落とし、再度飛び掛るヨシモト。それを迎え撃つシンゲン。  
 
「やるかぁ!このアホの子め!」  
「うるっさいですわ!田舎者!甲斐の山奥でのたれ死ねばいいんですわ!」  
「い、田舎者だとぉ〜!このやろおぉぉぉぉ!」  
「氏真のカタキぃぃぃ〜!」  
 
 爪を立て、シンゲンを引っかくヨシモト。それに応戦するシンゲン。  
8人の戦国乙女に名を連ねる2人の戦いとは思えない、まるで子供のような喧嘩をするシンゲンにヨシモト。  
お互いの顔が引っかき傷だらけになったところで、呆れ顔のシンゲンの部下が2人を引き離す。  
 
「はぁ!はぁ!はぁ!よ、よくも氏真を、お食べになりましたわね!」  
「うるせぇ!貰ったもんをどうしようが勝手だろ!」  
「きぃぃぃぃぃぃ〜!ゆ、許しませんわ!わたくしはあなたを絶対に許しません!同盟なんて破棄ですわ!  
ノブナガ様に言って、上杉よりも先にあなたを攻め滅ぼしてもらいますわ!」  
「おう!いつでもかかって来い!甲斐の武田シンゲンは逃げも隠れもしねぇぞ!」  
「泣いても許しませんわよ!覚えていらっしゃい!」  
 
 床をダンダンと蹴るように踏み鳴らし、屋敷を出て行くヨシモト。  
その背中を見ながら、2人の喧嘩を止めた部下に話しかける。  
 
「……なぁ、ヨシモトは織田ノブナガのことをノブナガ様と言ってたよな?」  
「えぇ、そうおっしゃってましたね」  
「ってことはあれか?桶狭間で負けて、ノブナガに降ったってことなのか?」  
「そのようですね。噂によれば、明智ミツヒデ、豊臣ヒデヨシの2人もすでに降っているとか」  
 
 部下の話に両腕を組み、何かを考え出した。  
 
「う〜ん、さすが榛名を手に入れただけはあるな。こりゃ早めに叩かなきゃ私も危ないな」  
「……ですね。もはや上杉ケンシンに拘っている場合ではありませんね」  
 
 シンゲンの意図を汲み取り、ニヤリと笑みを浮かべる部下。  
それにつられてシンゲンも笑みを浮かべる。  
 
「……ヨシモトに同盟破棄されちまったな」  
「されましたね」  
「……ということは、ヨシモトとは敵同士ってことだよな?」  
「そうですね。おまけに今、駿河にはろくな備えもありませんね」  
 
 部下の言葉に体をブルリと震わせて、ニヤリと笑い、命令を下す。   
 
「……いっちょ攻め取るか!おし!出陣の準備をいたせ!動ける者どもだけでいい、今すぐ出陣じゃぁ〜!」  
「ははぁ〜!」  
 
 こうして武田シンゲンは、主のいない駿河の国をいともたやすく手に入れた。  
その主はというと……ノブナガの元へ帰る途中に寺により、シンゲンに食べられた氏真の供養をしていた。  
そして位牌を抱きしめながら虚ろな顔で輿に乗り、ノブナガの元へと帰っていった。  
ヨシモトがノブナガの元へと帰り着いたのは、シンゲンが駿河を攻め落としてから3日後のことだった。  
 
「……ただいま戻りましたわ」  
 
 位牌を胸に抱きしめ、沈んだ面持ちのヨシモト。  
そんな彼女の様子に首をかしげ、何があったんだといった表情で出迎えるノブナガ。  
背後に控えるヒデヨシも首を傾げている。  
 
「で、どうだった?シンゲンは我の配下に降りそうか?」  
「ノ、ノブナガ様……ノブナガさまぁ〜!ひぇぇぇぇぇ〜ん!」  
 
 大粒の涙を零し、ノブナガに抱きつきその豊満な胸に顔を埋めるヨシモト。  
ノブナガはヨシモトの突然の行動に驚き、咥えていた煙管を落としてしまう。  
 
「おわぁ!き、貴様突然なにをするか!」  
「シ、シンゲンなんて、やっちゃってくださいな!あんな田舎者、ノブナガ様の配下になんかいりませんわ!」  
「あぁ?貴様がシンゲンを配下にしようと持ちかけてきたのであろう?それが何故急に倒せと言うのじゃ?」  
 
 甲斐に行くまでは、シンゲンとの再開を楽しみにしており、共に戦えると嬉しそうに話していたヨシモト。  
そのヨシモトが帰ってくるなりシンゲンを敵視している。  
ノブナガでなくても怪しむのは当然であり、ヒデヨシも頭の上にはてなマークを浮かべている。  
 
「だって、だってシンゲンは、わたくしが卵から孵したカワイイ氏真を……ひぇぇぇぇぇ〜〜ん!」  
 
 大きな口をあけ、ワンワンと泣きじゃくるヨシモト。  
自身の胸に顔を埋め、泣きじゃくるヨシモトに、呆れ顔のノブナガ。  
そろそろ面倒くさくなってきたのか、ヨシモトの髪を掴み、引き離そうとしたその時、  
大慌ての伝令がノブナガの元に駆け込んできた。  
 
「も、申し上げます!す、駿河の国が、せ、攻め落とされました!」  
「なんじゃと!イエヤスが動いたのか?あの狸めぇ〜、動きを見せずにいたのは我の隙を伺っていたか!」  
 
 抱きついていたヨシモトの髪を掴み、引き離すノブナガ。  
引き離されたヨシモトは、目を大きく開けたままキョトンとしている。  
伝令が何を言っているのか理解できていないようだ。  
 
「違います!駿河を攻め落としたのは……武田です!武田シンゲンが駿河を攻め落としたのです!」  
 
 伝令の報告に、顔を青ざめるヒデヨシ。  
ただでさえあの軍神上杉ケンシンと互角に戦えるシンゲンが、  
先の戦いで疲弊しているとはいえ、3万もの軍勢を集めることの出来る駿河を手に入れた。  
国力だけで言えば、ノブナガを上回る力を手に入れたシンゲン。  
そして、駿河を攻め落としたとなると、ノブナガとは敵対するという意思表示でもある。  
思わずヒデヨシはゴクリと唾を飲み込む。  
シンゲンとケンシン。強敵2人を相手にどう戦えばいいのかと、ノブナガに視線を移す。  
そのノブナガは、ニヤリと笑みを浮かべ、その表情は伝令がもたらした凶報を、まるで吉報かのように喜んでいるかのように見えた。  
 
「え?シンゲンさんが?わたくしの国を?……うっきぃぃぃぃぃ〜!ノブナガさまぁぁぁ〜!ふぇぇぇぇ〜ん!」  
 
 再度抱きついてきたヨシモト。ノブナガは笑みを浮かべたままヨシモトを引き剥がし、命令を下す。  
 
「くっくっく……はぁ〜っはっはっはぁ!面白くなってきたわ!我らの次の敵は、武田じゃ!武田シンゲンじゃ!  
皆の者、出陣の準備をいたせ!ヨシモト!いつまでメソメソと泣いておる!泣くほど悔しければシンゲンを打ち倒すがよい!  
ヒデヨシ!我らがシンゲンを打ち倒すまで、留守を守っておれ!……シンゲン、我を敵にしたことを後悔するでないぞ!」  
 
 こうしてノブナガは、守将としてヒデヨシを残し、  
復讐に燃えるヨシモトを引き連れ、シンゲン討伐のため、甲斐へと出陣した。  
 
 駿河の国を攻め落としたシンゲンは、ヨシモトの居城だった駿府城に入った。  
今川家が先祖代々築き上げてきた、駿河が誇る名城、駿府城。  
新たな城主として、駿府城に入ったシンゲンは、長年の夢でを叶えるために、配下の兵に命令を出した。  
そして、その夢は、今、彼女の目の前にある。  
シンゲンは、長年の夢であった大量の海の幸を目の前に並べ、朝食を楽しんでいる。  
大きな丼に山のように盛られた白米を、新鮮な海の幸と共に次々と口に運び、そのたびに膝を叩き美味いと声をあげている。  
程よく油の乗った焼き魚を口に入れては美味いと感動し、新鮮な刺身を口に入れては幸せそうに頬を綻ばせる。  
そんなシンゲンの様子を見て、思わず頬が緩む兵士達。  
彼女達はそんな気取らないシンゲンが大好きで、彼女のために戦に明け暮れているのだ。  
 
「も、申し上げます!お、織田ノブナガが甲斐に攻め込んできました!」  
 
 そんな幸せなひと時を終わらせる伝令兵の報告。しかしシンゲンは慌てることなくご飯を食べ進める。  
 
「おう、やっと攻めてきたか。……やっぱ新鮮な刺身はうめぇな!おかわり!」  
 
 山のように白米が盛られた丼を空にして、満面の笑みを浮かべ、おかわりと丼を差し出す。  
 
「で、ノブナガの兵力はどのくらいなんだ?」  
   
 シンゲンの顔が隠れるくらいに白米が盛られた丼を受け取り、醤油をつけた刺身をその白米の上に乗せる。  
醤油が白米にしみるのをしばらく待ち、頃合を見て一気に口の中にかきいれる。  
 
「は!軍勢自体は1万と、たいしたことはありません。しかし……」  
「うめぇ!醤油が染み込んだら美味さ倍増だな!」  
 
 刺身を堪能したシンゲンは、焼きたての油の乗ったアジの開きに箸をつける。  
丼を持ったままアジの身を取ろうとするも、なかなか上手く取ることが出来ない。  
業を煮やしたシンゲンは、アジの開きを頭からガブリとくわえ込み、むしゃむしゃと噛み砕く。  
 
「その軍勢の中に、織田家の旗以外に、今川家の旗があるのを確認しております」  
「ヨシモトか?……う、うめぇぇぇぇぇ〜!っくぅぅぅぅ〜〜!海の幸、最高だな!おめぇらも喰えよ!」  
 
 ノブナガ軍が攻めてきたというのに、食事を止める様子がまったくない。  
部下もそれが当たりのように、次々と新たにおかずをシンゲンの前に差し出す。  
それを次々と口の中に放り込み、そのたびに美味いと声をあげ、膝を叩くシンゲン。  
彼女の朝食が終わったのは、もうお昼近くになった頃だった。  
 
「ふぅ〜、ちっと足りねぇが、ま、こんなもんだろ」  
 
 重なり合った空になったおひつを前に、満足げな表情でおなかを叩くシンゲン。  
今まで食べていた物が、その細いおなかのどこに消えていったのだろう?  
シンゲンと食事を共にした者は、必ず疑問に思うことだ。  
しかし配下の兵達はもはや慣れてしまったのか、誰一人として疑問に思わない。  
 
「おっし、いっちょノブナガと戦るか!」  
 
 爪楊枝を、シ〜シ〜と咥えていたシンゲンは、膝を叩き立ち上がる。  
 
「さっさとノブナガを潰し、ケンシンとの決着をつけなきゃいけねぇしな!  
ヨシモトも一緒ってのが、少しやっかいだが、どうにかなるだろ?はっはっは!」  
 
 豪快に笑うシンゲンにつられ、兵たちも笑みを浮かべる。  
 
「では、これより我が軍は織田ノブナガを迎え撃つために甲斐へ戻る!……昼飯は寿司がいいな。いっぱい作ってくれよ?」  
 
 今、朝食を食べ終えたばかりだというのに、もう昼食の心配をするシンゲン。  
彼女にとっては、ノブナガ軍よりも昼食のほうが重要なようだ。  
 
「お主がシンゲンか?我の配下、ヨシモトが世話になったそうじゃなぁ」  
「お前がノブナガか!よく甲斐に攻め込んできたな、根性だけは認めてやらぁ!  
だがなぁ、ここから先は一歩も踏ませねぇ!ぶっ倒してやらぁ!」  
「ぬかせ!この田舎侍が!」  
 
 甲斐に攻め込み、抵抗らしい抵抗を受けずに次々と支城を攻め落としたノブナガ軍。  
シンゲンの居城、躑躅ヶ崎館へあと少しといったところで、ついにシンゲン本軍と遭遇した。  
ノブナガ軍1万に対し、シンゲン軍は6千。  
数の上ではノブナガ軍が有利なはずだったのだが、いざ戦ってみると、ノブナガ軍は攻め込まれ、劣勢に立たされた。  
幾度となく軍神、上杉ケンシン軍と戦い、生き残ってきた強兵ぞろいのシンゲン軍に、ノブナガ軍は歯が立たないかと思われた。  
しかし、この戦いからノブナガ軍の一員として戦うことになったヨシモトの活躍で、どうにか総崩れとはならずに戦っている。  
その激しい戦の最中、ついにノブナガとシンゲン、両雄が会い見えた。  
互いに挑発をし、ノブナガが先手必勝とばかりに、その手にした大剣を振り下ろし攻撃!  
しかしシンゲンはなんなく軍配で払いのけ、その勢いで、ノブナガ目がけ軍配を振る。  
軍配により作り出された竜巻が、ノブナガを襲い、その突風により、吹き飛ばされたノブナガ。  
唖然とするノブナガに対し、軍配を肩に担ぎ、豪快に笑うシンゲン。  
もはや勝負は付いたと言わんばかりの笑いようだ。  
 
「はっはっはっは!どうしたノブナガ!榛名の力を手に入れたのではなかったのか?  
手に入れてその弱さか?そんな弱さでこのシンゲンに挑もうとは片腹痛いわ!」  
「……くっくっく、はぁ〜っはっはっはぁ!さすがは武田シンゲンよな!こうでなくては面白くないわ!」  
 
 唖然としていたノブナガは、シンゲンの挑発に笑みを浮かべ、再度大剣を構え、担ぎシンゲンに襲い掛かる。  
シンゲンはもはや勝負は付いたとばかりに、襲い掛かってくるノブナガに対し、再度軍配を振るい、竜巻を浴びせる。  
これで勝負あり、だ。シンゲンがそう思った瞬間、ノブナガを襲ったはずの竜巻が2つに切り裂かれた。  
竜巻を切り裂いたノブナガは、その勢いのままにシンゲンに襲い掛かり、シンゲンの頭上に大剣を振り下ろす!  
思いもしないノブナガの攻撃に、間一髪で軍配で防ぎ、お互いにらみ合う2人。  
 
「くっ、よくぞ防いだなぁ。さすがはシンゲンじゃな」  
「くっ、まさか私の作り出した竜巻を切り裂くとはな!切り裂かれたのはケンシン以来だ!」  
「はぁ〜っはっはっは!では今日はこのノブナガが、ケンシンでさえ出来なかった敗北を味あわせてやろう」  
「ぬかせ!貴様を血祭りに上げ、その勢いでケンシンを倒してやるわ!」  
 
 軍配に渾身の力を込め、ノブナガを弾き飛ばす。  
弾き飛ばされながらも、見事に着地をし、視線はシンゲンから外さないノブナガ。  
いつしか2人の周りを、お互いの配下の兵士が囲み、主を応援しだした。  
 
「ノブナガ様!シンゲンなんてやっちゃってください!」  
「シンゲン様!勝てば今日の晩御飯はイノシシのおなべですよ!」  
 
 応援を背に、にらみ合う2人。  
お互いに隙をうかがっていたが、シンゲンが構えを説き、話しかける。  
 
「さっき言ったな、切り裂かれたのはケンシン以来だってのはな……ありゃ嘘だ」  
「……ほう?我とケンシン以外にもいると申すか?」  
「いや、正確にはな、ケンシンが切り裂いたのはお前が切り裂いたのとは違う。  
……今から見せる技を切り裂きやがったんだ!この私の!一番の技を切り裂きやがった!  
あんな屁みたいな技を切り裂いていい気になってるんじゃねぇぞノブナガ!  
お前みたいなヤツがな、ケンシンと肩を並べようなんて……10年早いんだよ!」  
 
 怒りに震えるシンゲンが、ゆっくりと軍配を構える。  
その尋常じゃない雰囲気に、ノブナガも大剣を構え、迎え撃つ用意をする。  
 
「お前ごときが……ケンシンの名前を出すな!ふぅぅぅ〜……喰らえ!炎竜軍配撃!」  
 
 気合一閃、軍配を振り下ろしたシンゲン。  
その軍配から繰り出された竜巻が、否、炎を纏った竜巻がノブナガを襲う。  
全てを巻き込み、ノブナガを目がけ進む炎の竜巻。  
この技を喰らい、今まで無事だったものは、軍神上杉ケンシンしかいない。  
これで織田ノブナガも終わりだ。シンゲン軍の兵士は、誰もが皆、シンゲンの勝利を確信した。  
しかし、次の瞬間、ノブナガの叫び声が戦場に響き渡る。  
 
「うおおおおお〜!させるかぁ!非情ノ大剣〜!」  
 
 炎の竜巻に襲い掛かる炎の衝撃波。2つの炎はぶつかり合い、お互いを消し飛ばした!   
 
「な?バ、バカな?この私の炎竜軍配撃が、弾かれただと?」  
「はぁ!はぁ!はぁ!さすがはシンゲンじゃ。この我の技と互角に渡り合うとはな」  
 
 渾身の力を込めたためか、肩で息をするノブナガ。  
必殺の技を弾かれたシンゲンは、慌ててもう一度、技を繰り出そうと軍配を振り上げる。  
……丘の上から軍配を振り下ろすタイミングを計っている人物がいた。  
一度目はタイミングが合わず、ノブナガを危険に晒してしまった。  
しかし、一度見た技。次はタイミングを外すことは決してない。  
彼女の自信の通りに、彼女の手から放たれた矢は、シンゲンが振り下ろそうとした軍配に当たり、その手から軍配が弾かれる。  
一瞬、己の身に何が起きたのか分からずに、手から弾かれた軍配を見るシンゲン。  
その隙を見逃すノブナガではなかった。  
シンゲンが我に返った時には、すでに宙高くに舞い上がり、シンゲン目がけ、大剣を振り下ろしていた。  
丘の上から、シンゲンが炎の衝撃波に襲われる様子を見て、ほほ笑むヨシモト。  
倒れるシンゲンを見て、ヨシモトはニコリとほほ笑み、呟く。  
 
「武田シンゲン、討ち取ったり」と。  
 

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