奥州の覇者、伊達マサムネが居城、米沢城。
ケンシンとの戦いに敗れたマサムネは、軍勢を率い、この居城に戻っていた。
ケンシンとの戦いで傷ついた自身の体を癒し、軍勢を立て直すためだ。
その傷を癒しているはずのマサムネは、米沢城の厨房で双剣を包丁へと持ち替え、獲れたばかりの魚と格闘をしている。
流れるような手さばきで魚を捌き、夕食の支度をしているようだ。
「見よ、ノブナガから送られてきた書状だ。
すぐにでも挨拶に来ねば全軍を率い、攻め滅ぼすと書いてある。
……さすがはノブナガだな。このマサムネを疑っていると見える」
手にしたマサムネ専用の包丁で魚を捌き、野菜を刻みながら、背後に控える部下に書状を読むように促す。
書状を手にした部下は、やれやれといった表情で、その書状に目を落とす。
「ま、疑ってはいるでしょうが、何を考えているかまでは分からないようですな。
此度のこの命令は、マサムネ様に何故領地に篭るのか、問いただすのが目的と思われます。
でしたら、素直に応じ、顔を見せに行くが得策でしょう」
書状を一瞥した部下が、マサムネに進言する。
進言されるもなく、マサムネは一度、織田ノブナガという人物をその目で見てみたいと考えていた。
このマサムネを子供扱いにした、あの上杉ケンシンを配下に加えたのだ。
名立たる戦国乙女達が、次々とノブナガに降っている。
それが伝説の勾玉、榛名のなせる力なのか、それとも、ノブナガ自身の力によるものなのか。
一度この独眼で見て、確かめてみたい。会って、その力を確かめてみたい。
あのケンシンが、ノブナガに降ったと知ったその日から、マサムネはそう思うようになっていた。
……いずれは戦場で合い間見える者同士。その敵将の顔を知っておくのも悪くない、と。
しかし、今のマサムネには時間がいる。もはやマサムネ単独では、ノブナガには歯が立たない。
だから、密使を送ったのだ。……異国への援軍要請。いすぱにあ国への日本への派兵要請の密使を。
密使がいすぱにあに辿り着き、軍勢を率いて戻って来るまでは、のらりくらりと時間を稼がなければいけない。
その為に再三に渡るノブナガからの出頭命令を、ケンシンとの戦いで受けた怪我のせいにして断り続けた。
だが、それも時間切れのようだ。ならばノブナガの懐に飛び込み、臣下の礼を取り、油断をさせればいい。
例え今はノブナガに降ったとしても、最後に笑えばいいのだ。
過程などどうでもいい。結果さえよければそれでいい。
最後はこの伊達マサムネが、天下を手に入れるのだ。天下を手に入れるためならいかなる手段も使ってやる。
それが例え異国の軍勢を、この国に招き入れることになってもだ。
……いすぱにあ軍など、ノブナガとの戦いで疲弊したところを打ち破ってくれるわ!
マサムネはそう考え、部下に書状を書く準備をするように命令する。
「ふむ……返答の書状を書くとするか」
沸騰したお湯の中に、捌いた魚と野菜、それに味噌を入れて味を調える。
匙で一掬いし、味を確かめ、鍋に蓋をしてコトコトと煮込み始める。
「『ご命令どおり、ノブナガ様の元に参上します』とな。……セキレイの目を忘れぬようにせねばな」
「セキレイの目、でございますか?」
表情を変えずに淡々と語るマサムネ。その視線は鍋の火加減を確かめるようにジッと火を見つめている。
命令を受けた部下は、マサムネの口から出た『セキレイの目』という言葉に、疑問の声を上げ、首を傾げる。
『マサムネ様の書かれた書状には、マサムネ様本人が書かれた証明として、
鳥のセキレイを模した花押(サインのようなもの)が、書かれている。
しかし、その花押のセキレイに目など入れてあったか?新たに入れるようにしたのか?』と。
そんな首を傾げる部下に答えることなく、鍋の蓋を開け、一口大に切った豆腐を放り込む。
そして軽く煮詰めてから火を止めて、匙で味見をする。
納得のいく味に出来上がったのか、軽く頷き、同じ厨房に置かれている桶の中に手を突っ込む。
そして、その桶の中のぬか床より、2,3日漬け込んだきゅうりを取り出し、その出来栄えにニヤリと笑みを浮かべる。
どうやら今夜の夕食は魚の味噌汁に、野菜の煮物。あとはマサムネ特製のぬか漬けのようだ。
マサムネが作る絶品料理を想像し、思わずツバを飲み込む部下。
そんな部下の期待を知ってか知らずか、手を抜くことなく夕食を作り上げたマサムネ。
自身が作り上げた手料理を我先にと平らげていく部下達を見て、無表情ながらも頷き、追加のぬか漬けを取り出す。
こうして夕食を終えたマサムネは、その日の深夜、ノブナガに向け書状をしたためた。
その書状をノブナガの元に送り、その日から10日後、伊達マサムネは織田ノブナガに謁見するために、領地を出立した。
「ノブナガ様……お久しゅうございます!ミツヒデは、片時もノブナガ様のご勇姿を忘れた事はありません!」
「よう戻ってきたな。伊達マサムネの動向を探る任務、ご苦労であった。
……が、遅いわ!もはやマサムネは我に降ったわ!」
明日、マサムネが尾張に到着し、ノブナガと謁見する。
そんな慌しい日の前日に、とある武将がノブナガの元に帰って来た。
ヨシモトを降した時に、ノブナガ自らが命じた、密偵として伊達マサムネを探る命令。
彼女はその命令を忠実にこなし、マサムネの尻尾を掴み意気揚々と帰ってきたのだ。
これでノブナガ様に褒めてもらえる!もしかしたら抱きしめてもらえるのではないか?
いや、夜を共にしてもらえるのではないか?
イヤイヤ、もしかしたら、その……は、働きを認めてもらい、妾にしてもらえたりして?
ノブナガから与えられるであろう褒美の事を考え、頬を緩め、せっかく手に入れた密書をその胸に抱きしめクシャクシャにする。
そんな妄想をしながら寝る間も惜しみ、ノブナガの元に戻ってきた戦国乙女……明智ミツヒデは戸惑っていた。
褒めてもらえるどころか、『遅いわ!』と一喝されてしまったからだ。
「な?お、遅いとはいったいどういうことでございましょうか?」
「……これを見るがいいわ!」
驚きの表情を浮かべるミツヒデのその顔に、まるで叩きつけるように手にした書状を投げつける。
あまりにも酷いノブナガの扱いに、何故か恍惚の表情を浮かべ、目が潤んでしまうミツヒデ。
「で、では拝見させていただきます。……これは、伊達マサムネからの書状!ま、まさか、マサムネが降っていただと?」
顔に叩きつけられたその書状を、隅から隅までじっくりと舐めるように読むミツヒデ。
時折明かりに照らすような仕草を見せ、なにやら笑みを浮かべる。
「……なるほど。この書状を信用すると、マサムネはノブナガ様の臣下になったということですね。
ですが、このミツヒデめが手に入れたこの密書を読むと、とてもそうは思えませぬ。
ノブナガ様、ミツヒデが手に入れし密書、お読みください!」
そう言って、懐からその密書を取り出すミツヒデ。
クシャクシャになっているその書状を受け取り、読み進めるうちに険しい表情になるノブナガ。
読み終えた時には何故か笑みを浮かべ、これでマサムネの時間稼ぎをするかのような行動に対する、
疑問が解けたといった表情をしていた。
「よくもまぁこのようなくだらぬ策を思いついたものだ。……ミツヒデ、ようやった!褒めてつかわす!
明日、マサムネにこの書状を突きつけてやるわ!……くっくっく、独眼竜め、この書状を見てどう出ることやら。
明日が楽しみじゃな。はぁ〜っはっはっは!」
高笑いを上げるノブナガ。
ミツヒデはそんな主君をまぶしそうに見つめながら、
『まだご褒美を下さらないのか……あぁ、ノブナガ様ぁ!』と身悶えていた。
「お初にお目にかかりまする。伊達マサムネにございます。
此度、ノブナガ様からの出頭命令に応じ、はせ参じましてございまする」
背後に腹心の部下を一人だけ従い、ノブナガと謁見するマサムネ。
その付き従っている部下は、その場に居並ぶ武将の顔を見て、緊張のあまり、ゴクリとツバを飲み込んでしまう。
『もし何かあれば命に代えてもマサムネ様を守る!』
そう意気込んでこの場に乗り込んだ部下であったが、
この場に集う面々を見て、自分ではどうすることも出来ないと悟ってしまった。
マサムネが臣下の礼を取る、そのノブナガを守るように、ノブナガの両脇に立つ2人の武将。
まるで子供のような背丈をしているが、その手に持つ大槌は、自分の背丈ほどある。
その大槌を自在に操り、大地を揺るがすと謳われた戦国乙女、豊臣ヒデヨシ。
そして、優雅なたたずまいと、にこやかな笑みを浮かべる武将。
しかしその手に持たれた豪華な弓と華麗なたたずまいが、彼女こそが戦国乙女の1人、今川ヨシモトであると語っている。
そして、謁見の間の入り口にたたずむ2人の武将。
まるでマサムネがこの場から逃げ出すのを阻止するかのように、ジッとこちらの動きを窺っている。
彼女達は一度、戦場で目にした事がある2人だった。
そのうちの1人は、自身の主君、伊達マサムネを子ども扱いにし、苦もなく打ち破った戦国乙女。
その手に持つ朱槍を操り、軍神の名を欲しい侭にしている越後の龍。上杉ケンシンその人である。
そして、その軍神を打ち破ったという戦国乙女。
その手にした巨大な軍配で、全ての敵を吹き飛ばすと言われている、戦国乙女。
彼女こそ甲斐の虎と称される、武田シンゲンである。
居並ぶ武将達の威圧感に、緊張のあまり、息をするのも苦しくなる。
そんな部下の心を知ってか知らずか、マサムネは何事もないかのように、ノブナガに話しかける。
「幾度に渡る召還の呼び出しを断わり、申し訳ありませんでした。
此度は傷も癒え、ノブナガ様の手となり足となることが出来るようになりましたので、はせ参じた次第であります」
「ほぉ?傷は癒えた、か。……時間稼ぎは諦めたようじゃなぁ」
ノブナガの『時間稼ぎ』と言う言葉に、一瞬身を強張らせてしまう部下。
そんな部下とは対照的に、マサムネは動揺する様子もなく、ノブナガを見上げ、口を開く。
「時間稼ぎ、ですか?フフ、そのような意味のないことをして、どうなるというのでしょう?
時間が建てば経つほどノブナガ様の天下統一は磐石なものとなります。
このマサムネ、遅ればせながら、ノブナガ様の天下統一へのお力になりたく……」
「はぁ〜っはっはっはぁ!もう猿芝居はやめい!……この書状を見てみよ」
高笑いをしたノブナガの手から、まるで叩きつけられる様に投げつけられた一枚の書状。
その見覚えのある書状を見て、マサムネの表情が一瞬曇った。
が、すぐに元の表情を出さない顔に戻り、何食わぬ顔をしてその書状を広げ、目を落とす。
「……ほぅ、なるほど、よく出来た書状ですな。
この書状によれば、このマサムネが異国に援軍を要請し、異国の軍勢と共にノブナガ様に戦を挑もうと考えていると。
フフ、くだらぬ偽書ですな。ノブナガ様、よもやこのような現実味のない話を、信じられるのですか?」
マサムネの背後に付き従う部下は、その書状を目にした時、全身が硬直し、何も考えられなくなってしまった。
『あれは確かに『いすぱにあ』へ送ったはずのマサムネ様直筆の書状!
それが何故ここにある?何故ノブナガの手に渡っているのだ?』と。
だがマサムネは、部下とは違い、驚きと動揺を表情に出さず、
この書状には書いた覚えもなく現実味もない偽物であると語っている。
予想もしなかったこの事態にも冷静なマサムネを見て部下は、
『やはりこのお方は凄い!マサムネ様こそ天下を手に入れるお方だ!』と内心感動してしまう。
そんな部下の感動を知ってか知らずか、ノブナガは不敵な笑みを浮かべ、口を開く。
「ほう?これが偽物と申すか?……キサマより送られてきた書状と、同じ文字、同じ花押が書かれておったのじゃがなぁ?
いくら見比べても偽物とは思えなんだが?」
「精巧に作られた偽物です。この偽物をノブナガ様に届けた物こそが、ノブナガ様に反旗を翻そうと考えている不届き者です」
「ほぅ!そうかそうか、ミツヒデこそが我に反旗を翻そうと考えておるとな?
……面白い。ではどちらの言い分が正しいか、証明してみよ!ミツヒデ!ここへ参るがいい!」
ノブナガに呼ばれ、謁見の間の入口の襖が開く。
開いた襖から入ってきた人物は、不敵な笑みを浮かべ、マサムネを見下ろす。
「フフ、くだらぬ言い訳、天下に名を轟かす独眼竜とは思えぬ話だ。
いい加減自らのくだらぬ策略を認めたほうがいいのではないか?」
「……お初にお目にかかる、お主がノブナガ様を裏切り、出戻ってきたという明智ミツヒデ殿ですな?」
「フフフ、くだらぬ挑発はヤメにして、貴様がノブナガ様に届けたこの書状と見比べて見るがいい。
文字の一文字一文字も同じ、花押も照らし合わせたかのように同じでは、言い訳は出来ぬであろう?
何度も見比べ、書状のスミからスミまで見比べたが、どう見ても貴様が書いた本物だ」
「……ミツヒデ殿がこの書状を手に入れたのですかな?」
「フフ、その通りだ。貴様がいすぱにあへ派遣した船に忍び込み、書状を奪い、船を沈めてやったわ。
残念だったな?貴様の待ち焦がれている異国からの援軍は、永遠に来ない。……天下はノブナガ様の物だ!」
ミツヒデの言葉に、マサムネの背後に従う部下は、頭が真っ白になる。
まさか……まさかあの船を沈められ、密書を奪われているとは。
……もはやこれまでか?ならばこの一命にかけてもマサムネ様をこの場より逃がさねば!
覚悟を決め、出口を固める2人の戦国乙女、シンゲンとケンシンに切りかかろうと考えた時、マサムネが笑い出した。
「クックック……天下に名を轟かす明智ミツヒデともあろうお方がこのような偽書を作り出すとは。
落ちたものですな、ミツヒデ殿」
「フフフ、落ちたのは貴様だろう?まさかこの書状を私が書いたとでも言うつもりか?」
ミツヒデの言葉を無視して、手にある2つの書状をノブナガに差し出すマサムネ。
ニヤニヤと笑みを浮かべながらもその書状を受け取るノブナガ。
「ノブナガ様。このマサムネが書いた書状には花押がございます。……セキレイの花押が」
「見れば分かるわ。両方の書状に書いてあるのだがなぁ?寸分違わぬセキレイの花押がな」
下らぬことを言う……そんな顔をして2つの書状を見比べるノブナガ。
言われるまでもなく、何度も見比べた書状だ。
ミツヒデが言うように、どう見ても2つの書状に書かれた文字と花押は、同じものにしか見えない。
「……私が書くセキレイには『目』がございます。目の無い花押は偽物でございます」
「目、じゃと?」
「は、目でございまする。このような下らぬ偽書を防ぐ為、セキレイの花押に小さな穴を開けてございます。
明かりに透かしてみれば、一目瞭然でしょう。この書状が、功を焦るミツヒデ殿によって偽造された偽物である、と」
「ほぅ!さすがは独眼竜!書状一つにそこまで気を配っておるとはな!
……穴が空いておれば貴様が書いた書状ということじゃな?」
『セキレイの目』……マサムネの部下は、その言葉を居城、米沢城で聞いていた。
ノブナガへの返答の書状を送る時、マサムネが呟いたあの言葉だ。
『……セキレイの目を忘れぬようにせねばな』
そうか、あの言葉の意味は、こういうことだったのか。
万が一、いすぱにあへの書状が敵の手に渡ったとしても、言い逃れが出来るように、
セキレイの花押に目を……穴を開けていなかったのか。
きっといすぱにあ以外への書状には、セキレイの目に穴を開けていたのだ。
……凄い!やはりマサムネ様は凄いお方だ!このお方こそが天下を統一するべきだ!
マサムネの先を読んだ行動に感動した部下は、尊敬の眼差しでマサムネを見つめる。
しかし、書状を手にし、明かりに透かしてみていたノブナガの口から、思いもよらない言葉が出てきた。
「目が開いておれば本物の書状か……なるほど、確かにしっかりと開いておるなぁ。セキレイの目が」
「……は?目があると?その書状に?まさか?ご冗談にも程が……」
「なら自らの目で見てみるがいい。……セキレイの花押に開いた目を、な」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、書状をマサムネへ投げつけるノブナガ。
受け取ったマサムネが明かりに照らすように書状を掲げてみると、
セキレイの花押には、針で突いたような小さな目が開いていた。
「な?バ、バカな!こ、こんなはずはない!何故穴が開いているのだ!」
「フフフフ……隅々まで調べたが、まさかセキレイの花押に穴が開いているとは気がつかなかったな。
さすがは伊達マサムネだ。……自らの書状であると、証明をしてくれたのだからな」
メガネを中指で持ち上げ、笑みを浮かべるミツヒデ。
その笑みを見て、マサムネは全てを悟った。
開いているはずのないセキレイの目が、何故開いていたのか、を。
「明智ミツヒデ……貴様か、貴様がこのセキレイに目を開けたのだな!おのれ、ミツヒデぇ〜!」
自らの策を破られ、尚且つ利用されたマサムネは逆上し、ミツヒデに襲い掛かる!
しかし襲いかかろうとした瞬間、背後に控えていた2人の戦国乙女に取り押さえられた。
「フフフ、不様なものだな。ノブナガ様、マサムネめの処分、このミツヒデめにお任せください」
ケンシンとシンゲンに取り押さえられ、身動き一つ取れないマサムネを見下ろし話すミツヒデ。
その手にはクナイが握られており、怪しく光っている。
「おのれぇ……よくも謀ったな!このマサムネをよくも……ミツヒデぇ〜!」
シンゲンとケンシンに取り押さえられ、身動きが取れないマサムネの頭上にクナイを振りかざすミツヒデ。
マサムネはその殺意溢れるミツヒデの行動に怯え、助けを求めようと腹心の部下に視線を向ける。
しかし、すでにその部下はシンゲンによって昏倒させられており、ピクピクと痙攣し、白目を剥いている。
戦国の世を代表する2人の戦国乙女に取り押さえられ、
唯一連れてきた部下を気絶させられたマサムネは今の状況に絶望し、目の前に仁王立ちするミツヒデを見上げる。
そんなマサムネを見下すような笑みを浮かべたままミツヒデは、マサムネの首筋目がけ、クナイを振り下ろした!
「待てぃ!ミツヒデ、貴様、誰の許可を取り、マサムネを殺そうとしておる?
相変わらず貴様は言う事を聞かんヤツよのぉ……ミツヒデ!下がれぃ!」
しかし、その瞬間、その凶行を止める声が。
ミツヒデはその怒声に打たれるように、慌てて飛び去るがごとくマサムネから離れ、
額を床にこすりつけ、自身の主君に土下座をする。
「も、申し訳ありません!ノブナガ様を想うあまり、つい……どうか、お許しくださいませ!」
額を床に擦り付け、声を震わせて土下座をする。
その体はガタガタと震えており、ミツヒデがいかにノブナガの怒りを恐れているか、表わしているようだ。
「貴様は、まだ分かっておらぬのか?ミツヒデ、貴様は……我の下僕じゃ!勝手に行動するな!」
額を床に擦り付け、土下座をするミツヒデの頭を踏みつける。
「あ、あぐぅ……あはぁ、ノブナガさまぁ」
「ヒデヨシ!ヨシモト!マサムネを我の寝室へと運び、縛りつけておけ!
……そうじゃなぁ、そこで気を失っておるマサムネの配下もついでに連れて行け。そ奴は裸で縛り付けておくのじゃ」
「はい、かしこまりましたわ。では連れて行きましょうか、ヒデヨシさん」
「ねぇ〜ねぇ〜ノブナガさまぁ、マサムネで実験してもいい?」
「ダメじゃ。マサムネはこのノブナガ自らが、体に分からせてやるわ。貴様等は2人で楽しんでおけ」
「ええ〜!ダメなのぉ?ま、いっか。じゃ、ヨシモト、2人で楽しんじゃおうね?」
「ええ、楽しみましょうね?うふふふふ、ヒデヨシさんのお相手できるなんて、とても楽しみですわ」
にこやかに微笑み、暴れるマサムネを連れて、ノブナガの寝室へと向かうヒデヨシにヨシモト。
2人を見送った後、自身の足の下で、体を震るわせたままのミツヒデに話しかける。
「ミツヒデ……貴様も来い!言う事を聞かぬ愚かな下僕には、折檻をせねばならんからなぁ」
頭を踏まれ屈辱に塗れている筈のミツヒデが、何故か甘い、まるで喜んでいるかのような声を上げ、体を震わせている。
ノブナガが発した『折檻』という言葉を聞き、体全体を震わせ、まるで泣いているかのようなか細い声で答えた。
「ノブナガさまぁ……かしこまりましたぁ。ミツヒデは愚かな下僕でございますぅ。
ミツヒデの体に、分からせて下さいませ。ミツヒデはノブナガさまの下僕であると、この体に分からせて下さいませ!」
「ふん!貴様のような性癖の愚か者を下僕に持つと苦労するわ」
グリグリとミツヒデの頭を踏みつけ、笑みを浮かべるノブナガ。
そして、頭を踏みつけられるといった行為が、まるで褒美かのように体を震わせ喜んでいるミツヒデ。
そんなミツヒデを見て、ケンシンは『世の中には変わった愛もあるものだ』と呟き、シンゲンの手をギュッと握り締めた。
「ミツヒデってのは変わったヤツなんだな。……そろそろ私たちも行くか?」
ケンシンの手を握り返し、頬を赤く染めて呟くシンゲン。ケンシンは答えることなくその手を強く握り返した。