乙女5話より。
「――どうかしら、夜の百物語でも始めませんこと?
わたくし、とっておきの物語がございますの」
安土城の中庭にて開かれていた大宴会。
鷹狩りで獲ってきた鳥やウサギの丸焼きが次々と乙女達の腹に収められ、
楽しげな笑い声もひとつ落ち着いてきた頃、ヨシモトが言い出した。
「夜の百物語?」
ヒデヨシが誰にともなく聞くと、隣で手羽先をしゃぶっていたイエヤスが、
「皆が持ち寄った百の怪談ではなく、猥談を物語る会のことです」と答えた。
「わいだんって……エッチな話!?」
「ハハ、どうしたヒデヨシ、楽しそうじゃの」
ノブナガにつっこまれてヒデヨシは曖昧な笑顔を返したが、その胸は騒いでいた。
ヒデヨシとて年頃の女の子、その手の話は嫌いではない。
この世界の乙女達がどんな性生活を送っているのか興味があった。
「よ……ヨシモト殿、そのような不埒なことは……」
苦い顔で難色を示したのはミツヒデだ。
その口調にわかりやすい動揺ぶりが見てとれて、ヒデヨシの笑いを誘う。
「な、何を笑っておるかヒデヨシ! 貴様は子供なんだからもう寝ろ!」
「なにそれ! 別にいいじゃん、あたしは平気だよー」
「まあよいではないかミツヒデ、こやつも女じゃ」
「御館様……」
ノブナガはすぐヒデヨシの肩を持つ。かたやがっくり肩を落とすミツヒデ。
ヒデヨシを寝床に連れて行くふりをしてこの場を離れるという目論見があったのだが、
それも泡と消えてしまった。
実のところミツヒデは、猥談というものを怪談以上に毛嫌いしていたのだ。
ヨシモトを囲んで、わくわく目を輝かせているのがノブナガとヒデヨシ。
照れくさそうにしながらも耳をそばだているケンシン。の隣で酔いつぶれているシンゲン。
クールな表情を崩さずお茶をすすっている眼帯のマサムネ。
手羽先の骨をきれいに並べながら話を待っているイエヤス。
そわそわ居心地悪そうに何度も眼鏡を上げているミツヒデ。
「それでは始めますわよ」
ヨシモトは声をひそめて語り出した――。
ある日のことです、わたくしとっても退屈しておりましたので、何か物語でも書こうと思って筆をとったのですけれど、
なかなか思うように進みませんで、たわむれにイエヤスちゃんを呼び寄せたんですの。
「なんでしょう、お姉様」
「ええと、そうね……」
目の前にちょこんと正座するイエヤスちゃんを眺めて、何かおもしろい暇つぶしはないものかと思案したところ、
ふとある考えが浮かびました。
「ちょっと手を上げてくださる?」
「はい?」
「袂を掴んで。そうそう、そのまま両手を上に、ぐぐーっと」
不思議そうな顔をしながらもイエヤスちゃんはバンザイをしてくれました。
イエヤスちゃんの白いお着物は、胴の部分と袖の部分が分かれているちょっと変わったつくりで、
肩のところだけ肌を露出させてるものですから、そうやって手を上げると腋の下が丸見えになるんです。
普段は隠れているイエヤスちゃんの可愛いところが晒されて、とたんに胸が高鳴りました。
「あのう、これが何か……」
「いいですわ、そのまま動かないで」
イエヤスちゃんはまだ自分の恥ずかしい格好に気づいていない様子。
わたくしは持っていた筆をその場所に近づけ、毛先でチョイとくすぐってあげたんですの。
そしたらイエヤスちゃん、面白いようにビクン!と反応して短い悲鳴を上げましたのよ。
「ひゃっ!」
「あ、ほら。動かないでって言ったでしょ」
「おっお姉様、くふ、くすぐったいです、くふふふふ」
「くすぐってるんだから当たり前ですわ。我慢なさい、腕を下ろしたら負けよ?」
「やめっやめて、くださっ、ふううっ……」
きっちり正座していた脚も崩して、筆に合わせて必死に身をよじるイエヤスちゃん。
顔を赤くして耐えている姿のいじらしいこと。わたくしはすっかり楽しくなってしまいまして、
よりしつこく、ねちねちと筆を動かしてあげましたわ。
するとお着物と同じ真っ白ですべすべの脇の下は、次第に汗でしっとりと水気をおびてきて、
イエヤスちゃんの甘い匂いが部屋にたちこめてまいりましたの。
「あらどうしたのイエヤスちゃん? 汗なんてかいて、暑いのかしら?」
「は、はい……なんだか体が、熱いです……う、くうっ」
「それなら、お着物をお脱ぎになってもよろしくてよ?」
「でも……そこまでは……」
「お脱ぎになってもよろしくてよ?」
わたくしの目を見たイエヤスちゃんが、その意味を悟ったのか、いっそう恥ずかしそうにうつむきました。
お脱ぎになってもよろしくてよ?――わたくしがそう言ったのならつまり、お脱ぎなさいという意味なのです。
「はい、ただいま……」
仔犬のような声でつぶやいて、イエヤスちゃんは立ち上がりお着物を脱ぎ始めましたわ。
スルスルと鳴る衣擦れが耳に心地よく、少し乱れている吐息の音とまじって部屋に響きます。
可憐な少女が戸惑いの表情を見せながら自ら裸になっていく……なんと魅惑的な光景でしょう。
かわいそうですって? いいえ、わたくしはこうやってイエヤスちゃんを愛でているんですのよ。
だってイエヤスちゃんったらお人形さんみたいに小さくて綺麗な体をしているんですもの。
イエヤスちゃんの方もわたくしの退屈に付き合いながら、深い愛情をひしと感じておりますわ。
そうでしょう? 可愛いわたくしの妹……。
「は、はい……。お姉様……」
「さあ、隠さずに見せてごらんなさい。あなたの美しいお体を」
裸になったイエヤスちゃんが、うつむいたまま両手を腰の後ろにやりました。
陽当たりの良い部屋です。汗のにじんだ肌が控えめに輝いて、子供っぽい顔だちに似合わぬ豊かな胸を彩っています。
わたくしは膝立ちになって体を寄せると、その丸いふくらみの先端に筆を乗せました。
「くぅ、んっ……」
「イエヤスちゃんはここも感じやすいんですのね。ほら、動かない動かない……」
毛先をサワサワそよがせてあげると、薄桃色の先端のだんだん固くなってくるのが筆ごしに伝わって参ります。
「お、ねえさま……はあ、はあぁ……」
甘くとろけるような声を漏らしてじっと我慢しているイエヤスちゃん。
わたくしはここでまたひとつ面白い事を思いつきましたの。
乾いていた筆にたっぷりと墨をつけて……イエヤスちゃんの体に悪戯書きをしてしまおうと。
「つめたっ!」
「ふふふふ、わたくしが新しい甲冑をしつらえてあげますわ……」
「んく、くふっ、ふああ……!」
胸の先端に筆先を押し付けると、感触が異なるのでしょうか、また少し違った反応を見せるものですから、
わたくしもいよいよ興が乗って参りまして、ヌルヌルと筆を滑らせていったんですの。
まず桃色だった先端を塗りつぶして、それからふくらみの下半分を黒で覆います。
両方の胸に黒化粧を施せば、もう見た目は立派な甲冑です。
「艶やかな中にも上品さがあって……うん、良いですわよ」
「あ、ありがとうございます」
「だけど……そんなに先を尖らせていては、ばれてしまうかもしれませんわねぇ」
「いっ……言わないでください……」
「イエヤスちゃんの真っ黒なところがふたつ、ツンと立って存在を主張していますわ」
「っっ〜〜」
羞恥に身を包みイエヤスちゃんはたまらず唇を結びました。
その仕草がまた可愛くて、わたくしの筆がさらに動きを活発にします。
仕上げに向かったのはもちろん股間です。小さなおへその下、ほとんど毛の生えていない秘密の丘。
そこのプニプニした感触を確かめながら、逆三角を墨で染めていきます。
「もう少し脚を開きなさいな」
「お、お姉様、そこは……」
「なあに?」
「そこは……許してください……」
イエヤスちゃんは声を絞り出すようにして言いましたわ。まさに哀願ですわね。
だけどこんな面白い事、今更やめるわけには参りません。
「あらそう? じゃあこのまま出かけましょうか」
「ええっ」
「だってもう嫌なんでしょう? 塗られるのは」
あわてて股間を確認するイエヤスちゃん。そこは申し訳程度に隠されているだけで、
一番大事な肉の谷の形はハッキリと見て取れます。それに今のままでは白いお尻が丸見えです。
こんな姿で外に出るところを想像して、思わず吹き出してしまいました。
「笑わないでくださいよぅ……」
「それで、わたくしはどうすればいいのかしら? ん?」
「お……お願いします……」
「何を?」
「塗って、ください……その筆で、私の、大事なところを……」
そう言ってイエヤスちゃんは少し脚を開き、その部分がよく見えるよう指を添えて左右に軽く広げましたの。
「いい子ね……」
そしてわたくしが筆の毛先を肉の谷にうずめると、息をのんで小さく体を震わせましたわ。
「じっとしていれば、傷つけたりしませんわ」
「んっ、くぅんっ……」
「ほおら、どんどん黒に染まっていきますわよ……」
上下に並んでいる穴の中に墨が入ってしまうと面倒ですから、そのまわりを囲むようにして、
薄い羽根のように付いている二枚の肉や、羽根の上でほんのり固さを増している濃い桃色の部分に、
丁寧に丁寧に墨を重ねていきます。
汗か何かの体液と混じった薄い墨が、谷壁をツツと流れて太腿に垂れました。
「お姉様、私、何か……」
イエヤスちゃんが切なげな声を上げて、わたくしは気づきましたわ。
あまりに熱心にいじりすぎたせいかしら、わたくしを見下ろすイエヤスちゃんの瞳はすっかりうるんで、
今にも気をやりそうになっていましたの。そして、うるんでいるのは瞳だけではなく……
「うふふ、本当に敏感ですのねぇ。もうあふれてしまってますわ」
「う、う……だって……お姉様にそんなにさわられたらっ……」
「あなたは本当に可愛いわ……」
「あっぁあっ」
「ここ? ここがいいのね?」
快楽の種のような肉豆の部分はもう十分に黒くなっていたのですけれど、イエヤスちゃんがそんなに喜ぶならと、
そこに筆先をかぶせてゴシゴシこすってあげました。
「んふっ、ふうう――!」
そしたらイエヤスちゃん、立っていられないくらい細かく膝を震わせちゃって、ついに達してしまいましたわ。
それでもがんばって立っていましたけれど、その姿のまたいじらしいのなんのって。
ずっと妹としてわたくしのそばに居てほしいと心から思いましたわ。
それからわたくしは後ろに回って、イエヤスちゃんのプリプリしたお尻にも筆を走らせ、
その深い谷の奥で可愛い菊門がキュッとすぼまるところを存分に堪能したりして、
ついに墨の甲冑を完成させたんですのよ。
「素晴らしいわイエヤスちゃんっ」
「はあ……」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「お姉様っ、この格好で外に出るなんて冗談ですよね?」
「さあどうかしらねぇ……今日は良い天気ね」
「お姉様ぁっ」
ほとんど泣きそうになっているイエヤスちゃんに、わたくしは笑って言いました。
「ま、今日はこれで許してあげますわ。いい退屈しのぎになりましたし」
「ふう〜……」
イエヤスちゃんは安堵のため息を漏らして、へなへなと膝を落としました。
この次はどんな過激な遊びをしようかと、わたくしが見下ろしていることも知らずに……。
「――わたくしのお話は、これでおしまいですわ」
ヨシモトはそう言うとひとつ息をついた。顔をほの赤く上気させている。
話の余韻を破るようにノブナガの高笑いが響いた。
「ハッハッハッ、面白かったぞヨシモト。
墨甲冑か、ワシもやってみようかのう! なあミツヒデ!」
「えっえええぇぇぇっ!?」
「何じゃ嫌なのか。じゃあヒデヨシ!」
「お待ちください! ヒデヨシとやるぐらいならこの私が……っ」
ミツヒデが憎憎しい目でヒデヨシを見る。しかしヒデヨシは生唾を飲みこみながらイエヤスを見ていた。
(と、トクニャンが……ヨシモトさんとそんなことを……!)
イエヤスは照れ臭そうにうつむいていたが、その肉体を包む甲冑が一瞬ボディペイントに見えて、
(うわーさっき飲んじゃったお酒のせい!?)とあわてて首を振った。
「さ、次は誰ですの? なんならもっとわたくしのお話を披露してもよろしくてよ」
「お姉様、もうそのへんで……」
「いやいや次はワシの番じゃ! ミツヒデよ、あの話をしてもよいな!」
「わっ私ですかっ!? あの話とは一体っ!?」
「トクニャンが! トクニャンの鎧がハダカで! あぁあっエッチだよー!」
「拙者は何の話をすべきか……やはりシンゲンとの……なあシンゲン?」
「ぐうぐう……」
乙女達の夜の宴はまだ始まったばかりだ。
<終>