「――ま、帰る方法が見つかるまでお手伝いするってことでいいか。  
 あのノブナガって人、けっこういい人っぽいし……」  
 
月明かりの差し込む小部屋でヒデヨシは、スカートの裾に手を入れ下着を下ろしていた。  
よくアケリンやトクニャンに子供っぽいとからかわれるパンツをヒザまで下げると、  
またいでいる足の下の暗闇からイヤな臭いが鼻をつく。  
純木造の部屋はジメっとしていて、そのままヒザを抱えるようにしてしゃがんでも、  
とてもリラックスできるような空間ではない。  
和式なのはまだしも、今どき水洗でないことにヒデヨシは驚いた。  
部屋内の清潔を保つ努力はされているようだが、こんな便所では限界がある。  
用を済ませて一刻も早く出たい。  
そうして顔をしかめていたが、やがて体は反応し、軽やかな水音とともに薄黄色のアーチが描かれた。  
ジョボボボボボ……  
慣れない場所の空気に知らず知らず緊張していたのか、ずいぶんと溜まっていたようで、  
わきあがる開放感にしばし目を閉じる。  
 
「いろいろなんか納得いかないこともあるけど……とりあえず明日考えるってことで……」  
 
そろそろ用を足し切るといったあたりで、ヒデヨシはふと不安げに部屋を見回した。  
(うっ……)やはり。やはり紙がない。  
このお城のような豪邸に来てすぐ、一度トイレに入っていたのだが、その時もなかった。  
ヒデヨシは尿道まわりを濡らしてしまうタイプでいつも遠慮なく紙を使う。  
しょうがないのでその時はハンカチで軽く拭いてからパンツを上げたのだった。  
あのノブナガという人に言うのをすっかり忘れていた。  
(どうしよ……)ヒデヨシは困り顔で考えた。  
お気に入りのパンツをあまり汚したくない。となるとやはりハンカチか。  
ポケットからハンカチを取り出す。さっき処理した時の湿り気が少し残っている。  
股間をハンカチでしばらくあおいだりしてみたが、いくらやっても疲れるだけなので、  
やがて覚悟を決めてそこに手を入れた。  
 
「う〜……つかこのトイレなんとかなんないのかなア……」  
 
ハンカチの濡れた面を内側にしてたたみ直し、スカートのポケットにしまうと、  
ヒデヨシは立ち上がりパンツを上げた。長くしゃがんでいたせいで脚にジンジンきた。  
黒いニーソックスの上からふくらはぎを軽くマッサージする。  
(……んっ?)やれやれと戸を開くと、足元に何か白いものがいるのに気づいた。  
それは三日月をあしらった大きなカブトをかぶって、ヒデヨシを見上げていた。  
 
「犬……?」  
 
シッポの丸く立った小さな犬がじっと瞳を向けている。  
犬の前にしゃがんだヒデヨシはすぐ笑顔になった。  
 
「カワイイ〜! カブトかぶってるし。なんかヘン〜」  
「……誰だよてめー」  
「へっ?」  
 
いきなり犬がこちらを睨みつけ、ドスの利いた声で言葉をしゃべったので、  
ヒデヨシは腰が抜けんばかりに驚いた。  
 
「いっ、犬がしゃべったっ!?」  
「なんだよ、オレはシロだよ、シロがしゃべっちゃ悪いかよ」  
「シ、シロ? あなたの名前? シロっていうの?」  
「てめー今うんこしたのか?」  
「へっ?」  
 
まったく会話がつながらなくて、いや犬と会話をしようというのがそもそも無理なのだが、  
ヒデヨシはすっかり混乱して口をパクパクさせた。  
シロと名乗る、犬にしか見えないそいつは明らかに不機嫌な様子でヒデヨシに食ってかかる。  
 
「今厠から出てきたろ、うんこか?」  
「カワヤ?」  
「そこだよそこ、出てきたろーが、今」  
「と、トイレのこと? うん……」  
「したのか?」  
「してない! してないよ! おしっこだけ!」  
 
突然身に覚えのない疑惑をかけられヒデヨシは首をブンブン横に振った。  
 
「そうか、じゃあ座れ」  
「へっ?」  
「へっ? じゃねーよ、そこに座れってんだよ!」  
 
異様な生物の異様な迫力に、ヒデヨシは逆らう気になれずペタンとその場にお尻をつけた。  
三角座りのような体勢になる。  
 
「オイオイてめーバカにしてんのか、そんなんで掃除できるかよ」  
「そーじ?」  
「股ぐらおっぴろげて座れよ! 常識だろうが!」  
「ふぇ……??」  
 
ヒデヨシがポカンとしているのを見て、シロはふっと語気をやわらげた。  
 
「なんだ、何も知らないのか? どこから来た? そういえばずいぶん変わった格好だな」  
「えっと、あの〜……たぶん遠くの方から……」  
「じゃあ説明してやる。この城では、厠で用を足したあとはオレが掃除するんだ」  
「あなたが? 掃除?」  
「そう、ノブナガ様もミツヒデ様もみんなオレがキレイにしてやる、それがオレの役目さ」  
「キレイに……って、何を?」  
「股に決まってるだろ、てめー股汚れねーの? うんこしたあと汚れねーの?」  
「うん……し、してないってば!」  
「わかったらとっとと汚ねぇとこ広げやがれ!」  
「汚ないとこっ……」  
 
まったく意味のわからない話だ。ヒデヨシはヒザをぴったりと閉じイヤイヤをした。  
少しでも脚を開くとスカートの中身を見られてしまう。  
目の前にいるのは確かに犬の姿をしていて、犬に何を見られようが恥ずかしいも何もないはずだが、  
なにしろオス丸出しの低い声で話すものだから妙に抵抗感があるのだ。  
業を煮やしたシロはなんと二本足で立ち上がり、前足でヒデヨシの脚を強引に開きにかかった。  
 
「ちょっ……ひゃああ!?」  
「んな恥ずかしがるなよ、すぐ終わるから、な? すぐ終わるから」  
 
暗い廊下にヒデヨシの悲鳴が響く。  
シロはその見た目からは信じられない力をしていて、か弱い抵抗はすぐに破られてしまった。  
モコモコしたシロの体が脚の間にはさまってゾワリとこそばゆい。  
鼻先が股間に迫りフンフン息がかかる。ヒデヨシは思わず身をよじった。  
 
「かっ……嗅いじゃヤダあぁぁ!」  
「ん? なんだこりゃ……」  
 
スカートの中ではかわいらしい下着が乙女の秘密の場所を守っている。  
シロがその黒く濡れた鼻で、初めて目にするふかふかした布地をツンとつついて確かめると、  
ヒデヨシはびっくりして小さな体をこわばらせた。  
シロはどうやらその白いものが衣服の一種であることを悟ると、  
ヒデヨシのすべすべした内ももに鼻汁をこすりつけながら布地の脇に鼻先を入れ器用にずらし、  
あっさりと最後の砦を越えた。  
 
「いっ、……やあぁぁああ!」  
「ホラ見ろ、こんなに汚れてるじゃねーか」  
「汚れてなんか……ないよオ……!」  
「今キレイにしてやるからな……」  
「うぁ……!」  
 
ヨダレたっぷりの肉厚ベロが、自分でもあまり触れたくない部分を無造作になぞる。  
ベロは汚らしい音を立てて何度も、何度も往復し、そのたびヒデヨシの高い声が漏れる。  
顔を真っ赤にしたヒデヨシがシロの頭をそこから引きはがそうとしても、  
小ぶりながらもたくましい、黒光りするそれをグイグイ押し付けられると、  
なぜだか力をうまく入れられない。どんどん力が抜けていく感じがする。  
あまりにも恥ずかしすぎるところを容赦なく嗅がれて舐められて味わわれている、  
そう思っただけでヒデヨシの全身はビリビリしびれて使い物にならなくなってしまう。  
シロの赤いベロと荒い息遣いはとてつもない熱をもっていて、それを敏感な部分で感じると、  
体がひとりでに、一匹のオスの前に降参してしまうのだ。  
ヒデヨシは眉をしかめ唇をかんで、押し寄せる感覚に耐えた。  
それが快感の裏返しであることを理解するには……ヒデヨシはまだ幼すぎた。  
 
「なんだかニオイが強いぞ、普段何食ってんだ?」  
「うぅ、うぐううっ」  
「ノブ様ともヒデ様とも全然違う……やはり食生活のせいだと思うんだが」  
「知らない、知らないよお! もうやめてエエ」  
「安心しろ、念入りに掃除しといてやる」  
「やあ〜〜……」  
 
ヌメヌメのベロが数え切れないほど何度も這い回ったころ、ヒデヨシはすっかり脱力し、  
脚は重力にまかせてだらしなく開かれ、自分もヨダレまみれになっていた。  
全身をほの赤く染め、大きく息をついて胸を上下させている。  
それに合わせて尿道口も性器全体も、ピンクのやわ肉がヒクヒク動いている。  
ろうそくが鈍く照らす小さな穴からピュッとしぶきが飛び出した。  
 
「あ! ……あ……!」  
「おっと、まだ残ってたか」  
「出ちゃっ、おしっこ出ちゃった……でちゃったア……ァ……」  
「よし、これで完了! スッキリしたか? ん?」  
「はア、い……、ありがと、……」  
 
ヒデヨシがトロンとふやけた目をシロに向けて微笑む。  
その様子を見てシロはニヤリと笑った。  
 
「ところで、下の穴からなんか変なのが出てきちまってるけども、  
 それはオレの仕事じゃねーから知らねーぞ」  
「ふぇっ」  
「じゃ、オレはここまでだ。おやすみ!」  
「ちょ、ちょっと……待っ……」  
 
己の責務を終えるとシロは軽快な足音を残して走り去ってしまった。  
 
「へ……変なの……?」  
 
ぼうっとする体をなんとか動かして、スカートとパンツをめくって確かめてみる。  
シロの言った通り、おしっこの穴とは別のところがヌルヌルしていて、  
その上にある肉芽は自分でも見たことないほどに大きく張りつめていた。  
 
「うそ、あたし……こんなに……、だめ、だめだよオ……」  
 
廊下にひとり残されたヒデヨシは、そのつぶやきとは裏腹に、  
自分の指が禁断の場所に伸びるのを止めることができなかった。  
 
「だめなのに……こんなこと、だめなのにぃ〜〜……!」  
 
もう待ち切れないそこに指先が触れる、シロの熱い舌を思い出しながら――。 <終>  
 
 

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