※オリキャラ登場注意。名前だけ読むとホモになるのでそういうの苦手な人は読むな。
※年齢は気にするな! この作品でそんなもんに価値はない!
<尾張の国・清州城>
あるのどかな秋の日の事である。金色の髪を風になびかせ、豊臣ヒデヨシは顎に手を当てて廊下を歩いていた。
ぶつぶつと何かを呟きながらうつむいて歩く彼女には、前が見えてなどいたかった。
とつん。
「いて」
「あっごめん」
何か固いものにぶつかって、ヒデヨシは顔を上げた。
そこには、長い黒髪を頭頂部でまとめた大柄な青年が立っていた。なかなかの美形だが、右目の下には大きな傷痕が刻まれていて、
一筋縄ではいかない人生を送ってきたことをマザマザと示している。
「おいおいエテ公、廊下歩くときはちゃんと前見て歩けよ」
「犬千代! エテ公ゆーな! ちょっと考え事してただけなの!」
手をぶんぶんと大きく振って、ヒデヨシはぷんすかと頭から蒸気を出した。
犬千代、と呼ばれた青年は軽く笑って答える。
「いやー失敬失敬。お前さんも人間の言葉を話す以上、考え事をすることくらいの知能はあるんだな!」
「アタシは最初からヒトじゃー!」
あっけらかんと笑う犬千代に対し、ヒデヨシはポカポカと彼の胸板を叩いて反論した。
本気を出そうものなら彼くらい拳の一撃で十間ほど吹き飛ばせる彼女だったが、親友である犬千代に対してそんなことをするはずがない。
こういったおふざけは二人の間ではよく交わされていることである。
数分に及ぶ茶番劇が終わると、犬千代は不意に秀吉の頭の上に手を置き、言った。
「まあそれはそうとしてだ。お前さん、いったい何の悩み事が有るんだ?」
その言葉を聞いてヒデヨシは「うっ」と小さく声を漏らした。
「…んー、いくら犬千代相手でも、ここで言える問題じゃないんだよね。ちょっと暇ある?」
「今から俺の班は昼休みだからな。ちょうど城下でメシでも食おうと思ってたところだ」
「じゃあアタシも行く。ちょうど新しく茶屋できたみたいだし、話ついでに奢るよ」
奢る、という言葉にピクリと耳を動かして、犬千代はニッと口角を釣り上げた。そして親指を立てて自らの胸を差し、笑顔で答えた。
「なら話聞いてやるよ。この``槍の又左``前田利家様に任せな!」
こうして二人は城門を出て、茶屋へと向かった。
<城下町のメシ屋>
「ご注文はいかがなさいますか、お侍さま」
「アタシ山鳥の串焼きで」
「じゃあ俺は『葡萄牙名物天麩羅定食・松』ね」
わざわざ一番高い料理を注文して、前田利家はお品書きを卓袱台の上に置いた。その価格のゼロの多さにぶーたれるヒデヨシに対して、
利家は卓の上に肩肘を突いて「奢ってくれんだよな、ヒデヨシ君」と釘を刺した。
ぐっとした唇を噛んで、しばらく後にヒデヨシは溜息をこぼした。
「もーいいよ。払うから。その代り、相談のってよね」
「いいぜ」
軽く承知し、利家は首を縦に振った。
一呼吸おいてから、ヒデヨシは口を開いた。
「実はアタシね、御館様(ノブナガ)から今夜お誘いがあって」
「…ほう」
その恥ずかしげな声を聴くなり、利家の目が鋭く光った。
「それはどういう誘いなわけだ?」
「わかんない。ただ『おおヒデヨシ、よかったら今宵ワシの閨に来んか?』みたいな感じで」
「ノブナガ様らしいぜ」
こめかみをこすりながら、利家は苦笑いした。
実はかくいう利家も、元服前はノブナガの閨に寝泊まりしていたこともあり、彼女の貪欲な性に何度も悲鳴を上げていたクチだった。
「らしい…?」
「あ、お前さんには言ってなかったか。俺もともと、ノブナガ様の愛人だったから」
あっけらかんと答える利家に、ヒデヨシは驚き呆れる。
「ぇぇぇぇぇぇ、あんたがぁぁぁ…?」
「なんだその嫌そうな眼は。『清州城女性兵士100人に聞いた婿にもらいたい武将ランキング』ベスト3常連の俺が城主の愛人であることに
不満でもあるのか?」
「何そのアホなランキング。いや、有るも何も、私の中じゃ犬千代といえば脳筋のイメージばっかり先行してるし…」
ポリポリと頬を掻きながらヒデヨシは答えた。
まあ確かにノブナガと利家は幼馴染らしいし、目の下の傷を含めてもヒデヨシは彼のことを色男だと認識してはいた。しかし、「あの」ノブ
ナガの夜の《自主規制》を務めていたとなれば話は別である。
「世の中には不思議なこともあるものなんだね」
「うるせえ。でもまあ、お前さんの言いたいことは分かった」
頬杖をついて、利家は淡々と告げた。
「ノブナガ様から夜のお相手の任を授かったが、何をしていいかわからない。もし変なことをすればあの人は機嫌を損ねるだろうし、お前さん
にとっても、他の武将共にとっても精神衛生上よくない。だからきっちりとノブナガ様を満足させてやりたい…だいたいそんな所だろ」
「うん、そうだよ」
否定の言葉を一言も言わず、ヒデヨシは頷いた。
ド田舎の貧乏神社で育ったヒデヨシにはどことなく世間離れしている節があり、普通の人なら多少なりともためらうことも彼女はホイホイ
口に出してしまう。それが、ある人には愚かにとられ、ある人には人懐っこくみられる彼女の特徴だった。利家も、彼女のそんな所に心惹かれ
ていた。
「そうか、なら話は速い。俺が大人の対応をレクチャーしてやろう」
「わぁい! ありがとう犬千代!」
「大人」という言葉に反応し、ヒデヨシは手をたたいて喜んだ。
「ようし、なら話は速い。今から前田先生の大人の講義の始まりだ!」
立てかけておいた大小二本の刀を腰帯に刺して、利家は立ち上がった。それに続いてヒデヨシも腰を上げる。草履の紐を手早く締め、二人は
一気に駆け出した!
「お待たせいたしました。山鳥の串焼きと葡萄牙名物天麩羅定食・松でございます」
「やっぱり食べてからにするか」
店員の言葉にいち早く反応した利家は一瞬で方向転換し、ヒデヨシは地面とスライディングキスをすることとなるのであった。