千尋は今日、15歳の誕生日を迎えた。  
ちょうど三日前、初潮も終えたばかりである。  
周りの友達に比べ体の成長が遅い風にも見えないが、まるで大人になるのを拒む様な、人並外れて遅い初潮だった。  
今朝、父親が朝食の時言っていた言葉を思い出す。  
ーーー千尋、昔は15歳と言ったら、立派な大人だったんだぞ。  
(大人になんかなりたくない)千尋は思った。  
 
(中学の制服は、セーラー服なのが野暮ったくて嫌い)  
放課後、自宅へ帰りながら、千尋は心の中でひとりごちた。  
今日、口々に友人達が、「千尋、誕生日おめでとう!」と言ってプレゼントをくれた。  
その言葉も贈り物もとても嬉しいが、どこか素直に誕生日を祝えない自分がいる。  
友人の気持ちが嫌だとか、今の学校が嫌だとかではない。どこか漠然とした不安があるのだ。  
(…また1歳、歳を取っちゃったんだ)  
目を閉じると瞼の裏に浮かんで来る、かむろ頭で涼し気な瞳の少年。  
5年前。10歳の時に遭遇した不思議な体験は、誰にも話す事の出来ない物語だ。  
そして、その時に出会った少年ーーーハクの事を、千尋は忘れる事が出来ない。  
(私、もうハクの歳を、追いこしてしまったんじゃないかなぁ…)  
小さな石橋の上で千尋は立ち止まり、小川を眺めながらハクの事を想った。  
「千尋…」  
後ろから声がする。振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。  
烏帽子に直衣、指貫に下袴。まるで桃の節句のお内裏様みたいな時代がかった出で立ち。  
千尋には、それが誰だかすぐに判った。思いがけない事に、息が詰まる。  
「…ハク!」  
千尋は、迷わずハクの胸に飛び込んだ。  
「千尋、大きくなったね」  
「ハクこそ…!夢じゃ無いよね?本当にハクなの?ハク…ハク…会いたかった…」  
千尋は、ハクの胸に頬を寄せ、泣きじゃくった。  
「私も、ずっとそなたに逢いたかった。どれ、顔を良く見せておくれ」  
ハクの手が頤(おとがい)に当てられ、千尋は顔を上げた。  
 
千尋が久々に見るハクは、20歳ぐらいの青年に見えた。  
面影こそ残してはいるが、顔も背も手のひらも、すっかり大人びて見える。千尋の胸が高鳴った。  
「すっかり大人になったのだね、千尋は」  
ハクも同じ気持ちなのだろう。感心したようにそう言った。  
「ハクこそ…」  
(なんだか、恥ずかしい…)千尋は、そっとハクの胸から離れた。  
「あの…ハクはあの後、湯婆婆様の弟子を止めたの?」  
「ああ。千尋が、私の名を取り戻してくれたからね。私は元の私に戻ったのだよ」  
「ニギハヤミコハクヌシ…様…。だよね?」  
千尋の改まった言い方に、ハクが微笑した。  
「ハクで良いよ、千尋」  
「今日は、私に逢いに来てくれたの?」  
千尋は、弾んだ声で尋ねた。  
「いや…今日は、そなたを迎えに来た」  
ハクの腕が千尋を引き寄せた。驚く間もなく、千尋の目の前の景色がグラリと歪んだ。  
 
ここはどこだろう?先ほどの場所では無い。  
見た事も無い造りの、かろうじて日本風としか判らない家屋の中。  
千尋には、なぜこんな事になったのか、何が起きたのか判らなかった。  
「…怖い?」  
ハクが尋ねた。  
「ううん。ハクと一緒だもの、怖くないわ」  
千尋ははっきりと答えた。今まで、ハクを信じて困った事などなかったのだから。  
「ああ…千尋、ちひろ。逢いたかった…。私は、ずっとこの時が来るのを待っていたのだよ」  
ハクが、千尋を抱きしめた。  
「…この時が来るのを?」  
千尋は、ハクの告げる言葉の意味を掴めないでいた。  
「そうだよ。…千尋、これから私のする事を許してくれるかい?」  
「そんな…。私、ハクの事が許せないなんて、絶対思わないわ」  
千尋は、ハクの瞳をまっすぐ見つめて答えた。  
 
「…じゃあ、これから私のする事を、『こわい』とか『いやだ』とか思ったら、遠慮なくそう言うんだよ。そなたに無理強いをさせたくはないのだから」  
(言わないわ…)と千尋は答えようとしたが、その声はハクの唇に阻まれた。  
 
千尋の口腔内を、ハクの舌が這う。  
その舌が上顎を突き、歯列をなぞり、千尋の舌を吸い寄せる。  
初めての口づけを、魂まで吸い取られそうに奪われながら、しかし千尋に嫌悪感はなかった。  
確かに、まったく恐れが無いと言ったら嘘になる。  
しかし、10歳の時別れてから、千尋の胸の中にハク以外の者が住み付いた事などなかった。  
むしろ心の何処かで、何時かこのように迎えが来る事を、ハクに全てを奪われる事を、千尋は待ち望んでいたのかもしれない。  
千尋の髪に手をやったハクは、弾かれたようにその手を引っ込めた。  
「…千尋は、随分と髪が伸びたのだね。私にほどいて見せておくれ」  
千尋は頷いて、あの髪止めから髪を解いた。  
あの出来事が起こった後、千尋はずっと、揃える以上は髪の毛を切れないでいた。  
髪を切り落としてしまったら、あの世界の事を忘れてしまうのではないか。  
あの場所への繋がりが、髪と共に切れてしまうのではないか。  
確信はないが、自分の中の微かな予感が、千尋に髪を落とす事を躊躇わせていたのだ。  
5年の間に、千尋の髪は、膝裏まで届くほど伸びていた。  
きちんと編み込まれ、まとめ上げられていた髪が、解放されて草原のように波立つ。  
「…美しいね。千尋はとても綺麗…」  
ハクは、改めて千尋を抱きしめた。そのまま香りを嗅ぎ、髪の毛に口づけを落とす。  
「そんな…」  
千尋は恥ずかしかった。自分はとてもじゃないが、綺麗と呼べる様な少女ではない。  
むしろハクの方こそ、綺麗と呼ぶに相応しい。  
昔と変わらぬ切れ長の瞳、すっと通った鼻梁、薄くて形の良い唇、真珠の様な歯。  
どこまでも白いなめらかな肌、長くて細い指先、引き締まり男らしく成長した体躯。  
並んで歩いたら、分不相応と呼ばれるのはむしろ自分の方であろう。  
首に口づけを落とされながら、千尋はため息を付いた。  
「…どうしたの?」  
「ハク、私、全然綺麗なんかじゃないよ。あまり私を買い被らないで…」  
ハクは驚いた様に千尋の顔を見遣った。  
 
「どうしてそんな事を言うの?千尋は綺麗だよ」  
そのまま、ハクは千尋に深く口づけた。その手が、1枚1枚千尋の服を剥いでいく。  
生まれたままの姿にされた千尋は、ハクに抱きかかえられ、そのまま床へと導かれた。  
真っ白な褥に横たえられる。ふと気付くと、脱いだ気配がなかったのに、ハクも素裸になっていた。  
「…怖くないかい?」  
ハクが千尋の頬を撫でながら確かめる。千尋は頷いた。  
その手が、体の隅々を確かめる様に撫でる。つめたい手に撫でられた場所から、炎が舐める様に、全身にじわりとした熱が起こった。  
「…嫌だったら、すぐにそう言うのだよ。…千尋が嫌なら、すぐ止めるから」  
何度も何度も、何かを恐れる様にハクが千尋に囁きかける。  
「ううん…嫌じゃない。その逆だよ。…嬉しいの」  
そろそろと撫で上げられ、びくりと身をすくませながら、千尋が答えた。  
「…嬉しい?」  
「うん…とても嬉しいの。ハクにまた逢えて…こうして抱き締められる事が嬉しい」  
「千尋…そのような事を言わないでおくれ。私は…私は…押さえきれなくなってしまう」  
ハクの唇が千尋の胸を啄んだ。初めての刺激に、千尋の体が跳ねる。  
舌で先端の尖りをなぞり、音を立てて吸い上げ、もっと尖る様弄ぶ。  
片方の手でもうひとつの尖りを摘み、さほど大きくはない胸をやわやわと揉みしだく。  
そのたびに強い刺激に耐えきれず、千尋の体が踊り、押さえきれぬ嬌声が上がった。  
ハクの舌が、千尋の体の隅々まで、唾液の軌跡を残して這い回る。  
千尋は、今まで自分で意識した事のなかった様々な場所に、心地良さを感じる事が信じられなかった。  
「…あっ…あぁぁぁっ!…ハク…ハクっ!…汚いよ…んっ!…やめて…」  
ハクの愛撫が止まった。千尋ははっと気付いて、急いでハクにしがみついた。  
「…違う。ハク、止めないで続けて…。最後まで…ちゃんとして欲しいの。止めて欲しかったのは舌で舐める事だけ。…それだけなの…」  
真っ赤になりながら、千尋は自ら続ける事をねだった。  
 
「…では、指でなぞるのと、口づけるのは良いのだね?」  
ハクはそう言った。千尋が頷く。  
ハクの行為が激しくなった。息も付けぬほど深く口づけ、手と指先で千尋を翻弄する。  
「…ああっ…んうっ!…は…あぁぁぁ!…」  
もう止めて欲しいとは言えず、千尋は素直にハクの愛撫に身を任せた。  
ハクの指先が腹をなぞり、秘裂の奥に忍び寄る。そこはすでに濡れそぼっていた。  
指先で蜜を掬い取って、淫核の輪郭をなぞる。それは千尋が初めて覚える快感だった。  
「んあっ!…変…なんか変…おかしくなっちゃうよう…」  
「そう…。もっともっと、千尋を気持ち良くさせてあげるよ…」  
ハクの体が、千尋の膝を割った。  
千尋とて、知識としてその行為を知っている。初めての場合は、破瓜の痛みがある事も。  
千尋はその痛みに身構えた。ハクの体が、徐々に千尋の膣内に入って来た。  
驚いた事に、初めての痛みがまったくない。  
細い細いモノが、千尋の膣内の奥までゆっくり収まる。  
最奥まで収まると、それは徐々に形を変えてきた。じわじわと、千尋の膣内でふくれあがり、擦り上げ、内側の壁の様々な場所に刺激を与える。  
「ん…んあぁぁぁぁっ!」  
千尋があげた悲鳴は、間違い無く官能の為であった。  
まるで生き物のように、ハクのモノが千尋の体内をなぞる。  
そのたびに、千尋の膣奥から身体全体に甘い戦慄が走った。  
「ああん!…あっ…イイっ!…イイよう。…どうして?…わ、わたし…っ!…んはぁっ!…初めてなのに…あぁん!」  
千尋は耐えきれず、快楽に溺れて自ら腰を揺らめかせていた。  
その動きに合わせるように、ハクのモノがどんどん胎内で膨れ上がって行く。  
プツリ、と千尋の中で何かが弾ける音がした。微かな痛みを感じたが、それはすぐ快感にすり変わる。  
ハクのモノが、千尋の膣を目一杯まで広げるほど大きくなったが、その律動から生み出されるのは、もはや法悦でしかなかった。  
手や指先でも体を愛でられ、膣奥まで休む事無く刺激を与えられた千尋は、早くも限界が来た。  
「…あぁっ!ハクぅっ!…イク…イっちゃうよう…っ!…あぁぁぁああああ!!!!」  
ガクガクと身体を揺らしながら、千尋は絶頂を迎えた。千尋が荒い息を吐く。  
 
「…気持ち良かったかい?」  
「うん…恥ずかしいけど…とても気持ち良かった…」  
その言葉を口に出してから、千尋はある事に気付いた。  
「…ハクは?」  
「私は良いんだよ。千尋が気持ち良ければ、それで私も満足だ」  
「そんなの駄目!…私だけなんて…」  
千尋は、まだ屹立しているハクのモノに唇を寄せた。  
「お願い…ハクも気持ち良くなって…」  
そのまま、千尋はハク自身を口に含んだ。上目遣いで様子を見ながら、舌先でチロチロ舐める。  
その言葉に、千尋の舌に舐められていたハクが、大きくうねった。  
「千尋…そなたは…」  
ハクが耐えきれない様に千尋の身体を抱き上げ、その身を下から突き上げる。  
「…ああっ!…」  
「千尋…今度は、そなた自身が動いて御覧」  
微笑んだハクの言葉に、恐る恐る千尋が自ら動き始めた。  
それは、とても淫猥な絵巻であった。  
一刻前は自慰さえも知らなかったはずの、まだ幼さの残る少女が、錦絵の様な美丈夫の胸に手を付き、自らの腰を叩き付ける様に淫らな踊りを踊っている。  
そのお互いの顔には、はっきりと悦楽が浮かんでいた。  
部屋中にいやらしい水の音だけが響く。  
「千尋…そなたの水は、とても甘い…。…あぁ…っ!私を…私を許しておくれ…っ!!」  
その声と共に、千尋の後ろの穴、尿道、口腔にも、ごぽりと音を立てて何かが侵入した。  
千尋の身体の全ての性感帯が、恐ろしいほどの快感を伴って刺激される。  
(あああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!)  
千尋の悲鳴も、その何かに吸い取られた。  
膣奥と壁を隔てて、裏門の奥までもが蠢く。口腔も、尿道も、身体中の穴という穴が何かで塞がれ、蠢くそれから、人として感じ得る限りの気の狂う様な快感を与えられる。  
すでに、ハクは人形(ひとがた)を留めてはいなかった。竜ですらない。  
千尋は、温かい羊水のような水に包まれていた。不思議な事に、息は苦しくなかった。  
その水に、ころがされる様に千尋の全てが味わわれている。その水が蠢くたびに、神経全てがむき出しにされた様な快感が走った。  
果てがないかと思われる蠢きが続き、千尋が発狂しそうになる寸前に、その水がはじけ飛ぶ。水がはじけると共に、千尋は意識を失った。  
 
 
千尋が気付くと、ハクが心配そうに額に手をあてていた。  
「ハク…」  
「気付いたんだね…。千尋、すまなかった」  
「…あれが、本当のハクなの?」  
千尋の問いに、ハクが頷いた。そのまま千尋から目をそらし、ハクが苦しそうに告げる。  
「もう少しそなたが落ち着いたら、家まで送り届けよう。…私達は、もう会わない方が良い」  
千尋はその言葉が信じられなかった。先ほどまで、あれほど激しく求められていたのに。  
「なぜ?…さっきハクは、私を迎えに来たって言ったじゃない!あれは嘘だったの?」  
「嘘では無い。…しかし、それは間違いであった。私は、もうそなたの前に現れてはいけない…」  
千尋の眼から、涙が溢れて来た。ポタポタとその雫が、白い褥を濡らす。  
「嫌……イヤ…いやぁっ!!」  
千尋は、ハクの薄衣を掴んで泣きじゃくった。  
「私は、ハクが好き。…もう会えないのなら、死んだ方がましだわ…!」  
「千尋、そんな困った事を言わないで。そなたは先ほどから、しきりに私を惑わす…」  
「ハクは…ハクの気持ちはどうなの?」  
千尋は顔を上げ、真っ直ぐハクを見つめた。ハクの顔に動揺の色が浮かぶ。  
「千尋、よく聞いておくれ。このままそなたが私の元にいてはいけない。…そなたがそなたのままでいられなくなってしまうのだ。…私には、そんな残酷な事は言えない…」  
「そんな事を聞いているんじゃないわ!…ハク、聞かせて。ハクの本当の気持ちを」  
とうとうその想いに負け、ハクは千尋の身体を強く強く抱きしめた。  
「…あの日から、そなたを思わぬ時はなかった。千尋が大人になるのを、私はずっと待っていたのだよ。迎えに来たとゆうたのは、嘘偽りではない。…そなたが欲しい」  
それは血を吐く様な、ハクの心底からの気持ちであった。  
「ハク…嬉しい。私も、ずっとハクを忘れた事はなかったよ」  
千尋は微笑んだ。ハクが、真剣なまなざしでゆっくりと話す。  
「本当に、良いのかい?…千尋もさっき、どうなるのか判ったと思う。…それでも?」  
「いいの…何もいらない。…ハクさえいれば、何もいらない」  
二人は、固くお互いをいだき合った。  
 
 
千尋の通学路である小川の石橋に、千尋の身に付けていた物と持ち物が畳んでおかれてあった。  
両親も友人も、近所の人達も、驚き、嘆き、悲しみ、懸命に捜索したが、千尋はその日からこつ然と姿を消した。  
両親の悲しみはもちろん尋常ではなかった。愛する娘が、15歳の誕生日に消えてしまったのだから。何の手がかりも無く、千尋の行方は杳として知れない。  
そうまるで、千尋は神隠しにあったようだと人々は噂した。  
 
温かい水に、千尋は包まれている。  
(千尋…すまない。本当は、そなたの初めてだけが欲しかったはずであったのに…)  
(いいのよ…。私、本当に嬉しいの。…もう二度と、私達、離れる事はないよね…)  
ゴボゴボと音を立てて、その全てにハクが入り込み、蠢き、千尋に絶えまない快楽を与えている。  
(ああ…。気持ち良い、ハク…)  
(私もだよ…。千尋…愛している)  
(うん…私も…。ハク、あなただけを愛している)  
ハクの中で、千尋は徐々に溶け始めている。  
やがて、骨のひとかけらも余さず、千尋はハクとひとつになってしまうのだろう。  
しかし、千尋は少しも自分を不幸だと思わなかった。  
なぜなら、こうなる事は、千尋とハクが初めて出会ってから、お互いがずっと胸の奥に秘めていた想いであったから…。それは千尋とハクの、絆への宿望であったのだと。  
ーーーーー終ーーーーー  
 

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