あれから1年の月日が過ぎた。
みか先生と北川のお付き合いはまだまだ続いている。
いつの間にかクラスの皆に公認のカップルとして認められてしまい、何かある事に茶化されているのだが。
そして12月ともなると進路が決まる者、これから自分の進路を決めるため試験勉強に勤しむ者が興津高校の3年の教室に溢れかえる。
みか先生も自分のクラスの進路状況をチェックする為、職員室で名簿と自分の机の前に置かれた受験結果など書かれた用紙を睨めっこしていた。
「えーと…中村君と委員長は興津中央大学文学部に推薦合格、っと…。あの2人頑張ってたもんね〜」
生徒の名前の横に進路先を書き込むみか先生。
「みか先生のクラス、進学率高いですねー」
ちらりとその様子を覗き込んだ新川先生が話しかける。
「みんな頑張ってくれましたからね〜。殆どの生徒が決まってるなんて珍しい事みたいですしね」
彼女はそこまで言って再び自分の机の上に集中する。
「小林さんは美容師の専門学校に決まったし、関君は服飾の専門学校か〜。何だかんだ言って自分の趣味を続けようとする心構えは立派よね」
彼女は一人ごちりながらペンを走らせる。
「富永さんは医大に進学が決まったし、末武君と工藤君は体育大学の推薦もらったし、渡部君はアニメーションの専門学校の合格を夏頃に取ったし」
そして今まで順調に走っていたペンの先が不意に止まる。
止まった先に書いてあった名前、それは彼女の一番愛しい人の名前。
「北川さん、まだ決まってないのかな〜。『何校か受けます』って言っただけだしな〜」
頬杖をつきながら窓の外を見つめるみか先生。
夕焼けはそろそろ沈もうとしている校庭の人影はまばらだ。
「鈴木先生、生徒の合格通知が届いてますよ」
そんな彼女に向かって声を投げかける人影があった。
「あ、教頭先生。誰の通知ですか?」
「えーっと…A組の北川さんだね。大学名は…」
そして教頭先生の口から出た言葉にみか先生は思わず驚きの声を上げてしまう。
「き、教頭先生、本当ですか!?」
「みたいだね。横浜国立大の教育学部に受かるとは私も驚きだよ…って鈴木先生、どうかしたんですか、呆然として」
「あ、いや何でもないです…」
教頭先生の言葉にやっと気づき慌てて話し出すみか先生。
しかし会話が終わったあとでもその表情は冴える事はなかった。
この時間帯にもなると校舎の人影もまばらになる。
自分の仕事を終えたみか先生は忘れ物を取りに戻るために教室に戻る。
そして扉を開けると北川が椅子に座り、先ほどのみか先生と同じように佇んでいた。
みか先生は近くに寄って彼女に話しかける。
「北川さん」
「あ…みか先生」
北川の表情もどこか憂いを帯びていた。
「北川さん、いつの間に学校を受験していたの?しかも国公立大学の中でも難関校じゃない」
「実は…先生には内緒にしていたんです」
「どうして?」
みか先生は怪訝そうな表情のまま疑問の声を上げる。
やや、躊躇いながらそれでも震える唇でゆっくり、ゆっくりと言葉を吐き出していく。
「去年、クリスマスに先生が言った事覚えてますか?」
「え?」
「泣きじゃくって我儘を言っていた私に先生、優しく言ってくれましたね…」
北川の言葉にやや赤ら顔で答える彼女。
「あの時の事ね…。北川さんにこんなに愛されているって感じたから私も心の底から言ったんだけどね」
そこまで言ってみか先生も椅子に座る。
「私、いつもみか先生の事を可愛がったり茶化したりして、ちっちゃい子どもみたいに扱ってたところがあったんです。でも…」
そこまで言うと決意を秘めた瞳で話す。
「あの時、先生の言葉を聞いて先生の心の広さ、そして…私よりもずっとずっと大人な先生を見て、私も先生に釣り合うような人間にならなきゃいけないと思ったんです」
「北川さん…」
「先生、私は春になったら興津から出て行こうと思うんです」
「!」
その言葉にみか先生は思わず息を呑む。
「…今の私じゃ、みか先生に釣り合うだけの人間になれない。そう思ったんです」
北川の瞳からはこらえ切れなかった涙が溢れ、雫が床を濡らす。
「先生と少しの間離れることが、自分にとって大人になる為の第一歩なんじゃないかと思いまして」
声を振り絞りながら声を震わせて話しを続ける。
「私もずっと一緒にいたい、って気持ちは一生変わらないです。だからこそ先生に甘えちゃいけないと…」
「そんな事ないよ!」
北川の言葉を遮り、みか先生が声を荒げ立ち上がる。
「それこそっ…それこそ自分に甘えてるよっ!」
彼女も感情の高ぶりを抑えられないまま北川に言葉をぶつける。
「じゃあ何?私に釣り合わないから私から離れる?そんなの詭弁じゃない!?」
みか先生の目にも少しずつ涙が溜まっていく。
「私は大人なんかじゃない、そんな立派な人間じゃない!」
流れる涙もそのままに、嗚咽をかみ殺しながらつっかえつっかえ話し続ける。
「…北川さん言ったよね?心の底から愛してるって、もう離したくないって!その言葉は嘘なの?北川さんと離れるなんて私は嫌。そんなの、絶対に嫌っ!」
最後のほうは自分の想いが言葉になって飛び出していた。
彼女はそこまで言い切るとその場に崩れ落ち、すすり泣きを始めてしまう。
「先生…」
北川の口からは何も出てこない。
まるで鈍器で殴られたかの衝撃が彼女の心に響いた。
「ごめん、なさい…。こんなに…こんなに愛してくれている人に何バカな事を言ってるんだろう、私」
北川の乾いた口から震えつつ言葉が出てくる。
「先生と離れたくなくて…。でも自分自身がすごくちっぽけに見えて」
ぽたり、と涙が再び床に落ちる。
「挙句にはこんなこと考えるなんて…本当に私、なにを考えてるんだろう」
北川の声が泣き声に変わっていく。
「私も先生とずっと一緒にいたい、離れたくない!もう甘えとかそんな事考えない!ずっとずっと、一緒になりたい!」
そしてしゃがみ込んでいるみか先生に自分も身体を合わせ、そのまま強く抱きしめる。
「みか先生っ…!」
「北川さんっ…!」
教室の外から照らされる沈みかけた夕日に映る2人の影が、ひとつになった。
「北川さん、教室でしても大丈夫なの?」
「この時間はもう生徒も帰ったから大丈夫ですよ」
薄暗くなった教室から聞こえる女性2人の声。
机を固めて、その上に寝転がるみか先生と北川。
「先生…。もう離れるような事言いません。だからもっと私を好きになって下さい…」
「北川さん…」
そしてお互いの唇が触れ合い、ゆっくりとその舌が入っていく。
涙の所為か、少ししょっぱい唾液の絡み合いになる。
「んふっ…ううん…」
北川の唇がみか先生の首筋をゆっくりついばみ、生暖かい息をそっと吹きかける。
「いやん、北川さん…くすぐったいよ」
「さっきのお詫びです、もっとくすぐらせてあげます」
そう言うと今度は舌を這わせて肩口の辺りを舐め始める。
「んあんっ…ぞくぞく、って来る…」
みか先生の声に悦に入りながら北川の手が彼女の胸の部分に差し掛かる。
そして背中に手を廻し、服の中に手を入れ器用にブラジャーを取る。
「服の上からでも先生の乳首、立ってるのが分かりますよ」
「やだぁ、恥ずかしいよ…」
そして素肌に直接生地が当たるように優しくその胸を揉み始める。
「きゃっ…!」
擦れる感覚に身体がぴくりと反応する。
「ふふ…やっぱり先生は胸が弱いんですね。あとここもかな〜?」
北川はさらにみか先生のスカートの中に手を伸ばす。
「うわ…先生の中、もうびしょびしょですよ?」
彼女の秘所からはすでに愛液が溢れ、下着越しから濡れた感覚が伝わってくるのが分かった。
「あん…だって、北川さんの事考えただけでこんな気分になっちゃうんだもん…」
みか先生の言葉に北川は嬉しそうな笑みを浮かべてもう一度唇を塞ぎ、胸と秘所を同時に愛撫し始める。
「んんっ…!両方なんて、聞いてないよっ…」
軽い抗議の声も聞き流し、逆にわざと音を立てるように秘所の愛撫を強くする。
「先生のここ、くちゅくちゅ音を立てて鳴いてますよ?」
「ばかぁ…っ」
口から出る言葉とは逆にみか先生の秘所からは蜜がどんどん溢れ、下着を越してスカートにもその染みを作り始める。
「先生…私も可愛がってください」
切なそうな北川の言葉にみか先生は自らの右手をそっと胸に当て、同じように触る。
「んんっ…服の上からなのに先生の手の暖かさが分かります…」
くすぐったいような、奇妙な感覚に北川の身体も震える。
北川さんもいっぱい濡れてるよ?私とおんなじだね」
その左手が彼女の下着に触れる。
北川の秘所から溢れた愛蜜はすでに下着を越え、その肌やスカートを濡らしていた。
「私も…あうんっ…先生とこうやって抱きしめてるだけで…こんなになっちゃったんです」
そこまで言って激しいキスを交わす2人。
お互いの手が少しずつ激しくなっていく。
「先生のここ、もうびしょびしょになってます…。私の手がふやけちゃいましたよ」
「北川さんもすごいよ…。まるでおもらしちゃったみたいに濡れてる…」
2人の秘所は今まで以上に蜜が溢れ出し、淫らな音を立てる。
お互いの嬌声が教室に響く。
「先生、私、もう我慢できなくなっちゃいました…一緒に…いいですか?」
北川の欲情に塗れた表情にみか先生はゆっくり頷く。
「いいよ、おいで…」
両手を広げて北川を受け入れようとする彼女。
そして北川とみか先生の身体がくっつき合う。
お互いの秘所同士が下着越しに、それでも溢れる蜜の多さに淫靡な音を立てて触れ合う。
「ああんっ!いつもより、気持ちいいですっ!」
「私もよっ、すごくとろとろで…あんっ!」
その言葉ひとつひとつが彼女達の情欲をさらに沸きたてる。
北川は上体を起こしさらに腰を激しく動かし、まるで男性が女性を攻めているかのような風に見える。
「北川さぁん…先生もういっちゃうよぉ…」
堪えきれない表情を浮かべ、北川に懇願するみか先生。
そして北川も限界に達しようとしていた。
「先生、私も、もういっちゃいますっ…!」
「一緒に、いっしょに、いこ?」
その言葉が引き金となる。
「もう、駄目ぇ!」
「私もっ…あああっ!」
北川はみか先生の身体を起こし、そしてお互いの身体を再び強く抱きしめる。
その瞬間、下半身から何かが噴き出す音が聞こえた。
あまりの快感にお互いの秘所から蜜だけでなく、尿液も溢れ出たのだ。
「あ、あああ…」
恍惚の表情を浮かべる北川。
それは2人の下半身を濡らし、机と床を汚していく。
全てを放った状態でも決してお互いを放そうとしない。
荒かった彼女達の息がやがて収まっていく。
「北川さん、怒っちゃってごめんね…」
みか先生がすこし申し訳なさそうに言う。
その様子を見て北川は黙って首を横に振り、
「私こそごめんなさい。もうこんな馬鹿な真似はしません。これからはずっと先生と一緒にいます…」
そして2人の唇が重なり、お互いの身体がもう一度重なる。
沈みかけの夕焼けはそんな彼女達を祝福するかのように赤く照らしていた。
北川達が卒業して4年がたった。
小林は努力の甲斐あってカリスマ美容師として認定され、大喜びでみか先生に報告に来た。
関は服飾の第一人者の下で修行を積み、晴れて自分の店を持ったとの事。
そのうち関ブランドの服が流行の最先端を行くんじゃないかとは他の仲間の弁。
おやじと委員長は何と結婚するそうだ。
実家の家業が彼女のおかげで上手くいって両親にも是非嫁に来て欲しいと催促されたとかされなかったとか…。
末武は体育大学のサッカー部のエースとして全国大会を連覇、今年からプロ入りするとの事。
工藤も彼のトレーナーとして日々の管理をしながら幸せに入り浸ってるということだ。
富永は医大で優秀な成績を収め、臨床実習でも一目置かれる存在となっている。
その華麗なメスさばきは女ブラックジャックと呼ばれているとかいないとか…。
渡部は専門学校を卒業して大手アニメーション会社に就職。
すでに何本か製作を手がけているものもあるらしい。
中山とはすでに両親公認の仲になっている。
彼女は何と芸術大学に進学。
絵の上手さは相変わらずだが、一部の人間からは高評価を得られているのだから世の中分からない。
そしてみか先生と北川は…。
「みか、お友達の中川さんが6月に結婚するんだって?」
鈴木家の食卓ではいつもの3人が食事をしていた。
「うん、お見合い結婚だって〜」
母親の言葉にのん気そうに相槌を打つみか先生。
「ったく、あんたの周りは結婚話が出てるのに、あんた自身はまーったくそんな話はないんだねぇ…」
「そ、そんな事無いよ〜」
その言葉に慌ててご飯を口にする彼女。
「もう31にもなるっていうのに…はぁ〜」
「まぁまぁ、いいじゃないか。こうやって3人で楽しく食事も出来るし、もう一寸先でもいいんじゃないか?」
父親の言葉に情けなさそうに溜息をつく母。
「はぁ〜…相変わらずお父さんはみかに甘いんだから…」
ふと、電話の音が鳴る。
それを母親が取りに行って暫くして声が聞こえる。
「お父さん、荻窪の叔父さんから電話〜」
入れ替わりになるように父が席を離れ、母親が戻ってくる。
「いつまで経っても子離れできないんだから…」
ぶつぶつと文句を言いながらお茶を一口。
「ところでみか。北川さんとは上手くいってるのかい?」
「!」
いきなりの発言に驚きのあまりご飯の喉に詰まらせ、急いでお茶で流し込む。
「けほっ…!え、何のこと?」
動揺を隠せないままそれでも知らない振りを通すみか先生。
「隠したって無駄だよ。大分前から北川さんとお付き合いしているのをお母さん知ってたし」
「…バレちゃいましたか」
母親の言葉に恥ずかしそうに頭を掻く彼女。
「…別にあたしは何にも思ってないけどね。あんたが好きになったのなら男性でも女性でも構わないと思うし」
そこまで言うとお茶をもう一口。
「お母さん…」
「逆に北川さんに申し訳ないよ。こんな幼児体型で炊事洗濯もできない娘のどこに惚れたのか…」
「はう〜…。実の娘にあんまりといえばあんまりのお言葉…」
母親の言葉にがっくりと肩を落とすみか先生であった。
「で、今も付き合っているのかい?」
今度は一転、ゴシップ好きのおばさんのような口調で聞き始める。
「うん、休みの日には一緒に買い物したりするし、夏休みとかにも旅行するよ。大学も本当は4年かかるのに飛び級で
2年で卒業したし。今は大学院で頑張ってるけどね」
「そうかい、仲良くやってるんだね」
「でも最近忙しそうにしてたなぁ…。最後に会ったのが2週間前だし」
そこまで言うとみか先生ももう一度ご飯を口に頬張るのであった。
「えー、今日から我が校に新任の先生が入る事になりました」
興津高校も新学期が始まり、新しい先生がやってくる時期になった。
「新川先生、今年はどんな先生が来るんでしょうね?」
ひそひそ声で隣の新川先生に声を掛けるみか先生。
「どうやらここの卒業生とか言ってましたけど…誰なんでしょうかね」
そして職員室の扉が開く。
「いったい誰なんだ…ろ!?」
入ってきた人影にみか先生の瞳が見開く。
「今日から興津高校で現国を受け持つ事となりました北川理央です。分からない事ばかりですが皆様どうか宜しくお願い致します」
「き…北川さん!?」
そう、目に飛び込んできたのは何と北川だった。
「北川先生はここの高校の卒業生で…」
教頭先生の言葉も耳に入らないくらい呆然としてしまう彼女。
そんな彼女に軽くウィンクする北川であった。
紹介も終わり、昼休みに入り、校舎の屋上で昼食を取る2人。
「驚いたよ〜。まさか北川さんが赴任するなんて…」
「隠しててごめんなさい、先生。でも驚かせたくて、つい」
北川はそこまで言うとまるで悪戯っ子のように舌をぺろりと出す。
「しかも興津高校に赴任するなんて…まだ夢を見てるみたいだよ〜」
「ふふふ、先生と一緒にいたいと思ったから頑張れたんですよ。ほんと、夢が適って嬉しいです」
その言葉に何故か顔を赤らめてしまうみか先生。
「これからも宜しくお願いしますね、みか先生!」
そして軽くお互いの唇が触れ合う。
そう、もう一度始まる『せんせいのお時間』。