僕が目を覚ましたのは白い天井と白い壁に囲まれた殺風景な部屋のベッドの上だった。  
 起き上がろうとする。……と左足に激痛が走る。  
「ぐぁっ!」  
 痛みに耐え、自分の足元を見る。  
 ……包帯を巻かれ、天井から吊り下げられた器具に固定された足。  
 そうだ思い出した。僕は落馬したんだっけ。  
 
「大丈夫? ごめんね、ごめんね……」  
 ほのかの声。  
 僕の上げた叫びに、部屋の片隅で花瓶に花を活けていたほのかが気付いて近付いてきた。  
「ほのか……僕……」  
 言いかけるより先にほのかが僕の胸に飛び込み、泣き声を上げた。  
 
 高校3年の夏休み、僕はほのかに会うために北海道を訪れていた。  
 その前の日に終業式を終えたばかりの僕はすぐに北海道入りし、朝からほのかと会っていた。  
 そして動物、とくに馬が好きなほのかに誘われ、僕たちは郊外の牧場に遊びに行っていた。  
 そこで乗馬を体験しようとした僕は馬に振り落とされてしまったというわけだ。  
 
ヒヒヒヒヒーーン!  
 馬のいななきが聞こえた瞬間、体が浮き上がった。  
 何に怯えたのか、いきなり後ろ足で立ち上がった馬からバランスを崩した僕は落馬した。  
ぐきっ!  
 背中から落ちたり、頭を打つことだけは避けられたが、変な形に足をつく。  
 そのまま倒れこんだ僕はとっさに手をついて体を支えようとする。  
ずんっ!  
 鈍い痛みが手首からひじにかけて襲う。……ヤバイ、折った?  
 
ヒヒヒヒーン!  
 馬が興奮してさらに暴れる。逃げないと危ない!  
 だけど片足の鈍痛に僕は動くことができなかった。その僕の上に馬がのしかかる。  
 思わず無事だった左手でかばう。直後に気が遠くなるような左ひざの激痛!  
ぐしゃ!  
 ほのかの悲鳴が聞こえた。……僕はそのまま意識を失った。  
 
 ほのかが泣きながら教えてくれたことによると、僕のケガは退院まで約5週間。  
 幸い命に別状はないものの、両手両足は軽くて亀裂骨折。重いものだと粉砕骨折だという。  
 馬が暴れた際にお腹を踏まれていたら、内臓損壊で命はなかったという。  
 とにかく5週間は病院のベッドの上だ。夏休みがふいになってしまった。  
 ……でも…死ななくてよかった。  
 
 5年生のときは僕がほのかを助けようとして骨折した。また骨折か……。  
 でもあれが縁で交換日記を始めたんだよなぁ。僕の転校で自然消滅してしまったけど。  
 その後、いろいろあって再会し、今はほのかと付き合っている。  
 高校に通っている間は東京と札幌の長距離恋愛だけど、卒業したら僕も北海道に住むつもりだった。  
 ちょっと早くなったけど、その時期の予行演習と思えばいい。僕はそう考えることにした。  
 
 僕の胸でずっと泣き続けているほのかの頭を包帯に覆われた手でなでる。  
「もう泣かないで。こうして助かったんだから、ね?」  
「でも…でも……」  
 ほのかが落ち着き、泣きやむまで僕はほのかの髪をなでていた。  
 
 歩けないし手が使えない。  
 右手の親指を除く4本の指先数センチは包帯に包まれていなかった。  
 それでもかろうじて本はめくれるし、テレビのリモコンを触ることもできた。  
 食事は看護婦さんが摂らせてくれるし、ときにはほのかが食べさせてくれる。  
 長期の入院になるが、牧場の対人保険で治療費も入院費も賄われるのも救いだった。  
 それどころか、ほのかのお父さんが責任を感じて個室の差額を出してくれた。  
 おかげでケガの痛みこそあるものの、入院生活自体は快適だった。  
 
 困ったのは排泄だ。  
 紫がかった髪の、「綾崎」という名札を付けた若いきれいな看護婦さんが僕の担当だ。  
 綾崎さんが処置してくれるが、恥ずかしくてたまらない。  
 18歳で性欲をもてあまし気味の僕は何度も綾崎さんに勃起を見られてしまった。  
「ごめんなさい……」  
 気恥ずかしくなり、いつも謝る僕に綾崎さんも  
「いいえ……」  
 頬を染め、それでも事務的に事を済ませてくれた。  
 
 自分で欲望を処理できないのがこんなにつらいとは思ってもみなかった。  
 ほのかは毎日見舞いに来てくれる。  
 夏のために薄着のほのかもそうだし、排尿や清拭で綾崎さんに肌を触れられるのもそうだった。  
 そういった、普段だったらなんでもないようなことが今の僕には拷問だった。  
 僕は性の欲求がどんどん高まっていくのを感じていた。  
 
 入院してそろそろ一週間。傷の痛みは引いたがそれ以上の苦痛が僕を待っていた。  
 オナニーしていない。したくてもできない。こんな苦しみは生まれて初めてだった。  
 ほのかと話していても、つい胸元やスカートから伸びた足に目が行ってしまう。  
 股間の隆起は夏用の薄い掛け布団ではどうしたって隠せるものではない。  
 不自然に股間を盛り上がらせ、放出の欲求に耐えながら交わすほのかとの会話。  
 ほのかに会えることはうれしかったが、二人だけでいることは地獄の苦しみだった。  
 
「あなたがケガしたのは私の責任なんだから……なんでも言って!」  
 思いつめた感じのほのかの声。  
「ほのかの責任じゃないよ。僕の不注意だし、あれは単なる事故」  
「でも私が誘わなかったら……」  
 ちょっとしたきっかけで涙をこぼしそうなほど、ほのかの瞳が潤んでいる。  
「僕は自分の意思で牧場に行ったんだし、自分の判断で馬に乗ったんだよ」  
「………」  
 何も言わず、唇を噛んでうつむくほのか。  
「ほのかが責任を感じるようなことは何にもないから。ね?」  
 ほのかを慰めるように言う。  
 それでもほのかはまだ何かを言いたそうにしていた。  
 
「ずっと…私のこと……その…ヘンな目で見てるの知ってるよ」  
 意を決したように、それでもうつむき加減でほのかが言った。  
「……え」  
 気付かれていた。  
 もっとも気付かない方がおかしいほどそのときの僕は普通の状態じゃなかった。  
「手がそんなだし、自分ではできないんでしょ?」  
 ? ……ほのかは何を言ってるんだ?  
「おと、男の子って……た、溜まったせ、精液……出さないと、は、破裂して死んじゃうんでしょ!」  
 恥ずかしいのか、耳まで真っ赤に染め、声を裏返して言うほのか。  
 出さないからといって死ぬことはない。そう言おうとしたが、気圧された僕は訂正できなかった。  
「あなたに謝りたいの! 何かしてあげたいの!」  
「ほのか……」  
 胸がいっぱいになった。そうまで僕のことを思ってくれているのか……。  
 
「わ、私…は、初めてだからよくわかんないの!」  
 僕の股間に手を置いてほのかが言う。  
 ほのかは真剣なんだ。ならばそれに応えるのが僕の務めだ。  
 そう思い、僕はほのかに  
「わかったよ。じゃあ……僕をイカせてくれる?」  
 そう告げた。  
 
 今日の午前中に綾崎さんが清拭してくれた。体は汚れていないはずだ。  
 僕はほのかに言ってパジャマのズボンを脱がせてもらった。  
 大きく張りつめたトランクスをなるべく見ないようにほのかがズボンを下ろす。  
 そのまま、何をしていいのかわからずに動けないほのか。  
「ほのか……パンツも下ろしてくれる?」  
 僕が言うと、ぎこちなくうなずき手を伸ばしてきた。  
 
 ついに下着も下ろされ、僕の下半身はほのかの前にあらわになった。  
ごくっ  
 ほのかが息を飲んだ。  
 子供のころにお父さんのを見た以外、一度として見る機会はなかったはずだ。  
 処女のほのかには少し刺激が強すぎたか?  
 そんなことを考えていると  
「こんなに…大きいなんて……」  
 ほのかが震える声で言った。  
 僕としてはあくまでも一般的なサイズだと思っているが、やはりほのかにはそう思えないんだろう。  
「ほのか……怖いなら……しなくてもいいよ」  
 そう言ったがほのかはかぶりを振った。そして大きく深呼吸すると、そっと指を近づけてきた。  
 
 ほっそりとしたほのかの指がグロテスクな肉棒に巻きつく。  
 ひんやりとした感触が熱を持った剛直に心地よく伝わる。  
 だが握っただけで何もしない。どうすればいいのか、それがわからないようだった。  
「ほのか……そのまま上下にこするように動かして……」  
「………」  
 返事の代わりにほのかの手が動き出した。  
 ゴツゴツと節くれだち、血管を浮かせた茎の部分をゆっくりと、弱い力で前後させる。  
「もっと…強く握ってほしい」  
 一瞬手が止まる。そのあと  
ぎゅっ  
 少しだけ強く握られた。  
 
 握られただけでイッてしまうのでは?  はじめはそう考えていたが、実際はそうではなかった。  
 あまりにも非日常の行為に感覚が麻痺したのか、最初あった射精感は遠のいていた。  
 おかげでほのかの手コキを楽しむ余裕を僕は持てていた。  
 
「亀頭……あ、先の方のふくらみもさわってくれる?」  
 ほのかに指示し、自分の性感帯をさわらせる。  
 それに応え、ほのかのしなやかな指が尿道口のあたりを探るように前後する。  
「うぅっ!」  
 甘美な刺激が背すじを駆けぬけ、僕はうめき声を上げて身を反らせた  
「ご、ごめん! ……痛かった?」。  
 ほのかが心配そうな顔で指を止める。  
「違う、気持ちいいんだ……。もっと続けてくれる?」  
「……うん」  
 自分の行為で僕が快感を得ていることが理解できたようで、ほのかの指に熱がこもった。  
 
 熱心に、そして真剣に手指を動かして僕を刺激する。  
 男のモノを初めて触るほのかの動きは、自分でするのに比べればたしかに稚拙でぎこちない。  
 だけどそれをほのかがしてくれていることに心が震えるほど感動する。  
「くっ! ……っっっ!」  
 歯を食いしばって耐えるが、僕の口からは自然に苦悶に似た快楽のうめきが洩れる。  
 今はそれが苦痛によるものではないことを知ったほのかは、ますます手の動きを強める。  
 
「ほのかっ! あぁっっ!」  
 性の愉悦に随喜の声があがる。  
 僕の狂乱ぶりに意を強くしたのか、ほのかが  
「もっと感じて……」  
 そう言って股間に顔を寄せ、そのまま勃起を口に含んだ。  
 
 ほのかがフェラチオしてくれている!  
 一気に興奮が高まる。  
 しかしほのかは口に咥えただけで動かない。  
 処女のほのかには全部を口に含んでストロークするのは苦しいのだろう。  
 やがてほのかは亀頭を口に含んだまま舌を絡ませた。それが信じられないほど気持ちいい。  
 
 さらなる快感を求めた僕はほのかに指示を出した。  
「あぁっ、すごくいい。……裏側の段になってるところがとくに感じるんだ」  
 ほのかが僕の言うとおりに舌をうごめかす。舌だけではなく、茎にも手が添えられる。  
 
 柔らかな手に握られ性感が増す。ほのかはソフトクリームを舐めるようにモノに舌を這わせる。  
「そのまま口を上下に動かしてくれる?」  
 柔らかくて温かい唇が勃起にまとわりつく。  
「これでいいの?」  
 淫らな顔のほのかが僕を見上げた。  
「うん、そのまま袋も揉んで」  
 ほのかの柔らかい指が僕の袋を揉む。精液をしぼり出すような揉み方だ。  
 すでに限界近くまで高まっていた僕がそれら一連の口撃に耐えられるわけもなかった。  
「あぁっ! イクっっっ!!」  
 
どくっ!  
 溜まっていた欲望が吐き出された。  
「むぐっ!」  
 最初のほとばしりをのどの奥に受け、ほのかが思わず口を離す。  
「けほっけほっ……」  
 咳込むほのかに容赦なく精液が発射される。  
びゅびゅっ! どぴゅっ!……  
 続く二撃、三撃はそのまま顔に。  
「んっ!」  
 いきなり起こった出来事に驚いたほのかは、すくんでしまったのかとっさには動けない。  
ずびゅっ! びゅっ!……  
 そこに何発もの白濁が降りかかる。……ほのかの顔を汚して僕は最後の一滴まで出し尽くした。  
 
 僕はすべてを解き放った満足感と快感に力尽き、ベッドに力なく身を横たえた。  
「はぁはぁはぁ……」  
 荒い息をつく。  
 一方のほのかは何が起きたのか理解できないようで、呆然とした顔で固まっている。  
 顔を伝い、あごからしたたり、胸のあたりやスカートにしみを作る粘液にまみれるほのか。  
 
 と、我に返り  
「ひっ!」  
 息を飲む。  
「ご、ごめんっ!」  
 急いでサイドテーブルからティッシュを取り出しほのかの顔を拭う。  
「けほっけほっ……ごめんなさい。突然だから…けほっ……びっくりしちゃった」  
 ほのかはそう言うと、僕からティッシュを受け取って口元や顔を拭く。  
 そして  
「けほっ……ちょっと…飲んじゃった……。けほん」  
 口元を押さえて言った。  
 
「ご、ごめん……出す前にちゃんと言わないといけなかったよね」  
 狼狽して答える。  
「平気…心配しないで。こほっ……でもヘンな味……。男の子がイクって……こういうことなのね」  
 実感した様子でほのかが言った。  
 
「ほんとにごめんね。あんまり気持ちよくて…我慢できなかった……」  
 もう一度謝る。  
「ぴゅっ、ぴゅっ、って出るのね……けほっ……私、おしっこみたいに出るんだと思ってた……」  
 咳込みはするものの、怒っていないのかほのかは別の話題で答えた。  
「う、うん。何度かに分けて出るんだ」  
「知らなかったわ……けほん」  
「ごめん、顔、洗わなくて平気? うがいは?」  
 気持ち悪くないかな? そう思って聞く。  
「うん。拭いたから大丈夫よ」  
「ほのか……」  
「あ…射精すると小さくなるの?」  
 ほのかが萎えた一物を見ながら言う。  
「う、うん」  
「そうなんだ……」  
 これも知らなかった。そう言いたげにほのかが言った。  
 そして萎えた肉棒にそっと手を添えた。  
 
 若い性欲は終わりを知らない。  
 一度出したぐらいでは僕の欲望は昇華しきれていなかった。  
「ほのか……もっとしてほしい……」  
 性の衝動が僕にそれを言わせた。  
「……うん」  
 ほのかはかすかにうなずくと、萎えた肉棒をなでまわした。  
 先ほどまで粘り気のある白濁をからみつかせていた指が僕のペニスをしごく。  
 亀頭に軟体動物が這いまわるような甘美な余韻を味わいながら、僕は再び勃起させていった。  
 
 
       おわり  
 

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