今日も両親は留守だった。そんなのは今に始まったことじゃない。  
 私は一人で夕食を済ませ、入浴し、ベッドに横になって目を閉じた。  
 
 目が冴えて眠れない。疲れているはずなのに、気が張っているのかちっとも眠くならない。  
 私は引出しの奥から何度となく手に取った物を取り出した。  
 ピンクローター。私のことを誰も知らない遠くの町で買い求めた。  
 
 子供のころから一人でいることの多かった私はさまざまな時間の潰し方を覚えた。  
 読書もそうだし、星を見ること、地図で架空の旅をすること……オナニーもその一つだった。  
(キミに会いたいよ)  
 心にもやもやしたものが広がる。  
 
 私は振り払うようにため息をついた。そしてキュロットを脱ぐ。  
 淡いグリーンのショーツの上からそっとローターを当てる。  
ヴ、ヴヴヴ……  
 かすかな振動がクリトリスに伝わる。  
 私は押し当てる力を調節し、衝撃が急には伝わらないようにしてクリの周りを丹念になぞった。  
「あっ…ああ……あぁ!」  
 
 声を出すほうが感じやすいと知ったのはいつだったろう?  
 空いている手の指を軽く噛む。そうして声の出るのを防ぐ。  
「んんっ! んっ、んっ!」  
 声を出さないように注意しながら、私はその行為に没頭していった。  
 
 陰核のあたりから響いてくる鈍い振動が正確に私の性感帯を刺激していた。  
ビィィィィィィン  
 ローターを押し付けるたびにその振動は強くなる。  
 外側からの刺激に反応し、膣中からはこんこんとえっちな液体が湧いてきていた。  
 男性器を受け入れやすくするための粘液。愛する男性と結ばれるための潤滑油。  
 下着を汚し、シーツをも濡らす愛液。……私はイヤラシイ。  
 
 これだけ濡れていれば、指はおろか男が女と交わるときの状態のものでも収められるだろう。  
 しかし私はクリに押し当てるだけで、膣には指もローターも挿入したことがなかった。  
(私の中に初めて入るのは……キミだからね)  
 中1の夏に会っただけなのに、私に鮮烈な印象を残していった彼。  
 高校生になって再会した。でも東京と広島は遠すぎた。  
 だけどあと2ヶ月ちょっとで卒業だ。卒業したら私は東京に行く。そして彼と……。  
 その日まで、たとえ自分の指といえども中には入れたくなかった。  
 それはオナニーを覚えた今でも守ってきた自分との約束だった。  
 
ヴィゥ…ヴィゥ……  
 凶悪な振動が私を現実に引き戻した。  
「うっ…かはっ……ああぅっ!」  
 息が詰まるほどの快感に思わず大きな声が出る。  
 誰かに聞かれたら……そんな恐怖すら心地いい。  
「あっ…あぐ……」  
 声にならない声を上げて私は悶えた。  
 左手でブラウスの上から胸を揉む。  
「んっ! んふっ……」  
 唇を噛んで声を押さえる。  
 それでもローターの振動に快感が引き出されるのをごまかすことはできなかった。  
「うっ…はぁっ、はぁっ……くぅぅぅっ!」  
 達するのは近い。私はそう確信した。  
 
「あっ、あっ、あああーっ! あっ、イクっ! イッちゃう! あああーッ……あっ!」  
 体をしならせ、のどを反らせ、きつく目をつぶって腰の奥のほうが爆発するような衝撃を受け止める。  
ビクゥ! ビクッ! ビクンビクンビクンッ…ビクンッ!  
 それは突然起こった。  
 体が痙攣する。息ができない。酸素が足りない。頭の中に閃光がきらめく………。  
 目の前が真っ白になるような時間のあと、私はゆっくりとベッドに崩れ落ちた。  
 
「はぁはぁはぁ……」  
 息が整わない。  
(あ…下着、替えなくちゃ……)  
 一瞬そんなことを考え身を起こしかけたが、私はまた体を横たえた。  
 
 後始末を終えて私はベッドに横になった。  
 行為後の気だるい感覚と同時にちょっとした自己嫌悪。またオナニーしてしまった……。  
 いつまでもこんなことをしていてはダメになる。……そうだ、旅に出よう。  
 旅をすれば気分転換になるし、新しい自分を見つけることもできる。  
 私は旅支度を整えると夜の街に出た。  
 
 こんな時間に移動するとなるとヒッチハイクしかない。私は乗せてくれる車を探そうと国道に出た。  
 高校生はもう子供じゃない。体つきだって女らしくなっている。危険がないわけじゃあない。  
 だけど最低限の心がけとして髪は短くしているし、服装も中性的なものを選んでいる。  
 どちらかといえばキーの低い声は男の子として通用する。  
 そうして私は身を守ってきた。これまではそれで大丈夫だった。  
 ……でもそれは甘かった。  
 
 国道沿いの大きなドライブインには長距離のトラックが何台も停まっていた。  
 ナンバープレートを見て目的地に向かいそうな車を探す。  
 目星をつけた一台の前でしばらく待っていると運転手が戻ってきた。  
「よかったら大阪まで乗せてもらえませんか?」  
 20代後半か30代前半、線の細そうな感じの男の人だったが、  
「いいよ」  
 私に一瞥をくれただけで、細かい詮索はなしで助手席の荷物をどけてくれた。  
 
 トラックは高速に乗らず、国道をひたすら東進した。  
 その間、チラチラと視線を送ってくるもののむこうから話し掛けてくるようなことはなかった。  
 こちらもとくに話題があるわけではないので黙っていた。それはいつものことだった。  
 
 岡山に入ってから車は山道に入っていった。そのままどんどん山奥に向かっていく。  
 ……変だ、こっちに行くってことは日本海側まで行くつもりか?  
 時計を見る。午前1時。  
 緊張が走った。  
「心配かい? 配送センターに寄るだけだから安心しなよ」  
 私の心を見透かしたかのように運転手が言った。  
「そうですか」  
 出発してから初めて運転手の声を聞いた。それでも幾分心が和らぐのを感じていた。  
 
キキーッ  
 峠で車が停まった。  
 その一帯は少しだけ開けた感じで、昼間だったら見晴らしが良さそうなところだ。  
 だけどこんな時間、誰もいないしトラックのライト以外の明かりはない。……そのライトも消された。  
「どうかしたんですか?」  
 運転手に顔を向けた瞬間、  
どすんっ!  
 お腹に衝撃を受けた。  
「がはっ!」  
 前のめりになる。続けて胸倉をつかまれ引き寄せられると、二度三度と頬を張られた。  
 
 男の乱暴がやむ。そして私の顔を射すくめるように見て  
「お前、女だろ」  
 冷たい口調で言った。  
 私はそれに答えなかった。  
「ここで降りるか?」  
 男が再び口を開いた。  
 岡山と鳥取の県境に近いと思うけど確信は持てない。ここがどこだかわからない。  
 それにこの季節、こんなところに一人で放り出されたら朝までに凍死するかもしれない。  
 黙ってしまった私に男が言った。  
「口でしてもらおうかな」  
 
 噛み付いてでも一矢報いてやる!  
 そう思った。  
 従順な素振りを見せようと何度も私はうなずく。そしてその機会をうかがった。  
 
カチャカチャ……  
 ベルトの外れる金属質の音がする。  
 運転席のあたりをグリーンに照らすパネルライト以外の明かりがないのが救いだった。  
(この男の醜いものを見なくてすむ)  
 それでも私は窓の外に目を向け、男のほうを見ないようにしていた。  
 
「おい」  
 声がしたと同時に男が私のあごに手をかけ、強い力で口をこじ開けるようにする。そして  
「歯なんか立てやがったら……殺すからな」  
 低いトーンで言う声に不気味さが増す。……この男、本気だ……。  
(ダメだ……逆らったらホントに殺されるかもしれない……)  
 私は力なくうなずくのが精一杯だった。  
 
ぐぐっ!  
 頭を押し下げられると同時に、口の中に突然、生温かく、異臭を放つものが押し込まれた。  
「ぐへっ」  
 のどの奥に突っ込まれ、反射的にえずく。口の中が熱い肉の塊に満たされ、呼吸ができない。  
 なんとか空間を確保しようと舌を使う。必然的に男のモノを舐めまわすことになる。  
「あぁぁ! お前うまいなぁ……」  
 男の声がする。  
 そして腰を前後したのか、モノは私の口の中を縦横に動き回る。  
 上あごや頬の内側を突かれ、舌に押し当てられる。  
「あっ! がはっ……」  
 私は涙を流しながらそれに耐えていた。  
 
 こんなことは早く終わりにしたかった。私は知識を総動員して男を射精させようと努力した。  
 舌を絡ませ、割れ目に舌先をねじ込み、先端のふくらみを強く吸う。  
「おおぅっ! うっ! んむっ…くぁっ!」  
 男は動物的なうなり声をあげて私の口を犯しつづけた。  
(キミも男だよね? アノ時はこんな声を出すのかい?)  
 頭の片隅でそんなことを思った。  
 
「あぁっ! イクぞっ! イクぞぉっ!」  
 男が叫んだ。  
 その次の瞬間、  
どくっ! どくんっ! どぷっ!………  
 口の中に熱いものがまき散らされた。  
 
 のどの奥に叩きつけられた灼熱の液体に思わず息を詰まらせる。  
「ぐほっ!」  
 とっさに顔を反らし、ソレから離れようとした。  
 だけど頭を押さえつけられ、身動きが取れない私の口にさらに生臭い液体が射ち出される。  
びゅびゅっ! ずぴゅっ!……  
「吐き出すんじゃねぇぞ」  
 男の声が頭上で響く。  
 嫌悪、屈辱、反感、恥辱、劣等感、後悔、不快、惨めさ………いろんな言葉が頭の中で渦巻く。  
 口の中は男が放出したドロッとした粘液で満たされている。  
 だけど吐き出そうにも頭を押さえられ、それはできない。  
 そんな私に男がさらに追い討ちをかけた。  
「飲めよ」  
「!」  
 これ以上のことをさせようというのか……。目の前が真っ暗になった。  
 
パシンッ!  
 頭を打たれる。  
「早くしろっつってんだよ!」  
 いらだった感じの男の声。  
 私はできるだけ何も考えないようにし、唾液で薄めた粘液を少しずつのどの奥に送り込んだ。  
こくん  
 のどをドロリとした液体が通過していく。最低最悪の感触。  
こく、こく……  
 嘔吐しそうな感覚を必死に抑え、口の中に溜まった液体をなんとか飲み下す。  
 
 私が全部を胃に収めたのを確認して、男が力をゆるめた。  
ぷはぁ! ぜぃぜぃ……  
 深呼吸する。呼吸のたびにむせ返るような精液の匂いが鼻についた。  
 それでも呼吸しないわけにはいかない。  
 私は悔しさに涙を流しながら大きく息をついていた。  
(でもこれで終わりだ。男は一度出したらそれで満足だって聞いたことがある)  
 ぼんやりとした思考でそんなことを思いながら男を敵意を込めた目で見る。  
「! ……そ、そんな」  
 
 私の唾液で光りながら、今また硬度を取り戻しつつあるペニスが目の前にあった。  
 威圧するように、ビクビクと脈打ちながら少しずつ大きくなっていくペニス。  
「横になって足を開け!」  
 私の望みを打ち砕く言葉が男から発せられた。そして座席の後ろのベッドをあごでしゃくる。  
 抵抗しても無意味なのはさっきのことで明らかだった……。  
 
 私は横たわると言われるままに足を開いた。  
(ごめんね……初めてはキミにあげたかったけど……もう無理だ)  
 そんな私の思いをかき消すように、男がのしかかってきた……。  
 
 
おわり  
 

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