「晶、誕生日おめでとう!」  
 
カチン  
 ワインのグラスが合わさる澄んだ音が小さく鳴る。  
「ありがとう。とってもうれしいわ」  
 シックなドレスに身を包み、ほんのりと頬を上気させた晶が僕に微笑む。  
 
 晶の誕生日を一緒に過ごすようになって3年。今日で晶は21歳だ。  
 親の仕事の都合で日本各地を転々としていた僕がはじめて晶に会ったのは中1のときだった。  
 すぐにまた転校していった僕を、晶はずっと想い続けていてくれた。  
 高校3年で再会。運命なんて信じない僕も、さすがに二人の絆は信じた。  
 ……だって僕も晶のことをずっと忘れられなかったから……。  
 
 手紙や電話で愛を温めあってきた僕たちは卒業を期に同じ街で暮らすようになった。  
 晶の19歳の誕生日から、毎年こうして一緒に過ごしている。  
 
 僕が再会したとき、すでに晶のバイオリンは音楽界でちょっとは知られた存在だった。  
 海外への留学や各地でのコンサートなど、晶は芸能人並みのスケジュールで動いていた。  
 それでも晶は誕生日を僕と過ごしてくれた。  
 ご両親や親しい友達、お世話になった先生や業界関係者の誘いも断り、僕のためだけに時間を作ってくれる晶。  
 ……僕が晶にできることって何があるんだろう?  
 そんな僕の疑問に晶が言った。  
「何も要らないわ。……ただ私と一緒にいてくれるだけでいいの」  
 
 今年の晶の誕生日は日曜日だった。僕はちょっと張り込んでホテルのディナーを予約した。  
 食事を終え、夜景の美しいラウンジに移ってお酒を飲みながら晶との会話を楽しむ。  
 ……何度も視線が交差しあう。  
 晶は甘えたように僕に身を預ける。僕も晶の肩を抱き、ぬくもりを確かめる。  
「部屋取ってあるんだ。……いい?」  
 目元を染め、晶が小さくうなずいた。  
 
 晶とはじめて結ばれたのは1年ちょっと前。晶があと数ヶ月で20歳になる時だった。  
 あれから何度か体を重ねた。  
 もっとも、それだけの時間を過ごしながら、僕たちが実際に一つになったのは数えるほどだった。  
 忙しいのはわかっている。僕はそれを受け入れていた。  
 
 部屋に入ると、晶は  
「シャワー使うわね」  
 そう言ってバスルームに向かった。  
 これまで晶と一緒にシャワーを浴びたことはなかった。  
 晶が恥ずかしがり、頑としてそれを許さなかったからだ。  
(ベッドの上ではもっと恥ずかしい姿見てるんだけどなぁ……)  
 僕は冷蔵庫からミネラルウォーターを出すと、晶が出てくるのを待った。  
 
 バスタオルを巻いた晶が出てきた。  
「じゃあ僕もシャワー浴びてくるね」  
 そう告げて浴室に向かう。  
 手早く体を洗い、部屋に戻ると晶はすでにベッドにもぐりこんでいた。  
「晶」  
 声をかけ、隣りにすべりこむ。  
 それに合わせて晶が僕のほうを向く。抱き合う。……そっと口づけた。  
 照明は消え、ベッドサイドに小さな明かりが灯るだけの部屋。  
 暖色系の明かりが安らぎを与える空間で、僕はだんだん淫らな気持ちになっていくのを感じていた。  
 
 静かな口づけだった。  
 二人の唇はなめらかに合わさり、そのまま動かない。  
 ゆっくりとした時間が流れていく。僕たちはそれに満足していた。  
 
 晶がかすかに唇を開き、ほんの少しだけ舌を差し出した。  
ちゅっ  
 僕は舌先でそっと触れると、すっと舌を戻した。  
 ……唇が離れる。  
「どうしたの?」  
 晶が目を開けて聞く。  
「どうもしないよ」  
「……そう?」  
 何か言いたげな晶。  
「ちゃんとキスしなかったのが不満?」  
 瞬間、紅潮した晶が  
「……ばか」  
 小さく言ってまた目を閉じた。  
 
 僕は指先で晶の唇に触れてみた。  
「ん……」  
 鼻を鳴らし、晶が僕の手を押さえる。  
「やっぱり変よ」  
「変じゃないよ。晶のこと、ずっと見てたいんだ」  
「……見なくていいわよ」  
 少しだけ強い調子で晶が反駁する。  
「い・や・だ」  
 僕はそう言うと毛布をまくった。  
「きゃっ!」  
 パステルイエローのショーツ一枚だけを身に着けた晶が縮こまる。  
 胸の前で腕を交差し、ひざを曲げて、僕の視線から裸身を隠そうとする晶。  
「ば、ばかっ! 何するのよ!」  
 抗議する晶に  
「僕は晶の裸、何度も見てるよ。……綺麗だよ、晶」  
 そう言って激しく口付けた。  
「ん……」  
 舌を絡ませ強く吸ううち、晶の抵抗は少しずつ弱まっていった。  
 
 晶の柔らかな唇の肌触りと、僕の体に押し付けられるふくよかな胸の感触に興奮が高まる。  
 僕は晶を抱きながら、少しずつ股間に血液が集まっていくのを意識していた。  
 それを晶の体にこすりつけるように動かす。  
「んんっ、むっ……」  
 身をよじるようにして声を上げる晶。  
 ……どう思っているかはわからないが、拒んでいる感じはない。  
 
 少しずつ唇を離す。  
 晶が吐息を洩らす。  
 かすかに潤ませた瞳で僕を見ながら  
「乱暴なんだから……」  
 小さくつぶやいた。  
 
 晶の唇を指先でなぞる。そしてそれと入れ替わるように唇を合わせた。  
 舌先で晶の唇を割り、そっと中に忍ばせる。  
 すると、それを待っていたかのように晶の舌が伸びてきた。  
 ねっとりと絡ませあい、強く吸いあって性感を高める。  
 僕は晶の舌の裏を、晶は僕の上あごをそれぞれ刺激した。  
 頭の芯がしびれるような強烈な快感に鼓動が激しくなる。  
 唾液を交換する。歯列を舐めあう。唇を軽く噛んで肉欲をあおる。  
 キスだけで達してしまいそうな陶酔に僕たちは心を奪われていた。  
 
 つんと上を向いた形のいい乳房に手を伸ばす。  
 キスだけでだいぶ性感が高まっていたのか、晶の薄紅色の突起はすでに固くしこっていた。  
 指先で乳首を転がす。指を立てて先端を揉むように加圧する。手のひらで乳首を押し込む。  
 それと同時にもう片方の乳首を口に含み、吸い、唇でしごき、舌先で舐めまわす。  
「ふんっ…んんっ!」  
 声を立てずに晶が悶える。声を出すのを我慢しているようだ。  
 その態度に僕の中の獣性が猛った。  
 
ちゅぱ…んむっ、ちゅっ……むちゅ……  
 執拗に乳首を攻める。  
 一転して乳房のふもとをじわじわと攻め、触れるか触れないかの強さで頂上までなぞりあげる。  
 乳輪に爪を立てるように軽く引っかき、乳首を優しくつまんでねじりあげる。  
 触れたり離したりのバランスに気をつけ、乳房全体を何度もなぶった。  
「くん…んふぅ……あっ! んんっ……」  
 晶の声が少しずつ艶を帯びていった。  
 
 手をすべらせ、引き締まった腹部から腰に移すとショーツの縁をなぞって太ももに移動する。  
 太ももに指を這わせ、晶の情欲を誘うように刺激する。  
「ね……いじわるしないでよ」  
 晶がそう言って腰を押し付けてきた。  
「さわってほしいの?」  
 耳元でささやく。  
こくん  
 恥ずかしそうに晶が首を振った。  
 
 ショーツにゆっくりと手を入れる。  
 そしてきれいに整った淡い恥毛の中に指を侵入させると秘裂を左右にひろげた。  
「あんっ……」  
 僕の指が到達した瞬間、晶は小さな声とともにわずかに腰を浮かせた。  
 指の腹を使って全体を揉みほぐしてから、肉ひだの合わせ目を指先でいじくる  
くちゅ……  
 濡れた音が響く。いやいやをするように晶が首を振る。呼吸が気ぜわしくなる。  
 続けて僕は淫靡な液体をたたえ始めた膣孔のまわりをグルグルと指先でなでた。  
 その粘液を指に絡め、股間の小さな蕾をそっと弾いてみた。  
「ひゃんっ!」  
 晶の体が跳ね上がった。  
 
「晶……」  
 名前を呼んで体を押さえつけるようにのしかかると、そっと肉穴に指を挿し入れた。  
「ひぁ!」  
 一瞬ビクンと体を痙攣させ、晶が僕にしがみつく。  
 僕は静かに指を出し入れし、全体をゆっくりと揉みほぐした。  
 
 内部からヌルヌルとした淫液があふれ、指先を濡らす。  
 僕はショーツを脱がせると晶の恥ずかしい部分に目をやった。  
 ほの暗い照明の中でも、晶のぷっくりとした陰唇が目に映えた。  
 
 鮮紅色に充血した粘膜が僕の性欲をかき立てる。  
「行くよ…晶……」  
 晶が僕を見てうなずく。  
くちゅ……  
 小さな水音を立てて僕の先端と晶の肉ひだが合わさった。  
「くすっ」  
 僕はかすかに笑いかけると、晶の目を見ながらゆっくりと肉茎を沈めていった。  
 
「あぁぁっ!」  
 晶がのけぞる。  
 狭い肉穴がこわばりを呑み込む際の摩擦が大きな快楽となって晶に襲いかかる。  
「動くよ」  
 そう言ってゆっくりと前後させる。  
 
 出し入れするたびに、剛直が半透明の液体に濡れて光る。  
 今にも垂れそうなほど豊富に液体をたたえた結合部が僕を興奮させた。  
 
「晶!」  
 夢中で腰を振った。  
 いたわりとか気遣いの感情は消え失せていた。  
 ただただ射精することだけを考えたオスの本能だけが僕の体を動かしていた。  
「んんっ!」  
 それでも晶はよがり声を上げる。  
(感じている!)  
 僕はさらに大きく腰を使った。  
 
 晶も腰を前後させる。僕の抽迭と同調した動きで二人で腰をぶつけ合う。  
 僕が肉棒を押し込むと晶も腰を突き出し、引き抜くと腰を引く。  
 それが目もくらむ快感となって二人を包み込んだ。  
 
「あっ、はっ…んんっ! くぅ…あんっ、んんっっ!」  
 次第に晶の上げる声の間隔が短くなり、大きさも強まる。  
 腰の動きも積極性を増し、それが僕に大きな快感を与えた。  
 中の締め付けも奥まで差し入れたときに最も激しくなり、僕にもだんだん限界が近付いてくる。  
 
「晶……イキそうだよ……」  
「私も…私もイッちゃう! うんんんっっっ!」  
 苦しげな息で晶が言い、絶叫した。  
(ダメだ! 出るっ!)  
 直前で引き抜く。  
「っっっ!!」  
びしゅっ! びゅびゅっ! どぴゅっ! ずぴゅっ!………  
 晶の白い裸身めがけて精液がほとばしった。  
 
 たっぷりと精液を射ち出し、僕はようやく落ち着きを取り戻していた。  
「いっぱい出たわ」  
 大きく息をついて晶が言う。  
「……うん」  
「ずっと……我慢してたの?」  
「いいだろ、そんなこと」  
 実際、この日のために禁欲していた。だけどそれを知られるのは照れくさかった。  
 
 晶は自分の裸身を彩った白濁を指にからめると  
「膣中には出してくれないのね……」  
 不満の色をにじませて言った。  
 晶は僕一人のものじゃない。大げさな言い方だけど、日本音楽界の宝だ。  
「だって……妊娠したらまずいだろ?」  
 そう思って言う。  
「あなた一人だけのものになってもいいわよ」  
「え? えっえっ?」  
 いま晶は何を言った? 今のはどういう意味だ?  
「晶……それって……」  
 僕の問いかけに、晶は笑って何も答えなかった。  
 
 
               おわり  
 

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