「あっ、夏穂っ!」
「あ、あれっ?
何や、大阪来るんなら、連絡してくれればいいのに。」
「ごめんごめん。でも、こうして会えたんだから、いいじゃないか。」
「それもそうやな。で、今日はどうする?」
「う〜ん」
「そうや! ひさしぶりに、おたふくでお好み焼き食べへん?」
「あ、それいいね。ちょうど夏穂のお好み焼きが食べたいと思っていたところなんだ。」
「ずいぶん調子がええなあ。じゃあ、いこか。」
「うん!」
僕は夏穂に連れられておたふくヘ向かっていった。
「ただいまー」
夏穂が店の奥に呼びかけるが、返事は返ってこなかった。
「あれ、おばさんは?」
「どっか出かけたようやな。」
「店をほっぽり出して? ちょっと無用心なんじゃ・・・」
「ま、その方がわたしらには都合ええやんか。深く考えんとき。」
おたふくには、お客さんはもちろん、夏穂のおばさんもいなかった。
「すぐ作ったるさかい、そこ座って待っとき。」
いいにおいとともに、おいしそうなお好み焼きが運ばれてきた。
ジュージューと音がしている。
「まだ熱いから、気いつけて食べや」
「あ、おいしい! 本当に、夏穂の作ってくれるお好み焼きはおいしいなあ」
「そやろ? 誉めてもらえると、わたしも作ったかいがあったってもんや。
まだまだいっぱいあるから、ぎょうさん食べてや。」
ぼくは夏穂の作ってくれたお好み焼きをパクパクと食べていた。
夏穂の作ってくれたお好み焼きを食べてるうちに、ぼくはちょっと不思議なことに気が付いた。
(この肉・・・ 牛肉でも豚肉でもない・・・ 何の肉だろう?)
「ねえ夏穂、この肉、牛肉でも豚肉でもないみたいだけど、何の肉?」
「知りたい?」
嘉穂の声色が変る。
「え、そ、そりゃあ、知りたいけど・・・」
「ほんま、知りたい?」
「い、いや、知らなくても、いいかも」
「今教えたるわ!」
夏穂はさっきまでとは全く違う冷たい声で言い放つと、カウンターの影からサッカーボールのようなものを持ってきて、僕の目の前にドスンと放り出した。
夏穂が持ってきたモノを一目見ると、僕の頭から血液が一気に抜けていくような気がした。
「真、真奈美・・・」
「そうや! ○田さんやないでえ!
おっと、いくら大阪でもここまで不謹慎なことはめったに言われへんからな、
人生の終わりに夏穂タンのスペシャルジョークが聞けてよかったのお。」
「な、なぜ・・・」
「最近、あんたが日曜日にふらっと現れるから変だ変だと思ってたんや。
調べるのは苦労したでえ。土曜日に高松でデートしとったとはな。」
「か、夏穂、それにはっ」
「いまさら言い訳しても遅いわ!
昨日も、あたしがくっついてるのも気付かんと、二人してベタベタイチャイチャ、よくもたっぷりと見せつけてくれたのお。
何べん、飛び出してって首絞めたろかと思ったことか。
あたしと日曜日にデートしてたのは高松の本命のついでやったんやな!」
「夏穂、僕の話も聞いてくれっ!」
「この上何を聞くことがあるんや。あたしの性格は知ってるやろ、惚れた男の浮気を許すかどうか。
まして、ここまで思いっきりコケにしくさって! 覚悟はできとるんやろな!」
「じゃ、じゃあ、この肉は・・・」
「あんたの想像通りや! ガリガリにやせとったんで、使えるところが少なくて難渋したがな。」
「ウ、ウゲーーー」
僕は必死に胃の中のものを吐き出そうとしたが、夏穂は僕の口をふさいで出かかったものを口の中に押し込んできた。
「こらっ、せっかくつくってやったもん、吐いたらあかんやろう。」
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
吐きかけたものを無理やりおし戻され、僕は思わずむせていた。
僕は嘉穂の手を振りほどき、必死に逃げ出そうとしたが、なぜか足が思うように動かず、その場に倒れこんでしまった。
「このお好み焼きにはクスリも入れてあったんや! そろそろ効いて来たようやのお」
助けてくれと叫ぼうとしたが、もう口も思うように動かなかった。
「へへへ、あんたはそう簡単に楽にはさせたらへんでえ。
あたしをここまでコケにしてくれたんやからのお。
最初は目を潰すか? それともペンチで歯を抜いたろか? 爪はがしたろか?」
体の自由を失った僕の耳に、憎しみと狂気に満ちた夏穂の声がやけに明晰に聞こえてきた・・・