気にすまいと思っても、どうしようもなく気になって、その夜ずっと、妙子はなにも手につかなかった。  
 純が誰となにをしようと、知ったことではないはずなのに。相手が知り合いの女だから気にかかってしまうのだろうか。  
 いまごろ、美咲と純は、ベッドでいちゃついて、いやらしい限りのことをしているに違いない……。  
「美咲も美咲よ。よくあんな変態、相手にできるわよ。いやらしい!」  
 心は千々に乱れて、いたたまれなかった。  
 なぜか純に対する怒りがムラムラと湧きたって、妙子は気がつくと弟の部屋に入りこんでいた。  
 怒りに駆られるがままにベッドカバーを剥ぎ、机の引き出しを片っ端から開けていく。  
「…………」  
 一番下の引き出しを開けたところで、思わず妙子の目がとまった。  
「なによ、これ!」  
 昨日、妙子の誕生パーティーで、メンバーの女たちからもらった、あのパンティだ。色とりどりの、どれもがひどく小さくエロチックな四枚のパンティ。そのひとつひとつがご丁寧にもそれぞれ別の透明なビニール袋に入れられて、しっかり封をされているのだ。  
「これって、もしかして……匂いがなくならないようにするため!?」  
 黒いTバックの入ったビニール袋には『千里』と書かれた名札がつけられ、赤いレースのパンティの袋には『あけみ』と、黒いレースのには『ひろみ』と、そして花柄のビキニのには『美咲』と書いてある。  
 妙子は開いた口がふさがらなかった。  
「本物の変態だわ!」  
 シンナー遊びのように、そのビニール袋に顔を突っこんで、それぞれの女のパンティの匂いを深呼吸しては恍惚となる。そんな純の光景が脳裏に焼きついて離れなかった。  
 
「なによ! 私のだけじゃ飽き足らないっていうの!」  
 いよいよ無性に腹が立った。引き出しを足蹴にする。  
「なんてやつ! 私のパンティ、さんざん嗅ぎまわして、オナニーしてたくせに!」  
 どうしていいかわからず、妙子は純のベッドに身を投げだした。  
「ああンッ、もういやっ!」  
 目を閉じれば、痴戯にうつつを抜かす純と美咲の卑猥な光景が、瞼の裏にありありと浮かんできてしまう。  
 純の勃起と戯れる美咲。美咲の股間に嬉々として顔を埋める変態の純。  
「なによ! なんなの!」  
 妙子は無意識のうちに片手を下腹に伸ばしていた。  
「いやらしいやつ……」  
 スカートをまくり、白いパンティの上から手のひらで女陰を擦りつける。  
「ウーンッ……」  
 怒りが欲情とない混ぜになって、妙子は駆られるように、激しく手で女陰を擦りたててしまっていた。  
「あ、ああンッ……」  
 指を折り、パンティの上から割れ目を擦る。それだけではもの足りず、割れ目のなかにパンティごと指先を突きこんでいく。  
「フンンン……」  
 もうなにもかもわからなかった。指が激しく女陰を擦りあげ、卑猥な指に翻弄されるがままに、妙子は腰をくねらせ、嗚咽をあげ、淫汁をもらしつづける。  
「あっ……あああっ……」  
 白いパンティがべっとりと濡れ、股間に楕円の濡れ染みがひろがっていく。  
 その夜、妙子は弟のベッドで全裸になり、何度となくオナニーに狂奔し、パンティを濡らしつづけた。  
 
 射しこむ朝日に、妙子はハッとして目覚めた。ムックリと起きあがって頭を振り、記憶を呼び覚ます。  
「ああっ、なんてこと……」  
 かすかな自己嫌悪を覚えながら、妙子はベッドからおりて立ちあがる。  
 触れ合った内腿がひやっと冷たく湿っていた。女陰の割れ目のなかにパンティが深々と挟まりこんでいる感触が生々しく甦る。  
「いやだ……」  
 妙子は、さも汚らわしいとでもいうように、その場でそそくさとパンティをおろしていく。脚から抜き取ったパンティを手に取り、かざして見る。  
「…………」  
 白い布地にくっきりと、割れ目の形も生々しく、乾きかけた濡れ染みがひろがっている。恥ずかしさに妙子の頬が赤く染まる。  
 そのときだった。妙子の脳裏に邪悪なアイデアがひらめいた。  
「純のやつ……」  
 妙子は、そのパンティを純の机の上に形を整えて置いた。  
「ふふふっ……」  
 妙子の顔に邪悪な笑みがひろがっていった。  
 
 純が帰ってきたのは昼少し前だった。  
 妙子は自分の部屋にこもったまま、耳をそばだてて、純の動静をうかがっていた。純の部屋のドアが開き、閉まるのを確認すると、妙子は待ちかねたように立ちあがり、急いで部屋を出た。  
 忍び足で純の部屋の前に近寄り、ドアに耳を当て、息を潜めて待った。  
 一方の純は、部屋に入るなり、机の上に置かれた白い布地が真っ先に飛びこんできた。すぐに、それとわかった。純は戸惑い、あたりを見まわさずにはいられなかった。  
 机に歩み寄って手で触れる前に、目で確認する。胸が異様に高鳴りだす。  
 お姉さん……。  
 まぎれもなく、姉の妙子がはいていたパンティだった。なぜ姉のパンティが机の上に、これ見よがしに置かれてあるのか。なにかおかしいとは思いつつも、純はとにかく手に取ってみずにはいられなかった。  
「!…………」  
 両手で間近にかざして見れば、股間の部分に黄ばみかけた濡れ染みがくっきり見えるではないか。動悸がさらに速まる。  
 お姉さん、どうして?……  
 頭を悩ますより先に、もう我慢できなかった。両手でつまんだまま、その部分を鼻先に近づけ、あてがい、鼻を鳴らして匂いを吸いこむ。  
「ウーンッ……」  
 いつになくこってりと甘い、姉のあの部分の匂いが、ツーンと鼻を刺す。  
「あーっ、なんていい匂いなんだァ」  
 純はパンティを顔に押しつけ、パンティに顔を埋めこんで、たてつづけに鼻で深呼吸する。  
 そのときだった。カチッとドアの開く音が聞こえたような気がした。  
 虚を突かれて、純はパンティに鼻を埋めたまま振りかえっていた。  
「純!」  
 取り乱し、あわててパンティを後ろ手に隠しても、もう遅かった。  
「お、お姉さん……」  
 狼狽しきって色を失った純を見て、妙子は思わず大笑いしてしまっていた。  
「なによ、そんなにうろたえちゃって。いつもやってることじゃない。焦ることないでしょ。私ね、とっくに知ってるんだから」  
「…………」  
 色を失っていた顔が赤らんでいく。  
 
「おまえが喜ぶかと思って、わざと置いといてあげたの。いいのよ。昨日ね、ちょっと汚しちゃって……そういうの、おまえは好きかと思って」  
「…………」  
 純には姉の本心がわからなかった。いや、妙子自身にさえ、自分の本心はわかっていなかったのだ。  
「もう嗅いでみたんでしょ。ねえ、どうだった? いい匂い? 気に入ってもらえたかしら?……ねえ、答えなさいよ」  
「う、うん……」  
 真っ赤になった顔をうつ向けて、純は仕方なくうなずく。  
「ふふっ、やっぱりそう……」  
 妙子は弟の前にさらに歩み寄り、顔を覗きこみ、急に厳しい口調で言葉をつづける。  
「でもさあ、よくそんなことできるわよね。美咲とさんざんしてきたばかりなんでしょ。美咲のアソコの匂い、さんざん嗅いできたばっかりなんでしょ。それで帰ったら帰ったで、今度は私のパンティ……よくもそんな図々しいことができるわよね!」  
 言っているうち、腹立たしさがつのってくる。純に対する怒りがこみあげてきてしまうのだ。わかってはいても、どうにもとめられない。  
「そんなに女のオマンコがいいの!? オマンコだったら、誰のだっていいの!?」  
 いよいよ激昂してくる妙子の罵声を、純は身を縮めて聞くしかなかった。  
「オマンコなんか、おまえが思ってるほど綺麗なものじゃないんだからね。女にしかわかんないのよ。汚いんだからね、本当は」  
 もっともっと純をいじめてやりたい……。  
 そんな衝動に、妙子は前後の見境をなくしつつあった。  
「どんなに汚いか、見せてあげるわ。来るのよ!」  
 妙子は純の手首を掴んで、引き立てるようにして部屋を出た。  
「お姉さん、ごめん。もうしないから」  
 妙子の剣幕に純は怯えている。  
「さあ、ここに入って!」  
 妙子が開けたのはトイレのドアだった。  
「な、なにするんだよ」  
 無理やりトイレに連れこまれて、純はほとんど半ベソの顔で抗議する。  
「いいから。おまえは黙って見てればいいの!」  
 言うなり妙子はミニスカートをまくりあげて、パンティをおろしはじめる。  
 
「お、お姉さん……」  
 呆っ気に取られて見つめる純の顔に、妙子は抜き取ったパンティを投げつける。  
「なによ!」  
 まるでヒステリーの発作を起こしているかのような自分が、自分で怖かった。しかし、自分でももう収拾がつかなかった。最後までいくしかなかった。  
 妙子は便器の蓋を開け、スカートを腰の上までまくりあげて、下腹部を剥きだしにしたまま便座に座る。  
「!…………」  
 妄想に熱く思い焦がれていた姉の、禁じられた、それだけによけいに神秘的で、熱く想い描かずにはいられなかった秘毛の翳りがいま、予想だにしない状況のなかで、目の前に、あられもなく晒されている。  
 純はあまりのことに動転し、狼狽をきわめる。  
「汚いんだからね、オマンコなんて……」  
 妙子の声はだんだんと勢いがなくなり、かすれてか細くなっていた。  
「オシッコもするし……見るのよ。本当に見せてあげるから……」  
「えっ!?」  
 目を丸くした純の前で、妙子は下腹を力ませる。  
「女がオシッコするところ、見せてあげる……」  
 チロッとこぼれ、ひと筋の線になって弧を描き、便器に溜まった水のなかに音を立てて落ちていく尿。  
「ほらっ」  
 妙子の顔が、太腿までが、真っ赤に染まっていた。  
「…………」  
 黒い秘毛の下から尿がひと筋に流れ落ちる光景を、純は茫然として、口を閉じられないまま見つめる。  
 息づまる沈黙のなかで、やがて尿は途切れ、とまる。  
「……お姉さん」  
 得体の知れない胸騒ぎに、純の声はうわずってしまっていた。  
「……汚いんだからね。オマ……なか、オシッコまみれになっちゃうんだから。そんな汚らしいもの、それでも好きでいられる?」  
 ひろげていた膝をきつく閉じ合わせ、真っ赤に火照った顔をうつ向けながら、妙子は切れぎれに言う。  
 
「き、汚くなんか、ないさ……お姉さんのオシッコなら、ちっとも汚くないさ」  
 それは純の、まぎれもない本心だった。  
 オシッコまみれになったお姉さんの女陰を見てみたい。啜ってみたい……。  
 純はそんな衝動まで覚えて胸がつまった。  
「だったら……だったら、キ、キス、できる?……な、舐められる?」  
「ああ」  
 純は即座に答えた。  
「嘘」  
「嘘なんかじゃないさ」  
 言うなり純は、便座に座った姉の前にひざまずくと、両手で膝を割りにかかる。  
「いやっ、よしてっ」  
 両手で便座につかまり、膝をギュッと閉じ合わせて妙子は抗う。さっきまでの大胆さが別人のようだった。  
「キスしたいんだ。舐めたいんだ。お姉さんのオシッコまみれのオマンコ!」  
 純は力まかせに妙子の膝を割り開く。  
「ああああ、いやァッ!……ほ、本当なの!?」  
 膝を開かれてしまった妙子は、純の顔を横目で見つめて聞く。  
「本当だよ」  
 純の目は真剣だった。  
「……じゃ、じゃあ……な、舐めなさいよ。す、好きなだけ、お舐めなさいよ」  
 顔をそむけて言い、水槽タンクに背を預ける妙子。後ろ手でコックをひねって便器に溜まったものを洗い流す。  
「し、知らないからね……」  
 便座の上に開かれた股間へ早くも顔を近づけてくる純に、胸が震える。  
 本気なんだ……本当に、私のものを……後始末もしていない、オシッコまみれの私のものを、舐めようとしているんだ、この純は……。  
 羞恥と不安、そして甘酸っぱい疼きに、めまいしそうになりながら、妙子は弟の口を、汚れた性器への接吻を、待つ。タンクに背を委ね、両手で便座につかまり、顔をそむけて目をつぶり、身体をこわばらせて、股間に熱い口づけを待つ。  
「あっ……」  
 純の両手が腿に触れただけで、妙子はビクッと身体を震わせ、小さな声をもらしてしまっていた。  
 
 膝をさらに押しひろげられ、近づけられた純の口から熱い吐息が下腹にかかる。濡れた恥毛がそよぐ。妙子は唇を噛みしめ、背をのけ反らして、羞恥と切なさを堪える。  
「……お姉さん」  
 上体を屈め、妙子の両腿の間に割りこませた頭をさらに横に曲げて、姉の股間を、濡れた性器を覗きこむ。  
 縮れの少ないほとんどまっすぐな繊毛から織りなされた下腹の黒い翳りは、手入れのいい芝草のようにくっきりとした輪郭を描いてこんもりと盛りあがり、割れ目を隠すように覆いながら左右に割れたぷっくりとした肉土手の上に連なり徐々に細くなって股間の下に隠れている。  
 そしてその間から薄桃色の二枚の肉片が、小さな鳥冠のような姿をのぞかせている。  
 目を凝らせば、かすかに開いた肉片がしとどに濡れそぼち、そして、そのまわりの繊毛が水滴をたたえて黒く光っているのがまぎれもなく見える。  
「汚くなんかないよ。お姉さんの……」  
 言うなり純は、思いきり舌を伸ばして肉片を舐めあげ、水滴をたたえた繊毛を口に含んでいった。  
「ああっ!」  
 尿まみれの恥ずかしい女陰に、ついに口をつけられた。弟に尿を舐められたその実感に、恥ずかしく甘酸っぱい切なさに、妙子は身震いする。  
 身震いした瞬間、尿道がジンッと疼いて、残っていたものがもれだすようなはしたない感覚に、さらに下半身が震えてしまう。  
「おいしい……おいしいよ……」  
 なぜか、そのしょっぱさがたまらなく美味に感じられて、純は尿に濡れた妙子の繊毛を駆られるように吸いたてた。頭を上下させ、唇をすぼめ、引っ張り抜いてしまいそうな勢いで吸いたて、味わう。  
「ば、馬鹿っ……」  
 妙子の両手がギュッと便座を掴んでいた。  
「本当だよ。本当においしいんだから……」  
 純は手を妙子の内腿にかけて、さらに股間を割り開くと、舌を、二枚の肉片のなかに押しこんで、濡れそぼつ秘肉を舐め啜りはじめる。  
「あっ、はあああン……」  
 舌が挿し入れられる痺れに、まだ尿が誘いだされるような危うくはしたない快感に、腰が抜けそうになってしまう。両手で便座をなおも強く掴み、背をタンクにぶち当てて、妙子は必死に耐える。  
「おいしいっ……お姉さんのオマンコ……オシッコまみれのオマンコ、おいしいよ」  
 純の舌は飽くことなく、くどいほどに、妙子の女陰のなかを舐め啜りつづける。  
 
「フンッ……フンンンン……」  
 鼻息が艶めき、身体の動きが乱れていく。便座の上で妙子の女体が妖しくもじつく。羞恥とためらいに苦悶していた表情が、艶めかしい恍惚のそれに変わっていく。  
「お姉さんの……お姉さんのオマンコ……」  
 純は大きな口を開けて姉の女陰を丸ごと口に頬張り、顔中を動かして、咀嚼するかのように噛み、舐め、吸いたてる。  
 噛むごとに、吸うごとに、女陰からジュックジュックと溢れだすのは、尿よりももっとねっとりとした甘い女の肉汁になっているのを、純ははっきりと味わい取っていた。  
 ほとんど無意識のうちだった。純は女陰にむしゃぶりついたまま、妙子の太腿を、ふくらはぎを、そのむっちりとした感触を撫でさすっているうちに、妙子の片足を持って自分の股間に擦りつけていた。  
「はあーンッ……いやァーンッ……」  
 妙子もまた、そんな弟の行為にはまるで気づかぬまま、熱烈なまでの倒錯的な口淫に、最後の縁まで追いやられていた。  
「あっ、ああっ、もっと、もっとォ……ウウ……フィーン……」  
 純の頭を太腿で挟みつけたまま痙攣し、突っ張り力んだ爪先で、そうとは知らぬままに純の股間を擦りつけていた。  
「オオーッ!」  
「フーッ……」  
 絶頂の縁から生還した妙子の潤んだ目に、下腹に顔をすりつけたまま脚を抱きかかえ、足の甲を股間に擦りつけて息を荒らげた弟の姿がかすんで見えた。  
「……ふ、純」  
 純の動きが膠着した。  
「…………」  
 なぜか、純がたまらなく愛おしく感じられた。  
「いいから、見せてごらん……勃起しちゃったんでしょ。見せなさい」  
「…………」  
 妙子の本意をはかりかね、純はためらいつつも正座したまま、腰を浮かせてジーンズとトランクスを腿のところまで押しさげる。そうしてにょっきりとそそり立った勃起を姉の前に晒しだす。  
「お、おまえってやつは……」  
 初めて見る純の隆々たる勃起に、思わず生唾を飲み、そして、そこにそっと足の裏をあてがっていった。  
 
「あっ……」  
 純が目を細める。  
「いやらしいやつ……」  
 足の裏に勃起の熱気が、純の欲情が、ありありと感じられる。妙子は足に力をこめて、そのふしだらな一物をギュッと踏みしだく。  
「あああっ!」  
 純は腰を落とし、トイレの床の上にへたりこむ。  
「出したいんでしょ。いいから出しなさい」  
 言いながら妙子は、さらに力をこめて踏みつけ、まるで空気入れのポンプを入れるように、リズミカルに踏みこみはじめる。  
「オオッ……オオオーッ……」  
 純は踏みこみつづける妙子の脚にすがりつき、生々しい太腿に頬ずりしながら、勃起を踏みしだかれる快感に我れを忘れた。  
「ああっ、いい……いい気持ちだァ、お姉さん」  
「おまえなんか、変態よ……本物の変態っ」  
 妙子はいよいよ力をこめて、純の勃起を踏みこねる。  
「あっ、あっ、あああっ……」  
 妙子の足の裏に踏みつぶされたまま、勃起は脈打ち、ドクドクッと粘汁を溢れもらし、下腹部を白く濡らしていく。  
「…………」  
 初めて見る弟の恍惚の瞬間、初めて見る射精の瞬間だった。愛おしく感じこそすれ、しかしそれを素直に表現できる妙子ではなかった。  
「……やだァ、足の裏、汚れちゃったじゃないの」  
 確かに、足の裏にべっとりついた粘液のヌルヌルした感触は、気持ちいいものではない。  
「どうにかしてよ。おまえのせいなんだからね。舐めてよ、きれいに舐め取ってよ」  
「うん、わかった」  
 驚くほど従順にうなずいて、純は妙子の足を両手に持ち、足の裏を顔に寄せ、舌を差しだして舐めはじめる。  
 
「あンッ……」  
 くすぐったさに全身がざわつくのを堪えながら、足の裏を一心不乱に舐めまわす純を、妙子は見つめる。これまで感じたことのない不思議な気分、苦しく切ない、胸がキュンと締めつけられるような感じに、戸惑いながら見つめつづける。  
「もう、いいわよ」  
 冷ややかな声で言う。  
「まだだよ。まだ汚れてるよ」  
 純は妙子の足を手放さずに、今度は足の指を一本一本、順に口に咥えていく。  
「ほら、まだこういうところに……」  
 足の指を咥えて吸い、足の指の付け根の間にまで丹念に舌を伸ばして舐めまわすのだ。いつしか恍惚の表情を浮かべながら。  
「もう、いいったら!」  
 妙子は純の顔を足蹴にして、さっと立ちあがった。腰の上までまくれあがっていたスカートをおろし、そそくさとトイレを出ていく。  
「おまえなんか、大っ嫌いよ!」  
 逃げるように廊下を駆けだしていった。  
 
おしまい  
 

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