「……ぁ…っ……ぁんっ…はぁ……はぁ…ん…っ」
妙子が少し枯れたか細い声で喘いでいる。いつも通りに結んでいた髪はいつの間にか解け、汗で白いうなじと肌に張り付いている。
部屋中に立ちこめる、汗と愛液の混じり合った「女」の匂い。ごみ箱の中や周りには、使用済みの避妊具とティッシュが無数に転がる。
妙子の手首に薄く残る跡。それは脱ぎ捨てられた妙子のブラやショーツと共に床に転がるタオルで縛り上げた印だ。その両胸や首筋には僕が点けたキスマークも残っている。
「…妙子…ッ…そろそろ…出すよ…」
僕の下で口を半開きにした妙子に向かって言う。
「……やぁ…っ……も……ダメ…ぇ……変に…なっちゃ…うよ…ぉ……」
そう拒絶の言葉を口にしつつも、妙子の膣は再び咥えた僕の肉棒を締め付ける。繰り返す行為によって、妙子のそこはかなり具合が良くなっていた。結合部からは愛液が溢れ、太腿を伝いシーツに染みを点ける。
「……うッ…!出る…ッ!」
僕は何度目かの欲望を装着したゴム内に吐き出した。
「…ふあぁぁん…っ…!」
妙子はこれまた何度目かの絶頂を迎え媚声を上げた。そして全身の力が抜け、ぐったりとなる。
明日には妙子は青森に戻ってしまう。再び離れ離れになる……その思いが僕たちが淫らな行為に耽る理由になり、薄暗くなった頃から繰り返し身体を重ね続けていた。
幾度となく力尽きて少し微睡んでは再び目覚め、互いの性を貪る。次第に交わす言葉も少なくなり、ただひたすら腕を、脚を、舌を、そして性器を絡め合っていた。
ふとカタン、と郵便受けの方から物音がした。おそらく朝刊が届いたのだろう。
気が付けば閉めきったカーテンの隙間から薄い日差しが入って来ている。……もう、最後の一日になっていた。回り続けていた扇風機の風の音が静かに響く。
「…妙子…」
僕は、腕の中で果てた愛しい人の名を呟きながら髪を撫でる。この感触とも暫らくはお別れだ。
「……あ……ぅん…」
ゆっくりと瞳を開く妙子。そして軽く唇を重ねる。
「……もう、朝なんだね」
妙子はタオルケットの裾を掴み、自らの体を隠して上半身を起こした。
「…今日には帰っちゃうんだよね」
僕は妙子の方に向き直りつつ声を掛ける。
「……そっかぁ、寂しいのぉ?」
妙子がわざとおどけた口調になる。
「当たり前だろ…離れたくないよ、妙子と」
僕は妙子の胸に顔を埋め、片手で軽く揉んだ。そのまま指で乳首を弄び始める。
「…もぉっ……ダメだぞっ…また…」
妙子の言葉の途中で僕はその先端を口に含み、舌で転がして刺激した。
「……やん…えっち…ぃ」
言葉とは裏腹に、妙子の乳首はツンと尖り硬くなる。
「妙子……」
僕はまた勃起してしまったモノに妙子の手の平を導いた。
「も…ホントにダメ……立てなくなっちゃう…」
これだけ幾度となく体を重ねたのだ、確かにそうだ。
「でも、このままじゃ治まらないよ」
…それも事実だ。
「……じゃ…抜いてあげるだけ…ね?」
妙子の手が僕を包んで優しく動き始めた。
「……あ……じゃあ、最後だから…お願いしてもいいかな…」
「こ……こう……?」
妙子は両手でその形の良い胸を持ち、反り返った僕の肉棒を挟み込んだ。そして体をぎこちなく揺する。
「あッ……気持ちいい…!」
柔らかい胸の感触に加え、上目遣いで恥ずかしそうに見つめる妙子の表情が僕の快感を一気に高めていく。自身が一段と膨張し、わなわなと震える。
「……すごい…どんどん大きくなってる…」
妙子の息遣いが徐々に艶めかしさを帯び、挟み込んだ胸で擦る動きも大胆なものになっていく。
「…はぁっ…はぁ……ね………いいよ…っ…は…早く…出して…あっ…はぁん……イクとこ……見ててあげる……」
妙子の目が僕を捉える。
妙子に、見られてる。それがやけに僕の昂揚感を煽っていた。
「…妙子……出るッ…出るよ…ッ…!…うあッ…あッ………あッ…!」
ドクッドクッドクンッ!!
次々と白濁液が射精され、辺りに飛び散った。何度も出した後だったがそれは勢い良く妙子を汚した。
「……初めて見た…あんな顔してイクんだ…」
妙子が僕のモノを舐めて綺麗にしながら言った。
「……何か…カワイイね」
「なっ……!何言ってるんだよ!」
僕の方が珍しく照れる。
「……私も……あんな顔、してるのかな……?」
「ああそうだよ……これからは、そのHな顔を思い出して一人でする事にしたよ…」
今度は僕が妙子をからかう番だ。
「…………じゃ、私もそうするね……」
妙子は小声で呟いた。振り返って見た妙子の表情にはふざけた様子は一切無かった。
――――*――――
「……じゃあ、今度は僕から会いに行くから」
「うん…待ってる」
僕は駅のホームまで妙子を見送った。新幹線のドアの所で向かい合うのは多分他のお客さんにしてみれば大迷惑だろうけど、今日だけは勘弁してもらう事にしよう。
「……夏休みの内に、一度は行けると思う」
「うん、日が決まったら連絡してよ」
こうしてる間にも別れの時が近づく。僕たちはどちらからともなく手を握り合った。身体を重ねるのとは少し違う、でも確かな繋がりを感じたかったから。
やがて、発車を告げるアナウンスが流れる。
「……じゃあね」
妙子が笑顔を見せた。
僕も微笑み返す。
僕たちの夏の熱い一週間はこうして過ぎていった…。
―夏休み篇・完―