「おはよう、パパ、ママ」  
「うん、おはよう」  
「真奈美、気分はどう?」  
「うん。今日はなんだか気分がいいの」  
「そう。よかったわね」  
 いつもの朝。いつもの朝食のテーブル。  
 パパはコーヒーを飲みながら新聞に目を通し、ママはそのそばで微笑んでいる。  
 ……いつもと変わらない、静かで平和な朝。  
 ところがテレビがそんな平和なひと時をうち破るような物騒なニュースを伝えた。  
『高松刑務所を脱走した二人組のうち一人はまだ逃亡を続けており、県警は……』  
「あらやだ、まだ捕まらないのかしら?」  
 ママがちょっとだけ表情を曇らせる。パパも  
「港や駅は検問が敷かれてるからな。逃げるとしても四国からは出られんだろう」  
 言いながら新聞から目を離し、テレビに注目する。  
 昨日の昼過ぎに起きた、刑務所から受刑者が逃げ出した事件の続報だ。  
 指名手配となり、テレビに顔写真が映し出される。  
「このあたりに隠れてるなんてことはないかしら?」  
 不安げな様子を浮かべるママ。  
「おそらくは大丈夫だとは思うが、用心に越したことはない。真奈美も気をつけるんだぞ」  
 私たちに言い聞かせるようにパパが言葉を継いだ。  
 
 朝食が終わり、パパが仕事に出かけた。家には私とママが残される。  
 パパはああ言ったけれど、私はそれほど真剣に受け止めていなかった。  
 今日は気分がいい。こんなさわやかな気持ちは何日ぶりだろう。  
 太陽はぽかぽかと暖かいし、風もすがすがしい。本当にいい気持ち。  
 体調もここのところいいみたいだし、明日は学校に行けるかもしれない。  
(そうだ、今日は鳥さんたちに挨拶に行こう)  
 私はパジャマの上にカーディガンを羽織ると部屋を出た。  
 
 家の裏手の山に登る。  
 その山林は杉原家の土地のため、パパが自然を手付かずで残してくれている。  
 私有地であり入ってくる人もいない。そう思い、すっかり安心しきっていた。  
「小鳥さん、ご機嫌いかが?」  
 見知った子たちに挨拶して回る。  
 鳥さんも私の肩に止まったり、指にくちばしを寄せてついばむように応えてくれる。  
 その子たちと戯れながら、いつしか私は山林の奥にまで足を延ばしていた。  
 
パキッ  
 枯れた枝を踏み折る乾いた音が背後で鳴った。  
「誰?」  
 振り向いた私の前に、見たことのない男の人が立っていた。  
「あの……」  
 言いかけた私は男の人の右手に大きなナイフが握られていることに気がついた。  
(そうだ。この人、さっきニュースで見た……)  
 恐怖で一瞬のうちに体がこわばってしまった。声も出せない。  
 そんな私に男の人がびっくりするような速さで近づく。  
 私は肩をつかまれ、そのまま押し倒されてしまった。  
 
 土の上に転がされる。  
 後頭部をしたたかに打ちつけたのか、意識がぼうっとなる。  
 それどころか男の人は私ののどに手を回すと強い力で締めあげてきた。  
(く、苦しい……殺される……)  
 頭の中で血管がズキズキと脈打ち、目の前が真っ赤になっていく。気管が圧迫されて息が出来ない。  
 足をばたつかせて抵抗した。こぶしを振り回した。  
 でも、それも少しずつ弱まっていく。……このまま死ぬのかな?  
 そう思ったとき、不意に首を締める力が弱められた。腕が離れる。  
「ごほっごほっ……ぜいぜい」  
 咳き込む。空気を肺いっぱいに取り入れようと大きく息を吸う。  
(助けを呼ばなければ……)  
 そう思うのに、のどが詰まって声が出せない。  
 それに私の足ではこの人から逃げきれるはずがない。  
 私は涙がにじむ目を必死にこらして男の人を見上げた。  
 
 男の人は私に近づくと、カーディガンを脱がせ、それで私を後ろ手に縛りあげた。  
 ようやく呼吸が整うころには、私の両腕はすっかり自由を奪われてしまっていた。  
「お、お願い……助けて、殺さないで……」  
 それだけを振り絞るように伝える。  
「………」  
 答えが返ってこない。ギラギラする目で、そして荒い息遣いで私を見ているだけだ。  
 私は少しでも気持ちを落ち着かせようと深呼吸した。  
 口の中がからからに乾き、つばも飲みこめない。  
 それでも何度か深呼吸することでようやく少しだけ落ち着きを取り戻していた。  
 
 男の人と見つめあう時間が過ぎていく。  
 刺激すれば何をされるか分からない。だけどこのままでは事態は好転しない。  
 どうすればいいのかを一生懸命に考える。  
 男の人が一歩近づいた。  
 そして私の胸元に両手を当てると、左右に力まかせに引っ張った。  
ブチブチブチッ  
 パジャマのボタンが弾け飛ぶ。  
「いやあぁ!」  
 かすれた声で叫んだ私の頬が  
パンッ!  
 張られた。  
「騒ぐと殺す。静かにしてれば命までは取らない。おとなしくしていればケガもさせない」  
 初めて聞いた男の人の声だった。  
 私の心に恐怖がよみがえる。がくがくとうなずくことしか出来ない。  
「よぉし、いい子だ」  
 そう言いながら、男の人は私のパジャマのズボンに手をかけた。  
(犯される……)  
 絶望が私を支配した。  
 
 下着ごとズボンが脱がされる。  
 靴下を残し、私の下半身を隠すものはもう何もない。  
「この恰好じゃあもう人は呼べないよな」  
 そう言って下卑た笑いを漏らす男の人は、続けて私のブラに手を伸ばした。  
 ボタンが弾け飛んだせいで大きくはだけられた胸元に手が突っ込まれる。  
 そのままブラが押し上げられた。  
 羞恥と狼狽と怯え……。それらが一体となって体がこわばる。  
「小さいけど形はいいんだな」  
 私はその声を顔をそむけながら聞いていた。  
 
 男の人はやにわに両手で乳房を鷲づかむと、誰にも触られたことのないふくらみを揉みはじめた。  
「い、痛いっ……」  
 慣れない感覚に快感よりも痛みが先に立つ。  
 愛する人にさわられると歓びの心地よさがもたらされるって法子や彩花が言ってた。  
 だけど快感など微塵もない。好きな人じゃないから当たり前だ。ただ痛いだけだった。  
 それでも男の人は苦痛を洩らす私の言葉を無視して胸をまさぐりつづけた。  
 
 どれほど続いたろう?  
 胸をいじることに満足したのか、それとも私の小さい胸では物足りないのか、男の人がようやく離れた。  
 これで開放される。そう思った。  
 ……それはとんでもない間違いだった。  
 男の人は私の見ている前でズボンのジッパーを下ろしていく。  
「えっ?」  
 そのとき気がついた。これからが始まりなのだと。  
 
 男の人の下半身があらわになった。  
 初めて目にする、性交の準備を整えた男性器はグロテスク以外の何者でもなかった。  
 こんなに大きいものが入るはずはない。そうも思った。  
 だけど、これからアレが私を貫く。私は血の気が引いていくのを感じていた。  
 
 むせるような異臭が男性器から漂う。  
 赤黒く、ごつごつと節くれ立った肉の塊はビクンッビクンッと震えながら天を指している。  
 血管を浮かび上がらせた茎部は醜いとしか形容できなかった。  
 大きく張った先端部ははちきれそうなほどふくらんでいる。  
 世の中の男性すべてが持つ器官だとは思いながらも、私はそれを汚らわしいと感じていた。  
 それとも、大好きな人のならいとおしく思えるのだろうか?  
 私は東京に住む「彼」のことを思い浮かべていた。  
(初めては彼にあげたかった……)  
 涙がこみあげてきた。  
 
 男の人はかがみこむと私の唇にソレを押し付けてきた。  
「い、いやっ!」  
 顔を振って逃げる。  
 強い力で頬がつかまれた。そのままこじ開けるようにして口が開かされる。  
「噛むなよ」  
 猛り立つ先端が唇を割って侵入してきた。  
「うぐぅっ!」  
 顔を離そうにも後頭部が押さえられ、男の人の下腹部に押し付けられている。  
 口いっぱいに広がるなんともいえない不快なにおいにえずく。  
 戻しそうになった私は、嘔吐だけはすまいと必死になって舌を動かして空気を取り込んだ。  
 そしてこみ上げてくるものを押さえるために何度もつばを飲み込む。  
 そんな苦行がどれほど続いたろう?  
 髪がつかまれ、だしぬけに男の人が私から離れた。  
「げほっ、げほっ……ごほっ…げほっ……」  
 口から鼻に抜ける生臭い臭気に私はたまらずに何度も咳き込んだ。  
 
 男の人は私を抱きかかえるようにすると背中に手を回した。  
 背すじをゆっくりとなでるように手がお尻のほうに向かう。  
「!」  
 嫌悪に似た感情が湧き、思わず背中が反り返った。  
 それに構わず、手は腰を経てお尻のふくらみに到達した。そこで円を描くようになで回される。  
 同時に荒い息が首筋に当たる。  
 それを感じた途端、悪寒に似た震えが全身を走った。  
 そんな反応を楽しむかのように、男の人の指が私の恥ずかしい部分に伸びてきた。  
 けれども指は内もものあたりをさまよっている。まるでなぶって楽しむかのように……。  
 
 秘部を覆うショーツも脱がされた今の私に、この男の人の手から逃げるすべはない。  
 むき出しの下半身に男の人の指が直接這いまわる。  
「お、お願いです……やめて、やめてください……」  
 無駄だとは思っても、そう言わずにはいられなかった。  
 男の人に抱きすくめられたまま、屈辱と恐怖に震える声でささやくようにそれだけを告げる。  
 それが災いしたのか、男の人の指が私のもっとも恥ずかしい部分に触れた。  
「いやぁっ!」  
 思わず体が硬直した。  
 太ももに力を入れ、それ以上の蹂躙を避けようと精一杯の努力をする。  
 だけどそれはほとんど役に立たなかったようだ。  
 閉じたももをこじ開けるようにして手が動き回る。  
 中指が恥裂のあたりを前後にさすり、親指は和毛に覆われた恥丘をなでまわす。  
「いやっ、いやですっ!」  
 太ももにさらに力をこめて男の人の手を封じ込めようとする。  
 そんな私の抵抗をものともせず、男の人は強引に肉の合わせ目を愛撫しつづける。  
「ひぁっ!」  
 クリトリスのあたりを強く押すように揉まれた私のひざから力が抜けた。  
 その一瞬の隙を突き、男の人は私の足の間にその身を移してきた。  
 
 両足をいっぱいに開かされ、恥ずかしい部分が男の人の前にさらされている。  
 私を組み敷いた男の人は片手で私の肩を押さえ、もう片方の手で自分の性器を握った。  
 そうして狙いを定めるように何度か陰唇のあたりに押し付けた。  
「いやっ、いや……」  
 最後の望みで嘆願する。  
 火傷しそうなほど熱を持った男性器が肉ひだの間で上下する。  
 と、  
ぐぐっ!  
 強い圧迫感と共に、錐で刺されたような鋭い痛みが私の股間で生じた。  
 
「んぐぐぐっ!」  
 体が二つに裂けそうな感覚に、痛いはずなのに声が出ない。  
 膣が割かれる異物感にお腹の奥がずっしりと重くなる。  
 上体をなんとか後ろに引いて痛みを軽減させようにも、肩を押さえられそれも出来ない。  
メリメリメリッ……  
 体が裂ける音が聞こえた気がした。  
「きついな……お前、処女か?」  
 男の人の声が聞こえた。でもとても返事なんかできない。  
 私の無言をどう受け取ったのか、男の人はさらに強く私をえぐり立てた。  
 
 男の人が私の中に入ってくる。  
 無限に続くかと思われる責め苦の果てに、男の人は  
「あぁ……」  
 満足げなうめき声をあげ、動きを止めた。  
 根元まで私の中に埋め込んだからだった。  
(やっと終わった……)  
 安心したのもつかの間、私の膣を満たしているペニスが前後に動き始めた。  
(そうだ……男の人が射精しないと終わらないんだ……)  
 気遣いのかけらもない荒々しい抽迭だった。  
 処女を失ったばかりの私には、それはあまりにも強烈な痛みを伴うものだった。  
 
「ああっ、ひぐっ! がはっ……ああっ」  
 痛みのあまり、言葉にならないうめきが私の口から洩れる。  
 先端が奥に当たるのか、突かれるたびにお腹の中に不快感が広がる。  
 高校3年にしては未成熟な私の体に、その衝撃は耐えがたいものがあった。  
 
 そのうち私は貫かれている部分がわずかにぬめっていることに気がついた。  
 だけど体は感じていない。  
 おそらく……処女の血。  
 そんなことは気にも止めずにいるのだろう。男の人のペースが上がった。  
「イクぞ、イクぞ……」  
 私の中で前後させながら熱に浮かされたように男の人が口走る。  
(行く? どこに?)  
 瞬間的にそんな疑問が浮かんだ。  
 けれど、男の人の恍惚とした顔を見た途端に私はその意味を理解した。  
「いやっ、いやあぁぁ! 中は、中はだめぇっ! 赤ちゃん、赤ちゃん出来ちゃうぅっ!」  
「ぐっ!」  
 必死の懇願も空しく、男の人は一声短くうなると動きを止めた。  
 同時に膣の中でペニスがひときわ大きくふくらんだ感触があった。  
 直後、男の人とつながっている部分にピクピクとした脈動が伝わる。  
(あぁっ、この人、私の中で射精してる……私の膣の中に精液が注ぎ込まれてる……)  
 絶望感が心に広がった。同時に大好きな「彼」にもう会えないことを悟る。  
 
「よかったよ」  
 射精を終えた男の人がそう言いながらすっきりとした顔で私から離れる。  
 さっきまでのギラギラした光が瞳から消えている。心なしか優しそうにも見える。  
 そして立ち上がると、すっかり力を失ったペニスをズボンにしまい、  
「悪かったな、乱暴にしちゃって」  
 そう声をかけ、手の戒めを解いてくれた。放心したまま私はそれを見、聞いていた。  
 そのとき、股間にドロリとした粘液が垂れる感触があった。  
 見ると白い汚濁が陰唇のすき間からあふれ、内ももを伝って流れ落ちていた。  
「いやあぁぁぁぁぁ!」  
 私の口から悲鳴がほとばしった。  
(こんな穢れた体の私には、もう彼と会う資格はない……)  
 叫びつづける私の心に、それだけが何度もこだましていた。  
 
 
              おわり  
 

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