「開演まであと30分ちょっとしかないじゃない! 来ない気なの?」  
 動物園のクマのように室内を歩き回りながら毒づく。  
「せっかく送ったIDカード、届いてないのかしら。……仕事が終わらないとか? まさか、事故?」  
 良くない想像がよぎり、不安になる。  
 
 今日は結婚前の最後のコンサート。  
 準備や全国を回るツアーのために、もう3ヶ月近くずっと会ってない。  
 電話では『結婚すれば一緒にいられるからいい』とは言ったけど、やっぱり逢いたい。  
 だから木村さんに無理言ってスタッフ証まで作ってもらったのに……。  
「あ〜あ……」  
 ため息をついたときだ。  
コンコン  
 ちょっと控えめなノックの音。  
(木村さん? ……違うわ、あの人ならこんなノックの仕方はしない。だとすると……)  
 でも違うかもしれない。  
 期待が裏切られたときのことを思い、努めて冷静に返事をする。  
「どうぞ」  
「晶、入るね」  
 彼の声!  
 それと同時にドアが開かれた。  
 
 とっさには言葉が出ない。彼の顔を見ているだけで胸がいっぱいになる。  
「あ、ごめん。これから着替え? 僕出てるよ」  
 まだステージ衣裳に着替えていない私を見て彼が言う。  
 あわてたような顔がなんだかおかしい。  
 それで緊張が解けたみたい。口が滑らかになる。  
「そうなんだけど……私の裸、もう何度も見てるでしょ? ここにいたっていいのよ?」  
 一瞬彼が驚いた顔をする。そしてそれは、すぐに優しい微笑みに変わる。  
「晶……」  
 名前が呼ばれる。  
「……うん」  
 なんだか恥ずかしい。  
「会いたかったよ」  
 抱きしめられた。  
「私も」  
 私もそれに応え、彼の背中に回した腕に力を込める。  
 ……見つめあい、どちらからともなく唇が重なった。  
 
 優しく、慈しむような口付け。……愛されてるって感じる。  
 精一杯の気持ちを込め、私もそれに応じる。  
 舌を甘噛みされる。頭の奥がぼうっとなるような陶酔感。腰の奥が熱くなっていく。  
じゅん……  
(あっ!)  
 奥から熱い液体がしみ出すのが感じられた。  
 濡れてる。彼に抱かれたことで体が反応している。  
 でもはしたない女だと思われたくない。冷静にならなければ……。  
(!)  
 スラックスの薄い生地越しに彼の性器が大きくなっているのが伝わった。  
 ……彼も興奮している?  
 
 唇が離れる。  
 息が荒くなる。体はすっかり彼を受け入れる準備が整ったようだ。今すぐ抱かれたい……。  
 でも私にはこのあと演奏がある。大勢の聴衆が私を待っている。そんなことは出来ない。  
「会えない時は晶のこと思ってずっとオナニーしてた……」  
(!)  
 バ、バカ! こんなときになに言ってるのよ!  
 ……でもちっとも不快じゃない。だって、私のことを思ってくれたってことでしょ?  
 それに私だって、彼のことを思って何度も……。  
「オナ……そ、そうよね、男の人なら当然よね」  
 自分の気持ちを悟られないように、彼の目を見ずに答える。  
「晶は自分でしたりしなかったの?」  
「バ、バカっ! そ、そんなこと言えるわけないでしょ……」  
 気付かれた? とっさに口ごもる。  
 顔が熱い。きっと私、いま真っ赤だ。……顔が上げられない。  
「晶」  
 名前が呼ばれた。  
 あごに手を添えられ、顔が上向けられる。  
 ……そのまま唇が合わさった。  
 
 舌と唇の愛撫に感情が昂ぶっていく。  
 体の中心が熱くなり、身も心も溶けていくようだ。  
 ……私…この人のことが、好き。  
 強く抱かれ、体重を預ける。  
 と、ためらいがちに胸に手が乗せられた。  
(!)  
 もう片方の手がスカートの裾から侵入する。  
「ちょっ、……だ、ダメよこんなところで」  
 唇を離し、小声で彼を制する。  
 いつ誰が入ってくるか分からない控え室。キスならまだしも、それ以上の行為なんてできない。  
「好きだよ晶……愛してる」  
 耳元でささやかれた。  
 うれしい。分かりきった気持ちでも、言葉にされるととっても幸せな気持ちになれる。  
 そんな言葉を聞かされたから足に力が入らなくなる。  
 それでもここで許すわけにはいかない。  
「……だって」  
 せめてもの抵抗。  
「晶……晶は僕のこと嫌い?」  
「! ……バカぁ」  
 嫌いなわけ、ないじゃない。  
 ……私の全身から力が抜けた。  
 
 手際よく彼が私を脱がせていく。  
 自分のペースで脱げないことが羞恥心をあおる。  
 もう何度も抱かれているのに、脱がされるのだけは慣れない。  
 上を脱がし終わると首筋をなぞっていた唇が肩から下に下りていく。  
 でもそのあたりで何度も往復する。……胸は取っておく気?  
 いい加減じらされた頃にようやく胸に到達した。  
「くぅん……」  
 待ち焦がれていた刺激に不覚にも声が出た。  
 それを合図にしたかのように彼は先端のつぼみを口に含んだ。  
 私のどこが感じる場所なのかを知りぬいた、いやらしい攻めが始まる。  
 ……体の奥からまた粘液がにじみ出る。  
 
「晶……」  
 切迫した声。  
 見ると彼がオスの顔になっていた。欲望にギラギラする目で見つめられる。  
 テーブルに手を付かせられる。こ、こんな屈辱的な恰好……。  
 でも逆らえない。体が素直に従ってしまう。  
 スカートがまくられ、下着が引き下ろされる。  
ぬちゃ……  
 下着と体の間で愛液が糸を引いた。  
(恥ずかしい……)  
 彼の顔を見ることが出来ない。  
「入れるよ」  
 そう声がした。そして私の返事の前に  
ぐっ!  
 ペニスがねじ込まれた。  
「んあっ!」  
 背後から貫かれた衝撃にのけぞる。  
 それでも声は出せない。唇を噛みしめて律動に耐える。  
 後ろから手が回され、胸がもまれた。  
 もう片方の手はクリトリスに置かれ、そこを丹念に転がされる。  
「はぁんっ、くぅう……」  
 気持ちいい。久し振りのセックス。ずっと抱かれるところを想像していた……。  
 
「晶ごめん……イク」  
 切迫した彼の声。  
(えっ? もう?)  
 まだ登りつめてない。もう少し、もう少しで私もイケそう……。  
 だけど、  
「……うっっ!」  
 私の後ろで彼が動きを止め、全身をこわばらせた。  
 その直後、私たちのつながっている場所にピクピクとした感触が伝わる。  
(あっ、いま彼が射精してる……私に精液、注ぎ込まれてる……)  
 彼の生命の種が、私の中に広がっていった。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ…………」  
 耳元に熱い吐息がかかる。  
 ……満足したのかな? だったらうれしいな。  
 そうだ、そういえば中で……。  
「これからバイオリン弾くのに……なんで中で出すのよぉ……ばかぁ」  
 言葉ではそう言ったけど、本当はちっともイヤじゃなかった。  
 
 上からのしかかる彼の体重を感じる。私は大きな満足に包まれてじっとしていた。  
 と、視界の端に時計が映った。  
「やだ、もうこんな時間……」  
 開演まであと10分もない。  
 ティッシュを引き抜いて性器を拭く。彼の出したものがあとからあとから垂れてくる。  
(仕方ないわ)  
 そのまま下着を着けた。  
「ば、バカぁ……キスマークなんか付けちゃってどうするのよぉ……」  
 鏡の中の私の首筋に鬱血の跡。いつ付けられたんだろう?  
「ご、ごめん……興奮してていつ付けたのか僕もよく覚えてない。……なんとかなる?」  
 おかしい。あんなにあわててる。いつもはとっても冷静なのに。  
「まぁ、いいわ。ファンデーションで何とかごまかすから」  
「そ、そうなの? そんなことできるんだ……」  
 安堵した顔。ごめんね、驚かせて。  
「そうよ、演奏するときはメイクだってしてるんだから……でもね」  
 そこまで言って急に恥ずかしくなった。  
「素顔の……本当の私を知っているのは……あなただけ」  
「あ、晶……」  
「それに……こんなことしなくたって、私はあなただけのものなんだからね……」  
 本心なのに、改めて言葉にするとなぜか恥ずかしい。  
「う、うん……ありがと……」  
「それから……そんなにキスマーク付けたいんなら、今度は見えないところにしなさいよね!」  
 
 コンサートが始まった。  
(私の一番のファンは、あなた)  
 あなたのために私はバイオリンを弾く。  
 あなたに聞いてもらうために私はバイオリンを弾く。  
 客席に座る彼を見ながら、私は心の中で何度もくり返していた。  
 
 
           おわり  
 

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