式を半月後に控え、晶のツアーもいよいよ最終日だ。  
 明日は晶の独身最後のコンサート。  
 この次からは晶は僕の苗字が本名になり、「遠藤晶」は芸名になる。  
 晶は結婚しても演奏者としての生活を続ける。それは僕の希望でもある。  
 それでもしばらくは人前で演奏することはなくなるだろう。だからこその全国ツアーだった。  
 北は北海道から南は長崎まで。およそ3ヶ月間ほぼ毎日、晶は精力的にリサイタルをこなしていた。  
 その間、電話で話すことはあっても僕たちはずっと会えずにいた。  
 最終日は東京だ。ようやく晶に会える。  
 ……ところがそう上手くはいかなかった。  
 コンサートの前日に会うはずだったけど、数日前から急に仕事が忙しくなってしまった。  
「ごめんね晶、仕事の都合でどうしてもその日はダメなんだ」  
『仕方ないわ。でも結婚すれば毎日一緒にいられるんだもの、私も我慢するわ』  
 結局いつものように電話で話せただけだった。  
 
 なんとか仕事を片付け、徹夜明けで帰宅した僕に晶から手紙が届いていた。  
 ……中に何か入っている。  
 驚いたことに、晶は僕のためにスタッフ用IDカードを用意してくれていた。  
 これで開場前に晶に会うことができる!  
 開演まであと半日。僕は仮眠を取るためベッドにもぐりこんだ。  
 
 定刻のだいぶ前にホールに着く。  
 学生時代に晶のツアーを手伝ったことがあるとはいえ、楽屋に入るのは気が引ける。  
 廊下をうろうろしていると、突然  
「よぉ、久しぶり!」  
 後ろから声をかけられた。  
「木村さん!」  
 僕がバイトしていたときに世話になった木村さんだった。  
 晶と親しくなれたのも木村さんがいたからだ。僕たちの恩人とも言える人だ。  
「まさかお前が遠藤さんと結婚することになるとはな」  
 昔と変わらない人懐っこそうな笑顔で気さくに話しかけてくれる。  
「その節はお世話になりました。式のスピーチ、楽しみにしてますね」  
「ははは、まぁ楽しみにしておけよ。それより遠藤さんだろ? 控え室はこの先だぜ」  
 そう言って木村さんはまた仕事に戻っていった。  
 
 晶の控え室。  
コンコン  
 ノックと同時に  
「どうぞ」  
 ずっと聞きたかった晶の肉声がした。  
「晶、入るね」  
 僕はドアを開けた。  
 
 半そでのサマーセーターをざっくりと身にまとった晶が僕の目の前に立っていた。  
「晶……」  
「……うん」  
 はにかんだような笑みを浮かべて晶が応える。  
 すごく久し振りの気がした。実際に会えなかった期間よりも長く感じた。  
 なんだか胸がいっぱいになった僕は晶のそばに寄ると、  
「会いたかったよ」  
 抱きしめた。  
「私も」  
 僕の背中に回した腕に力をこめ、晶も答える。  
 そのまま見つめあう。……自然に唇が重なる。情熱的なキスが続く。  
 
 晶とキスしながら、僕は痛いほど勃起しているのを意識した。  
 それはスラックスを通して晶にも伝わっているだろう。  
 性の衝動がますます高まっていく。  
 仕事が立て込んでいたせいで、ここ何日も禁欲状態が続いていたのも一因かもしれなかった。  
 恥ずかしいけど、放出の欲求で胸が苦しいほどだった。  
 
 静かに唇が離れる。  
 晶は目元をほんのりと染めている。……妖艶な美しさだった。  
 それにスラックスの下の僕の状態も察しているはずだ。  
「会えない時は晶のこと思ってずっとオナニーしてた……」  
 思わずそんなことを口走る。  
「オナ……そ、そうよね、男の人なら当然よね」  
 僕から目を逸らした晶が小さく言う。  
 何度もセックスを経験している。お互いの感じるところも熟知しているし、性のメカニズムもよくわかっている。  
「晶は自分でしたりしなかったの?」  
「バ、バカっ! そ、そんなこと言えるわけないでしょ……」  
 真っ赤になってうつむく晶。バレバレだよ……。  
 
 そんなきわどい会話を続けるうち、僕の股間はますます昂ぶっていく。  
 僕は再び晶に口づけた。  
 そうして舌と唇で晶と性感を高めあっていく。  
「ん…ちゅ、ん……あ、ぁ」  
 ふくよかな胸にも手を伸ばす。  
 もう片方の手はスカートの裾から太ももの内側を這い登らせる。  
「ちょっ、……だ、ダメよこんなところで」  
 小さな声で晶があらがう。  
「好きだよ晶……愛してる」  
 耳たぶを甘噛みしながらささやく。  
「……だって」  
 それでも晶は最後の抵抗を試みる。  
「晶……晶は僕のこと嫌い?」  
「! ……バカぁ」  
 晶の全身から力が抜けた。  
 
 サマーセーターとブラを脱がせる。  
 白いのどを反らしてあえぐ晶の首筋に唇を這わせると強く吸った。  
「くふぅ……っっ!」  
 そのまま舌でなぞるようにして鎖骨のくぼみ、肩口、上腕、わきの下と進んでいく。  
 そうしてたっぷりとじらしておいてから、ふもとから乳房を舐め上げた。  
「くぅん……」  
 切なそうに鳴く晶の声を聞きながら、僕はふくらみの頂点にある蕾を口に含む。  
 そのたびに晶は顔を左右に振りながら閉じた目を色っぽくしかめる。  
 
「晶……」  
 我慢できなくなった僕は晶の手をテーブルに付かせ、お尻を突き出させる。  
 スカートをまくってショーツを下ろし、片足から抜く。  
 ……布切れが片方の足首で丸まっている。  
 晶のそこはたっぷりと潤い、僕を受け入れる準備をとうに整えていた。  
 スラックスを下着ごとひざまで下ろし、剛直を恥裂に押し当てる。  
「入れるよ」  
 そのまま体重をかけて  
ぐっ!  
 と押した。  
「んあっ!」  
 ねじ込むように差し入れられ、のけぞるようにして晶が鳴く。  
 それでも声を出すまいと必死に耐えているようだ。  
 僕は後ろから手を回し、手のひらのくぼんだ部分で晶の乳首の先端をこするように愛撫する。  
「はぁんっ、くぅう……」  
 ゆるやかなウェーブのかかった栗色の髪を振り乱して晶が乱れる。  
 ここ何日もオナニーしていない。溜まっている。久し振りの晶の柔肌……。  
 しかもコンサートホールの楽屋でセックスしているという背徳感も僕の興奮をあおった。  
 射精感がぐんぐん高まる。  
「晶……イク……」  
 次の瞬間、  
どくんっ! びゅびゅっ! ずびゅっ!………  
 激しい快感に貫かれ、僕は晶の奥深くで何度も精を放って果てた。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ…………」  
 大きく息をついて僕はぐったりと晶に身を預ける。  
「これからバイオリン弾くのに……中で出すなんて……ばかぁ」  
 僕にのしかかられた状態でテーブルに突っ伏したまま、晶は甘えたような声で言った。  
 
「あ、時間が……」  
 時計を見た晶はティッシュで簡単に股間をぬぐっただけで下着を穿いた。  
 そうして乱れた髪を整えるために手鏡を覗く。  
 そうして首筋に付けられた小さな赤い印に気付いた。  
「ば、バカぁ……キスマークなんか付けちゃってどうするのよぉ……」  
 ちょっとだけ非難の混じった晶の声。  
 そこで僕も晶のステージ衣裳は両肩を出したものだったことを思い出す。……隠せない?  
「ご、ごめん……興奮してていつ付けたのか僕もよく覚えてない。……なんとかなる?」  
 うろたえて聞いた僕に、  
「まぁ、いいわ。ファンデーションで何とかごまかすから」  
 思ったよりも冷静に晶が返す。  
「そ、そうなの? そんなことできるんだ……」  
「そうよ、演奏するときはメイクだってしてるんだから……でもね」  
 そこで晶は一旦言葉を切ると僕を見つめた。  
「素顔の……本当の私を知っているのは……あなただけ」  
「あ、晶……」  
「それに……こんなことしなくたって、私はあなただけのものなんだからね……」  
 言いながら頬を染める。  
「う、うん……ありがと……」  
「それから……そんなにキスマーク付けたいんなら、今度は見えないところにしなさいよね!」  
 怒ったようにそう言ってから、晶は柔らかい微笑をたたえた瞳を閉じ、顔を心持ち上向けた。  
 そんな晶の肩をそっと抱くと、僕は静かに唇を重ねていった。  
 
 コンサートが始まった。  
 真剣な表情で、ときには柔らかな笑みを浮かべて本当に楽しそうに晶がバイオリンを弾く。  
 音楽的なことは僕にはよくわからないけど、すごい演奏だった。魂が震えるような音色だった。  
 叙情的な調べを奏でながら、晶が客席の僕に視線を送る。  
 僕もそれに微笑を返す。  
(今この瞬間、晶の下着は僕の精液で汚れてるんだ。そんなこと、僕しか知らない秘密だ……)  
 いつものように優雅に演奏する晶の姿を見つめながら、僕はそんなことを思っていた。  
 
 
        おわり  
 

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