「フッ、どうしたの? そんなところに突っ立ってないでキミも座ったら? すごく気持ちいいよ?」
「あ、うん……」
優に促され、僕も草の上に腰を下ろす。
「この目線になると、歩いてるときやベンチに座ってるときとは違ったものが見えてくる気がするんだ」
「ほんとだ……」
「やっぱり、こうして直接この星に触れているからかな?」
そう言いながら優が僕に微笑みかける。今日の優、なんだかとっても魅力的だ。
「ゅ……」
それを言いかけた僕を制し、
「そうだ、寝っ転がってみない? ほらっ」
言うが早いか、優は草の上に身を投げ出した。
そうして天を仰ぐ。
「こうするともっと星たちが自分に降り注いでるって気がするよ」
半月ぶりに広島を訪れた僕は、優に誘われるまま星を見に来ていた。
あと何日かするとジャコビニ流星群が降る夜空は、その予兆の彗星が一角で光っている。
「ふ〜う……今、私とキミが見つめている星たちの光は何千年、何万年も前のものなんだね」
「うん」
「そう考えるとヒトの存在ってはかないな……あっ、ごめん。こんな話、興味ないかな?」
僕が短い返事しかしなかったことを優が気にしたようだ。
「そんなことないよ。星を見ていると言葉を忘れそうなほど引き込まれるよね」
「えっ……そう、ありがとう……フッ、キミならそう答えてくれるって思ってた」
優が顔を横に向け、僕を見ながら言葉を継いだ。
「それにね、星空って見る場所によって全然違った顔を見せるんだ」
「だね。でも東京だと星があんまり見えないのが残念かな」
「私は、きっとその土地にはその土地の星空があるんだって思ってる……だから旅が好き」
半年前、僕たちは恋人になった。
そして優は
『やっと大事なものを見つけることができたから、もう旅する必要もない』。
そう言って旅をやめた。
今はお互いの住む東京と広島を行き来するのが優の旅だった。
「もちろん、行く先々では必ず夜空を見上げているよ」
もちろん優のことだから何度も途中下車はしているみたいで、かすかに微笑むとそう付け加えた。
10月に入って夜は少し肌寒くなっている。自然と僕たちは身を寄せ合って星を見ていた。
お互いの息遣いと草を揺らす風の音しか聞こえない静かな夜。
……情けない話だけど、優と二人っきりでいることを僕は必要以上に意識していた。
まわりには誰もいない。少しずつ、僕の中で性の衝動が高まっていく……。
優と結ばれたのはふた月ちょっと前のことだ。あれから何度か肌を合わせた。
最初は痛みを覚えていた優も、最近ではオンナの悦びを感じはじめている。
「優……」
抱きしめる。そうしながら発した僕の声の調子から優が察したようだ。
一瞬うなずいた優は、だけど済まなそうな顔で言う。
「えっと……アレ、持ってないよね?」
「う、うん……」
いつもは財布に入れているコンドームを、なぜか今日に限って持ってきていない。
半月前に優を抱いたときに使ってしまったまま、補充するのを忘れていたんだ。
「ごめん、今日、危ない日なんだ」
「そっか……ううん、僕こそごめん」
軽く口付けし、身を離そうとする僕の背を優が抱きとめる。
「手で……してあげようか」
「えっ? ……いいよ」
なんとなくいけない気がして辞退する。
「男の人はそういう気持ちになっちゃうと……出さないと我慢できないんだよね?」
「ま、まぁ……ね」
口ごもる。
「だから、してあげる」
言いながら、優が僕の股間に手を置いた。
ゆっくりと、形を確かめるように優が手を動かしていく。
「くっ!」
股間から立ちのぼる快感に思わずうめいてしまう。
「こんなに固くなってる……」
どことなく優の声も上ずっているように聞こえる。
優の指がファスナーにかかる。
だけど、内側からジーンズを押し上げるこわばりのせいでなかなか下ろすことができない。
「優、僕が」
そのまま下着ごと膝まで下ろした。
「じゃあ、さわるね」
わざわざ断ってから優が指を巻きつけてきた。
「んっ!」
熱を持った剛直にひんやりとした指の感覚が伝わり、僕は思わずうめいた。
「ふふっ」
そんな僕の顔をうれしそうに見ながら、優は指を動かしはじめる。
「うわっ、優……そこすごくいい!」
カリの溝に指を引っかけるようにしてしごく優の手技に随喜の声が洩れる。
残りの指が茎の中ほどから裏スジにかけて這いまわる。
空いている手は袋を優しくもみほぐし、首筋には唇が押し当てられる。
「フッ、もっと感じさせてあげるよ」
僕を見上げた優の頭が揺れ、甘い香りが立ちのぼる。
それらが僕を限界ギリギリまで興奮させた。
「だ、ダメだよそんなにしたら……そ、それより優を……」
キュロットに伸ばした手をやんわりと受け止め、
「キミはじっとしててくれていいよ。私が最後までしてあげる」
じっと瞳を覗き込むようにして優がささやいた。
「で、でも……」
「フフッ、こんなに固いよ」
言いながら優の頭が降りていく。そのまま剛直に顔を寄せる。
そして伸ばした舌先で先走りの粘液をすくい取った。
「ああっ!」
「イキそうになったら我慢しないで……そのまま出してもいいからね」
……勃起が温かく湿った空間に包まれた。
「ちゅぱっ、ちゅ…くちゅ……あむ、ん……」
股間から淫らな音が聞こえる。
フェラチオの経験はそれほど多くない。優にしてもらってることだけで興奮が高まる。
僕は夜空を見上げ、優の髪に指をからめながらどんどん絶頂が近づくのを感じていた。
「ん…んんっ……ちゅ、ぁん」
……ダメだ、イク。
「ゆ、優っ!」
優の頭に置いていた手に力が入る。
どくんっ! びゅっ! びゅびゅっ! どびゅっ!………
熱い塊が尿道を通過していく。そしてそれはすべて優の口の中に射ち出される。
「んっ! んぐっ、ぐぅ」
精液を小さな口いっぱいに受け止め、優がうめいた。
たっぷりと精を放ち、僕はようやく力を抜いた。
優はまだ口を離さない。
すっかり力を失い、柔らかくなった陰茎を口に含んだままじっとしている。
と、
こくん
嚥下の音がした。
「ゆ、優……」
「濃いのがいっぱい出たよ……自分でしてなかったの?」
唇の端についた精液を指でぬぐいながら優が顔を上げた。
「あ、うん……この前優としてから、出してなかった」
「オナニーは……しないんだ」
「優を想像で穢すのは、なんか失礼みたいな気がして」
ティッシュを差し出しながら答える。
「フッ、キミのそういうところ、好きだよ……でも、会えないときは私でしていいんだよ。だって私も……」
受け取ったティッシュで僕の陰茎を拭き清めていた優の言葉が止まった。
「優?」
「フッ、なんでもないよ」
「優、それって」
「なんでもないったらぁ」
照れたように優は横を向いた
もう一度草の上に並んで横になる。
「私、昔から星が大好きだったけど、今はもっと好きなんだ」
「うん」
「あの流星群の夜のキミとの偶然の出会いも、星たちが導いてくれたものだって私には思えるから」
どことなく遠い目をして優が続ける。
「でも、いつかそんな偶然が運命に変わる日が……来るのかな?」
「偶然なんかじゃない。僕はそう信じてる」
言い切った僕の言葉に優は驚いたように目を見張った。
「キミも……信じてくれるの?」
「もちろん。僕は優と出会うために広島に転校したんだよ。ちょっとだけ遠回りしたけどね」
優の顔が和やかにゆるむ。
「キミが……好きだよ」
「愛してる。優……」
僕たちの唇が静かに重なった。
おわり