「それじゃあ、初詣に行ってくるね」
お父さんとお母さんに声をかける。純はテレビを見ながらコタツでみかんを食べている。
「着物なんだから気をつけなさいね」
そう返すお母さんはろれつが回っていない
「もぅ〜お母さぁん! あんまり飲みすぎちゃダメだよ。……はぁ、お父さん、お母さんをお願いね」
「しょうがないなぁ……毎年お正月はこうなんだから」
近所の神社に向かいながら一人ごちる。
昨日までの雪は上がっていたけど、慣れない着物で裾さばきが難しい。
汚さないように気をつけて歩かなくちゃ。
「いつも家族全員で初詣に行こうって言ってるのに、必ずお母さんが朝から酔いつぶれちゃうんだもんねぇ」
ゆっくりできるせっかくのお正月なんだもん。仕方ないかな?
純は純で初詣よりもお正月向けのテレビ番組に関心があるみたいで、誘っても来やしない。
だから私は一人だったの。
「結局今年も一人か……うふふっ、でも、今年はそれもいっかな?」
……なんとなく頬がゆるむ。
「ホントは一人きりで神様にお願いしたいこともあるしね。あ〜あ、でも今ごろあいつ、どうしてるかな?」
大好きな『あいつ』の顔を思い浮かべた。
4年生まで一緒に暮らしたあいつとは高校3年になって再会した。それは私が手紙を出したから。
それから友達づきあいは復活したけど、私の気持ちはまだ伝えていないのよねぇ。
それに、あいつが私のことをどう思ってるのか、それもわからないし。
知りたいけど、もしもただの幼なじみとしか見ていなかったら……。
ううん、そんなことは考えちゃダメ!
不吉な思いを振り払うように首を振った。
でも、ホントにあいつ、今ごろどうしてるかなぁ?
お正月だからあいつもくつろいでるだろうなぁ。その姿を想像する。
と、お酒を飲んで楽しそうに笑っているお母さんを思い出しちゃった。
「まさか、うちのお母さんみたいに酔いつぶれてたりして」
あいつがお酒を飲んでいる姿は見たことがない。第一、私たちはまだ高校生なのよ。
「もしそうだったら許さないぞ! お酒は二十歳になってから。私たちまだ未成年なんだから」
一人で憤慨したあと、いくら怒ってもその相手がいないことに気がついて急に寂しさが増した。
「あ〜あ、お正月くらい帰ってきてくれてもいいのに。私の晴れ着姿、見てほしいなぁ」
子供の頃から親しんだ地元の小さなお社は、お正月の参拝客でそれなりの賑わいがあった。
神聖な場所ということもあって、気持ちが引き締まるのを感じるな。
「えぇとぉ……まずは、安達酒店を代表して、商売繁盛をお願いしてっと」
お賽銭を入れて鈴緒を引く。それから柏手を打つ。
パンパン
凛とした空気の中、柏手の音が響いた。
「よぉし、次は個人的なお願い……思い切って、お賽銭も奮発しちゃおっと」
さっきよりも真剣にお願いをする。
(神様、今年こそどうかあいつに自分の素直な気持ちを伝えられますように。あいつが私を幼なじみじゃなく、女の子として見てくれますように。できるだけ早く、あいつが私に会いに来てくれますように)
たっぷり時間をかけてお願いをした。かなうといいな……。
「これでよし! うふふ、いっぱいお願いしちゃった。ちょっと、欲張り……だったかな?」
気がついたら後ろに人が並んでる。それも気付かないでずっと拝んでた。
私、何やってるんだろ……。
「さ、それじゃ帰ろうかな? 戻って年賀状見なくちゃね」
「妙子」
「あ、は、はい」
誰かに声をかけられ、私はその人のほうを振り向いた。
「あぁっ! う、うそ。いつ青森に来たの?」
目の前に、ずっと会いたかったあいつが立っていた……。
信じられないという思いからなのか、顔がこわばるのを意識する。
「お正月から迷惑だった?」
あいつの表情がちょっとだけ曇る。私が笑顔を見せないから?
「ううん! そんなことない! もちろんあなたなら大歓迎だよ。せっかくだからうちに寄ってっておせち食べてって」
両手を顔の前で振って打ち消した。
そして駆け寄って腕をつかむ。あいつの姿が夢や幻じゃないことを確かめるように。
「今年は栗きんとん私が作ったんだから。ね、行こう行こう? お母さんもきっと喜ぶよ。あっ!」
「?」
きょとん、とした顔であいつが私の顔を見た。
あわてて付け足す。
「う、あ、も、もしかしたら必要以上に明るいかもしれないけど、あんまり気にしないでね」
「あははは、そういうことか。……ねぇ妙子、晴れ着姿が……きれいだね」
ひとしきり笑ったあいつは、まじめな顔になってそう言ってくれた。
「え? 本当? よかったぁ。思い切って着た甲斐があったなぁ」
褒められたこともそうだけど、願いが通じたことのほうが私はうれしかったな。
(やだ、いきなり願いがかなっちゃった。神様、ありがとう。うふふ、今年はなんだか縁起がよさそう。もしかしたら、他の願いも、かなうかもね)
あいつを家に連れて帰ると、親戚が年始の挨拶がてら遊びにきていた。
私の親戚なんだけど、あいつとも面識があってすっかりなじんで話が弾んでいる。
でもそれからが大変。
最初のうちはおせちを食べたりお互いの近況を話したりしていたのに、私が着替えている隙に飲み会が始まってるんだもん。
『もう18歳なんだからお酒だって大丈夫』。
そういう屁理屈をこねて、酔って気が大きくなったお母さんがあいつにお酒を勧める。
普段はできない『大人の男同士の話』ができて喜ぶお父さんもお酒をついでいる。
お酒なんか飲んだことがないと言ったはずのあいつも嬉々としてそれに応じている。
もうっ! 高校生はお酒なんか飲んだらダメなんだぞっ!
いつの間にか時間は過ぎ、夕方になった。
元々お酒を飲み慣れていなかったあいつは早々につぶれ、小さく寝息を立てている。
「妙子、何かかけるもの持ってきてあげなさい」
お父さんが言うと、お母さんが
「それより布団敷いてあげれば? 結構飲んだみたいだから、このまま寝かせてあげたほうがいいわ」
すっかり陽気になって応える。
「もうっ! 誰が飲ませたの? お父さんとお母さんでしょ!」
布団を敷くために2階に上がる。
おじさんやおばさんには客間で寝てもらうから、あいつは純の部屋ね。
そう思って純の部屋に行くと、年下のいとこたちと遊んでいた。
「お姉ちゃん何?」
「ううん、なんでもないの。純はこの子たちと遊んであげてて」
仕方がない。あとで移ってもらうとして、私の部屋に寝かせよう。
ちょっとの間だもん。いいよね?
布団を敷く。
でもお客さん用のではなく、私の。だってこの部屋にはそれしかないから。
延べ終わると居間に戻った。
そうしてあいつに肩を貸しながら階段を上る。
「お酒くさ〜い」
「ご、ごめんね妙子……」
「しゃべらないでよ、くさいんだから……」
文句を言いながらも、あいつに触れていられるのがうれしかったな……。
あいつを寝かせるとしばらく寝顔を眺める。
……こんなにまじまじと見たのは初めてかもしれないな。
いつもは恥ずかしくてできないことだけど、あいつが寝ている今はそれができるもんね。
居間に戻る。
宴会はまだ続いていた。
ようやくお開きになったのは何時間もしてから。
それだって飲めなくなった人から脱落していって、最後の一人になったから終わったようなもの。
みんながもうちょっとお酒が強かったら、きっと朝まで続いていただろうな。
給仕の仕事が終わって、私もやっと寝ることができる。
……あっ、あいつ、ずっと私の部屋で寝たままだ。
両親は自分たちの部屋で、おじさんやおばさんは客間で寝ている。
純の部屋を覗くと、いとこたちと仲良く眠っている。
あいつが私の部屋にいること、誰も気にしないの?
ううん、幼なじみのあいつを誰も疑わないんだ。
信頼されてるのはいいけど、私たちもう高校生なんだからね!
でもこれは神様がくれたチャンスなのかもしれない。
青森と東京。なかなか会えない私たちがゆっくり時間を過ごすことができる貴重な一夜。
心を決めると、私は自分の部屋に戻った。
あいつはまだ寝ている。それも私の布団で。
規則正しく、そして深い寝息は熟睡していることを示している。お酒、抜けたのかな?
しばらく迷ったけど、私はパジャマに着替えると小さい電気だけ残して同じ布団に入った。
そのまま背中を向ける。
心臓が高鳴る。顔が火照る。呼吸が早くなる……。
大好きな人と同じ布団に寝ていることが私の気持ちを昂ぶらせていく。
「妙子ぉ…う、ん……ムニャムニャ」
名前を呼ばれた。
でも寝言みたい。
それでもうれしかった。私の夢、見てるのかな?
小さい頃から兄妹みたいにして過ごしてきたあいつを異性として意識したのはいつからだろう?
静かに寝返りを打ってあいつの背中に向かい合う。
そしてそっと触れてみる。
(大きい背中……やっぱり男の子なんだ)
広い背中に額をつけ、小さくつぶやく。
「好き」
と、あいつの肩がピクンと震えた気がした。
「僕もだよ……」
「えぇっ!」
思わず大きな声を出しちゃった。
……まさか、起きてるの?
固まってしまった私の前であいつの背中がこちらを向いた。
「妙子のこと、ずっと好きだった」
今度ははっきりとした声がした。
「う、うそ……」
恥ずかしくって顔が上げられない。頬が火照る。
「うそじゃない。それとも、妙子がさっき言ってくれたことがうそなの?」
ぶんぶんと首を横に振る。
何か言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない……。
ぎゅっ
抱きしめられる。
「妙子……」
耳元であいつがささやいた。
体の前面が触れあう。
胸の前で握った手のひらにあいつの厚い胸が押し付けられる。
……それだけじゃない。私の下腹部に固いものが当たる。勃起……してるんだよね?
「妙子ごめん。妙子のこと考えると、その……」
あいつが言いよどむ。
『男ってそういう気持ちになっちゃうと精液を出さないと我慢できないんだよ』。
千草がそんなこと言ってたっけ。千草、哲郎と『経験』したんだよね。
そのときの話とか、男の子の性のこととか体の仕組みなんかを聞かされたなぁ。
興味はあるのに、恥ずかしいのと私だって知ってるなんて変な意地が邪魔してよく聞かなかったことを今になって後悔する。
「私と……えっちしたいってこと?」
「!」
図星みたい。
でもちっともイヤじゃない。
私の初めて、あいつにならあげてもいい。ううん、あいつ以外にはあげたくない。
「私のこと、好き?」
「もちろん!」
即答が返ってきた。
「……いいよ」
「ホントに? ホントにいいの?」
それでも踏ん切りがつかないみたい。ためらいがちに言葉をつむいでる。
あいつの目を見た。そして言う。
「初めてなんだからね。痛くしないでよね」
……返事の代わりに、力いっぱい抱きしめられた。
仰向けに横たえられる。
「妙子……」
頬をなでられる。
緊張しているのか手が冷たい。でも火照った頬にはそれも気持ちよかった。
「……うん」
目を閉じて、顔を少しだけ上向けた。
……あいつの唇が私の唇に触れた。
それまでなんとなく不潔な印象を持っていたキス。
でも、温かくて、柔らかくて、ちっともイヤじゃない。
それどころか気持ちよささえ感じる。大好きな人とだから?
(!)
唇に熱くぼってりとしたものが触れる。……あいつの舌だよね?
私はそっと唇を開いた。そのすき間から口の中に舌が入ってくる。
舌先が触れあう。
戸惑ったように一瞬動きを止めた舌は、次の瞬間お互いの口の中で動き回った。
二人とも慣れてなくて、歯が当たったり、鼻がひしゃげたりしたけど私は満足だった。
初めての経験。恥ずかしいのに興奮する。頭の芯がしびれるような陶酔感が私の体を支配する。
快感に溺れる自分が怖くなった私はあいつの背中に腕を回してしがみついちゃった。
息苦しくなってくる。
初めてのキスで呼吸の仕方がよく分からない。
心臓が破裂しそうな勢いで脈打ってるのも理由かもしれなかった。
「ん……」
そんな私の様子にあいつが気付いたみたいで舌が引っ込む。
そしてそれを合図にして唇が離れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が弾む。
「はぁはぁはぁ……」
あいつも大きく息をついている。
何度か深呼吸するうちに落ち着いてくる。
「僕も初めてなんだ。下手じゃなかった?」
そんなこと分からない。だって経験もないのに比べられるはずがないもん。
私はただ無言で首を左右に振った。
「妙子……」
あいつの手がおそるおそるといった感じで私の胸に伸びてきた。
パジャマのボタンがはずされ、忍び込んだ手によってそっと触れられる。
ビクンッ!
初めての刺激に体が跳ねた。
「ブラジャー、しないの?」
びっくりした調子の声が聞いてくる。
「ね、寝るときはしないのよ……」
「そうなんだ……」
まじめな顔してうなずいてる。あいつ、本当に知らないんだ。ちょっとうれしかったな。
手のひら全体を使って丹念にもまれる。
それほど大きいわけじゃないし、仰向けになってるからよけいに小さくなってるはず。
「ごめんね……」
「えっ? 何が?」
「胸、小さくて……」
恥ずかしくて小さな声になっちゃう。
「……あ。……いや、女の子の胸さわるの初めてだから、小さいかどうかわかんない……」
あいつも恥ずかしそうに答える。
「そ、そう……」
「痛くない?」
心配そうな声。
「それぐらいの力なら平気」
「……うん」
珍しいのかな? あいつは憑かれたように胸をさわっている。
手のひらに包み込むようにしたり、指を立ててじわじわと揉んだり、形を確かめるようにさすったり……。
指先が乳首を弾いた途端、体を電気が流れたような衝撃が走ったの。
「あんっ!」
甘い声が洩れちゃう。
それを合図に、あいつは乳首に攻めを集中してきた。
つまむようにこすったり、指の腹で転がしたり、小さく叩いたりしてして私を攻め立ててくる。
「あぁっ、んっ! あんっ……」
乳首が固くしこっていくのが分かる。押さえようとしているのに声が出ちゃう。息も乱れる。
じゅん……
体の中から液体が染み出たのを感じる。……濡れちゃった?
あいつは私が感じてるのがわかったみたいで、執拗に乳首を攻めてくる。
「ちょ……そ、そんなにしたら、ダメ……」
一生懸命あらがおうと思ったんだけど、体に力が入らない。
「妙子……」
こんなときに名前を呼ぶなんてずるい……。
抵抗が一瞬やんだその隙に、あいつが乳首に吸い付いた。
「ひゃうっ!」
思わず悲鳴に似た声を上げちゃった。
その声に驚いたみたいで、あいつがあわてて唇を離した。
「だ、大丈夫?」
「う、うん……いきなりだったからちょっとびっくりしただけ」
「ご、ごめん」
打ちひしがれたようにあいつがうなだれる。
なんだかかわいそうになった。そんなに恐縮することでもないのに……。
「あ、謝らなくても平気。……いきなりじゃなきゃびっくりしないから」
「……え?」
「だから……前もって分かってるなら……口でしても平気」
言ってて顔が熱くなるのがわかる。きっと今、真っ赤になってる。
「じゃあ、もっとしてもいいの?」
ばか、そんなこと答えられるわけないじゃない。
黙ってしまった私の態度を同意と受け取ったみたいで、あいつが乳房に顔を寄せてきた。
ちゅっ、と音を立てて乳首が口に含まれる。
舌の先で回すようにして転がされる。唇ではさんでしごかれる。軽く歯が立てられる。
パジャマの前をはだけられ、両の乳房にあいつがむしゃぶりついている。
初めて味わう異質な快感に体の芯が熱を持ってくる。気持ちいい……。
「あっ、んっ……くぅ、ぅん……」
いやらしい声があふれ出ちゃう。
胸にかかる吐息が熱い。あいつも興奮してるのかな?
と、あいつの頭が下に移動を始めた。
「え? ちょ、ちょっと……」
あいつの肩に手を添えてその動きを押さえようとする。
でも淫らな火が着いた体には力が入らない。
そのうち、あいつの舌が私のおへそを通ってパジャマズボンに到達した。
「妙子……」
上ずった声であいつが私を見上げる。
……脱がしたいの? それとも脱いでほしいの?
「……うん」
心を決めた私は脱ぐために私は上体を起こした。
あいつは私から身を離してそれを見ている。……恥ずかしい。
見られながら脱ぐなんて、ううん、誰かの前で脱ぐなんて初めて。
ズボンに手をかけたまま固まっていると、あいつが自分の服を脱ぎはじめた。
そうか、脱がないとえっちできないんだよね。
それを見た私はパンツごとズボンを脱いだ。
勃起したおちんちんが目に飛び込んでくる。
ビクンビクンと痙攣するように脈打つペニスが怖くなって目を伏せちゃう。
純が子供のときに一緒にお風呂に入ったことはあるけど、それ以来の男の子の裸。
でも純のはこんなになってなかった。
「妙子」
名前が呼ばれるのと同時に押し倒されるように布団に転がされちゃった。
あいつはすごい勢いで私の足の間に身を移すと、秘められた部分を覗き込んできた。
……熱い視線を感じる。
恥ずかしくなって私は天井を見つめていた。
「!」
両ひざに手が添えられ、思いっきり左右に開かれた。
「いやっ!」
乱暴な仕草に思わず忌避の声が出る。
とっさに足を閉じようとしたけど、その前にあいつの顔がアソコに近づいていた。
「だ、ダメっ!」
指が当てられ、割れ目を左右に広げられる。
荒い息が聞こえる。女の子の大切な部分をあいつが観察してる?
手をまたに入れて制しようとしたとき、濡れた音が股間で鳴った。
「きゃ、あ!」
……舐められた。
狂ったようにあいつがむしゃぶりついている。唇や舌、鼻を使って私の性器全体を舐めまわしている。
ずずっ…じゅる……
さっきの胸の愛撫で体の奥からしみ出ていた液体を音を立てて吸われる。
羞恥の感情が一気に高まった。
「や、やだ……そんなこと!」
シーツを力いっぱい握りしめてこらえる。
体の中心がうずくような不思議な感覚がする。
耐えられないほど恥ずかしいのに、体の中からいやらしい液体がどんどん出てきちゃう。
それをあいつが音を立てて舐め取り、すすり、飲み込んでいく。
死んでしまいたいほどの含羞に全身が熱くなる。全身をよじって身悶える。
そんな私に気が回らないほど興奮しているのか、あいつは我を忘れたように私の股間で息を荒らげていた。
それは獣のようでもあり、いつもの優しいあいつとは別人のようだった。
突然あいつが身を起こした。
そのまま私に覆いかぶさってくる。
(……あ)
抱かれるんだ。あいつのものになる。私の初めて、あげるんだ……。
あいつを受け入れやすいように大きく足を開く。
固く、熱を持ったあいつの性器が私に入ろうとその辺りをつつきまわしている。
股間に異物感がある。生理の手当て以外では自分でも触れない部分に、あいつのアレが……。
「も、もっと……下」
「え? あ、うん」
あせったような声がする。場所、わからないんだ。
何度か迷ったあとで、たっぷりと潤ったひだの中の入り口に先端があてがわれた。
「……そこ」
「う、うん」
返事の直後、
ビクンッ!
あいつが全身をこわばらせた。
(え? ……射精、しちゃったの?)
……違ったみたい。
でもあいつも極限まで昂ぶってるみたい。ちょっとの刺激で出しちゃうのかもしれない。
「行くよ、妙子」
まっすぐに私の目を見たあと、あいつがゆっくりと入ってきた。
「い、痛っ!」
その一点から全身が裂けるんじゃないかと思える激痛が走る。
体の中を無理やり押し広げられるようにあいつが入ってくる。
無意識のうちにあいつから逃れるように体がずり上がってたみたい。
あいつが動きを止めて聞いた。
「妙子、大丈夫?」
大丈夫じゃない。すごく痛い。
でも私を気遣ってくれるあいつに心配はかけたくない。
「平気……続けて」
「……でも」
「本当に大丈夫だから」
切れ切れの息でそれだけを伝える。
多分信じてもらえてない。
「妙子……」
無理やり笑顔を作って答える。
「途中でやめられるほうがつらいかな?」
「わかった」
大きく息を吸い、あいつが腰を突き出した。
「!」
体の中で何かが切れた感覚があった。
その瞬間、これまで以上の痛みが襲ってきた。あいつにしがみつき、肩に顔を押し付けて悲鳴を殺す。
「くっ……っつぅ、ンっ! ンぅ!」
それでも食いしばった歯からうめきが洩れる。
痛い。気が遠くなりそうな激痛。体が切り裂かれるような鋭い痛み。
大好きな人に『女』にしてもらった喜びがなければ泣き叫んでたかもしれない。
そう思えるほどの苦痛にさいなまれる。
知らず知らずのうちに涙がこぼれる。痛いから? それともうれしいから?
「妙子っ!」
切迫した感じのあいつの声がした。
泣き濡れた顔で見上げると、苦しそうなあいつと目が合った。
眉間にしわを寄せて何かに耐えるようなあいつの顔に、その意味がわかった。
「出るの? いいよ……」
うなずいた次の瞬間、
「妙子っ!」
あいつが私から抜け出た。そして
「うっ!」
一声短くうなると、お腹に熱いものがまき散らされた。
どろっとした粘り気のある液体。精液。射精したんだ……。
ぎゅっと目をつぶって体を痙攣させながら、あいつは何度も射精した。
そうして、力尽きたように私の上に倒れこむと、
「はぁはぁはぁ……」
大きく息をついた。
「終わったんだね」
あいつの頭をなでながらささやく。
「妙子、ごめんね」
「え? 何が?」
強制されたわけじゃない。私は自分で決めてあいつに抱かれたのに、どうして謝るの?
そう思って聞き返す。
「妙子に痛い思いさせたのに、僕だけ気持ちよくなっちゃって」
なんだ、そんなこと?
「ううん、いいの」
私に心を砕いてくれるあいつになんだか胸が熱くなった。
泣きそうになって、涙を見られないようにあいつの胸に顔をうずめた。
「妙子……」
今度は私の頭がなでられた。
そのとき気がついたけど、しがみつくようにしてあいつの背中に回した手にヌルッとした感触があった。
血だ。見るとあいつの肩に血がにじんでいる。爪を立てちゃったみたい。
「ごめんね、肩、痛かったでしょ?」
「妙子の痛みに比べたら、どうってことないよ」
いつもの優しい笑顔が答える。
せっかくこらえていたのに、涙が出てきちゃった。
後始末を終えた私たちは並んで横になった。手をつないだまま天井を見上げる。
初めて男の人を受け入れたアソコはまだヒリヒリするけど、とっても幸せな気持ちだった。
私たちは昨日までとは違う関係になった。何も言わなくても分かり合える気がする。
これから二人の新しい一歩が始まるんだ。私はあいつの手を握る手のひらに力を込めた。
気がつくとあいつが寝息を立てている。
青森まで来てくれて、飲み慣れないお酒を飲まされて、しかもえっちまでしちゃって……。
疲れたんだろうな……。静かに寝かせてあげよう。
あいつの肩に頭をもたれさせる。
そうして考える。
『女』になった。思ってた以上に痛かった。
でも、もしも誰かにこの夜のことを聞かれたら『気持ちよかった』と答えると思う。
もちろん痛いだけでちっとも気持ちよくなんかなかったけど、それでも『心が感じた』のは事実だから。
あと2ヶ月とちょっとで卒業。そうしたら私は東京に行く。あいつとずっと一緒にいられるのよね。
お正月が終わったらしばらく会えなくなるけど、それを思えば我慢できる。
「早く春にならないかなぁ」
私はあいつに寄り添って、小さくつぶやいた。
おわり